30.カグ村に向けて3 魔法
よろしくお願いします。
「さっき外で使った収納の魔法器と馬車内で使った魔法器って別物ですか?」
「それも魔力の流れを見て、ですか?」
「そうです」
力強く頷くナナンの様子に、恩恵というものの凄さを実感する。
それと同時にアイテムボックスというものが、魔力を媒体とした仕組みで動いていることにも興味が湧く。
レイはナナンにはこのまま嘘を突き通すことはできないと思い、1度目は魔法器で、2回目が自分の魔法で再現したものであるとアイテムボックスのことを暈しながら伝える。
「あまり多くの人に魔法器を持っていることを知られたくなかったので、変えの効く魔法を使ったんです。」
「あれが魔法器じゃなくて魔法!?!?どうやったんですか?
魔法器は1人で構築できない魔術回路をあらかじめ準備しているものなのに、それを1人で再現できるんですか!?!?!」
魔力を可視化して見ることが出来るナナンですらレイの行った行動は尋常ではなかった。
そもそも魔法器とは魔力が無くて魔法の使えないものや、種族や職業の問題から使うことのできない特定の魔法を行使するために存在する。
中でも空間を操る魔法器は存在自体が珍しい。そして作成は空間を操れる者でないと魔術回路を作成することは難しい。そのためさらに価値が上がる。
レイはちょっとそこまでと散歩に行く感覚でその魔法を行使する。
それがナナンには信じ難かった。
「えーっとそもそもナナンさんは魔法についてどんな認識でいるんですか?」
自分が使用する魔法とこの世界の魔法。
レイはミャスト迷宮で魔法を使用していらい、使えるからという曖昧な理由でそのまま使い続けていた。しかし世界が異なるのだから仕組みが異なっていても何もおかしなことはない。
そもそもダイイングフィールドにいる時は覚えた魔法名を念じ、MPを消費することで魔法が発動できた。こちらの世界でもそれはほとんど変わっていない。しかしダイイングフィールドで使用していた時よりも鮮明に魔法を発動した際の効果が理解できるようになっていた。それもこの世界が影響しているのか。
わからない。
そのためレイは、今まで出会った中で一番魔法に造詣の深そうなナナンに魔法とは何かを問いかける。
「魔法の認識ですか?」
「はい。例えば、魔法を使うときはどうしてますか?」
「他の魔術師の人と同じだと思いますけど。
体内のマナを詠唱したときに作り上げた術式に乗せて魔法を発動しています。」
「その詠唱というのはどんなものですか?」
「え、詠唱ですか?
詠唱は学問の公式みたいなものだと私は教わりました。
例えば火属性魔法の『火炎』だったらその『火炎』を生み出すための公式を唱えて完成した術式に自分のマナを乗せて発動しています。」
「なるほど。その術式を挟むことでマナが変換されるんですね?」
「えっと、多分そうだと思いますけど、レイさんは違うんですか?」
レイの問いは魔法を習い始めたばかりの子供見たいなものばかりだった。
そのためナナンはあれほどの大魔法をポンと発動できるレイとの存在のギャップにたじろいでしまう。
しかしそれも仕方がない。レイの場合はマナを術式に乗せる行為を今までゲームのシステム、魔法名を想像し、MPを消費することで自動的に魔法が行使されるようになっていた。そのため詠唱など全く知らない。
「俺の場合は詠唱を知らないので、知ってる魔法を想像して使ってますね?多分」
「は?え?ごめんなさい。
言っている意味がわからないんですけど、詠唱を知らないというのは?」
「そのままの意味です。
えーっと、俺に魔法を教えてくれたのが詠唱を使っていなかったので、その魔法名と事象の結果を結びつけて考えて、自身のマナで再現したって感じです。」
「何それ、凄すぎます!!!!!!
魔術の概念を根本から覆す方法じゃないですか!!!!!!!
それならさっきの音を消す魔法はどうやって行使したんですか?
1から教えて欲しいです!!!」
レイの話を聞き、ナナンのテンションは今日最高潮にまで上がる。
異様に興奮したナナンに若干引きながら、この世界に来てから魔法を行使する感覚をナナンに伝える。
「今使った魔法は『ブロック』という魔法です。
まずは、マナを使う前に“音”を認識します。」
「音の認識ですか?」
「はい。音は周りの空気が振動して、その振動が相手の耳に入ることで“音”としてこの世界に生み出されます。だからその振動を消すような働きをマナに与えてあげればいいんです。
今、ナナンさんから見て魔力がどのように見えているのか俺にはわからないですけど、イメージではここにいる5人を囲うように魔力で円を作って、その円を半休状に展開するんです。そしてそのマナの壁を振動させ続けることでこの空間内で生じた音を外に出す前に、振動によって消滅させる感じです。今の説明で大丈夫ですか?これ以上詳しくと言われるとちょっと難しいんですけど、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
先ほどまであれだけテンションの上がっていたナナンは黙ってしまう。近くで話を聞いていた他の3人は話の途中から、全くわからないといった表情をずっと浮かべていた。
しばらくの無音状態に魔法の効果範囲を変えてしまったのかと思った瞬間、ナナンに飛びつかれた。
「レイさん!!!!!!!!!凄すぎます!!!!凄すぎますよ!!???」
ナナンは息を荒くし、レイの胸元に顔をぐりぐりと押しつけ、興奮している。
その突飛なナナンの行動にレイは固まってしまう。
レイより先に正気に戻ったキセラたち3人がナナンをレイから引っぺがそうと苦心していた。
しばらくして落ち着いたのかナナンは気まずそうに視線を彷徨わせている。
それでも聞きたいことはまだあるのか話は続けられる。
「すみません、少し興奮して我を忘れてしまったみたいです。」
「えーと、はい。大丈夫です。でもそんなに興奮するような内容でしたか?」
「何を言ってるんですか!するに決まっているじゃないですか!
無詠唱の完成形みたいなことが初めからできるなんて魔術師としても、冒険者としてもこんなに魅力的な話題そうそうないですよ!」
「そ、そうですか。
でも俺の場合、環境が恵まれただけだったと思いますけどね?
俺の行使する魔法は自分の経験を術式の代わりとして使っていますけど、魔法を習い始めた人はその魔法名を行使した場合の結果は分かりませんし、仮に分かってもその効果は自分の経験と想像、それに自身のマナに大きく左右されてしまうと思います。
その点で、マナを流し込んで詠唱さえすれば必ず一律の威力を生み出す術式はすごいと思いますよ??」
「うぅぅっ・・・確かに言われてみれば。
で、でもその完成形を見る経験をすれば術式なくても魔法が行使できるんですよね?
それならレイさん私の師匠になってください!!!!」
「「「は?」」」
頼まれたレイ以外の気の抜けた声が揃った。
「魔法名による結果が分かれば、その事象を自分のマナで再現すればいいってレイさんは言ったじゃないですか。それなら魔力を見れる私はすぐにそれを習得できると思うんです。だから・・・・」
呆気に取られている3人のことなど気にせず、レイに話を続けるナナン。
「えっと俺が師匠?」
「はい!!!だから・・・」
「それはナナンさんのパーティにこのまま入ればという誘いですか?
それとも俺についてくると言った意味ですか??」
「あ・・・。」
レイの問いかけに黙ってしまうナナン。
ナナンとしては興奮して、勢い任せに出た言葉だったのかもしれない。
それでも他の仲間からすれば相談もなく仲間が1人増減するかもしれない話題。
このパーティに魔術師は1人、ナナンだけ。
それだけに今の言葉にはそれなりの意味が含まれていた。
「すみません。師匠。そこまで考えてませんでした。今の言葉忘れてください。」
「すでに師匠って呼ばれているのが気になりますけど、分かりました。
そうした話は仲間と事前に話してから言ってくださいね。みんな驚いちゃってますよ。」
「はい。みんなもごめんね。少し勢いよく言葉が出ちゃった。」
「はぁ・・・焦った。本当にナナンってば魔法と食事のことになると周りが見えなくなるんだから気をつけてよね?」
「はーい。
あ、そういえば師匠。まだ収納の魔法器の方も聞いてませんでした。
聞いても、、、痛っ!!」
「ったく、キセラに注意された途端にこれかよ。
もうそろ野営地に着くからこの話はまた後でな。
とりあえずカグ村に着くまでは禁止な!」
「えーそんな、コーリ酷いよ!」
「あーうるさい!そんなひっついてくるな暑苦しい。
てか黒狐。お前もだよ。あんまりこいつを興奮させること言ってんじゃねぇよ。」
野営地到着してからもこのドタバタな状況は続いた。
ありがとうございました。
次回更新予定は明日です。
マナ→体内魔力
オド→大気に漂う魔力
魔力→マナとオドまとめて。




