34.vs金華猫
よろしくお願いします。
ボス部屋の扉を通った瞬間、5人は途轍もない光量に襲われる。
初めはこれが眩い光だと言うことにすら気が付かなかった。
単純に何か目に攻撃をされたと思い、5人は皆、一様に手で目を覆う。
視界が制限されたために金華猫が出現しているのかと言うことすら4人には分からない。
目がこの明るさに適応できるまで、5人は完全に無防備な状態に陥った。
未知の場所で視界が制限されるという不安を増大させる場でいち早く動揺を押し殺したコリウスが即座に急所を守るよう叫び、指示を出す。
コリウスの叫び声の後、索敵の無属性魔法『テイル』に反応があり、少し時間を置いてレイの固有スキル『境界』が発動する。打撃攻撃をくらったようだが、当然ダメージは入らない。
ダメージを受けなかったことに安堵するよりも攻撃を受けたことにレイは4人の安否が気になる。
『テイル』はあくまで索敵魔法であるため生物の位置はわかっても、無事かどうかまでは探ることはできない。体力があっても、底を尽きそうになっていても反応は同じである。
『テイル』で味方の位置を確認している間にも『境界』は反応し続け、攻撃を喰らっている。敵の反応が一つしかないことから、敵はレイを集中的に攻撃している。逆説的ではあったが、レイは自分が攻撃を食らうことで味方の無事を確かめることが出来ていた。
このままずっと敵の攻撃が自分に集中していると言う保証はどこにもないため、無属性魔法の『シールド』を発動し、4人を守る。
それから数回『境界』が発動したタイミングでようやく目が慣れてくる。
てっきり部屋に入るなりボスが先制攻撃を仕掛けてきたのだと思っていた。
しかしレイたちの視界にダメージを与えたのはこのボス部屋そのものだった。
ボス部屋はこれまでのアケロペ迷宮内の様相と全く異なり、全面が金色に塗りたくられ、傷ひとつない光沢を放っている。
そんな部屋の異質さに気を取られていたが、隣にいたはずの男が一瞬視界から消える。
コリウスは蹲っており、腹部から血を流し負傷していた。
レイは即座にコリウスを抱えて金華猫から距離をとる。
ずっと『境界』が反応していたことを踏まえると、レイが攻撃を受けるより先にコリウスは金華猫から一発貰ったのだろう。
金華猫はなぜかコリウスにとどめを刺さず、レイに攻撃を集中した。
理由は分からないがそのおかげでコリウスは一命を取り留めた。
まだ完全には目が慣れきってない3人に声をかけ、レイは戦線から一歩離れる。
「コリウスさんが負傷しました。
俺は今から回復魔法をかけるので、金華猫引きつけてください!」
3人は狼狽えながらも自分たちがコリウスの治癒時間を稼がなければいけないと思い、武器を構える。目が慣れてきたことでようやくボスの姿が確認できる。
金華猫は10層の条件出現ボスであり、銀華猫の亜種的存在として認知されている。
そのため銀華猫を知っている3人からすればどこが亜種なのだと言いたくなるほどに見た目は似ていなかった。
全長は6~7mほどあり、二足歩行。
左手は猫パンチの要領で顔横まで挙げられている。
その姿は言うなれば超巨大な招き猫といえる。
ここまでは色以外銀華猫とそっくりだ。
しかし銀華猫にない特徴を有している。
右手が歪だった。
右手は左の心臓付近に敬礼するかのように当られている。
その右腕にはびっしり蔦のような植物が絡みついており、その先には金華猫の胴体を覆うほどでっかい金色の花が咲いていた。
左手が攻撃をするためにあるとしたら、右手は防御に特化しているように見える。
それによく見ると右目も閉じられており、何かの蔦で瞼が縫われている。
「師匠、コーリは?」
後方から攻撃するために下がったナナンがレイにコリウスの容体を尋ねる。
「一撃食らっただけなので、回復魔法かければどうとでもなります。」
「師匠なら多分金華猫すぐに倒せると思うんですけど、今回はサポートだけお願いしてもいいですか?私が金華猫に魔法叩き込みたいので。」
ナナンの口調にはいつものような穏やかさはない。
もちろんレイに魔法を尋ねる時のような狂気じみた様子はない。
ただ仲間を傷つけられたことに対する怒りを感じる。
「今、俺は回復魔法と補助魔法で一杯一杯なのでそうしてもらえると助かります。」
ナナンはペコリと一礼して、金華猫に対して魔法攻撃を開始した。
ナナンの思いを汲むため、コリウスの回復に専念する。
それに元から、今回の討伐でレイは攻撃魔法を使うつもりはなかった。
というのもイーリとSランク迷宮を探索して思ったことでもあったが、自惚れなしにこの世界で自分は強者に部類されると感じていた。
『恩恵』について知りたいがためにパーティには参加したが、今ここで金華猫をすぐに討伐してしまうのはこの4人のこれからを考えるとダメなことだと思う。
あくまでダイイングフィールドの経験をもとにした考えだが、緊迫した戦闘経験というものは入手できる経験値以上の何かをもたらしてくれるとレイは考えていた。
それゆえ、今のナナンの申し出にレイは素直に了承しコリウスを治療する。
それと共に3人が死なないために補助魔法をかけていた。
レナードとキセラはレイの指示に了承し、近接系の前衛の二人で攻撃を仕掛けていた。
しかしレナードの長剣もキセラのガントレットも金華猫の右腕の咲いている花に防がれてしまう。一方、金華猫は2人からの攻撃の隙を縫って持ち上げた左手で二人をハエ叩くように狙っては叩くことを繰り返している。
レイの補助魔法『ヘイスト』の効果がしっかり発揮されており、金華猫の攻撃を避けることは出来ている。しかし2人の攻撃も右腕の花によって防がれるため、戦闘は拮抗状態に陥っていた。
現段階で、金華猫の攻撃手段は左手の猫パンチしか見られない。
金華猫の攻撃対象は、攻撃してくるものに集中する。
そして何故か攻撃の手が止まった時はレイが集中的に狙われる。
そのためレイは負傷したコリウスに回復魔法を行使するために抱えながら戦闘を見守る。
幸いキセラとレナードが果敢に攻めてくれているためレイに対する攻撃回数は減り、落ち着いて回復魔法をかけることが出来ている。
そしてその一方でナナンは気がつかれないよう慎重に金華猫の背後を位置どり、魔法を発動する準備をしていた。そしてナナンは高火力魔法を叩き込む。
『我が魔力を以て顕現せよ 穿て フレイム・アロー』
ナナンの頭上にマナが収束し一本の炎矢が形成される。
正面ではキセラとレナードがナナンの魔法に気づかせないために金華猫に集中的に攻撃を仕掛けている。
勢いよく掲げていた杖で前方にいる金華猫に向かって振り下ろす。
炎矢は金華猫の背中に向かって一直線で飛んでいく。
飛んでいった矢は狙い通りに金華猫の背中に直撃するかに思われた。
しかし炎矢が当たる直前に金華猫はレナードとキセラの攻撃を防ぐことをやめ、後ろに反転する。そしてその右腕の花でナナンの魔法を受け止める。
攻撃を受けた金華猫は煩わしげに猫パンチ用の左手で花の盾についた汚れを払っている。
「ナナンの攻撃があったたのに!」
ナナンの攻撃が発射された直後に金華猫から距離を取っていたキセラが悔しげに声を上げる。魔法を放った当人も悔しそうにしながらも、攻撃対象に入らないよう即座に移動を開始する。
「ナナン!
後ろにも右腕と同じ花があって、後頭部と背中を守っている!
僕とキセラが注意を引きつけるから、顔面に最大火力の魔法叩きつけてほしい!」
レナードが叫ぶ。
レナードは金華猫が振り返った瞬間に右腕についていた金色の花同様、後頭部と背中にも似たような花がついていたことを確認した。
ナナンは了承し、ナナンは魔力を練り始める。
正面でキセラとレナードが対峙し、その後方でナナンは魔法詠唱をしている。
今度こそ避けられない陣形であるが、一歩タイミングを間違えばレナードとキセラにもフレンドリファイヤしかねない作戦。
しかし魔法を行使するナナンも、ギリギリまで金華猫を引きつけるレナードもキセラも不安はない。
『我が魔力を以て顕現せよ 風を纏い 抉れ ウィンドバレット』
『我が魔力を以て顕現せよ より炯炯に 穿て フレイム・アロー』
ナナンの掲げる杖の先には先ほどの炎矢に加えて風の球が形成されていた。
「キセラ!レナード!」
ナナンが声張り上げる。
2人はあらかじめ示し合わせていたと思われるほどタイミング良く、金華猫に一撃与え、怯ませてから前線離脱する。
しかし2人の全力攻撃に、体勢を崩した金華猫の顔は魔法の範囲から微妙にずれてしまう。
ナナンが失敗したと感じた瞬間、後ろに倒れそうな金華猫が急に体勢を立て直す。
まるで何かに後ろから押されたかのように。
体勢を立て直したことで、大きな音を立てて、ナナンの放った魔法が金華猫の顔面に直撃する。金華猫は尻尾を踏まれた猫のような声をあげその場に倒れ込む。
しばらく左手で顔を抑えたのち金華猫は動きを止める。
「やった!」
動きを止めた金華猫の様子を見てキセラが声を上げた。
その瞬間、金華猫は花によって固定されていた右腕を力一杯に動かす。ぶちぶちと蔦は切れたことで右腕が自由になる。思い切り振り地面を粉砕させ、怒りを露わにした金華猫は立ち上がる。その様子を見た3人は固まっている。
「ニャーァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!」
猫の可愛らしさを全部取っ払った猫の咆哮をあげ、右目に絡まっていた蔦を無理やり剥がす。右腕の盾になっていた花は枯れるが、金華猫は戦闘態勢に入る。
そんな様を見てまだ固まっている3人の背後から金華猫に向かって駆け出していく人影が現れる。
コリウスだ。
コリウスは少し前にレイの回復魔法により8割ほど回復していた。
攻撃するタイミングをずっと後ろから探っていた。
そして皆が固まり、金華猫が怒りで視界が狭くなっている隙をついて咆哮している金華猫の胸元まで入り込む。
左腰に下げていた長剣を抜き、腰を最大限右に捻り剣を構える。
そして先ほどまで右手で隠されていた金華猫の胸元に全力で剣を突き刺した。
金華猫は先ほどよりも汚い絶叫をあげ、地面に背中から倒れ込んだ。
金華猫が断末魔を轟かせてからしばらくして意識がはっきりした3人がコリウスの元に駆けていく。
「コーリ!?」
6~7mはある金華猫の巨体に3人はよじ登る。
コリウスは長剣を握りしめ、倒れた金華猫の胸元で倒れ込んでいた。
3人は慌ててコリウスに声をかけるが、息を切らせている以外に何も外傷はなかった。
3人はコリウスの無事が確認できたことでようやく心から安堵できる。
「レイさん!どうしてコーリから目を離したんですか!」
一足遅れて4人の元に向かうと、レナードから糾弾される。
キセラも同じ考えのようで言葉には出さないが不満な様子は伺える。
ナナンはコリウスが無事でレイの行動には特に何も思っていないようだった。
「レナード、俺が頼んだ。
治してもらった後に黒狐に、俺にも補助魔法をかけろって。
だからこいつを責めんな。」
「コーリ・・・!
すみません。
レイさん、見当違いな怒りをぶつけてしまって。」
「・・・気にしないでください。」
気まずくなった雰囲気を感じたのか、先ほどまでコリウスに付きっきりだったナナンが声をあげ、討伐した金華猫をどうするか話し合いが始まった。
4人は銀貨猫を討伐したことはあるが、普段から大型魔物を狩ることはあまりないそうだ。
魔物部屋にいたような中型、小型の魔物を狩ることが多いため、この魔物をどう持ち帰るか考えていなかった。
ナナンから何か方法はないかと視線で訴えかけられたレイは解体した後なら収納できることを告げる。
「じゃー私が解体しますね!」
意外なことに解体を申し出たのはキセラだった。
一瞬、そのガントレットでミンチにでもするのかと焦ったが、決してそんなことはなく普通に手際よく解体していった。
いくつか部位ごとに切り分けた金華猫の素材はレイが運び、ナナンに必要な部位以外は売り、レイの報酬になることになった。
そうして第一目的の金華猫討伐は完了した。
ありがとうございました。
参考までにどうぞ。
金華猫lv23
コリウスlv16
キセラlv13
レナードlv14
ナナンlv18
レイlv200
次回更新予定は火曜です。




