61.Cランク試験に向けて
よろしくお願いします。
リオと約束をした後、レイは無事リオを誰にもバレることなく宿に帰した。
互いに約束を守り、そのまま旅は何事もなく進んだ。
それからもう二日ほどたち、今ようやく、オセアニア評議国ベニートに到着した。
パノマイトの獣車は武を尊ぶ竜人の国でも普段は看過できないらしいが、パノマイトに店を持たせる話をした貴族、ミャスパー・ガルノー男爵という人が事前に説明をしていたようでどうにか門から入ることができた。
レイは竜人の国と聞いて、人の国とどれだけ違うのだろうと少し期待していた。
ウキトスは割とイメージ通りの中世の街並みをしていたため、そこまで驚くことはなかった。しかし竜人の国だ。きっと面白い作りをしているのだろうと思っていた。
しかし実際はそこまで大差がなかった。
多少面白いと思った点としては、家の玄関がいくつもあるということだろうか。
竜種に翼があり、飛べるからそういう仕様の家が主流になっているのかもしれない。
ベニートの門をくぐったことで今回の護衛依頼は終了となった。
パノマイトとリオ、それにベムとペスに別れを告げる。
パノマイトたちがここに店を出すと決めたのなら帰りの護衛依頼はない。
今後会うことはないかもしれないが、リオにこの街にいる間お店に来てほしいとレイは頼まれたため、あと一度は必ず会う予定がある。
依頼書に、依頼達成の印鑑を押してもらい、マーナと一緒にベニートの冒険者ギルドに向かうことになった。リダイオはパノマイトの商材である積荷を念の為最後まで護衛し、下ろす役目があった。
2人は何度か依頼でベニートに訪れたことがあったため、リダイオがパノマイトについて行き、マーナがレイをギルドまで案内することになった。その際、マーナからはこの街で注意した方がいいことなどを教えてもらう。
マーナが進む道後ろから付いて、ぼやーっと街を観察しながら歩いていると10分もしないうちにベニートの冒険者ギルドに到着した。
ギルドの大きさは冒険者の街と呼ばれるウキトスとほぼ同じくらいだが、ウキトスがやや縦長なのに対し、ベニートは横に広いという印象を抱いた。
外観はウキトスと同じで、木材とレンガのようなものが組み合わされてできていた。
あまりに似ている外観に、驚いていると冒険者ギルドはどの冒険者がどこの国に行っても見つけやすいように同じ作りをしているということを教えてもらった。
その説明に納得しながらレイはギルド中に入る。
「ここがベニートの冒険者ギルドよ。それなりに広いでしょ?」
確かにウキトスと比べると1階は1.5倍くらいは大きかった。
酒場も広く、受付台も5カ所ある。
入口を入るとすぐ右側に階段が逆L字型に続いており、吹き抜けの二階が見える。その先もテーブルなどが並べられている。ウキトスよりもthe冒険者ギルドという感じだ。
「はい、広いですね。ここもウキトスみたいに3階まであるんですか?」
「いやここは2階までよ
それとここのギルドは受付がランクで分けられてないからどこ行っても大丈夫ね。それじゃあ行きましょうか。」
そう言ってマーナは一番空いている場所に依頼書を持っていく。
受付にいるのは当然竜人で、全身竜の鱗で覆われているため表情の変化がうまく読めないと思った。しかし竜人みんなが全身鱗に覆われているのではなく、人種に翼と尻尾、それにツノを生やしたような竜人もいれば、一部だけ鱗がついている竜人もいる。
「この依頼書の達成報告です。
確認してください。」
マーナが3枚分の依頼書と3人の冒険者カードを竜人の受付嬢に渡す。
全身鱗の竜人は無言で依頼書を受け取り、依頼人の印が押されていることを確認すると席を立ち受付の奥に行ってしまう。
「竜人は鱗の割合が多いほど、竜の血を濃く引くって考えられているらしいわ。
竜人は竜を崇拝しているからその分、竜鱗の割合が多いと国内でも地位が高いの。
だからそういう竜人の方が他種族を見下しがちなのよね。
獣人とは特に折り合いが悪いみたいだから気をつけた方がいいわよ。
でも珍しいわね。受付に全身鱗の竜人なんて。」
随分無愛想な受付嬢の人だと思っていると竜人についてマーナが教えてくれる。
マーナの解説を聞いたレイは納得する。
今も席に戻ってきた受付嬢は冒険者カードとそれなりに中身のある麻袋を机に置く。
しばらく沈黙ののち、マーナが冒険者カードと麻袋を受け取り、列を外れる。
「レイ、向こうのテーブルでお金を分けても良いかしら。」
2人で受付の列をはずれ、テーブルに移る。
改めてあたりを見回すと、やはり竜人が圧倒的に多い。
この街に来てからずっと思っていたことだが、人種を一度も見ていない気がする。
「竜人の気性は理解しているつもりだけど、それにしても愛想の悪い受付嬢だったわね。
依頼料すらまとめて渡されたわ。
とりあえず普通に三分割するけどそれで問題ない?
レイは確か、あの夜の見張り代は先にもらったのよね?」
「人種の国以外に来るの初めてなんですけど、お金ってその国特有のものだったりするんですか?」
「私もたくさんの国見てきたわけじゃないから断言できないけど、ここはウキトスと同じ貨幣よ。この辺の国はロク商議会の努力で、貨幣はほとんど統一されたって話は割と有名よ。違うのは、鎖国してるカテーナ西国。大森林周辺の種族、海を越えてあるブルビエ魔国、それと東のラートル帝国くらいじゃないかしら?」
「そうなんですね。ありがとうございます。」
マーナの言っている国名は記憶にないため、後で調べようと思う。
「私はこれからパノマイトさんの所に行って何か出来ることあるか聞きに行くけど、レイはどうする?この国の迷宮に潜る?それとももうウキトスに戻る?」
「俺はCランクの昇級試験を受けにきたので、まずはそのことについて詳しく聞いてみようかと思います。その後はその聞いた話次第ですけど、適当に宿を借りて、試験まで適当に街を見て過ごそうかと思ってます。」
「あっと言う間にDランクになったと思ったらもうCランク試験なのね。
才能があって羨ましいわ。私もその才能があればね・・・。
とりあえず何か聞きたいなら、受付嬢は気さくそうな一番右端の人がいいと思う。」
「ありがとうございます。
パノマイトさんの店には一度顔を出すつもりではあるので、機会があったらその時はまたよろしくお願いします。」
マーナは一瞬表情に翳りを見せるが、すぐにいつも通りになる。
「レイも試験頑張ってね。」
5日間旅をしたとはいえ、別れは非常にあっさりしたものだった。
冒険者という性質、生きていればまた会う機会があるというものなのだろうか。
マーナをギルド出口まで見送ったレイは、Cランク試験についての概要を聞くために再びギルド受付に足を運ぶ。
安定で全身鱗の竜人の受付には人が少ない。
全身鱗の受付は全身鱗の竜人冒険者しか近寄ろうとしない。
そんな鱗至上主義な竜人の価値観は理解できないなと思いながら、レイはマーナに勧められた右端の受付に並ぶ。
前に3人ほど並んでいたが依頼受注をするだけで3、4分もすればすぐに順番は回ってきた。
彼女は先ほどの全身竜鱗の受付とは異なり、どちらかといえば人間に近かった。
普通に綺麗な人に竜の特徴を付け加えた感じだ。
肌に竜鱗はない。
しかし竜人の特徴である翼はあるし、角も前頭葉部分から1本生えている。
翼や角、そして目は全て青色で水竜を想起させる。
そんな受付の竜人女性は笑顔で右手を振りながら「次の人―」と呼んでいたが、レイの顔を見て笑顔が若干引き攣る。
表情の変化も鱗で覆われていない分わかりやすい。
どうして顔が引き攣ったのか、一瞬疑問に感じたが、今付けている仮面のことを思い出し納得する。確かにマーナの言ったように獣人と仲が悪いのは本当のようだ。そのためレイは変ないちゃもんをつけられないかと不安に感じた。
「すみません。」
「は、はい!」
受付嬢はレイの想定とは異なり、普通に接してくれる。やや言葉に緊張を感じられはするが、何か文句を言われたり無視されたりすると考えていたため普通の対応ですらいいと思ってしまう。
「Cランク試験について詳しく教えてもらいたいんですけど、いいですか?」
「わ、わっかりました。
しい、Cランク試験は1週間後に開催されます。
詳しいことは試験前に事前の説明会があるので、3日後の朝9時にギルド1階の会議室に集まってください。
あた、私からの説明は以上になります。」
Cランク試験の概要よりも、その説明の薄さよりも受付嬢の態度が気になった。
これは険悪というよりも、恐れられているのではないかと。
思い切ってどうしてそこまで緊張しているのか聞いてみることにした。
「どうしてそんなに緊張しているんですか?」
「そ、そりゃぁ獣人は気象が荒いっていうので、あ、いや、冒険者さんは違うんですよ。
ただその、まぁはい。」
「俺はそんなすぐに怒らないのでもう少し普通に話してもらえませんか。
その話し方が気になって、説明が頭に入ってこないので。」
「そ、そっすか?まぁ獣人の頭は弱いっていうっすからね。
あ、いや、何でもないっす。
でも本当にこれでいいんすか?あたしの話し方結構竜人からも評判悪いっすけど。」
怒らないという言葉に安心したのか受付嬢は普通に話てくれた。
途中頭が弱いとシンプルに馬鹿にされるし、レイが思っていた普通とはだいぶかけ離れた話し方だったが、自分から言った手前その話し方を責めるわけにもいかずスルーすることにした。
「はい。まぁ大丈夫です。
それでCランク試験を受けるには3日後の朝9時にもう一度ギルドに来れば大丈夫なんですか?」
「なんだ。ちゃんと頭に入ってるじゃないっすか。
はい。それで大丈夫っす。
他に何か聞きたいことはあるっすか?」
「それじゃあ、ギルドの資料室ってどこにありますか?」
「うげぇ・・・あんな文字ばっかの場所に自分から好き好んで行くなんて兄さんも変わってるっすね。えっと確か、資料室は2階の奥の奥にあったと思うっす。」
メルラといい、全身鱗の彼女といい受付は皆少し変わっているのだろうか。
しかしここまで変わっている人がいると逆に面白いと思ってしまう。
彼女に礼を告げ、レイはそのままギルドの2階に向かう。
出入り口の横にあるL字型の階段を上がると一階から見える部分以上にテーブルは多く、酒場としてではなく各パーティが話をするために用いているようだった。
大量の机が区間を抜けるとその先に幾つかの扉があった。
それぞれの部屋の前にはギルド長室、備品室、仮眠室、資料室とある。
資料室の扉をノックするも返事がない。
誰もいないのかとゆっくり、扉のノブを回し、少しずつ中を確認する。
結局扉を開ききるまでに視界に入ってきたのはとっ散らかった資料室だった。
てっきりここもウキトスのように司書的な存在がいて、資料を大切に管理しているのかと思った。
レイは資料室の中に入り、あたりを適当に散策する。
資料は分類分けされているどころか、GからCランクの資料がごちゃ混ぜにされていた。
ウキトスのように地味に最先端な仕組みも全くない。
これほど資料の扱いに差があるのかと驚愕だ。
しかしここで気づく。
「あ、これランク外の情報も見れんじゃん。」と。
そう思ってS〜Bの資料を探すがそれはなぜか見当たらなかった。
流石にBランクからみられる情報は重要すぎてここには置けなかったのかもなと思いながら、気になった資料をアイテムボックスに詰めていく。
どうせ、管理も適当だから宿を借りてからそこでゆっくり読もうと思っての行動だった。
ある程度資料を見繕ったレイはそのままギルドを後にした。
61話読んでいただきありがとうございました。
次回も予定通り来週の月曜までに1話上げる予定です。




