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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
都市国家連合国編
42/198

42.依頼の達成報告

よろしくお願いします。


ラールは今日、そしてこれからも白山羊亭の営業があるため長い空き時間を取ることができない。

今だってレイの様子を見るために、仕事をサーシャに任せっきりにしてしまっている。

そのため落ち着いたレイと話し合ったラールは急いで仕事に戻る。

時間は既に夜の7時あたりだったため、ラールの残りの仕事は夕食の支度のみだった。

翌日も朝から同じように宿で多くの仕事に追われるため時間はない。

そのため、2人は今日の夜、食堂を閉めた後にロク商議会のウキトス支店に向かう事を決める。


レイはラールと別れたのち、表通りを歩き冒険者ギルドに向かった。

ギルド内は1日の仕事を終え、ギルドに併設されている酒場で飲んでいる冒険者たちによって賑わっていた。

レイはもちろんその賑わいに加わることはなく掲示板に向かう。

レイが最近話題の黒狐であることに加え、こんな夜の時間に依頼を確認するものなんて滅多にいないため視線が集まる。

そんな視線を無視し、目的の依頼書を探して掲示板を眺める。

『金羊樹ツーメンチ』の捕獲依頼の紙は2枚あった。

一枚は掲示板の真ん中、多く人目に留まるように貼られている。

もう一枚はそれとは真逆で隅に追いやられていた。

レイは隅にある金羊樹ツーメンチ捕獲依頼の紙を手に取り、依頼者の名前がラールであることを確認する。

捕獲報酬の欄には銀貨50枚と記載されていた。

ラールは報酬が少ないと申し訳なさそうにしていた。

しかしレイが白山羊亭に初めて来た時、金貨のお釣りとして十分の銀貨を用意できていなかったラールが記憶に残っていた。そのためレイからすればこんなにも報酬を払えるのか。また払っても大丈夫なのかという驚きと不安があった。その驚きに蓋をしつつB,Cランクの掲示板を確認し、常駐依頼として『血啜サースエグマ』討伐も張り出されていたため手に取る。

依頼書にはサースエグマの主な出現地やそのイラストが記載されており、依頼者の名前はなく、ギルド依頼となっている。

討伐報酬は金貨2枚となっており、報酬の多さに驚いた。


依頼書を持って受付に向かうと、安定で受付には長い列が出来ていた。

自分のランクと依頼書の推奨ランクを見ると色々と説明しないといけないことがありそうだ。初対面の受付嬢では手間がかかると思い、ランク規制などガン無視してメルラの元に向かう。

彼女は今、何もしておらず、ぼーっと隣の列を眺めていた。

今回はレイが歩いて来るのが目に入ったのか、身だしなみを整え、居住まいを正していた。


「レイさん!お久しぶりですね?!」


今のぼんやりした態度を触れさせないようにメルラからレイに話しかける。


「はい、お久しぶり?ですかね。」


「イーリさんたちが最近全然ギルドに来てくれないのでとても暇していたんです。

だからレイさんが来てくれて嬉しいです。

それで今日はどういったご用件ですか?

この時間に依頼を受けるってことはないと思いますけど、何かございましたか?」


「イーリ、来てないんですか?」


「はい、そうなんです。

確か、・・・レイさんと一緒にいらっしゃった日以来ギルドで見てないですね。」


「そう、なんですか。

今度イーリの様子見てきます。」


「そうですね。そうしてあげてください。

レイさん、イーリさんにめちゃめちゃ気に入られてましたから、家訪ねたらきっと喜んで入れてくれると思いますよ?私一度でいいのでイーリさんのあの大きな家にお邪魔してみたいんですよね。」


「は、はぁ。。。」


イーリの家での苦い記憶を思い出し、なんとも曖昧な返事を返してしまう。

そんなレイの様子に気が付かず、メルラはイーリの住む豪邸に期待を膨らませている。


「それで、今日来た要件なんですけど。」


「あ、そうでした。すみません。

すみません、話脱線しがちで。」


「いえ、俺から聞いた話なので。

この依頼を達成したので、確認お願いしたいんですけどどうすればいいですか?」


「あ、はい。かしこまりました。

依頼書を見せていただいてもよろしいですか?」


2枚の依頼書をメルラに手渡す。

依頼書に目を通すと仕事笑みが一変、難しい表情を浮かべる。


「どうかしたんですか?」


「色々とお伝えしないといけないことがあるのですが、まずこちらの『血啜サースエグマ』の件からでもよろしいですか?」


「はい。」


「この依頼が冒険者ランクB以上の方に推奨の依頼でして、レイさんが討伐したという証明ができないと偽達成扱いになり罰則が発生してしまいます。」


「その討伐の証明方法は?」


「そうですね。パーティメンバーがいる場合は個別に話を聞いたりその迷宮にギルド職員が足を運んで判断しますが。ただレイさんはソロなのでそうした話を聞いて判断することが難しいです。オルロイなら教会にいる真偽官などにお願いすればどうにかなると思いますが、ウチではその対応も難しいです。ウチでは討伐部位をギルドの鑑定員が見て、判断する形になると思います。」


「たとえ本当に討伐していても、その鑑定員が偽達成と判断したら俺は罰則を受けるってことなんですね。」


「大変申し訳ないのですが、そうなってしまいます。」


「その鑑定員さんはメルラさんから見てどうなんですか?」


「魔物の素材が好きな変な人ですが、見る目は確かだと思います。

鑑定関連の『恩恵(ギフト)』を持っているという話はよく聞きます。」


「そうなんですね。それなら後で見てもらってもいいですか?」


レイはメルラが信用している人物なら任せてもいいかと思い了承する。

これは、高ランク魔物の討伐という突発的な出来事であるために偽達成となってもある程度仕方ないとレイは割り切って考えていた。そのため簡単に了承したのだが、メルラとしては罰則やその後の変な噂の種になりかねない問題を含む偽達成を恐れないレイの即断に驚いたようで、驚きを隠しきれていない。


「か、かしこまりました。

それでもう1枚の『金羊樹ツーメンチ』依頼書方なのですが、同じ依頼がもう一件来ておりまして・・・。

今回の依頼書と全く内容は同じで、報酬が金貨10.5枚ほど変わって来るのですが如何されますか?」


「依頼書を見せてもらってもいいですか?」


報酬の違いに驚き、レイは依頼書を見せてもらう。

確かに、達成報酬に差があった。

一枚は銀貨50枚。もう一枚は金貨10枚。

同じ内容で、この報酬の差はすごい。

依頼書が目立つ場所と全く目に留まらない隅という時点で何かされていると思ったが、報酬金の違いだったのかと思ったレイは2枚の依頼人の欄に目を落とす。

一枚目はレイが持ってきた依頼書で依頼人は「ラール」。

二枚目は掲示板に貼られている依頼書の原本で、依頼人は「ナンティス」と言う名だった。初めて聞く名前で、ラールの関係が掴めないためメルラに聞いてみる。


「メルラさん、この依頼書に記載されているナンティスって誰ですか?」


「はい、ロク商議会のビューション、ウキトス支店代表の方です。

なんでも急ぎで金羊樹が欲しいそうで。できればそちらで達成報告をお願いしたいのですが。」


ロク商議会と聞いてレイは依頼料に納得がいく。

ゴンゾが好き勝手店で騒ぐことといい、何かにつけてロク商議会の存在をラールの近くに感じる。

これもラールが万一にでも依頼を達成させないための工作なのだとするとそのナンティスというやつには好感を全く持ない。すごく不快だった。

レイはそんな不愉快な気持ちを表すことなく、メルラに説明を行う。


「それなら問題ないですよ。こっちの銀貨の依頼の方でお願いします。」


「え?」


「そのナンティスさんに金羊樹の件でこの後会いに行くので。

銀貨50枚の依頼書は俺の知り合いが出した依頼なので、そちらで受理してください。」


「・・かしこまりました。

それでは二件の依頼の魔物を拝見させていただきたいのですが、」


メルラは不祥不承ではあるが納得し、いや深く関わることを嫌っただけなのかもしれないが、レイの依頼書を受諾した。


「わかりました。結構な大型の魔物なので場所とかって変えられますか?」


「はい、ギルドの奥に魔物の卸場がございますので、そちらにご案内いたします。」


受付カウンターの奥に案内され、そのままメルラについていく。

卸場まで距離があるため、レイは移動中迂遠にナンティスついて聞いてみた。


「やけに報酬が多い方の依頼を受けて欲しそうでしたけど、何か言われたんですか?」


「・・・はい。そうなんです。ここ最近、毎日のように依頼はまだ達成されないのかと催促しにギルドに来てて、対応が面倒だったんです。受付業務のない私に押し付けられてしまって。それでもロク商議会のそれなりの立場の人なんで無碍にすることもできず、辟易していたんです。」


受付現場を離れたためか口調がラフになり、嫌そうな顔を隠そうともしないメルラ。

ギルドが圧力をかけられたためというより、メルラ個人がしつこく話を振られて面倒だったため、レイに報酬の多い方を受けさせたかったらしい。

これ以上聞くとメルラの不満を全て聞かなくてはならなそうだ。

ナンティスの性格について詳しく聞けなかったが、メルラがロク商議会側でないと確認できたため話を変える。


「そういえば、サースエグマの討伐が認められたらランクアップとか可能性ありますか?」


「あると思いますよ。高ランクになればなるほど、色々と条件が課せられるんですけど、低ランクの時は依頼達成数と依頼難度から総合的に判断されてランクアップが決められるんです。ちなみにCランクになる時から試験があるので、それまでは依頼をこなせばあげられますよ。って、レイさん元Cランクの冒険者なんでしたよね。」


「聞かなかったことにするんじゃないんですか?」


「それはギルドカウンターでだけで〜す」


「思った以上にストレス溜まってそうですね・・・。」


「そうなんです!!!わかってもらえますか?」


レイがそう尋ねると思った以上の食いつきぶりで思わず後ろに一歩下がってしまう。

それでもメルラは共感を求めグイグイとレイに近づく。


どうしようかと迷っていたところで聞き覚えのない声がメルラに投げかけられた。


ありがとうございました。

次回の更新は明日を予定しております。

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