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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
63/198

63.信仰対象

よろしくお願いします。


翌朝、レイは魔法器の置いてある教会を求めてベニートの街を散策していた。

今は朝の9時くらいだが、人通りは少ない。

ベニートの冒険者はもう迷宮探索や、その他の仕事に出かけてしまったのかと思いなが歩いていた。しばらくして全く人がいないことで大通りから外れていたことに気付く。

なんとなく気分からより人気のない薄暗い道へ進んで行くと建物も次第に減っていき、開けた牧草地に出た。

そこには一つのやや大きめな建物があり、白を基調とした壁に屋根は茶色のレンガ。

その隣には少し細長い建物が同じ作りで並んでいる。

レイは直感でその建物が教会だと思った。

なぜならレイは『慰霊教会』の主だった。

教会はダイイングフィールドをプレイしていた時の活動拠点でもあったためレイは目の前に建物を教会だとすぐに理解した。


教会を見て、毎日ログインしているときは感じなかった懐かしさ。

どことなく寂しい思いに駆られながら教会に近づいていく。

教会の入り口付近まで近づくと、法衣を身に纏った竜人男性を見つける。

全身鱗の竜人はレイでは性別すら見分けをつけられない。

しかし彼は竜人でありながら、顔に鱗はなかった。

非常に人種に近い顔をしていたためレイでも男性だと判断できた。

ただ、人種の顔をしていながら角や翼はある。

法衣でわからないがもしかしたら服の下は全身鱗で覆われているかもしれない。

竜人男性は人種で言うところの初老を表すのにとても適した見た目をしていた。

顔色はあまり良くなく、髪も薄くなりつつあった。

そんな彼は教会の出入り口付近に佇み、顔をわずかに上げ、目を瞑りながら陽の光を浴びていた。

そんな竜人はレイの気配、もしくは足音に気がついたのか、視線がレイに向けられる。

レイはそんな法衣の竜人に近づいていき、声をかける。


「おはようございます。

ここは教会で間違いないですか?」


法衣の竜人は特に表情を変えることなく、レイに向き直り一礼してから話し出す。

「おはようございます。

いかにもここは<竜神教>のベニート教会になります。

私はここで司教をさせて頂いておりますアウグスと申します。

あなたのお名前を聞かせて頂いても?」


法衣の竜人は見た目から感じた印象通り、温和な口調でレイに語りかける。


「すみません、申し遅れました。

俺はレイって言います。冒険者をしています。」


そのまま温和なアウグスと二言三言何気のない会話をしていると途端にアウグスの声音が低くなりレイを見る目が細められる。


「さて、獣人であるレイさんがまさか<竜神教>に入信されるわけあるますまい。

こんな田舎の教会まで破壊されに来ましたか。」


アウグスの様子と話した内容を一瞬理解できず、固まったがすぐに昨日見た資料に迷宮の件で竜人と獣人が揉めていたことがあったなと思い出す。まさか宗教にまで影響が広まっているとは考えていなかったためこれからどうすればいいのかと頭を抱えたくなる。

身バレ防止のための仮面を外せば簡単に誤解は解ける。しかしどうして獣人の格好をしているのかとなどといった疑問が次から次に湧き出るのは必死。そのため仮面を外すことは最終的手段にとっておき、まずは対話を試みる。


「何か警戒されているようなので、単刀直入に言います。

俺はここに何か危害を加えるわけに来たのではありません。」


「ではどうしてこのような街外れの教会に?」


恩恵(ギフト)についてわかるようになる魔法器があると知り、使わせて欲しいと思って教会を探していました。」


レイの言葉がアウグスの予想していたものと違ったのか、彼からの視線の厳しさは和らぐ。


恩恵(ギフト)?それならばクティス獣王国の<獣神教>でも知れるのでは?

むしろ獣王は恩恵(ギフト)を持った獣人を重用すると聞きましたが・・・?」


「いえ、獣王国には一度も行ったことはありません。

都市国家連合で暮らしていたので。」


「なるほど。人種の国では恩恵(ギフト)を調べるための魔法器などいちいち置いていないと言いますからね。わかりました。もう少しお話を聞かせていただきたいのでひとまず中にどうぞ。」


アウグスに勧められるままに教会の中に足を踏み入れる。

教会はきれいな外観とは異なり、中はだいぶ汚れていた。埃は溜まり、木でできた長椅子は老朽からか黒ずんでいるものもいくつかある。


「本当に<獣神教>の者ではないのですね。」


教会内を見ているとアウグスが柔和な笑みを浮かべながら話しかけてくる。

ここまで内部に入っておきながら、アウグスにも教会にも害をなさないレイの行動により信用を得られたようだった。


「すみません。その<獣神教>というのもよく分からないんですけど、竜人は宗教関係でも獣人と揉めているんですか?」


「それは・・・本当に何もご存じないようですね。」


レイが質問するとアウグスは「ふぅ」と脱力するような息を吐き、歩を進める。

長椅子が並べられている場所を抜け、正面の教壇までアウグスは向かう。

レイもそれに続く。教壇の後ろには一体の大きな彫像が置かれていた。

全身は鱗で覆われているため竜人なのかと思ったが、肝心の翼と尻尾がない。

しかし頭の左右には立派なL字のツノが生えている。

この彫像だけはきれいに磨かれており、神々しさすら感じられる。

彫像に目を奪われているとアウグスは話し始める。


「この像は私たち竜神教の者たちが信奉する『ウギルトルガ』様です。

今はもうこの教会は私ひとりになってしまったため日々の維持すら難しいですが、この像の手入れだけは日々欠かすことができません。

それで、レイさんは<竜神教>についてはどれほどご存じで?」


「すみません。俺は無神論者なので、<竜神教>はおろか、どれほどの宗教が存在するのかということすら把握していません。」


「そうでしたか。獣種は<獣神教>の教えをそれほど重視していませんからね。

むしろあなたのような無神論者の方が近年は多いのかもしれません。

それに都市国家連合もあのクソ聖教を進んで取り入れていない素晴らしい国ですから。

先ほどレイさんがお聞きになった、<竜神教>と<獣神教>のことですが、それは<獣神教>に限ったことではありません。基本的にどの宗派も自分の神が絶対であり、非常に排他的なのです。

それゆえ、他種族が他国の教会に向かうのは、破壊目的が多いのです。」


なんとも物騒な話にレイは仮面の内で頬が強張るのを感じる。


「そもそも事の発端はあのクソ<聖教>でした。

それまでは我々、聖職者はそれぞれが信じる神を信仰しておりました。

竜なら竜神様を、鬼なら鬼神といった具合に自由な活動を行っていました。

種族ごとに英雄から神に至ったものがそれぞれ存在するために、何も不都合はありませんでした。

しかし聖国が出来、<聖教>が生まれてから聖教者どもは他宗の排斥に動き出しました。

それにより多くの宗教が根絶され、その姿勢に感化された獣どもまで<聖教>のクソどもと同じことをし始めたのです。」


話せば話すほど温厚そうなアウグスとの顔が赤くなり、表情が険しくなっていく。

よほど<聖教>に思うところがあるようだ。


「でもどうして<聖教>は他宗を排斥し始めたんですか?」


「当時の聖教が何を考えていたのかは分かりません。しかし、それは<聖教>の教えが大きく関係してくると言われています。

私たち竜人は竜神様や竜を自らの到達地点として尊敬しています。

そのため<竜神教>の信仰対象であるウギルトルガ様は最初に亜神となった竜人なのです。

それは他宗にも言えることで、獣神教なども同じです。

それはそれぞれが信じる神がいるから仕方ないことです。

しかし<聖教>は違っていました。

<聖教>は唯一神『ルルアヒヒ』を信仰しています。教えの根幹に神はこの世界に一人しか存在しないというものがあります。そのため、ルルアヒヒ以外を神としている他宗は存在してはいけないことになるのです。」


アウグスの話を聞き、自分の考えを矯正してくる輩はどこの世界にもいるのだと思い、うんざりする。

しかし、どうしてそこまで気にする必要があるのだろうか?

言っても<聖教>は人種の国が主導になっている教え。それならば人種よりも優位な他種族ならばいつでも返り討ちにできるのではないかと思い、そのあたりのことを聞く。


アウグスとはうんざりとした表情になりながらも教えてくれる。


「個人としては人種よりも優れている他種族は大勢いますし、今も人種は差別されています。しかし国で見ると話は変わってくるのです。

どういうわけか聖国は隣国の鋳造国家ガレープと専属的に契約を結んだりしてどんどん国としての発言力を高めていっているんです。

それに聖教の奴らは力押しが無理なら絡め手と、どんな手も使います。

私が生まれてきた頃には既にいくつかの宗派は聖教によって消されたそうです。」


考え方は少し危ないと思うが、人という差別を受けてきた種族でありながらそこまで地位を上げていることには素直に感心した。それに驚いた。

ただ寂しそうなアウグスを見ていると居た堪れなくて仕方がない。


そしてそれだけ人種の聖国に文句を言っているため、いまさら人種ですなんてことは口が裂けても言えない。なんなら獣人である今の方が好感度は高そうだ。そのためボロを出さないように慎重にならなければと気を引き締める。


「ここベニートにも<聖教>の教会があるのでここもいつか潰されてしまうのかもしれません。」


「え?この街にもあるんですか?」


「この街の領主様は<アインハイミッシュ>所属ですからね。

詳しくは存じませんが、<聖教>と揉めることを嫌ったのでしょう。」


<聖教>に対しての怒りが収まり、次第にここが潰されるかもしれないことについて寂寥感を感じ始めたアウグスの声音は穏やかを通り越して少し寂しいものになる。

レイの気遣う様子を感じ取ったのかアウグスは話をレイがここにきた理由について戻す。


「すみませんね、老人の戯言として流してください。

それでレイさんがここにきた理由は恩恵(ギフト)を知るためにでしたよね。」


「はい。この街に来て教会に恩恵(ギフト)を知るための魔法器が置かれていることを知ったんです。

貸してもらうことは可能ですか?」


「はい、それはもちろんです。

それでは私について来てください。

魔法器のある部屋までご案内いたします。」


ありがとうございました。

最近忙しく、眠いです。

誤字脱字許してください。

次回は29日までには上げます。

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