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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
62/198

62.手に入れた資料と可能性

よろしくお願いします。


「ふぅ。」

ベッドに腰掛け一息つく。


ギルドを出たのち、軽く街を散策した。

興味を惹かれたものは特になかったため露店に立ち寄り、片手で持って食べ歩けるようなケバブみたいなものや幾らかの飲み水を購入し、それらをアイテムボックスにぶち込んで宿探しを始めた。宿はいくつかみた中で何となく一番良さそうな場所に足を踏み入れる。


結果はダメダメだった。


店主の愛想は死ぬほど悪かった。

いや、そもそも店主は顔が竜鱗で覆われていて表情が読めない。

全身竜鱗の受付嬢並みに愛想が悪いだけでなく堂々と宿代をぼったくられかけた。

宿泊できるかを尋ねた際に、店主に一泊銀貨1枚だと言われた。

しかし店主の後ろにはデカデカと一泊大銅貨1枚と記載されているのだ。

そのことを指摘すると店主は「読めんのかよ」とぼやいたのちに舌打ちをついて、平然とした様子で右手のひらを表にして金を要求する。

店主が愛想悪いのは性分として放っておくとしても、堂々ぼったくるのはどうなのだろうか。それに「読めんのかよ」は色々な意味で聞き捨てならない。

レイのことを文字も読めない無能だと捉えていたならムカつきはするが仕方がない。

しかし共通語と竜人語のような言語差が存在している可能性の方が高いのではないか。

この街に来てからパノマイトたちは普通に話していたため全く気づかなかったことだが、どうにもこの世界には共通語に加えてそれぞれの種族で使用している言葉もあるのかもしれないとこの宿での一件を通じて強く実感した。

ただ自分はその文字を全て元いた世界の言葉として認識できる。

そのためどこで共通語を使われ、竜人特有の言葉を使われているのか判別しにくい。

今後自分が全種族の言葉をネイティブばりに話せる人だと思われるのは変に注目を集めそうだ。それにこの翻訳能力がなくなったらと思うと非常に憂鬱な気分になる。



宿の部屋は竜人が住むための内装をしており、人種の国とは違う作りに興味を惹かれる。

枕の中心が凹んでいたり、ベッドの下の方には穴が空いている。

おそらくツノや尻尾を寝ている時に動かさないためにあるのだろう。

そんな竜人ならではの家具を面白いと思いながらレイはアイテムボックスから先ほど購入したケバブみたいなものと飲み水、それにギルドから勝手に拝借してきた資料を取り出す。片手でケバブらしきものを食べながら、ベッドの上に広げた資料の中から気になったものに目を通していく。


ベニートの冒険者ギルドから拝借してきた資料は2つある。

まず、Cランクが閲覧できる「迷宮」について。

そして次に、ウキトスでは見かけることのなかった「恩恵(ギフト)」についてだ。

恩恵(ギフト)についてナナンに聞いた時は、本能的に理解出来るものと説明をされてよく分からなかった。だから恩恵(ギフト)を持たない竜人の国にこんな資料があることはかなり意外だった。


初めに目を通した「迷宮」についてだが、いくつか面白いことがわかった。

まず竜が出現する迷宮について。

竜人は竜になることを至上命題と考えているため竜に対しての尊敬が凄まじい。

そのため、竜が出現する迷宮について資料としてしっかりまとめられていた。

まず竜が主に現れるSランク迷宮についての記述はなかった。

強さを尊ぶ竜人が尊敬する竜なのにSランク迷宮が存在しないのかと少し不思議に思う。

ただ、本当に竜がメインのSランク迷宮が存在しないのか、Cランク程度では知り得ない情報なのかは分からない。


Aランク以下の迷宮情報は記載されていた。

Aランクはラートル帝国とクティス獣王国に存在するそうだ。

ラートル帝国に関しては全く記述されてなかったが、クティス獣王国に対してはものすごい罵詈雑言が並べられていた。

竜人にとって“竜”に対する認識は魔物ではなく、自分達の最終目的。

しかしこの世界の一般常識として迷宮に現れる生物は魔物だという認識がある。そのため迷宮に現れる竜を冒険者が己を高めるために戦うことは何も問題がないとしている。

しかしクティス獣王国は少し違っていた。

効率的な狩り方を国家主導で作り出し、素材を集めるために兵が迷宮を周回しているらしい。獣人にとって竜は自分を高めるための存在ではなかった。いや素材として自分を高めているのかもしれないがそれは竜人にとって到底看過できるものではなかった。

国家主導の竜狩のことを知ったオセアニア評議国は何度もクティス獣王国に訴えたが、聞く耳を持たれなかったそうだ。

そのことの悪口がひたすら主観で書かれていた。

資料作成者はよほどクティス獣王国が気に入らないのだと思いながらページを捲る。

他のBランク以下の竜が出現する迷宮について記載があったため軽く目を通す。

竜の出現する迷宮は割と多く存在するようで、機会があれば挑戦したいと思う。


そして「迷宮」の資料の主題は“竜”から“魔物”についてに変わる。

パノマイトからも聞いた魔王についての記述もあった。

しかしこの資料に書かれていることはパノマイトの教えてくれたことと微妙に食い違う点があった。パノマイトは迷宮の外に魔物が現れるようになったのは魔王が原因だったと言っていた。

ただこの資料には違った理由、スタンピードについて記載されていた。

確かに魔王が現れて魔物が迷宮外で見られることが多くなったのは事実らしい。

詳しくは分からないが魔王には魔物を操る特別な力があったようだ。

しかし魔王誕生以前から、珍しいことではあるが魔物は迷宮外に現れることはあったという。

それがスタンピードだ。

スタンピードとは迷宮内で魔物の生態系に異常が起きたり、魔物を定期的に間引かないことで迷宮内から魔物が溢れてしまうことを指す。

そうした状況にならない限り、魔物はなぜか迷宮外に出ようとはしない。

だから魔物が迷宮外に出るきっかけはスタンピードだとこの資料では結論つけられている。


そしてなぜかスタンピードは人種が意図的に発生させることができると各種族は考えているみたいだ。

人種は能力的に劣るという理由で長い間この世界では迫害を受けてきた。

人種の国に暮らしていると分かりにくいが、人種の国ができるまでの迫害は相当だったという。

実際イクタノーラの復讐心も大元はその差別や迫害が原因のためレイも資料を読みながら何度も首を縦に振り頷いてしまう。

そんな厳しい迫害を受けてきた人種が、どうしてこれまで種を存続できたのか。

過去、実際に多くの種族が人という種を滅ぼそうとしたことがあった。

しかしどれだけ数を減らそうとも人種は絶滅することなく、今まで生き残ってきた。


それはなぜか。


スタンピードのおかげだった。


どういうわけか、人種が絶滅の危機に追い込まれると決まって、加害者種近くにある高難度の迷宮がスタンピードを発生させるのだ。

初めは単なる偶然だと思われた。そのため、念入りに迷宮内の魔物を間引き、スタンピードが起きないよう徹底し、人種を根絶しようと動いた時代があった。

しかしどういうわけか人種が絶滅に瀕した途端、スタンピードは発生した。

一体どこにそんな魔物いたのかというほど大量に魔物が、間引いたはずの迷宮から出てきたらしい。そしてその後も何度か、人種が絶滅の危機に瀕したタイミングでスタンピードは発生し、各種族は人種に構っていられなくなる。

こうして人種は今まで生き残ってきた。

それが各種族からしたら人種がスタンピードを意図的に発生させていると考えた理由だった。

結果、各種族は人種は適度に痛ぶるのでちょうどいいという結論に至り、昔ほど迫害の苛烈さは無くなったらしい。

その立場を利用して聖国は国としての価値を上げていると記載されていたが、得に興味がないため読み飛ばす。


それ以上にレイはスタンピードを本当に人種が動かせるものなのかと疑問に思う。

ウキトスにいる間はそんな話を聞いたことも見たこともなかったため、実際はどうなのだろうか。一瞬恩恵(ギフト)の効果か?などと考えるが人種が絶滅の危機に瀕したのはこれまでの長い歴史の中で何度もある。人種の寿命では到底カバーできないだろう。

それにスタンピードを自由に発生させることが出来るのなら、人種は今差別なんてされているのだろうか?能力的に劣るとはいえ、その力があれば各種族に対して牽制できると思う。ただ間引いても出てくるのは偶然とも言いにくい。

その辺りはランクをあげてから詳しく調べようと思い、迷宮の資料をアイテムボックスにしまった。


そして次。

今回の大本命「恩恵(ギフト)」についての資料に目を通し始める。

この世界で、恩恵(ギフト)は世界が“個”に与える祝福という認識を全種族が持っている。

この力は能力面で何もかも他種族に劣った人種が唯一他種族に対抗できる力だと考えられている。

また恩恵(ギフト)を授かった者は、その瞬間から恩恵(ギフト)の使い方から何までを理解する。

そのため人種は恩恵(ギフト)についての仕組みを解明しようとはしない。

生命が誕生した時から呼吸の仕方を知っているように、恩恵(ギフト)もそうだと人種は考えている。

しかし恩恵(ギフト)を持たない他種族の考えは人種とは異なる。

恩恵(ギフト)の力を手に入れることができれば自分達の種が他の種よりも優位になれる。

それに自分達よりも劣っているはずの人種がどうして自分達にはない力を持っているのかということにも納得がいっていないそうだ。

そのため恩恵(ギフト)の理解に富んだ人種よりも恩恵(ギフト)を持っていない他種族の方が恩恵(ギフト)の仕組みについて詳しく調べているみたいだった。

そしてその結果、恩恵(ギフト)は人種の血に反応して世界が与えているのではないかという仮説が立てられた。その理由は単純で、人種と他種族の間にできるハーフが恩恵(ギフト)を持っているケースがあったからだ。またハーフは恩恵(ギフト)を世界から与えられてもその力に気づかない場合や、その力を感じていても正しい使い方を理解できないことが多い。

それを他種族の血が、恩恵(ギフト)の定着の障害になっていると考えた研究者は恩恵(ギフト)の能力を知るための魔法器を生み出した。そしてその魔法器は人種以外が運営する教会に一つずつ設置されているらしい。

そのため、研究者たちはどうにかその血に反応する世界のシステム自体に干渉できないかと考えていた。

しかしその努力は水疱に帰した。

ハーフ以外にもごく稀にだが、人の血が入っていない純血な他種族にも恩恵(ギフト)が齎されることが判明した。しかもその個体は人種でないにも関わらず恩恵(ギフト)について完璧に理解しており、能力を十全に発揮することができていたという。

そのため研究は振り出しに戻ってしまい、1人の研究者が死してなお恩恵(ギフト)の正体を求めてこの世界を彷徨っているという噂もある。


恩恵(ギフト)について結局わかったことは謎が多いということだった。

ただ恩恵(ギフト)について理解できるようになるという魔法器が気になる。

レイは血を元に考えると普通の人種でありハーフではない。普通になら恩恵(ギフト)を使えるはずだ。しかしこの体が他人のものと考えるとその能力を十全に活かしきれないのにも納得はできる。それにイクタノーラの記憶と泰斗の記憶を共有していると考えればハーフと言えなくも、なくもない。

その魔法器を使えばもしかしたらレイも恩恵(ギフト)を使えるようになるかもしれない。

そうすれば、あの時のような不完全な猖佯の偽物ではなく、本物を呼ぶことができるかもしれにない。


期待に胸を膨らませたレイは少し早いが今日はもう寝て、明日朝イチで教会を探すことにした。


ありがとうございました。

次回更新は7日以内にしたいと思います。

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