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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
都市国家連合国編
28/198

28.カグ村に向けて1 出発

よろしくお願いします。

門を出るといくつかの冒険者パーティが各集団ごとに集まっていた。

あたりを見渡していると、手を振っている少女がいた。

ツインテールに見覚えのある両腕ガントレット。今回一緒に依頼を受ける4人のうちの1人、キセラだ。

手を振るキセラの周りには他の3人もいる。


「おはようございます。すみません、時間ギリギリになってしまって。」


「おはようございますー!」

「おはようございます、レイさん。」

「おせーよ、黒狐。」

「おはようー私も今来たとこですー」


四者四様の挨拶を返してくれる。


「コーリ、もう少し言い方どうにかならないのか?」

「俺はずっとこれだよ。もう諦めろって、レナードもしつこいなー。」

「私もその口調直した方がいいと思うなー。」

「キセラもかよ。わーった、わーった。努力するって。」

「お腹すいたー。」

「ナナンは少し黙ってて。

レイさんも来て、みんな揃ったことだし出発しよっか?」


既に何度か見た光景だが、この4人は4人の空間に入り込む癖がある。

レイはその様子を黙って見守り、話が終わるのを待つ。

するとレイの格好に焦点があたり、皆の視線が向けられる。


「待ってくれ、キセラ。

レイさん、荷物が見当たりませんが、大丈夫ですか?」


「荷物・・・ですか?」


「はい。これから馬車で1日半かけてカグ村まで向かいます。

俺たちはそのために必要な着替えだったり、食料だったりを持っていますが、レイさんは手ぶらのように見えるので大丈夫なのかと思ったのですが。」


レイが質問の意図を掴みあぐねているとレナードが説明してくれる。

完全に失念していた。

ダイイングフィールドではアイテムボックスがあったおかげで荷物を持つなんて概念がまずなかった。一応アイテムボックスに必要なものはつめたが、これからは麻袋のようなものを用意したほうがいいのかもしれない。

いや、しかしとレイは記憶を辿る。

あの時は何も言われなかった気がする。

イーリと初めて出会い、ミャスト迷宮25層から29層までの道を探索したあの時。

イーリもレイも手荷物は何もなくて、でも互いに必要な物資は持っていた。

互いに休憩の時、手ぶらであるにも関わらず食料は2人の休む空間にあった。

レイはまだ魔法が使えるということで説明がつくと思うが、イーリは魔法はあまり使えないと言っていた。

つまりそれは一つの可能性があることを示しているのではないか。


この世界には荷物の出し入れが可能なアイテムが存在する?


「あの、レイさん?もし忘れてしまったのなら待ちますけど・・・?」


返事が遅いレイを気使ってレナードが声をかけてくれる。

この世界にアイテムボックス的な何かが存在する可能性が高い以上、別に隠さなくてもいいと思った。

イーリも特に気にした様子はなかった。あれがレイを信用しての行動だったら流石に驚きではあるが。

ただこの世界にアイテムボックスのような魔法アイテムが存在する確証を持ちたいという気持ちはある。

しかしそうすると自動的に手ぶらで来たことになり、パーティの行動予定に支障を来す可能性が出てくる。

それはまずいと思い、レイはそうした魔法のアイテムがなかった時のために魔法で代案を考えた。

実際にレイは虚無属性魔術『渺茫空間』という魔法は使える。

アイテムボックスと比べると圧倒的にコスパが悪いため今まで使ってこなかったが、魔法アイテムが存在しないとしても、魔法としてなら認めて貰えるはずだ。そう考えたレイは、荷物は持っていると主張する。


「荷物なら持ってきているので大丈夫です。」


「え!?それはどういう・・・?」


「どーせ魔法器でも持ってんだろ?」


レナードの困惑に対し、あっさりとコリウスが答える。


「なるほど。でもすごいですね。収納関連の魔法器なんてすごい高価なのに。」


「なー本当に荷物持ってんのか俺らにも確認させてくれよ。

これで荷物なかったとかで、俺の飯が減るのはごめんだからな?」


「何を出せばいいですか?」


「んー、水とか?」


レイは事前に宿裏にある井戸で汲んだ水を露天で購入した水筒に入れ、何本かストックしていた。

それを一つ取り出し、4人に見せる。

4人は皆、アイテムボックスから物が出し入れされるのを初め見たのか、皆驚いていた。

ただ予想外だったのがナナンが今の一連の動作にものすごい食いついてきたことだった。


「ねぇねぇ今の!今のもう一回見せてくれません?」


「今のって、水筒の出し入れですか?」


「んー水筒でもなんでもいいかな?物が出し入れされる瞬間が見たいです!」


「いいですけど。」


レイはラールとあれこれ話していたため集合時間ギリギリに到着していた。

このままここで話していてもいいのかと思い、レナードに視線を送る。


「ナナン、早くしないとカグ村行きの馬車が出発しちゃうから続きは後で、馬車の中でしてくれないか?」


「えーでもなぁー。

んー。馬車が行っちゃうのも困るしなー。

そうだ。レイさん馬車の中で見せてください。

ね!行こ行こ!」


ほんわか気力のない感じだった少女は、元気に溢れる様子でレイの手をとり、カグ村に向かう馬車にさっさと乗ってしまう。

それほどにナナンという少女が魔法器に食いついたことが珍しかったのだろう。

馬車に駆けていく2人を3人は呆けた様子で見ていた。


馬車はそれなりの大きさで、カグ村に向かう客の中に自分達以外の冒険者もいた。


街から出ている移動馬車は商人ギルドと冒険者ギルドの連盟で運営されており、移動馬車を商人ギルド、護衛人材を冒険者ギルドが出している。通常の商人が荷物の運搬などに用いる馬車とは異なる移動専用の馬車だ。

そしてそんな馬車の護衛は2つのパターンが存在する。

一つは各ギルドが出した護衛冒険者がいるタイプ。

もう一つは馬車にいる冒険者が護衛を務めるタイプだ。

同乗する冒険者は馬車の乗り代をタダにする代わりに護衛を務めることができる。

馬車内の人数によって必要なランクが変化するものの迷宮に向かう馬車などは冒険者が多いため護衛を務めるものは割と多い。そのため馬車内に何組かの冒険者パーティがいた場合は話し合いで護衛を決める。


「はい、すみません。どうにも仲間の1人が少し護衛に専念できる状態でないので今回はお願いしてもいいですか?」


そんな馬車護衛は低ランク冒険者にとっていい節約になるのだが、レナードは無理だと考え、同職の同乗者に護衛仕事をお願いしている最中だった。

そしてその原因となった、ナナンは馬車の中でレイと話し込んでいる。

同業の冒険者たちが快諾してくれたことに安堵しつつ、3人はナナンの様子を話し合っていた。


「珍しいわね。ナナンが食事や魔法のこと以外で食いつくの。」


「確かにそうだね。やっぱり魔術師として魔法だけじゃなくて、魔法器も気になるんじゃないのかな?」


「けっ。いいよな、金があるやつは楽ができて。迷宮に潜るたびに資材を集めんの俺苦手だわ。」


「それは私も同感。ね!今回の金華猫討伐が終わって時間に余裕があったら金羊樹と銀羊樹も狙ってみる?それで儲かったら私たちも収納系の魔法器買おうよ?パーティで一つ。」


「お、それいいな。どうだ?レナード。」


「いいと思うけど、その辺もやっぱりレイさんに相談してからかな?

今回は一緒に行動するわけだし。」


「それだよ、それ。本当にあの黒狐でよかったのか?

10層の通常ボス『銀華猫』は俺らで倒せるけど、金華猫は銀華猫よりも強いんだろ?

俺ら戦ったことないし、あの黒狐の実力もわかんねぇけど大丈夫なのか?」


「それはナナンが保証してくれたから大丈夫じゃない?」


「そうだな。俺もレイさんの実力はわからないけど、ナナンがいうには今まで見た中で一番って言ってたくらいだからな。」


「それも信じられねぇよな。

ナナンは遠目だけど、あのAランク冒険者パーティも見てるんだぜ?

それ以上ってことはもうあの黒狐はSランクAランクってことだろ。

それならなんで俺らのパーティに参加なんてしたんだ?

そんな必要ないだろ?

俺らのこと碌に聞こうともしないし。怪しすぎるだろ。」


「確かに、あの時は互いに必要な情報を交換することができなかったのは痛かったな。

それもまぁ連れの子供が寝てしまったから仕方ないけど。

ただもう少し時間にゆとりを持って、話し合ってから出発してもよかったのかもしれないとは思っているよ。」


「そこはもうナナンを信じた私たちの責任でしょ。

というかそのナナンは今レイさんと2人で話しているのよね?

なんかあの子興奮してたし、間違って自分のステタースとか教えてないわよね・・・?」


2人は先ほど興奮した様子でレイの手をひく仲間を思い出し、黙り込んでしまう。

心配になったキセラが今度はレナードとコリウスの手を引いて、ナナンの元に急ぐ。

慌てて駆けつけると2人は仲良く話していて、これはもう手遅れかもしれないと3人は思っていた。


そして案の定手遅れだった。


ありがとうございました。

長いので分けます。


次回は今日から明日の午前までには上げる予定です。

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