47.白山羊亭の姉妹(閑話1)
よろしくお願いします。
母が死に、父が死んで、二人だけになった。
これがまだ互いに働いて、安定した収入があり、恋人と助け合っていくような関係の二人だったらまだ希望を見出すことはできたのかもしれない。
愛する人はいるし、大切な両親のことも仕事に没頭することでどうにかなったかもしれない。しかし現実はそんな童話にあるのようなロマンチックな状況ではなかった。
姉のラール、17歳。
白山羊亭を経営している両親に大事に育てられた。
宿娘として育てられた彼女は、話でしか外の世界を知らなかった。
父と母の二人だけの、愛し合っている者だけが作る空気に自分が入れないことに落胆しつつもそんな愛し合っている二人が好きだった。
だから外の世界に興味はなかった。
いつか自分にもそんな相手ができるのかと思いながらも、家族四人ずっと一緒に居られれば何も文句はなかった。
両親が死んでも宿をそのまま継いだため仕事はあった。
しかし借金まみれで、とても安定した収入があるとは言えない。
恋人もいない。私には妹しかいなかった。
けれどその妹もまだ幼い。
宿の仕事を手伝うことはおろか一人で朝の支度もできない。
その結果、よりやらなければいけないことは増え、毎日終わりの見えない仕事に追われていた。
たまに妹の存在が邪魔だと思ってしまう醜い私が現れる。
そんな時、私は絶対、独りぼっちでないだけ良かったと自分に何度も語りかけた。
だけどどれだけ内省しようとも私たち二人は、二人だけで生きていくには何もかもが足りなかった。
その結果私たち姉妹は両親がいなくなったことでどこか互いに遠慮するようになった。
私は妹のために両親の代わりになろうと無理をした。
妹は頑張って一人でできることを増やそうとしていた。
まだ甘えたい年頃の妹に無理させるのが辛かった。
常に助け合って生きているけれど、本音で互いの想いを伝えることは出来なかった。
私たちは家族、姉妹からどんどん離れた関係になりつつあった。
このままでは本当に独りになってしまうと思っていた時だった。
妹が彼を連れてきたのは。
不思議な人だと思った。
口調は丁寧だったし、イメージにあるような冒険者のように好戦的ではなかったし、身なりもしっかりしていた。
極め付けは金銭感覚。
この宿は自分で言うのもどうかと思うがそこまで高級な宿ではない。
冒険者のランクで言うと中堅の人たちや、旅商人の人たちむけの宿だった。
それなのに彼は10泊で金貨1枚を出してきた。
初めは揶揄われているのだと思い、すごく嫌な気分になった。
しかし彼は本当に手持ちが金貨しかないようで、でもうちには泊まりたいらしく、800日も滞在すると言ってきた。
こんな変なこと言われたことのない私は本当に混乱した。
けれど借金返済のため、とても助かるとも思ってしまった。
返金は求めないと言うから私は、彼の申し出を飲んだ。
ゴンゾが来ると知っていながら。
そんな私の罪悪感は彼の凄さの前に吹き消されそうになった。
彼がここに来てくれてから、明るくのんびりした以前の妹に戻った。
借金もどうにかなった。怖い人たちだって来なくなった。
それに私がどれだけひどい状態になっても根気強く言葉をかけてくれた。
見捨てないでくれた。
それに狐人かと思っていたら人種だった。
仮面を外した彼は少し痩せ気味だったもののそんなこと気にならないくらい整った顔立ちをしていた。
そんな、強くて優しくて、それでかっこいい人。
好きにならない方が難しい。
それに最近、なんでも出来る超人的イメージの彼にも抱えているものがあることを知った。
彼のことを知りたいと思ったけれど、詳しいことを聞くのは流石にまだ出会ったばかりで躊躇われた。
けど、彼は独りだった。
彼が独りで寂しい思いをしないで欲しい。
私が彼の居場所になれたらと思った。
妹のサーシャ、10歳。
姉同様に両親に大切に育てられる。
姉が宿の手伝いをしていたことで割と自由な時間があり、いろいろなことをしていた。
多くの色を見ることのできる外の世界が好きだった。
色々な人の感情を見ることが好きだった。
よく外をフラフラとしていた。
でもそれ以上に家族四人で過ごす時間が大好きだった。
姉妹は両親がいなくなったことでどこか互いに遠慮するようになった。
サーシャも姉の手伝いを頑張った。
サーシャは姉に心配をかけないよう本心を隠した。
常に助け合って生きているけれど、本音で互いの想いを伝えることは出来なかった。
家族、姉妹からどんどん離れた関係になりつつあった。
今のままではいけないと思っていた。
お姉ちゃんと仲良くなるための方法を探して、私はお気に入りの人形を片手になんとなくウキトスの街を散策していた。
そんな時だった。
お兄ちゃんと出会ったのは。
お兄ちゃんはとても不思議な色をしていた。
とても暖かい色ととても寂しい色が混ざっていた。
私が見つけた時、お兄ちゃんは地面に座っていた。
顔はよく見えないけど、頭からは狐の耳が生えていた。
不思議な色をしているのは今まで見たことのない狐人だからだと思った私は声をかけた。
でもお兄ちゃんは人種だった。
お兄ちゃんは私の話を聞いてくれて、ウチに泊まってくれた。
お姉ちゃんは最近、元気がない。だから私が少しでもお姉ちゃんの代わりに頑張らないとって思った。
お兄ちゃんが来てからお兄ちゃんはたくさん私と話してくれた。
たくさん一緒に遊んでくれた。
ご飯も一緒に食べたし、一緒に寝る約束もした。
私はたくさんお兄ちゃんに楽しませてもらった。
私もお兄ちゃんの周りにある不思議な何となく寂しそうな色がなくなったらいいなと思っていた。
でも帰ってきた時、お兄ちゃんの色が真っ黒になっていた。
私はお兄ちゃんに声をかけたけど、私じゃなんの役にも立たなかった。
その後もなんて声をかけたらいいか分からなくて声をかけられなかった。
でもお姉ちゃんは違った。
お姉ちゃんがお兄ちゃんと一緒になったら、お兄ちゃんはまた暖かい色に戻っていた。
まだ少し黒いのが残っていたけど、それは少しずつ減ってきていた。
私は何も出来なかった。
すごくお姉ちゃんが羨ましかった。
お姉ちゃんになりたいと思った。
私もお兄ちゃんの色を明るくしたいし、その明るさを私に向けて欲しいと思った。
自分の中に今まで感じたことのない思いを感じた私は不思議な感覚を覚えた。
離れかけていた姉妹はレイがいることで以前のような関係、大好きな家族に戻れるような気がしていた。
PV6000超えました。
毎度のことですが読んでいただきありがとうございます。




