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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
都市国家連合国編
22/199

22.念のために

よろしくお願いします。

無属性魔法はダイイングフィールドでも重宝していたが、それはこの異世界に来ても変わらない。むしろ戦闘だけでなく、生活やら何やら色々と応用が効くため、今の方が使っているかもしれない。

戦闘時の補助魔法、敵や尾行に気づくための索敵魔法、身だしなみを整えることなどの生活を豊かにするための生活魔法。これまでレイは40階層の戦闘で使った白魔法以外、ほとんど無属性魔法に頼りっぱなしだった。


そして今回も無属性魔法に助けてもらう。


レイはゴンゾが気絶してから無属性魔法『マーク』と『テイル』を使用していた。

これは併用して使うことによって相手の居場所を探ることができる。

元々明日から遠出するため事前にゴンゾには話をつけに行こうと思っていたが、カンズの言葉を聞いて余計気になったため後を追う。

白山羊亭を出て、『マーク』が指し示す場所に向かう。裏路地を右へ左へと行くと『マーク』は大きな建物を示す。冒険者ギルドは横に広くどっしり居を構えているが、この建物は縦に長く来るものを選ぶ印象を抱く。

元の世界で言うところのヤクザの事務所の様相を呈していた。


気配を消して扉に手をかけたところでレイは思考する。

今のままでゴンゾと会ってしまってもいいのだろうかと。

おそらく意識を取り戻す前後の時間帯。

意識を失っていたら話ができないためゴンゾの回復を待つが、既に意識を回復させ、レイに対して悪感情を抑えられなくなっていたら話し合いなんて絶対に無理だ。

ただただ「狐ヤロウ」と敵意を抱かれ、彼女たちに危険が及ぶ可能性がある。

そのため長い髪をポニーテールに結び、装備も一新する。

当然『黒狐の仮面』も外し、素顔を晒す。


その代わりに『黙示の耳飾り』を装備する。


顔は隠せていない。

それに当然この耳飾りには認識阻害や幻覚耐性なんて効果は全く付与されていない。

ただ仮面は何も準備が出来ていない今、イクタノーラの生存を知られないためにしているもの。そのためゴンゾに素顔を晒すことは何も問題がない。

それにこの耳飾りには一つすごい機能が付いている。

目的に合わせて行動を最適化してくれるのだ。

実際にその行動をとるのは体を動かす自分の意志だが、耳飾りをしていることで、その目的に合わせた最適な行動を脳に直接伝えてくれるのだ。

例えば『戦闘に勝利』と言う目的があれば、システムはその意志に合わせて行動を自動で行う。

戦術などもシステムが全て行ってくれる。

そのためダイイングフィールド内では一時期、この耳飾りをつけて戦闘すれば確実に勝率が上がるチートアイテムだと騒がれていた。

しかし最善策を選びすぎるがゆえに、目的のためには手段を選ばなかった。

貴重なアイテムなどを持っていると目的達成のために躊躇いなく使用されてしまうため使い所が難しいアイテムだった。


耳飾りをつけ、『白山羊亭の姉妹に被害を出させない』という目的のもとゴンゾたちの本陣に足を踏み入れた。

中はここ数日よく見かけた酒場の内装をしている。

営業してないため人は誰もいない。

建物に入ってすぐ近くにある階段があった。

階段を上がるにつれ、どんどん人の声がはっきり聞こえてくるようになった。

5階の一室には20人ほど人が集まっており、酒を飲み騒いでいた。

数時間前の記憶を振り返ると先ほどゴンゾと一緒にいた取り巻きたちもちらほらいる。


レイはさらに気配を殺し、会話を盗み聞く。


「それにしてもゴンゾさんがあんなあっさりやられるなんてなぁ。」


「イルゾド様の右腕なんて豪語してるけど、実際はただ図体と態度がでかいだけの男だろ。」


「そんなことねぇよ。頭はマジでねぇけど、実力は確かだぞ?

俺、あの人が上司になってから、何度も実力あるやつを殺してるとこ見てるからな。」


「じゃああの黒狐が強いってことなのか?」


「いやあのデブが弱いだけだろ」


「お、おい。やめろって。今のゴンゾさんにそれ聞かれたらめんどいって。」


「あーそっか。なにせ目が覚めてから気が狂ったように発狂して暴れ回ってるもんな。

そのせいで7階はめちゃくちゃ。掃除するこっちの身にもなってほしいぜ。」


「ほんとそれな。」


その会話を聞き、レイはそのまま7階に向かう。

会話で聞いた通り七階はひどい有様で、机や椅子だったであろう残骸がそこら一帯に散らばっている。そしてその男もそんな無秩序な部屋で叫んでいた。


「クソがぁぁぁぁ!!!!!あの狐ヤロウ絶対に殺してやらぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


この様子を見た普段のレイならば、どう行動するべきか悩んだのかもしれない。

しかし黙示の耳飾りをつけたレイの行動に迷いはない。

気配を隠す素振りもなく、ゆっくり歩いて荒れ狂うゴンゾに近づく。

いくら荒れ狂っているとはいえ、流石にこれだけ無防備に近づいたレイに気づかない訳はなかった。見覚えのない男にゴンゾは胡乱げな眼差しを向ける。


「誰だ、テメェ。

狐だけで俺ぁ怒り狂ってんのに、なんの真似だ、コラァ、ここは誰も来んなって言ったよな?あ?殴られてぇのか?殺されてぇのか?

おい、なんか言えよ。てか誰だテメェ。俺をおちょくってんのか?」


何も言葉を発さない。

それが耳飾りが導く最適解。

それはこの耳飾りの効果を知っているものだけがわかる事実であり、ゴンゾからしてみればただ黙って無視されたようにしか感じられない。

一度はこちらを警戒してわずかばかり理性が戻っていたが、今の無視で再び怒りが再熱する。


「おいテメェなに無視してんだ?おい?死にてぇのか?」


「・・・」


「ああわかった。お望み通り殺してやるよ。死ねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


今日二度目の右ストレート。

レイは耳飾りに従っただけで、この後どんな結果になるのかはわからない。

そのためこんなにも早く目の前で、再放送されるとは思っても見なかった。

レイからすれば恐ろしくゆっくり突き出される拳を避けることも、その手に油性のマジックで落書きするのも容易だった。しかし耳飾りが示した行動はその拳を片手で受け止めることだった。

レイは体を動かしながら、この行動にどういった意味があるのかを思案する。

そしてゴンゾは自分の拳を受け止められるなんて考えていなかったのか驚きで硬直してしまった。

ゴンゾの目がこれでもかと言うくらい自分のパンチを受け止めたレイの細腕に集中しているタイミングでレイは白魔法『聖杭』を発動し、ゴンゾの心臓に突き刺す。

魔法攻撃を受けたことでゴンゾの意識は戻り、慌ててレイから距離をとる。

そして仕切りに攻撃された胸を確認する。

しかし何も異常はない。

それが逆に恐怖を感じたのか、先ほどの怒声は消え、探るような声音で聞いてきた。


「テメェ今何をした。」


「今、私はあなたに杭を打ち込みました。」


レイは満面の笑みでそう告げる。


「クイ?」


「はい。私の決めた約束を破るとその聖杭は発動し、あなたの心臓を貫きます。」


「は?ふざけんな。なんだその出鱈目な魔法。

俺を馬鹿にしてんのか。そんな面倒な魔法かけるくらいなら俺を殺せばいいだろ。」


「あなたを殺すことで、ロク商議会を敵にすることは面倒なので。」


「・・・・・。」


ゴンゾにはレイのいうことが本当なのか理解し判断する頭がなかった。

しかし自分を簡単に殺せるような強者。

周りくどい魔法にも何かしらの意味があるのだと思った。

しかしその意味は全くわからない。

多分、説明されても理解できないだろう。

だからゴンゾは黙ることしかできなかった。


「約束をお伝えしますね。

約束はあなたが直接的、間接的どちらの手段でも人に危害を加えることを禁じます。」


「テメェ・・・。直接的?間接的?意味がわからねぇ。説明しやがれ。」


「直接は今みたいに、あなたが私を殴ろうとしたこと。

間接は、あなたが部下に命じて誰かを痛めつけることです。」

あ、ちなみにこの杭の効果は2週間で消えます。

それまであなたが約束を破らなければ何も起きませんよ。

まぁこの話自体を疑って、試すのも自由ですが、そうした場合、被害者は生まれずに突然死んだ加害者としてあなたの名前は広まるでしょうね。それでは私はこれで。」


耳飾りはこのままこの場にいても、被害者や加害者の言葉の意味を問われると考えたのか、鷹揚な部屋を出る。

そのまま階段を下っていると上階から凄まじい、今日一番の叫び声が聞こえた。

黙示の耳飾りをとり、装備を元に戻し、黒狐に仮面を付け直す。

帰り道1人で歩きながら、今日のゴンゾとのやりとりを思い返していた。


レイは自分の魔法発動を感知されたことからゴンゾを高レベル者だと思った。

もしかしたらイーリに匹敵する実力者の可能性だってあった。

そのためあの攻撃は予想以上に遅く、弱かったことに困惑した。

しかし他の者たちからするとゴンゾの攻撃は重く、早く感じたそうだ。

そしてカンズに後から聞いてわかったことだが、ゴンゾはゴリゴリの戦闘系で魔法は一切使えないという。

むしろゴンゾは高ランク魔法使いを何人も殺していることから『魔法使いの天敵』と呼ばれているらしい。それは戦闘中のレイの考察、ゴンゾが高レベルの魔術師が大きく外れていたことを意味する。

ただいくら考えても結局、なぜレベルが高くないゴンゾがレイの無詠唱魔法の発動に気がつけたのかは全くわからない。

二度目の接触はもう耳飾りが示す選択を選んでいただけなので、レイとしては久しぶりにゲームをしたという感覚だった。耳飾りをしている時一人称が“私”だったり、異様に丁寧な口調だったのは、レイの身分が高いと錯覚させ、白山羊亭に注目が集中しないようにした結果なのだろう。


ひとまずレイがアケロペに行っている間に何かをされるということはなさそうで安堵する。

ゴンゾがどうして魔法発動に気がつけたのか考えてもわかないことに頭を悩ませるのも良くないと思い、明日に備えて今日は部屋に戻りさっさと寝ようと決めた。


しかし部屋に戻るとなぜかレイのベッドの上にはラールが座っていた。


PV1000超えてました。

ありがとうございます。


次回更新予定は明日です。

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