44.平和的な話し合い1
よろしくお願いします。
少し長いのと44話目と苦手な数字の羅列なのですぐに次を投稿します。
ギルドを出て白山羊亭に戻ると、食堂にはラールとサーシャの二人がいた。
時間は10時手前くらいで、仕事を終えた姉妹二人は食堂にいた。
スイングドアの軋む音が食堂に響き、ラールの視線と目が合う。
「レイさん、おかえりなさい。」
「はい。ただいまです。」
ご飯を食べていたサーシャは器から顔をあげ、レイをじっと見ている。
「サーシャもただいま。帰ってきてからはごめんね。」
「レイお兄ちゃん、もう大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
サーシャはなぜかレイの言葉を聞き、顔をわずかばかり歪めるもすぐに笑顔になりよかったと喜んでくれる。
「そっか〜良かった〜。
でも無理しちゃダメだよ!」
「うん。心配してくれてありがとう。」
頭を撫でるとサーシャは気持ちよさそうに目を細めながら、そのままレイに抱きつく。
「んふふ〜。今日は一緒に寝よ〜?」
「そうだったね。でも今日はこれから用事があるから明日でもいいかな?」
「む〜。・・・わかった〜。」
「ありがとう。
ラールさん、俺の方はもういつでも大丈夫なので、行けるタイミングで教えてください。」
「はい。よろしくお願いします。
サーシャ、ご飯食べ終わった?」
「ん〜もう少し」
それからしばらくサーシャに抱きつかれながら、3人で一緒に過ごした後、サーシャを寝かし付け、レイとラールは表通りを歩いていた。
「こんな遅い時間でも大丈夫なんでしょうか?」
ラールの問いにレイは少し考える。
ラールが以前どの時間に話し合いに行ったのかは聞いていない。
しかしレイがゴンゾに話をつけに行ったのは今日より少し遅めの時間だった。
それにメルラがいうにはロク商議会は金羊樹の入手を急いでいた。
「ナンティスという人がいるかは分からないですけど、確か酒場もあるんですよね。
それなら人がいないってことはないと思うのでなんとかなると思いますよ。」
「そ、そうですね・・・。」
表通りに出て、ロク商議会の事務所に近づくにつれて口数が減っていくラール。
心なしか目線も下がり、一歩一歩どんどん足取りが重くなっているように見える。
「怖いですか?」
「ッッッ!!!」
「このローブを頭からかぶってください。」
配慮が足りなかったと反省し、レイはアイテムボックスから『薄影のローブ』を取り出しラールに着せる。
「あの、これは?」
「ローブですよ。人から存在を認知されにくくなるんです。
これがあれば変に見られることもないと思います。」
「・・・ありがとうございます。
レイさん、その、、怖いので、手も繋いでくれませんか・・・?」
「え・・・?」
「い、いえ、なんでもないです////」
「あ、いえ、すみません、俺の方こそ、配慮が足りませんでした。
今までずっとゴンゾたちに嫌な思いさせられてきて、今からその本陣に向かうんですもんね。怖くて当たり前ですよ。気が付けなくて申し訳ないです」
レイはそう言って左手を前に出す。
ラールはおずおずとそのレイの手に触れたが、自分で言った恥ずかしさからか、指先までしか握れなかった。
ラールに案内されて来た場所は予想通りレイがカグ村に向かう前、ゴンゾに聖属性魔法『聖杭』を打った場所だった。
『聖杭』は相手の行動を制限させる魔法だ。
制限の内容は自由に決めることが出来る。
この制限を取り払うには対系統の黒魔法『奪去』で杭自体を飲み込むか、術者の定めた期限、今回で言うと14日を待たなければならない。
術者の都合で禁止事項を決められる強力な魔法だが、仮にこの『聖杭』が魔法やアイテムの効果によって無効化された場合、術者にペナルティが発生する。
術をかけた本人が、同じ制約を同じ日数かけられる。
そして無理難題を貸さないようにするため、ペナルティを消す方法はダイイングフィールドには存在しなかった。
『聖杭』を仮に破った場合は心臓に刺さっている杭が体を貫き消滅する。
そして術者に魔法の消滅といった形で報告される。
今回レイの元にその知らせは訪れなかった。
つまり気性のあらいゴンゾはレイのいない間、静かに暮らしていた事になる。
酒場の中に入ると一斉に店内の視線がレイに向けられる。
今回は気配を消して忍び込むような真似はしなかった。
というのも、夜遅い時間とはいえ、ちゃんと会いに来た事を知らせる必要があった。
そのため酒場にいる人から直接ナンティスのことを聞く。
酒場にいる客の顔を見て、「あ、こいつ、ナンティスと関係あるやつだ」なんてことは当然わかるはずもなく、奥のカウンター席でグラスを拭いているマスターに話を聞いてみることにした。
ラールの手が離れないようにとしっかと握り直し、カウンター席に向かう。
カウンターに向かうときもレイを舐めつける視線はなくならない。
しかしそんな視線を無視し、レイとラールは席に着く。
「すみません、マスター。
ナンティスさんとお話がしたいんですけど、こちらにいらっしゃいますか?」
マスターは視線だけ動かしレイを見た後、すぐグラスを拭き始めてしまった。
開口一番要件を伝えるのは不味かったかと反省していると隣のラールから声をかけられる。
「レイさん。あの人はナンティスさんにどんな用があるかを言わないと合わせてくれないんです。私もそうでした。言い忘れててすみません。」
「なるほど、そうだったんですね。
でも不親切ですよね。それくらい教えてくれてもいいのに。」
小声で会話した後、再びマスターに話しかける。
「すみません、金羊樹のことでお話があるんですけど、ナンティスさんはこちらに?」
しばらくの沈黙ののち、マスターはカウンターから離れる。
またダメだったかと気を落としていると、マスターは元いた場所に戻ってきており、一枚の紙を渡してくる。
紙にはおそらくマスターの名前だと思われる署名に加え、5階と書かれていた。
「ありがとうございます。」
レイは軽くお礼を告げて、席を離れる。階段が入り口付近にあるために、再度舐めつける視線を受けながら、2人は入り口横の階段を上がり始める。
「ラールさんの時も、こんな感じだったんですか?」
「私の時は、えっと、その、もっと周りの人に騒がれたというか。もう少し大変で、ナンティスさんとも後日会う形でした。」
「ごめんなさい、嫌なこと思い返させてしまって。」
「い、いえ。気にしないでください。
私、ここに来てからずっとレイさんに頼みぱなしなので。」
5階に到着すると一人の男が5階のフロアに入る前に立っていた。
背はレイの方が高いが体格がゴツく、スキンヘッドにサングラスをかけており、威圧感があった。スーツを着ていれば完璧だなと思っていると慇懃無礼な態度で話しかけてくる。
「どちら様でしょうか?」
「すみません、1階の酒場マスターにナンティスさんに会いたいと言ったら、この紙を渡されたんですけど、こちらにいますか?」
その階の門衛らしき男はサングラスをやや上にあげ、その紙を見る。
レイは内心見えないなら外せばいいのにと思いながら、黙っていると、紙の確認が済んだのか5階に入れてくれた。
そのまま突き当たりの扉の前まで、二人を案内してくれる。
扉をノックして、用件を奥に聞こえるよう大きな声で伝えて男は帰っていった。
そんな男の行動に呆気に取られていると、中から扉が開けられ、一人の中肉中背の男が現れる。
「すみません、どちら様でしょうか?」
ロク商議会という大きな組織の、それもウキトスという街の支部長を任せられるにしては肝の小さそうな男が現れる。
「冒険者をしている、レイと言います。
ギルドで金羊樹ツーメンチの捕獲依頼を出されているのを見て、訪ねさせてもらいました。」
「ええと、そうなのですね、どうしてこちらに?
依頼を受けてくださるのはありがたいのですが、報告なら依頼を達成した後に願いたいのですが。ギルドからはまだ依頼達成の報告は入っていませんよ?」
この男も口調は丁寧なのだが、わざわざ依頼を受けにきたことだけを報告にくるなといった感じで、こちらを下に見るような雰囲気を感じる。
「あれ、そうなんですね。今日達成したばかりで連絡が遅れているのかもしれません。」
レイのその言葉にラールは驚き、ナンティスは嬉しげに声を上げている。
「それはそれはそうでしたか!」
面倒な客が来たかと思い、内心で次のボディーガードについて考えていると、あまりの朗報にナンティスは露骨に喜ぶ。
「それでレイさんはどうしてこちらに?」
「気になったことがありまして、少しお時間貰えませんか?」
「はい、それはもちろんでございます。
あ、失礼いたしました。
こちら、中へどうぞ。」
先ほどまで扉から体を半分だし、適当に話していたにもかかわらず、目的のものを持っていると知った途端、態度を変える姿にレイは内心でため息をつく。
通されたナンティスの部屋はそこら全体に装飾が施されており、あらゆる物が金色に塗装されていた。
お世辞でも良い部屋だとは思えない。
促されるままにソファに腰掛け、ナンティスと対面する。
先ほどまでの面倒臭そうな表情は消え、気持ち悪いほどニコニコとしている。




