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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
都市国家連合国編
24/198

24.独白ラール

よろしくお願いします。

「///」照れ、です。


朝、目が覚める。


ここ最近、悩み事、心配事が多すぎて疲れが取れない。

10代からこんな疲労だらけの毎日で、この先の希望が見えない。

昨日の朝も善意で助けてくれたレイさんに合わす顔がないからと言ってずっと失礼な態度をとってしまった。


それなのに今はとても目覚めがいい。

自分でもよくわからないが、昨日の夜はぐっすり眠れたようだ・・・?


・・・・・・・昨日の夜?


・・・・・・・あれこの感じ、昨日の朝も?


・・・・・・・それにこの思い出し方も


・・・・・デジャブがすごいような。


「////////////////////////////」


私は今どこにいるのか思い出し声を上げそうになってしまう。

昨日、私はレイさんに抱かれようと、レイさんの部屋に訪れていた。

そして見事に振られ、大泣きした。


恥ずかしい。


自分の顔は見なくても分かるくらいに真っ赤になり、火が出そうなくらい熱い。

ジタバタと昨日みたいに転がり、体を動かすことで熱を発散させたいが、体が固定されて動かない。


何に固定されているのか。


一体何に・・・?

私は顔を少し上に向ける。


レイさんの腕だ。


私は今レイさんの腕の中にすっぽり収まっていた。

固定されていると言っても拘束力は全くなく、優しくレイさんに守られているようだった。


レイさんの腕の中、とても恥ずかしい。

しかしその反面、なんだか心地がいい。

安心する。


抜け出そうと思えば簡単に抜け出せるのに、私はレイさんを起こさないようにと自分に言い訳を言って、現状を享受する。

温もりを感じながら、私はレイさんの腕の中で、レイさんとの出来事を思い返していた。


初めはサーシャが無理やり連れてきたのかと思った。

両親が生きていた頃のサーシャは今以上にマイペースでのんびりとしていた。

気がつけばいつもどこかに消えていて、気づいた時に帰ってきていた。

そんなサーシャも、私が白山羊亭の主人になったことで多少仕事のペースに合わせてくれるようになった。と言ってもまだ10歳ほどの妹に多くは求めていなかった。ただ、朝の支度くらいそろそろ自分でできるようになって欲しいなくらいにしか。

そんな中でいきなりお客さんを連れてきた。きっとフラフラして、思いついたから近くにいた人をなんとなくで連れてきたのだと思った。

ウキトスにいるC、Dランク帯の冒険者の人で、うちに泊まりたいと言ってくる人なんていないと思っていたから。

だからレイさんが宿を探していて、宿泊したいと申し出てくれた時には本当に驚いた。

お客さんが来て助かったと思うより前に疑念を抱いてしまった。

なぜうちに?と。

しかし話を聞いたところ、レイさんはこの街に来たばかりの冒険者だと言っていた。

狐獣人のようだしこの街に来たばかりということが本当なら、この宿が経営難あることを知らずに、ただ同種がやっている宿だから泊まりにきたというので納得できた。

いくら同種と言っても本当のことを言ったら、レイさんは別の宿に行ってしまうかもしれない。


久しぶりのお客さん。

借金のある我が家。

怖い客。

真意の分からない常連さん。


色々考えて結局私はレイさんに何も言わなかった。

いや、言えなかった。


そして何度も自分のその浅慮な行動を後悔した。

レイさんを連れてきた時からそうだったが、サーシャは何故か知り合ったばかりのレイさんにとても懐いていた。

それこそ、ここ最近ずっと一緒にいたカンズさんよりもよっぽどレイさんを好いていた。理由は分からなかった。

ただそのサーシャの様子を見て、レイさんに迷惑をかけているとわかっていながら、レイさんに妹を守るためという言い訳があると思いこみ、妹を押し付けてしまった。

最近、夜はいつもゴンゾがうちに来て好き勝手騒いでいた。

だから夜ご飯時はサーシャをカンズさんに頼んで連れ出してもらっていた。

でもサーシャはカンズさんのことを嫌ってはいないがそこまで好いるわけでもなかったため、言葉には出さないがどこか不満げな様子がありありと感じられた。

しかしここ2、3日レイさんと一緒にいるようになって、サーシャは笑顔をよく見せるようになった。

それこそ両親が生きていた頃のサーシャを見ているのかと思うほどに。

それほど以前のマイペースに戻り、無差別に愛くるしい笑顔をばら撒く。

どちらのサーシャがいいのかと聞かれたら、宿の亭主としては今のサーシャの方が助かる。

しかし一人の姉としては、環境が歪めてしまった今のサーシャよりも元のサーシャの方が断然いいに決まっている。

サーシャを受け入れてくれるレイさんには感謝しかなかったし、レイさん自身もサーシャのことを可愛がってくれているようで私も嬉しかった。ただその嬉しい気持ちが大きくなるほど、説明もなく問題に巻き込んでしまいそうになっている現状が恐ろしかった。


サーシャがレイさんを好いている理由を聞いてみたが、いまいち要領を得ない答えが帰ってきた。サーシャは昔からそういった感覚が他の人と違っていた。

昔サーシャとお使いに行った時も、お店の人がお釣りをちょろまかしているのを直感?で見破った。

それに強面で誰も近づかないような人と急に仲良くなった時なんかは危ないから止めたが、全く聞く耳を持たず私までその人との会話に参加させられて怖かった。でも怖いのは最初だけで話してみたら気の良い人だった。

サーシャのこんな感じの話は結構ある。

いつしか私もサーシャの人を見る目を信頼し、今回、レイさんに懐いているのもサーシャの直感的なものが大きく作用しているのだと思い納得した。

それに私自身レイさんは、冒険者なのに物腰柔らかで、とても話しやすい印象を持った。

そんなレイさんだから無責任だ、申し訳ないと思いながらも安心してサーシャを任せることができた。


あの夜も昨日、一昨日と同じで、どこか他の店でレイさんとご飯を食べるのだと思っていた。私は怖い客に囲まれている中、サーシャはレイさんと楽しくご飯を食べている。安心すると同時に羨ましいと少し嫉妬もした。

それなのに、昨日、サーシャはうちにいた。

お客さんの前で言い合ってしまうほどに驚きが勝った。

どうしてレイさんはサーシャをここに連れてきたのかと八つ当たり的な感情すら抱いてしまったが、その思いはすぐ霧散する。レイさんに何も説明しなかった自分が悪いのだと。

とにかく今は急いで、外に出てもらおう。

ちょうどそんなタイミングにゴンゾは大勢の手下を連れて白山羊亭に来た。

本当に間が悪すぎた。

ゴンゾがやってくるとここの空気は張り詰め、険悪な雰囲気が生まれる。

私はこの空気が本当に嫌いだった。

それでも借金がある身で我儘は言っていられない、客は客と割り切り接客をしていた。

自分がゴンゾの気を引くことでサーシャに関心が移らないようにしていた。

サーシャはあの男と面と向かって話したことはない。

けれど、あの男を一目見た時から怯えて近づきたがらなかった。

そんなサーシャに突然声をかけたかと思ったら、今度は怒声を発し、レイさんに近づいていった。


意味が分からなかった。


ただ私はこの時心から、レイさんに本当のことを言わなかったことを後悔していた。

治療代ならいくらかかったとしても、どうにかしてかき集めるから命だけは助かってほしいと必死に願っていた。


だから実際に見た光景は想像とは真逆で、レイさんがあんなにあっさりゴンゾを伸してしまった時は唖然とした。

驚きすぎて、体が固まり、会話に加わることができなかった。

言葉が出ないとはこのことを言うのだなんて訳のわからないことを考えていた。

だからレイさんに謝ることもお礼を言うことも助けることもできなかった。

言葉は発せないのに、会話ははっきりと聞こえてくる。

だからカンズさんの言葉もしっかり耳に届いていた。

確かにカンズさんたちの言い分も分かるけどそれじゃいくらなんでもレイさんが不憫すぎる。レイさんがここにいる要因は私がはっきりと問題を抱えていることを伝えなかったからなのに。結局私はその場で何も言うことが出来ず、レイさんとサーシャが食堂を後にした後もしばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。


レイさんにしっかり謝罪をするため、そしてレイさんという希望に縋るためレイさんの部屋に向かった。レイさんは最初部屋にいなかった。

サーシャと一緒に寝ると言っていたから今頃私たちの部屋にいるのかもしれない。

もしこのままレイさんが来なければ、足りないだろうけど明日改めて謝って、宿代全額を返そうと思った。

心の中では今夜、レイさんが戻ってきて欲しいという思いと、このままサーシャの隣で夜を過ごして欲しいと言う、相反する気持ちでいっぱいだった。


レイさんは部屋に戻ってきた。

心臓はあり得ないほどの早鐘を打ち、自分は今どんな顔をしているのか、レイさんに何か失礼なことを言わなかったか、そもそもレイさんの部屋に無断でいること自体失礼ではないか、などと頭の中がゴチャゴチャになり何を言っているのかわからなくなった。

ただ、結局、私の浅はかな考えはレイさんには全てお見通しだったようで、あっけなく失敗。

申し訳ないという自分の気持ちすら利用してレイさんに取り入ろうとした。

それだけ汚い手を使っておきながら、レイさんに少し乱暴にされただけでどうしようもなく怖いだなんて感じてしまった。生半可な覚悟だったことを思い知らされた。

そんな私をレイさんは見捨てることなんて簡単だろうに、優しく抱きしめてくれた。

例えレイさんがなんと言おうとあの時の私は、ありきたりな言葉、その場だけの言葉、と思いレイさんに拒絶されたと喚いたと思う。

だから私は言葉でなく、抱きしめられたことが嬉しかった。

レイさんは何も言わず、ただ抱きしめてくれた。

それがどんな言葉よりも嬉しかった。

あれだけ汚い手段をとっておきながら、簡単に見破られ、泣いて、自暴自棄になりかける。

そして最後は受け入れてもらえたことに安堵して寝落ち。

我ながら最悪だ。

本当に自分が恥ずかしい。


ありがとうございました。

次回更新予定は明日です。


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