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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
都市国家連合国編
41/199

41.弱い2人

よろしくお願いします。

今回短めです。


「レイさん、落ち着きましたか?」


どれほど抱き合っていたのか。

抱きしめるレイの力が若干弱まったのを感じたのか、ラールはレイに問いかける。

自分を肯定してくれる、ラールという人の暖かな温もりを感じてレイはまだ完全に吹っ切れた訳ではないが、立て直すことが出来た。


「ありがとうございました。」


「レイさんの力になれたならよかったです。

ずっと考えていたんです。」


「考えていた・・・?」


「はい。レイさんがアケロペ迷宮に出発する前に好きになって貰えるように頑張るって言いました。

でも私なんかに何が出来て、何をすれば良いんだろうってずっと考えてたんです。」


自分が目の前にいない間も自分のことを考えてくれていたと知り、レイは嬉しく思う。


「今日こうして話を聞いてくれたものすごく助けられました。」


「そう言ってもらえて私も嬉しいです。

今日だってここに来るかは迷ったんです。

時間を空けないとどうしようもないことも世の中にはあるって知ってますから。もしレイさんもそうした問題を抱えていたら私一人いたところで何もできないし、さらに傷を抉ってしまうんじゃないかって。それでも私がレイさんの元に来れたのはサーシャのおかげなんです。」


「サーシャの?」


「はい。知ってましたか?レイさんが帰って来てからサーシャ、何度か部屋の前に来ていたんですよ。」


「・・・・気がつきませんでした。」


「ですよね。何かを呼びかけたりした訳じゃなかったですし。

ただ部屋の前に立って、じーっと部屋を見ていたんです。

それで、サーシャがレイさんの部屋がどんどん悪くなっていくって泣きながら話してきて、レイさんの部屋に入る決心がついたんです。」


「悪く?」


「はい。私もよく分からないんですけど、サーシャ特有の感覚らしくて、何となくその人の空気?がわかるみたいなんです。昔からそうした不思議な、自分の感覚を持っている子で結構当たるんです。

だから焦って部屋に入りました。そしたら本当にレイさん、全然大丈夫そうじゃなくて。」


「本当ありがとうございます。

サーシャにも後で謝ります。

ラールさんは俺がいない間、ゴンゾ関係で何か問題はありませんでしたか?」


「サーシャもレイさんと話したがっていたのでお願いします。

はい!あの夜以来一度も来てなくて、最近はサーシャともずっと一緒にいられます。

嬉しいんですけど、逆に来ないのが不気味で、あの、一体何をしたんですか?」


「それは秘密です。

それに今は時間稼ぎしかできていないので、早く借金を返済してしまいましょう。

そうすればゴンゾたちは下手に動けなくなると思うので。」


レイは人差し指を口に当て、不敵に笑う。

既に先ほどの不安定な様子はなく、ラールは安堵した。

しかし、その安堵によってサラッと大事なことを聞き流してしまいそうになる。


「え・・・返済って?」


「はい、金羊樹の捕獲が達成出来たので、借金返済しに行きましょう。」


レイがそう伝えるとラールは目を丸くする。


「本当ですか???

いや、疑っている訳じゃないんですけど。

ロク商議会ですら手に入れられてないのに。」


「返済の手順はどういうふうに言われているんですか?」


「何も言われていないです。

私もロク商議会も互いに、私なんかが手に入れられると思ってなかったので、捕まえた場合の話はしてないです。

自暴自棄になっていた私の勝手な行動だったので。

ただその甲斐あって一応確約書はもらいました。・・・不確かなものですけど。」


「ロク商議会はオルロイに居を構えているって聞きました。

ウキトスに支店みたいなものはあるんですか?あるならギルドで依頼達成の報告書を貰ってくるので、後で渡しますよ?」


「ウキトスにもあります。はい。

表通り挟んで向かい側の裏路地に酒場があって、確かその5階が事務所だったと思います。

ゴンゾともそこで初めて会って・・。」


当時のことを思い出したのかラールは震えている。


「わかりました。

俺がギルドに依頼達成の報告をしに行った後にでも一緒にいきましょうか。」


借金をした人がいないのはまずいと思ったため、ラールに行ってもらおうかと思った。

しかしゴンゾもそこにいると聞きたためレイは同行を申し出る。


「え、でも・・・。」


レイの提案を躊躇うラール。

それを訝しみレイが尋ねる。


「どうしたんですか?」


「やっとレイさんのために何かできたと思えたばかりなのに、またレイさんに助けてもらいっぱなしなのが申し訳なくて。」


今度はラールの表情が硬くなる。

レイとラールは互いに心があまり強くなく、独りで抱え込んでしまう点が似ていた。

相性は悪くないはずなのだが、助けて貰っていることを互いに負い目と感じている。

お互いに相手を頼り方がわからず困っている。


「ラールさんの夢を見せてくれるんですよね?」


それでも立ち直りかけているレイは行動で、そして言葉でラールを支える。


「独りだった俺に居場所をくれるって言ったのはラールさんです。

だから作ってくれないと困ります。

ラールさんだけの為じゃないので気にしないでください。」


その言葉でようやくラールは笑みを浮かべ、目には薄らと涙がたまる。


「そんな言い方ズルイじゃないですか。

もう、これ以上好きにさせないでくださいよ。

まだ好きになってもらってないのに、これじゃ私耐えられませんよ。」


そんな笑い泣きで文句を言う、ラールの姿を綺麗だとレイは思った。


ありがとうございました。

次回更新予定は明日です。

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