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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
都市国家連合国編
37/198

37. 4+1≠5

よろしくお願いします。


5人はコリウスの家に集まった。

帰りは疲れていたことや他にも原因があり特に会話を交わすことはなかった。

それはナナンも同様で、行きはあれほどしつこくレイに聞いた魔法の話をすることもなくただ黙々と帰路についた。

家に到着し、丸テーブルに5人が等間隔に座り、誰が口火を切るかと互いの顔を見合わせる。


「何から話そうか。

とりあえず、俺らが無事なのはよく分からないけどレイさんのおかげだと思う。

だからまずはありがとうございました。」


話しはレナードのこの言葉から始まった。


「はい。」


「それで・・・。」


ただ始めて早々にレナードが言葉に詰まる。


「師匠、聞いてもいいですか?あの魔物のこととか。」


それをレイと一番会話量の多いナナンがカバーする。


「俺もハプニングだらけで正直何から話をしたらいいかわかりません。

話が色々と飛んじゃうと思うので、その都度聞きたいことがあったら聞いてください。」


了承する4人に事のあらましを説明する。

まず4人も知っているように8階層の異変に気がつき、銀羊樹ローエイツを見つけたこと。

そのローエイツが冒険者を捕食していて、絶句したこと。

さらにそこにいないはずの血啜サースエグマが現れたこと。

サースエグマの咆哮でみんなが意識を失ったこと。

その後魔物部屋(モンスターハウス)に行って金羊樹ツーメンチを見つけたこと。

銀羊樹ローエイツを刈り取る時の絶叫が冒険者たちの意識を覚醒させたこと。


10分ほどだろうか、レイが1人で説明をする。

4人はそれを黙って聞く。

レイの話がひと段落つくと共にナナンが手をあげた。


「質問です!どうして私たちは銀羊樹ローエイツの声で目覚めなかったんですか?」


「それは俺が4人を魔法の防御で包んでいたから声が届かなかったんだと思います。」


「それじゃ、師匠、その・・・サースエグマは?

もしまだアケロペ迷宮にいるなら早く報告しないと他の人たちが・・・。」


「サースエグマが一体しかいないのなら大丈夫です。殺したので。」


4人はその言葉に絶句する。

薄々気づいていても実際にBランク迷宮以上で出現するという魔物『血啜サースエグマ』を一人で、それも大した負傷もなく倒したと言うのは頭が理解することを拒む。


「よかったな、ナナン。お前の言った通りだったじゃねぇか。

こいつの実力が本物で。

もしこいつがランク通りの実力だったら俺らみんな死んでたな。」


出会ってから一番と言っていいほどに皮肉めいた笑みを浮かべたコリウスがナナンに話しかける。

その言葉に反応したのはナナンではなかった。

レナードは勢いよくテーブルを叩き、コリウスを睨みつける。


「そんなマジになるなよ、レナード。

お前は根っからの善人だから、どうせこう思ってんだろ?

黒狐ほどの実力があれば、金華猫の時もあんなに苦戦したり、死ぬ思いをしなかったって。」


「そんなこと・・・!」


「否定できないだろ?

弱者を助けるのは強者の義務だとでも思ってんのか?

俺らは冒険者だ。

それにこいつは今回しかパーティにいないんだ。

力あるものに頼りきりになるんじゃなくて、少しはリーダーとして先のこと考えろ。」


怒鳴り声を上げるレナードにコリウスは冷たい言葉を浴びせる。


「コーリ、そんなにレナードを責めなくても・・・。」


「わーってるよ。でもキセラも今回のことで分かっただろ?

これまで上手くいってた。でも今回みたいなイレギュラーだって冒険者を続けていれば起きる。

迷宮は何もかも規則正しく動くわけじゃない。」


「・・・。」


「まぁまぁ。でもそのために、私の杖の素材集めに行ったりしたんだし。

みんなも何も考えてないってわけじゃないと思うよ。」


「そうだな。

で、その素材をここまで運んだのは誰だった?

そこの胡散臭い黒狐だろ?

ボスを倒しに行くってのに誰も金華猫の運搬方法は考えてなかったよな?

あ?死ぬつもりだったのか?」


「コーリ・・・」


レナードとキセラは顔を俯かせ何も言葉を発さない。

ナナンも言い返す言葉が見つからないのか、悲しそうな表情を浮かべ、ただコリウスの名前を口にする。


「おい。黒狐も何か言ってやれよ。

俺らがどんだけ甘い考えをしてたか。

あ、それと素材も見せてくれるか?

こいつらが運ぶ方法を全く考えてなかった魔物の大きさを見せてくれ。


4人の言い合いを黙って聞いていたレイはコリウスに話を振られたことで、アイテムボックスを起動させる。


「素材ですね。

取り合えず、金華猫と銀羊樹ローエイツです。どうぞ。」


4人は出てきた魔物が自分達の考えていたものと異なり、言葉が出なかった。

コリウスは金華猫を出して、4人が(自分を含めて)どれだけモノを考えていないかを実感させるつもりだった。

しかし、その魔物と一緒に他の魔物も出されてしまった。

そしてレイはまるで「この2体はあなたたちのものです。」といった感じで差し出してくる。

金華猫はともかく、銀羊樹ローエイツを何もしていない自分達に渡してくる意味がわからなかった。

最初の約束通り金華猫の素材を出せば、4人はレイが銀羊樹ローエイツを持っていても文句はなかった。

それどころか、命を助けてもらった4人は金華猫の素材がもらえることすら感謝していた。


「何の真似だ?」


レイの行動を訝しんだコリウスがレイに問いかける。

しかしレイとしてはどうしてコリウス視線が厳しくなるのかわからず首を傾げる。


「約束通り金羊樹ツーメンチは俺が貰いました。

金華猫は必要な素材をナナンさんに、銀羊樹ローエイツはコリウスさんたちに。

何か足りませんでした?」


「違う。確かに銀羊樹が出た場合はこっちが貰いたいって話はした。

でも俺らはすぐに気を失って何もしてないんだぞ?どうして渡してくる。」


「え?でも元からそういう話でしたよね?」


コリウスは自分達とは何かが根本的に違うレイの感覚の“ズレ”に対して、怖気が走る。

怖くてその先を追求することは出来なかったコリウスは話を変える。


「・・・・。金羊樹ツーメンチ貰ったって言ったか?

まさかお前、血啜サースエグマも持ってるなんて言わねぇよな。」


「持ってますよ。」


得体の知れない怖気から逃げようとして、明確な恐怖に追い付かれた。

レイはバラバラになった血啜サースエグマを取り出す。

傷ひとつなく頭部、胸部、腹部、手足と切り分けられたそれは誰が見ても、この魔物を殺した者への憧れと畏れという相克する感情に苛まれることになるだろう。


4人は今日何度目かわからない、驚きを顔に浮かべる。

その驚きはここにいる魔物の希少さ故か。

死体の凄惨さを見たからか。

それとも・・・レイという男の異質さを感じ取ったからなのか。

一体何に言葉を失っているのか、当人たちでさえ分からなかった。


「・・・・レナード。この死体を持ってブスに伝えに行ってくれないか?

あの魔物部屋(モンスターハウス)のことも含めて、早急に調べたほうがいいって。」


呆けていたレナードがコリウスの言っている言葉を理解する前にレイが話に割り込む。


「その報告待ってもらえませんか?」


「は?」


「ギルドに報告するんですよね?

やめて欲しいんです。」


「理由は?」


「・・・・」


黙り込んだ様子を見てコリウスはレイの先ほどの不可解な行動の意図を読み取る。


「おいおい、まさか口止め料として銀羊樹ローエイツを俺らに渡したのか?

は?だからこの魔物のことは黙っとけってのか?

ふざけんなよ?もしかしたらまだあのバケモンがあの迷宮にいるかもしれないんだぞ?

それを知って同業の奴らを見殺しにしろってか?

理由も話せない、お前の身勝手な願いで?」


無論レイにはそんなつもりはなかった。

しかしコリウスに言われて確かに相手はそう受け取るかも知れないとも思う。

いくら言い訳をしようとコリウスの話しの筋が通っている以上、意味はない。

黙るレイに対し、コリウスの言葉が流石に看過できなかったのかナナンが止めに入る。


「コーリ!!!」


ナナンの呼びかけに高まった熱は冷めていき、コリウスは舌打ちをする。


「ちっ。おい、黒狐。サシで話させろ。こっちこい。」


冷静さを取り戻してくれたナナンの言葉には助かったが、3人がいる前では話は進まないと考えたため、レイを連れ出す。

他の3人は何も声を出せずにただ、部屋を出ていく二人を呆然と見ていた。


ありがとうございました。

次回更新予定は明日の夜です。

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