68.イクタノーラという存在
期限ギリギリになってしまいました。
よろしくお願いします。
部屋に入り、ケコバを勢いよく食べきったことで満足し、ザーロと会う前、教会での一件について考える余裕が出来た。
教会に設置されていた魔法器『シグナートス』
自分の中に恩恵が眠っているかどうかを調べる魔法器。
だが、実態は個人のステタースを“本部”が入手するための道具だった。
魔法器はコリウスやマーナから聞いていたがかなり高額だ。
そんな魔法器を使用するのにタダ。
この不自然さに気づくべきだった。
無料だと飛びついて後から架空請求された気分だとレイは感じていた。
幻惑耐性の仮面のおかげでどうにか自分のステタースを“本部に”垂れ流さずに済んだはずだが、これは完全に自分の不注意だった。この世界に来てから最高ランクの迷宮に苦戦すらしなかったことで心のどこかで慢心していたのかも知れない。
普通の攻撃や攻撃魔術ならどうとでもなったが、幻惑は食らうことだってあると分かった。
状態異常耐性を強化しなければと思う。
ダイイングフィールドでも真っ向勝負は圧倒的に得意だったが、逆に補助的な役割はNPC配下たちに任せきりだった。
これまで散々この世界では無属性の補助魔法を主体に使っていたのに、状態異常をくらいそうになるなどほんと笑えない。
やはりNPC配下たちは自分の精神的安定のためにも、そして戦力といった意味でもそばに居て欲しい。
レイはNPC配下たちをどうにかする手段がこの世界特有の力、恩恵にあると考えていた。
そして一度目は失敗してしまったがその恩恵を詳しく知ることでどうにか出来ないかと思い、今日、教会を訪ねシグナートスを使おうとして失敗した。
しかしあのステタースを見ることが出来るようにした魔法器からレイは一つ、ある方法を思いついていた。
相手のステタースを見ることは戦闘を有利に進めるためには必須と言ってもいいくらい大切な条件だった。
ダイイングフィールドでもそれは同じで、だからこそ相手のステタースを見ることのできる創世級のアイテムはあり得ないほど数が少なく、現実世界ではあり得ないほどの高値で売買されていた。それこそ現実世界で売れば一生働かずに済むくらいの金は手に入った。
しかしそんな創世級のアイテムを手に入れているものはごくわずかしかいない。
そんな時にプレイヤーがとった方法は主に2つ。
まずは消費アイテムで代用。
ポーション系の『ライフコア』を飲むことで対象のHPを見たり、魔術師相手には『マナストリーム』でMPの消費具合を見て戦っていた。
しかしそれはあくまで戦い始めた時の対応であり、事前に相手の得意技や職業を知ることが出来るわけではない。
その時に重宝されたのが二つ目の方法。
鑑定系に優れた職業に就くことだった。
鑑定系の職は主に『下位鑑定士』『上位鑑定士』『超級鑑定士』があり、それぞれの職で相手のステタースを見れる具合が決まってくる。
下位鑑定士は敵のレベルが50以下なら見え、上位鑑定士は140以下、そして超級鑑定士は190以下までなら見ることができる。
そのためパーティ募集の際に鑑定系の職を持っているプレイヤーは割りかし重宝された。
しかしレベル200のプレイヤーのステタースは鑑定するプレイヤーの優っているステタース一部分や特定のスキルしか見えないため、パーティやクランが高ランクなればなるほど鑑定系のプレイヤーは追い出されたり、そもそも入団させてすらもらえなかった。
そんな待遇に不満を覚え、味方の情報を売り出す輩まで出ており、当然トップランカーのステタース情報は高額で取引され、ダイイングフィールドでは一時期かなり騒がれた。
最終的にトップランカー同士の戦いには鑑定士は全く役に立たなくなり、捨て垢となってしまった。
しかしそんな騒動をソロで活動していたレイは知らない。
そんな話を小耳に挟んではいたが、完全に対岸の火事だった。
それにレイは鑑定に頼ることはほとんどなかった。
使い捨てアイテムなどは絶対に負けられない戦闘の時は使用したが、それ以外では使っていなかった。レイには鑑定職は戦いをつまらなくさせる一つのファクターですかなく、せっかくのPVPでどうしてそんなつまらないことをするのかわからないと感じていた。
戦いの中で相手の戦闘スタイル、得意技からどんな職につき、どのステタースを鍛えているのか、そしてどうしたら勝てるのかを考えることが好きだった。
鑑定系の職はアイテムのランクなどを調べるのにはいいと思ったがそれ以上何も魅力は感じなかった。だからレイは戦うことでそれらの問題に対処してきた。
そもそもレイは自分の恩恵を調べるのだからメニューを開き自分で自分のステタースを見ればいいのではないか。
そう思って見たのだがそれではダメだった。
恩恵は確実にこの体に宿っているはずなのに、どうしてなのか表示されない。
最終的に恩恵というこの世界特有の力のため、この世界を通してでしか見ることはできないのではとレイは考えた。レイは鑑定系の職についていないため自分の恩恵を調べる術はないかに思われた。
しかしどこにも抜け道はあり、あれやこれやと手を尽くすことでステタース閲覧をする方法があるにはある。
虚無属性魔術師レベル3で覚えられる魔法『聚斂侵犯』を使うことだ。
『聚斂侵犯』は視界に入る情報を全て視認することができる。
それは相手が創世級のアイテムなどで幻惑をかけていたとしても突破できるくらいに強力だ。
しかし強力な術、故に欠点も存在した。
入ってくる情報量が多すぎるのだ。
あまりの情報量にダイイングフィールドで使用した際、レイはデータ量に耐えきれずアバターの動きが重くなる。そのため視覚を転写させ相手の動きを鈍重にするデバフとして使っていた。
というかそれ以外に使い道がないと思っていた。
しかしレイはその目に入る情報量を一点に絞ることで、容量のパンクに対処した。
運用法が思い浮かばず、一度も使用することは無かったが。
「まさかここに来て『聚斂侵犯』が役立つかも知れないなんて普通思わないよな。」
レイはアイテムボックスから一枚の姿見と何の変哲もないメガネを取り出す。
姿見は本当に何も効果のないただの鏡。
メガネもそこまで珍しいものではない。
ダイイングフィールドをプレイしていれば必ずもらえるログインボーナスの一つ『一点鏡』この一点鏡はダイイングフィールドの公式ストーリー攻略の際に必要となるためストーリーを進めていると一つもらえる。
効果はメガネをかけると、目が映す中心焦点ただ一点しか見えなくするというものだ。
ストーリー報酬として配布されたこのアイテムの使い道がわからず捨てたプレイヤーはストーリー攻略の際に必要となり、非常に高額な値段で買い戻す羽目になったという。
レイはこの『一点鏡』と『聚斂侵犯』を利用し、情報過多になる問題をクリアした。
視界に入ってくる情報量が多いのなら減らしてしまえという思いで何となくやってみたらできてしまったのだ。
しかし本当に一点しか見れないため、戦闘で相手のステタースなんてみようものならその直後に視覚外から攻撃を喰らってしまう。
自分のステタースはそんなまどろっこしい手段でなくともメニューから開ける。
そのため使い道がなく、聚斂侵犯をデバフ以外に使用したことがなかった。
ただ今回は少し違う。
レイはアイテムボックスから取り出した普通の鏡を部屋の壁に立てかけ、鏡の前に『一点鏡』をかけ立つ。
そして虚無魔法『聚斂侵犯』を発動させる。
ゲームでは視界に入ったもの全てに、ピンが立てられその情報が無理やり頭に流れ込んできた。しかし今回は一点鏡を使い焦点を自分だけに集中させる。
レイの頭上にピンがたち、レイの情報が頭に流れ込んでくる。
これによってレイは擬似的メニュー画面を頭に取り込む。
そして予想通りこの世界を介したこの方法はシグナートスを使用した時と同じ情報が頭に浮かび上がる。
名前:レイ(郢ァ?ィ郢ァ?キ郢ァ?ェ郢??郢ァ?ケ郢晏現ホ晉ケ晢スォ郢ァ?「郢晏?繝イ」)
性別:1
種族:陷エ貅ス?・
レベル:200
称号:覇王(鬯イ逧ョ蝴願叉?鮟?クコ?ョ驍?距蜊?騾橸スエ邵コ?ョ鬯イ逧ョ隕)
相変わらず文字化けも存在するが、見ることには成功した。
期待通りの結果に頬が緩むが気を取り直して、シグナートスでは見ることの出来なかった次ページを見ようと考える。
2ページ目にはレイの詳細なステタースが記載されていた。
HPやMPだけでなく、攻撃力や防御力。
その他にも各属性の耐性。
レイの種族スキルや使える魔法、装備などもズラッと記載されていた。
あまりの情報量の多さに一点鏡を使っているのにも関わらず頭がくらくらしそうだった。
魔法などは自分で使えるだけあって、どれも知っている内容だったが、この世界からはどのような解釈をされているのか気にはなった。しかし今知りたいのはイクタノーラの恩恵について。
イクタノーラのことが記入されているページを探して脳内に浮かぶステタースをペラペラとめくっていく。
流石にページ数が∞と表示されていただけあって情報量は膨大。
一体何ページめくったかわからないが、とあるページで脳内の手がページを捲りかけて止まった。
名前:鈴屋泰斗
性別:1
種族:人種
称号:なし
職:無職
西暦XXXX年X月X日生まれ。21歳。
両親を幼い頃に亡くし、それ以降は親戚の家をたらい回しにされる。
孤児病院に送られそうになったが、親戚のXXXXがそれを嫌がり、最終的に家に置く。
けれど泰斗は彼ら一家からは精神的にも物理的にも距離を置かれる。
泰斗は中高ともにいじめを受け、精神的に病んでいた。
そのことを恥だと親戚がカウンセラーを紹介。
精神的病に陥ったことで、健康に良いものを好んで取るようになった。
大切なものを自分の手の届く位置に置きたがる癖がある。
ややロr・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・レイ
鈴屋泰斗がダイイングフィールドで使用していたアバター。
かなり好戦的な性格をしているが、冷静で合理的な一面ももつ。
自分の領域を侵されることを最も嫌う性格をしており・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なんだこれ?」
泰斗とレイの個人紹介がズラッと何ページにも渡って書かれている。
レイは驚くと共に気持ちが悪いと感じ、急いでページをめくっていく。
レイの説明が終わると次に紹介されていたのはイクタノーラだった。
イクタノーラの説明が開始されると表現しにくい気持ち悪さはなくなり、落ち着いた状態で目を通すことができた。
名前:イクタノーラ
性別:1
種族:人種
称号:天涯孤独
職:無属性魔術師Lv20
下級鍛治士Lv20
中級鍛治士Lv20(記憶欠落によりレベルダウンLv15)
上級鍛治士Lv10(記憶欠落により消失)
水属性魔術師Lv20(記憶欠落により消失)
下級調合士Lv15(記憶欠落により消失)
下級杖使いLv15(記憶欠落により消失)
青系魔術師Lv4(記憶欠落により消失)
復讐者Lv20(記憶欠落後に取得)
記憶の欠落が激しく、死ぬ4,5年前の記憶はまるっとない。
冒険者ランクはC
本来のレベルは124だが記憶の欠落により弱体化していた。
意識が覚醒したとき、イクタノーラは自分が誰だか分からなかった。
自分が誰なのか、そしてここがどこなのか分からない状態だったが、イクタノーラの首には首輪が嵌められていた。記憶喪失の男は奴隷にされていた。
他種族の奴隷商人に痛めつけられる毎日だった。
毎日、毎日殴られ、鞭で打たれ続けた。
イクタノーラはすぐに我慢の限界が訪れる。
そんな時、イクタノーラの力が暴走した。
イクタノーラは、奴隷の状態では絶対に外すことの出来ない首輪を恩恵の力を使って壊し、奴隷商たちを皆殺しにした。
しかし自由だと思ったものの、放浪した先では結局迫害を受ける日々。
この頃はこの世界の何もが憎くて仕方がなかった。
どうにか高位の冒険者という社会的地位を得て、世界への憎しみを隠せるようになった頃にクラーヴ王国から招集がかかり、11Rのパーティに参加させられる。
そしてイクタノーラはミャスト迷宮40階層でパーティメンバーから裏切られて殺された。
イクタノーラの最後は、殺される瞬間も自分を食っている魔物に目もくれず、パーティメンバーに対して呪言を吐いて幕を下ろした。
世界から与えられた恩恵『想造』
自分の脳内で思い描いた事柄を世界に反映させる能力。
その力は能力者のレベルや想像力に依存するため当時のイクタノーラでは柔然に使用できていなかった。
イクタノーラは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
イクタノーラの人生は惨憺たる内容だった。
この記録を見た限り、レイの感じるイクタノーラの殺意は彼からすれば日頃から抱いている感情で、レイが感じている程度の殺意ならば簡単に御せたのだろう。
怖いと思うとともに非常にやるせない思いに駆られる。
イクタノーラがあの時裏切ったパーティメンバーに恨みがあるのは分かる。
しかし裏切られる前から迫害をされ続けたことなどレイは知らなかった。
今まで流れ込んでくる記憶はどれも強い感情が込められているものばかりだった。
それゆえ、イクタノーラは迫害されることを良しとしていないが、それを当たり前だと受け入れてしまっていたのだろう。だから記憶として流れ込んでこなかったのだとレイは考える。イクタノーラはずっと独りで戦ってきた。
それなのにあんな残酷で痛ましい最後。本当にどうしようもなく辛い気持ちになる。これは自分がイクタノーラと体を共有しているためなのか。それとも単に不幸話に弱いだけなのか。
レイはイクタノーラのことを知り、復讐は必ず成功させなければいけない、いや復讐したい。そう感じた。
それに知りたかった恩恵のことも知ることができたので良かったといえば良かった。
前回、勝手に恩恵が発動した時はほとんど無意識だったために何をどうしたかが全然分からなかった。しかし、恩恵についての説明を読み、イクタノーラの恩恵について理解した今、胸中に不思議な熱を感じる。まるで失っていた力を取り戻したようなそんな感覚があった。
イクタノーラも泰斗やレイと同様で10ページ分ほど人生の歩みをつらつらと書かれていた。気になってその後のページも見ようとしたのだが、文字が薄くなっており読むことができなかった。おそらく記憶の欠落部分なのだろう。まるで会員制のニュースサイトみたいだなと思ったが、会員になる方法なんてものは分からないため今は放置することにした。
ありがとうございました。
変則的に忙しくなるため、次回更新をこれまで以上にアバウトにさせてください。
今月中にはあげます。




