29.カグ村に向けて2 恩恵
よろしくお願いします。
「あれ?外で使っていた魔法器と今のは別?でも、確かに魔力の感じが、ん?でも、
レイさん、さっきの魔法器と今の魔法器って別物ですか?」
「すごいですね。どうして分かったんですか?」
ぶつぶつ何かを呟いていると思ったら、早々にアイテムボックスとアイテムボックスに似た仕組みの魔法が違うものだとバレる。
流石に予想していない反応にレイは素直に驚きを表す。
「私生まれつき、魔力を見るのが得意なんです。」
「魔力を見る、ですか?
もしかしてそれで俺をつけていたとか?」
「そーです!やっぱりすごいですね?それだけでわかっちゃうんだ。
私ね、」
「ちょっと待ったぁぁ!!
ナナン、それ以上はダメ!」
ナナンが何かを話そうとした瞬間、走るには狭い馬車内から駆けてきたキセラによって待ったがかかる。しかし話に夢中になっていたナナンは声をかけられるまで全く気づいていなかったようで、首を傾げている。ナナンはここが馬車内であることすら失念しているようだった。
「ダメよ、ナナン。それはパーティ内の秘密でしょ?」
「えーでもレイさんにならいいんじゃない?教えても。」
「どうしてそんな急に信頼度上がってるのよ?!」
「私の予想通りすごい人だったから?かな?」
「何それ?どういうこと?ナナンも分からないことを私に聞かないでよ。
わからないけど、とにかくダメよ。
そもそもここにはレイさん以外にも人がいるんだし。」
よくわからないことでナナンとキセラが揉め始めた。
レイは外でアイテムボックスを使ったが、今ナナンには虚無属性魔法『渺茫空間』を使用してみせた。アイテムボックスの仕組みが詳しくわからないため、あれこれと質問された場合ボロが出る可能性があると思ったために代用に出来そうな虚無属性魔法を使用した。
この魔法ならば自分が使う感覚を説明できるため、ボロが出ないと思って使用したのだが、ナナンはレイの使ったアイテムボックスとの違いを即座に見破った。
驚く以上に理由が知りたいと思った。
ナナンからはなんの魔法の発動も感じられない。
それ故、どうやって見破ったのかが疑問だった。
キセラがナナンと揉めている間、レナードは慌て、コリウスは厳しい視線をこちらに送ってくる。その視線の意味がよくわからず困惑する。
「レイさん、それでさっきの魔法なんですけど、もう一度見せてもらってもいいですか?」
「ちょっと話は終わっていないんだけど。」
「えーでもここでその話しをしなければいいだけでしょ?
終わり。他に何があるの?」
「だからそのままの勢いで話していたらどうせ言っちゃうじゃない。」
「だからその時はその時だって。
私は今レイさんと話したいのー。」
「レイさんもどうにか説得してくれませんか?」
ナナンとキセラ、2人のなんとかしてくれという視線を向けられ居心地が悪い。
ただ状況もわからないため、何をどうすればいいのかわからない。
レイはこのパーティのリーダー的存在であるレナードに助けてという視線を送る。
その視線に気がついたレナードは説明をしてくれる。
まとめるとこんな感じだった。
ナナンがレイを尾行できたのも、レイをパーティ勧誘したのも、そして今レイの魔法器に食いついているのも全てナナンの秘密に関係してくるらしい。その秘密はレイがパーティに参加する時点で、教えるという条件のため教えること自体は問題ない。
ただ馬車という閉じた空間では同乗者に聞かれてしまうために3人はナナンを止めたがっている。しかし、テンションの上がったナナンは仲間でも止めることが困難なためこのまま話し続けたら必ずどこかのタイミングで言ってしまう。
話したいナナンと止めたい3人、そうして言い合いは続いていたようだった。
「つまり、音が他の人に聞こえなくなればいいんですか?」
「はい、まぁそうなんですけど、それができないから話を止める止めないで揉めていて・・・。」
「少しこちらに集まってもらってもいいですか?」
レイの言葉に4人は疑問を浮かべながら、言葉通りに近づいてくる。
ある程度密集したことでレイは無属性魔法『ブロック』を使用する。
3人は相変わらず頭に疑問符を浮かべていたが、ナナンだけは違った反応を見せた。
「わぁ・・・すごい。」
「これも見えるんですか?」
「はい。レイさんも見えているんですか?」
「いえ、俺は見えてませんよ。」
レイは確かに魔力を使用して魔法を使う感覚はあった。しかし魔法で作り上げた槍などとは異なり、今使用した魔法は実際に可視化できるものではない。
しかしそうした会話も3人には訳がわからないようで、再び2人だけの世界に入りそうなレイとナナンの会話にレナードが慌てて割り込む。
「ちょっと待ってください。
今度は僕らが置いて行かれてしまったみたいなんですけど、詳しく教えてもらえませんか?」
説明を求めるレナードに対し、レイは3歩後ろに下がるようにお願いする。
やはりナナン以外は困惑しているようで、レイの言葉が入ってこないようだ。
それでも説明のために必要だからと再度お願いすることでレナードは3歩下がる。
「ナナンさん、レナードさんに何か言ってもらってもいいですか?」
レイの意図を察したナナンは両手を口元で丸め、レナードに向けて指向性を持たせた状態の大きな声を出す。
「キセラはレナードに惚れてまーす。」
「ちょ・・・・。ナナン!?!?!?!?」
突然の奇行にキセラは顔を赤くし、驚き、コリウスは目が点になる。
ナナンは楽しそうに笑いながら、これでいいのかとレイに視線を向ける。
「ごめん、ごめん。顔赤くなったと思ったら、そんな急に真顔にならないでよ、怖いから。
多分大丈夫。レナードには聞こえてないはずだから。
ですよね?レイさん。」
「はい。今、音を遮断する魔法を展開したんです。その効果を実感してもらうためにレナードさんには魔法の範囲外まで出てもらったんです。ただナナンさんが伝えた内容如何は俺とは関係ないのでご容赦を。」
キセラとコリウスは説明を聞いて納得したのか、ずっと何もわからない状態のレナードを引っ張り魔法の効果範囲内に入れる。
「何してたんですか?みんなで無言劇みたいなことして。」
「レナード!本当に何も聞こえなかったのね!!??」
「え?うん。何も聞こえなかったけど、何か言っていたの?」
「そ、そう。それならいいの///」
キセラは恥ずかしそうに、けれどどこか残念そうに俯く。
「今、俺が音を遮断する魔法を展開したんです。
それで実験のために、レナードさんには一回その範囲外に出てもらって効果を確かめてもらいました。」
「音を遮断する魔法・・ですか。なるほど。だから何も聞こえなかったんですね。」
「それにしてもレイさんってほんとすごいですね。
ねーキセラこれで話しても大丈夫よね?」
「まぁそれは大丈夫だけど、後で覚えておいてね?
それとコーリもさっきのは忘れてね。」
「あ?別にいいんじゃねーの?好きなら好きで。」
「わ・す・れ・て・ね・?」
ガントレットを擦り合わせながらも笑顔でいるキセラに恐怖を感じたのか、コリウスは顔色を青くさせながら何度も首を縦に振っている。
話が綺麗にではないが、まとまったことでナナンとの会話が再開された。
「レイさんには聞きたいことがたくさんあるんで、まず私のことから話しちゃいますね。
さっきも言い当てられちゃったんですけど、私、魔力を可視化できるんです。」
「魔力を可視化ですか。すごいですね。」
「はい。この力には助けられてばかりで。
表通りでレイさんを見かけた時は内包されている魔力が凄すぎて腰抜かしちゃったんですよ?」
「あ、俺のも見えるんですね。それは、なんというか、恥ずかしいですね。
だから尾行を撒いても俺を見つけられたんですね。」
「はい、レイさんの魔力量は過去一だったので、見失うことの方が難しかったです。」
「その能力は生まれつきですか?それとも何かそういった魔法があるんですか?」
「私の能力は『恩恵』によるものなので生まれつきです。
魔法で似たことができるのかと聞かれると分からないです。
この能力に関して使い方は知っているんですけど、仕組みの方はさっぱりです。」
「『恩恵』ですか?」
「はい。レイさん知りませんか?」
「聞いたことないです。」
「確かに獣人種にはあまり縁のない話ですもんね。」
ナナンは学校の先生のように丁寧に恩恵について教えてくれる。
恩恵は世界が与えてくれる贈り物みたいなもので、恩恵を与えられた子は世界に生を受けた瞬間からその能力が使えるようになるという。
能力は千差万別で、子供が言葉を理解し始めた頃に恩恵の名と能力を知ることができる。この“知る”については少し複雑で、恩恵は元々生まれた瞬間に与えられ、体に定着する。
しかし世界はこの世の理に基づいて恩恵を与えているため、感覚で力を理解することができても、自分達の法則で力を行使することが難しいそうだ。
生後間もない赤ん坊が感覚で能力を行使することも稀にあるみたいだが、実際は言葉を覚えてからの方がうまく使用出来る。
その力を言葉を覚えることで自分達が作り上げた文化の中に世の理を落とし込み、恩恵を行使できるようになるという。
また恩恵を持つものと持たないものではその辺の感覚も異なるようで、どうしたら能力を得られるのかなどは全くわからないそうだ。
そして理由はわからないが恩恵は人種にしか与えられないという。
稀に他種族に恩恵を受けた人がいるという噂は聞くが、ナナンは知らないそうだ。
そしてナナンの恩恵は『天眼』と言って魔力そのものを見ることができる能力で、人の体内にあるものから、外に漂うものまで魔力ならなんでも視ることが出来るという。
「なるほど、『恩恵』ですか。不思議な力ですね。」
レイはこの世界に来てから知らない魔物、知らない文化に触れてきた。
しかし自分のアバターを使い、そして得意な魔法は行使できるためにどこかダイイングフィールドの延長線上な感覚を感じていた。だから今回恩恵について知ったことでレイはダイイングフィールドとこの世界は似ているようで全く違う世界なのだと強く実感した。
「今度は私の方から質問いいですか?」
「俺に答えられる範囲でなら」
そうして質問者と回答者が入れ替わる形で話はさらに続けられる。
完全に蚊帳の外に追いやられた3人は互いに顔を見合わせる。
2人の会話は、レイに対して厳しい視線を向けていたコリウスですら困り顔を浮かべる始末だった。
ありがとうございました。
次回更新予定は明日です。
PVが2000を超えました。
たくさんの方にこの作品をご覧いただけて嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。




