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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
メギド胎動編
195/199

195.ネフェルシア迷宮攻略(閑話1)

【前書き】

3章の閑話です。時系列的には#148.ハーモニーvs40層迷宮ボス(閑話2)のすぐ後です。

登場人物が多いため、人物名と特徴を書いておきます。不要でしたら読み飛ばしてください。

「ハーモニー」

・イーリ      

Aランク冒険者パーティ『ハーモニー』のリーダー。

身長は140〜150cmほどの小柄な体躯で、常に白狐の仮面をつけている。

・クレム      

バク人。パーティメンバーで、物忘れの激しい盾役。


「デースト聖国」

・エール            

デースト聖国の教皇補佐。

金髪碧眼のゆるふわヘアーをした、見た目はいいが胡散臭い男。

・聖女サタリリ         

デースト聖国の聖女。ヴェールで顔を隠した修道女。

・ティモシー・レンブラント   

デースト聖国聖騎士団団長。生真面目そうな印象がある。

・キュライト          

デースト聖国イナーム兵団団長。

白ローブを羽織った男で、粗野で気だるげな様子をしている。

・ベルティ           

コルヴェ諜報集団の団長。修道服を着た女性で、目まで茶髪でしっかり隠れており、

女性らしい体型をしている。オドオドとして気が弱そうな修道女。


・インサーン          

聖国「汚泥の救難」の団長。

病的なほどに白い肌と痩せこけた頬を持つ、生気感じさせない長身細身の男。

・クルイデン          

聖国「汚泥の救難」メンバー。大柄で体格がガッチリしているハンマー使い。

・タガート           

聖国「汚泥の救難」メンバー。スキンヘッドの傷だらけの男。

・プトパルト          

聖国「汚泥の救難」メンバー。インサーンに似た長身細身の男。

・ウテナ            

コルヴェ諜報集団の前団長(現「汚泥の救難」メンバー)。

幸薄そうな雰囲気の修道女で、行動の一つ一つに色気を感じる。

【前書き】

Aランク冒険者パーティ、ハーモニーが鋳造国家ガレープのイスネル迷宮40層の攻略に失敗したあの日。イーリは一人、迷宮から帰還する際に聖国の教皇補佐をしている男、エールから依頼をされた。内容はネフェルシア迷宮の攻略に伴い、先日聖国に誕生した聖女の護衛。


イーリがイスネル迷宮より帰還するとパーティハウスから人の気配がほとんど感じられなかった。


攻略参加組は負けた反省会をどこかでやっているのかと思い対して気にも止めていなかったが、パーティハウスに入り、アクティオンからほぼ全員が脱退したと聞いて驚いた。


帰り際に会いたくない人物から厄介事を押し付けられ、パーティメンバーも一度にいなくなる。不遇の連続にイーリは久々に精神的に疲弊していた。


「アクティオン、それぞれから理由は聞いているのか?」


「ああ、聞いている。

レグリナは協調路線を厭わしく感じたため。

ノログは自分の実力不足を感じて。

シィリーは自国の実家から帰還命令が来た。

フィールは気がつけば手紙を残して消えていた。こちらは宛先がお前になっていたから封は開けていない。」


アクティオンから一通の手紙を受け取ったイーリ。フィールからの謝罪と脱退理由、これまでの感謝が記載されいている文面に一通り目を通して手紙をしまった。


「そうか、了解した。」

ふぅとため息を吐く。非常に困りはしたが、今はどうしようもない。それにイーリはこれまで去る者追わずスタイルを徹底していた。さまざまな人たちが出会い協調し合える環境を生み出したく、このパーティを結成した。


参加した者の考えが色々な人との触れ合いを通じて変化すれば良いが、当然しない場合もある。その時に無理に相手の思考を曲げようが、考えの根本が変わることはない。そのため、イーリはパーティを脱退するものを無理に引き戻すことはしない。


しかし、現ハーモニー7名のうち4名も同時に辞めるとは思わなかった。また、やめたその日に難易度が高めな依頼がハーモニーに入るとも。


やめてしまったものたちはどうしようもなく、依頼は受けてしまった。日時も決まっている。イーリは疲弊しつつある精神に喝を入れながら、アクティオンに依頼の件を伝える。


「4名が抜けてしまったタイミングで最悪だが、依頼が入った。内容は護衛。対象地点はデースト聖国Aランクのネフェルシア迷宮だ。参加メンバーは私とクレムだ。」


クレムのいない現場でアクティオンに依頼の内容を伝えるイーリ。


「私はまた不参加か?護衛であろうと戦力は必要ではないか?」


「今回と同様だが、Aランク迷宮にシェリーリを連れて行くことはできない。そうなればパーティの誰かが一緒にいている必要がある。私は当然依頼先に行かなければないらない。残るはアクティオンとクレム、」


「もういい、わかった。理解した。クレムには任せられない。仕方がない。私が面倒を見よう。」


「申し訳ないが頼む。」


「ただ、ガレープにいるよりはデースト聖国の方が連絡が取りやすい。ネフェルシア迷宮近くの街まで一緒に向かってもらう。準備をし次第移動開始だ。シェリーリに伝えてくれ。私はクレムの世話をしてくる。」


イーリは4名になってしまったパーティの方針を定め、共有するとその場を後にした。





ネフェルシア迷宮 10層

10層ボスの赤熱のガルグロスが雄叫びをあげ、大きな物音と共に地に臥した。それきり動く様子は全く見られず、周囲にいる約30名の騎士たちは抜剣状態を解除する。腰の鞘に剣をしまい、その巨獣の周囲を黒い布で覆い始め、その中に聖女が1人入っていく。

「あれは一体、、、」




普段、魔物を倒した後は素材を採取する。しかし、騎士たちが倒した魔物は黒い布で覆われ、外から状況が確認できないようにされた。


依頼を受け、デースト聖国に到着したイーリはクレムと共に待ち合わせ場所の迷宮1層に訪れた。そこには総勢40名ほど人がおり、イーリが現れるとその中から代表者がやってくる。その代表者は今回イーリに依頼を出したエールというデースト聖国の教皇補佐の任についている男だ。


一見人当たりの良さそうなイケメンに見えるのだが、イーリはその笑顔を胡散臭いと感じている。


そんな彼が一団の中から現れる。どれだけイーリが彼のことを苦手と感じていようが、彼が教皇補佐であり、この一団の代表であることには変わりない。


「イーリ様、本日は依頼を受けてくださりありがとうございます。内容はお伝えしましたように、国家機密となりますので、詮索はなさらないようにお気をつけください。それでは私は別件がありますので、残りは聖騎士団団長のティモシーに引き継ぎいたします。」


そう言ってエールはイーリの前にティモシーという男を呼び、ダンジョンを後にしてしまった。


「よろしくお願いいたします。私、デースト聖国聖騎士団団長を勤めておりますティモシー・レンブラントと申します。かのご公明なAランク冒険者ハーモニーの方々のお力をお借りできる、、」


流れるように挨拶を行うティモシーだったが、ハーモニーのメンバーを確認し、言葉が詰まる。それもそのはずで、ハーモニーは7名中4名が最近脱退した。そして1名は戦闘に参加できる年齢ではない。無論子守も必要だ。そのため、今回の依頼ハーモニーは2名しかいない。


「問題ない。あいつが指摘しなかったことだ。私たちの人数をティモシー殿が気にする必要はない。本日はよろしく頼む。」


周囲を見て固まるレンブラントの挨拶をイーリがもぎ取り、返却する。レンブラントはイーリの発言に理解を示し、話は迷宮攻略の流れに移る。



「今回参加している人員は騎士団より私を含め15名、イナーム兵団より団長を含め5名、コルヴェ諜報集団より団長を含め10名。そこにデースト聖国の聖女サタリリ様を加え、総勢31名となります。ハーモニーの方々は2名ということでよろしいでしょうか。」


「私とこちらのクレムが参加する。人数が少ないことは申し訳ないが問題はない。仕事はきっかりとさせてもらう。」


「流石Aランク冒険者の方ですね、自信がおありのようで。我々も尽力いたしますが、頼りにさせていただきます。」


教皇と教皇補佐にあまりいい印象がないイーリはティモシーの良い意味でプライドのない様子に新鮮味を感じる。


「我々は本日この31名で迷宮30層まで攻略するようにとエール教皇補佐より指令を受けております。道中の攻略、休息の取り方、負傷者の対応などのご教授をお願いいたします。戦闘に関しては我々にお任せください。」


「私たちは依頼内容が聖女の護衛と聞いている。前後の陣形をそちらで固めてもらい、聖女と私たちを中心に配置するような形で攻略を進めていこう。ボス階層は中盤と後尾を入れ替えて、騎士の方々が戦闘を行いやすいように動いてもらいたい。」


陣形や最終的な目的を確認し合ったイーリは物忘れの激しいクレムに今回の護衛対象を覚えさせる。そのため、まずは聖女と対面をしようと1層に展開されているテントに近づいていく。


イーリが設置されたテント前まで向かうと、1人の男が近づいてきた。

身綺麗な格好に物腰柔らかい口調のティモシーに比べると男は言葉使いは悪く、頭まで白のローブで覆われている格好をしていた。顔を隠すためにそうしているのかわからないが、白ローブの男よりも身長が低いイーリには左頬にある深い切り傷の後まではっきりと見えた。


「嬢ちゃん、何もんだ?今日このネフェルシア迷宮はデースト聖国が借り切っている。冒険者なら悪いが、帰ってもらえるか?」


声からも感じたが、とてて気だるそうな表情をしていた。これもエールの存在がデースト聖国の基準となっているイーリからすると違和感のある口調と態度だった。


「迷宮攻略の手伝いと聖女の護衛を依頼された、冒険者パーティハーモニーのリーダー、イーリという。後ろのはパーティメンバーのクレム。ここに聖女がいると思ったんだが、会えるか?」


イーリが素性と目的を白ローブの男に伝える。


「ああー、なるほどな。教皇補佐が言ってた依頼相手さんか。悪いが冒険者カードを見せてもらってもいいか?それと、聖女様に会う理由は?」


男からの身分証提示と目的説明を求められたイーリはわずかに逡巡する。


「悪かったな、俺はイナーム兵団団長のキュライトだ。」

そう言って男は首元にかかるネックレスの先からイナーム兵団団長の印である徽章を見せてくる。イーリはデースト聖国の軍詳細まで把握していないためその徽章の真偽はわからない。ただ、このネフェルシア迷宮の1層にあるテント付近にいるため身元不詳なわけがない。イーリも冒険者カードを提示する。


「Aランク冒険者パーティ、へぇ、あんた個人だと、」

キュライトはイーリから受け取った冒険者カードに目を通し、Aランク冒険者であることを確認する。それに合わせて何かを口にしようとした。


「聖女に会う理由は護衛対象をしっかりと覚えるため、少しでも話せば性格を把握できると考えたからだ。」


キュライトの言葉はイーリの話にかき消された。当人はそこには対して気にした様子もなく、聖女と会う理由に理解を示す。


「確かに納得した。素性も知れた今、別に合ってもらう分には構わない。ただ、聖女様はまだいらっしゃっていない。攻略開始直前にくるはずだ。悪いが事前に話す時間を取ることは難しい。」


「まだ来ていないのか、攻略手順に関してはティモシー殿とある程度話し合った。攻略開始はいつになりそうだ?」


「各部隊は揃っている。あとは隊列を攻略用に組み直して、テントを片付けて出発準備はできる。あとは聖女様がくるのを待つだけ、1時間後にはくるだろうよ。」

キュライトは話しながらローブの左ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。



それからしばらくすると入り口が少し騒がしくなる。イーリは様子を見に移動する。そこには修道服姿の男性何名かが1人の修道服姿の女性を囲みながら歩いている大仰な集団がいた。周りの男に守られるようにして迷宮に入ってきた修道服の女は顔をヴェールで隠している。イーリはその様子から聖女が現れたのだと思った。出発準備が整えられ、テントはすでに撤収されている。そのため修道服の集団に聖騎士団、イナーム兵団、コルヴェ諜報集団の団長3名が向かって挨拶をしていた。依頼を受けただけの部外者であるイーリは口を挟まず、呼ばれるのをただ待っていた。


待っているうちにあれよあれよと話は進んだようで気がつけば攻略の配置に移動しており、隣にはヴェールで顔を覆った修道女がいた。周りの修道男たちはいなくなっていた。イーリは改めてこの修道女が今回の護衛対象だと認識する。聖女の右隣にいた物忘れの激しいクレムにも護衛対象であることを念押しすると、いよいよ迷宮攻略が始まった。


攻略人数は騎士団15名、イナーム兵団5名、コルヴェ諜報集団10名、イーリたち2名、聖女の33名。前衛に騎士団10名とコルヴェ諜報集団5名、中衛にイーリたち、護衛対象の聖女、イナーム兵団3名。後方に残りの騎士団5名とイナーム兵団2名、コルヴェ調査集団5名が並ぶ。騎士団長のティモシーは前衛で現れる魔物に対しての処理に指示を飛ばしている。キュレムは聖女に何かあったときに動けるように中衛でイーリたちと行動を共にしている。コルヴェ諜報集団の団長とイーリは面識がないため、どこにいるのかはわからない。


イーリは聖女と最初に挨拶をして以降あまり会話をすることができていない。迷宮攻略が開始された以上、周囲に警戒をする必要がある。もちろんイーリは会話をしていようが警戒を疎かにすることはない。しかし、周囲に意識を張り緊迫した空気感の中で気楽に聖女に話しかける姿は味方からの信頼を損なってしまう可能性がある。そうした理由からイーリは聖女の人柄を知ることができていない。



瞬く間に10層に到着。中衛と後衛を入れ替え、ボス戦を行い、危なげなく勝利。そうして状況は最初に戻る。


騎士たちが倒した赤熱のガルグロスを黒い布で覆い、中の様子が見えなくなる。後衛にいた1人の修道女が聖女に声をかけたかと思うと、そのまま2人で赤熱のガルグロスの死骸まで移動する。聖女だけが中に入り何かをしたかと思えばわずかに黒い布が揺れる。聖女が出てきたかと思えば外見に変化はない。覆われていた黒い布も撤収され、次の階層に進むことになった。


消耗も大したことないとして、聖女が戻ってくると次の層の攻略が開始される。


見たことのない光景に何をしていたのか疑問に思いイーリは聖女に質問を投げる。


「悪いな、その詮索は禁止だ。俺も理由は知らないが、エール教皇補佐から止められている。」

返事を返したのは後ろにいたキュライトだった。聖女はキュライトの言葉に反論はないのか、イーリに頭を下げ、そのまま攻略に戻ってしまう。


「キュライト殿も何も知らないのか?」


「俺も何も知らないな。知っていても教皇補佐から止められている以上話せない。」


「そんな不明確な行動のために、今回の迷宮攻略が司令として出されて文句はないのか。」


「何をそんなに疑問に思っているのかわからないが、ないね。別にあの行動にどんな意味があってもなくてもそれは司令だ。それに迷宮30層までなら俺たち団長3名が同行していれば部下たちが命を落とす可能性はだいぶ低くなる。その中でレベルを上げるために鍛錬できるこの司令。文句なんてない。」


冒険者と国家に仕える者の考え方の違いがそこにはあった。その会話をしている最中も聖女はただ黙って歩いていた。イーリもこれ以上何を問いかけても無駄だと感じ、護衛の依頼を成功させることに集中する。


11層、12層と出現する魔物を前衛の騎士団員たちが倒してくれるおかげでイーリは何もすることなく階層を進めることができていた。


しかし13層はこれまでと少し毛色が異なった。

出現する魔物は灼熱コウモリや炎殻ゾンビでこれまでの階層と大差ない。前衛を務める騎士団たちは隊列を組み、空飛ぶコウモリは二列目が魔法を飛ばし撃墜。ゾンビが出現したら1列目が槍を構えて突き刺す。このスタイルで進んできた。今度も前方に炎殻ゾンビが出現したため、騎士団たちは槍を構えてゾンビに向かい撃とうと全身した。


しかし、進んだことで地面に設置されていた罠が発動した。これまでの階層と同様で石造の回廊であることには変わりないが、いくつかの地面の石は人の重さを感じると沈み込む。ゾンビを倒そうと踏み出したことでその石が沈み込み、罠が発動する。両脇の壁から火炎が噴出し、鎧を着ている騎士団員が急速に加熱したことで負傷を負う。


前衛1列目が火炎の罠で負傷している間に炎殻ゾンビは迫り続けてくる。2列目までは火炎の被害が出ていなかったが、灼熱コウモリが現れていないため、魔法の準備が整っていない。


その様子に気がついたイーリは動き出す。

「クレム、護衛!」


『雷速』


イーリの両足がバチっと放電したかと思えば、膝を曲げ地を蹴り飛び上がる。天井の石壁に衝突する寸前で上下体勢を入れ替え、天井が地面であるかのように足をつける。重量落下する前に角度をつけて天井を蹴り、イーリは瞬く間に中衛から最前衛まで移動していた。


負傷している騎士団が即座に動くことが難しいことを確認すると、腰に下げていた剣を1本抜き、罠を作動させないように気をつけながら炎殻ゾンビに接近し、流麗な動作でゾンビを切り刻んでいく。


イーリがゾンビを倒し終えて、隊列の先頭にいた騎士たちに問題がないかをティモシーに確認する。


「ゾンビの排除ありがとうございました。さすがの腕前ですね。騎士たちは軽度の火傷です。問題はありません。」


「それならばよかった。出発前に伝えたように13層は罠が覆い。私が先頭を歩き、罠の確認を行うが問題ないか?」


「ええ、何度も中衛から来ていただくのも申し訳ありませんから。お願いします。」


前衛で指揮をとっていたティモシーから直接お願いをされたことで、他の騎士団からも否は出なかった。イーリは長年冒険者を行なってきた感、アイテムを駆使して階層内の罠を事前に察知して迂回したり、罠を壊して突破した。13層に出現する罠も魔物も大したレベルのものではないため、盗賊職についている専門のフィールがいなくともイーリが代わりを務めることができた。ネフェルシア迷宮のメインギミックが呪いと火属性ということもあり、罠が少ないことも幸いした。


13層を超えてからは罠ギミックが減ったため、前衛2列目の赤熱コウモリなど飛行する魔物に攻撃する部隊に罠の見分け方を教えた。石像の色合いや石通しの組まれ方など罠は特徴を持っている。ネフェルシア迷宮ならではの罠の傾向を掴み、それを前衛に教え、14層、15層と進む。罠の発見方法に慣れた頃合いを見計らい、イーリは中衛に戻る。


「戻ってきたのか、そんなちっこいなりしてすごいな嬢ちゃん。」

イーリが中衛に戻ってくるとキュライトが口調は失礼ながらも感嘆した様子を見せる。


「騎士団と罠に関わりがないだけだ。ある程度の冒険者であれば誰でもできる。」


「罠の回避行動もそうだけどな、その前の前衛の様子を見てからの動きに驚いたんだ。気が付けば前にいたからな」


「長年、冒険者のトップにいるのだから当たり前だ。」


「長年って嬢ちゃんまだそんなに歳、」


「それ以上は失礼だぞ」

中衛としてイーリが前、キュライトが後ろ。縦でお互いの表情が見えない中で話し合う2人だったが、キュライトが年齢の話を出したところで、イーリが後ろ振り返り無言の圧を飛ばす。その空気を感じ取ったのかキュライトも口を閉じる。白狐の仮面をつけているにも関わらず目は全く笑っていない姿が想像できる点でキュライトはAランク冒険者パーティの実力を再認識する。


その間も隣にいる聖女はヴェールで顔を隠しており、特に何か口出しすることはなかった。

ただ攻略についていくだけの聖女が能動的な動きを見せたのは20層のボスを撃破した時だった。


20層のボスは呪炎の修道女マーリザ。修道服を着用している魔物だが、デースト聖国の修道服とは少し異なる作りをしている。大きさも10層の赤熱のガルグロスに比べると小さい。

けれど、攻撃手法は少し厄介で、炎と呪いのこもった広範囲の魔法を展開してきた。そのため、護衛のイーリたちは前に出ることもできず、騎士団たちが倒すを待っている形になった。しかし、時間としてはそれほど長いものではなく、戦いは数の有利であっさりと片付いた。呪炎の修道女マーリザが倒れると再び騎士団たちは黒い布を用意し、マーリザの周りを包み隠す。その中に聖女は進み中に入る。


護衛のイーリたちすらマーリザに近づく聖女の側にいる事はできず、ただ離れた場所で見ていた。

再び隊列を組み直した時には先ほどと変わらない様子でイーリとクレムの間に戻る聖女。


イーリはデースト聖国をあまり好ましくないと感じているが、それはデースト聖国の内情を詳しく知っているためだった。そんなイーリですら聖女という存在を今日まで聞いたことがなかった。この迷宮に潜ってから近くにいるイーリだが、聖女という言葉の印象から感じられる聖女らしい慈悲の心を見せる様子は全く見ていない。呪いに対して強力な術を騎士団に付与できるわけでもなければ、戦闘する力もない聖女は何をしにこのネフェルシア迷宮にやってきたのか。


イーリは漠然とした聖女という言葉に対してイメージがあるが、隣にいる聖女からはその偶像の影すら感じることができない。


突然現れた聖女は、デースト聖国において一体何のかと疑問を抱いた。

ありがとうございました。

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