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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
メギド胎動編
192/198

192.カオスな会談

よろしくお願いします。

クラーヴ王国のアルベルト、クティス獣王国のシープエント、都市国家連合国ウキトス冒険者ギルドギルド長ハインケル。3国の話せる代表が砂漠と化したオルロイに集まる。クラーヴ王国とクティス獣王国は率いた兵を展開し、いつ戦闘が発生してもおかしくない緊迫とした空気がオルロイには流れていた。


「やはり、ここは一ギルドの長である私よりもロク商議会のパーレルムさんの方がこの場にふさわしいのではありませんか?」


3人が向かいあって話をする準備ができているもののウキトスを代表してこの場にいるハインケルの背後に軍はない。いるのはギルド員数名と何かあった時のための冒険者数名。他陣営を見て、心細さを感じるとともに、両国の代表と話し合いをするにしても、何も決定権を持たない自分は参加するべきではないと考えて発言をする。


「しかし、お返ししたパーレルム殿ではとても話が進みそうにない。ロク商議会の他の方がいない限りあなた以外に適任者はいないだろう。」

先ほど全く進まない話し合いをしてきたばかりのシープエントがあきれ混じりのため息をつきながらハインケルがいいと発言する。


「しかし、何も決定権を持たないのであればここで話し合う必要性が感じられません。自国のことを決めるというのに集まらないロク商議会に問題がありませんか?」

ハインケルと話していたアルベルトは何も決まらなかったことを知っているため、代表者は変えるべきだとシープエントの発言に反発する。


何も進められなかったテクィス獣王国と何も決められなかったクラーヴ王国とで意見が対立し、早速話が平行線を辿り始める。


「確かに私は決定権を持たないので話を進めることはできません。ですが、両国の要望を聞いた上で、調整をすることはできます。もうしばらくすればロク商議会のセキューの長、ガンテストさんがやってくると思うので、それまで話を詰めませんか?」

クラーヴ王国とクティス獣王国の意見が対立し、空気が悪くなったことでハインケルが譲歩する意見を出した。


「セキュー殿はパーレルム殿と違って話が通じる上、決定権を持つと?」


「はい。もちろんです。」

クラーヴ王国とクティス獣王国が都市国家連合を併合しにきたことは明白。しかし、互いに折り合いをつけなければ戦になることは必至。避ける手立てがあるのであれば避けたほうがいい。事前に互いの譲れない一線を先に話し合うのもありかと互いの国の代表者、アルベルトとシープエントは考え始める。


「まず、アルベルトさんとシープエントさんの国としての意向を伺っても?」

一旦話を進めることに反対はされなかったため、ハインケルは認識のすり合わせを開始する。


クラーヴ王国もクティス獣王国も同様に、オルロイが消滅したという噂を聞き、普段連絡をとっているロク商議会の長たちと連絡が取れなくなったため、原因を調べに来たと告げる。


これが建前であることはギルド長のハインケルですら理解できる。第一ハインケルは、クラーヴ王国側からのとても直接的な要望をすでに伝えられている。そのため、今の発言はクティス獣王国の動きを見るためのものだと思考する。


「都市国家連合国の方でも目下調査中ですが、原因は不明です。連絡が取れなくなったロク商議会の方々の捜索も行っているところになります。原因が判明し次第連絡いたしますので、本日は自国に戻られた方がいいのではないでしょうか。この砂漠が人体に影響を与えないとも、調査結果が出ていない以上、保証できませんし。」


互いの国の動きを探り合って、都市国家連合を歯牙にも掛けないクラーヴ王国とクティス獣王国の発言。その発言を逆手にとってハインケルは撤退してもらうことを提案してみた。


「隣国の都市機能に混乱が見られる中、人体に影響があるかもしれないというだけで兵を下がらせては国の恥になります。復興に精一杯協力させていただきますよ、ハインケルさん」

アルベルトの爽やかな笑顔を見てハインケルは鳥肌がたった。事前の要望を聞いていたため、体良く追い払おうとしていることは相手方もわかっているようで、暗に黙れと言われていた。


クティス獣王国はクラーヴ王国と都市国家連合のやり取りを知っているわけではないが、両者の様子を見てすでに格付けは済んでいると察したようだった。シープエントはより一歩踏み出した発言をする。


「それはクティス獣王国とて同様。長たちの行方がわからなくてさぞ、不安だろう。貴国が望むのであればクティスは協力を惜しまない。」


ハインケルはこの辺りが引き際だと悟る。一ギルドの長である自分では国家権力に抗うことは難しい。相手方に非がある状態ならばもう少し食い下がることもしただろうが、今回はロク商議会という組織が壊滅しかけていることが原因で自分が代理を務めているに過ぎない。そのため、ハインケルには都市国家連合のために動くという気概が全くなかった。それどころか面倒な仕事だとすら感じていた。


「ありがとうございます。原因に関しては判明し次第お二方に連絡いたします。それ以外に現時点で、決定権のない私から都市国家連合国の方針としてお伝えできることはありません。」


ハインケルが軽く頭を下げると、アルベルトとシープエントも形式的に頷く。表面上は一旦の折り合いを見せた格好になったが、その場に立ちこめる空気に和らぎはなかった。結局、両国とも互いに動きを警戒して本来の要望を伝えることができていないのだ。


「では、我が軍はこのまま南の外縁にて駐留することにします。調査の妨げにはならないよう、気をつけますが、不審な動きがあれば報告をお願いします。」

アルベルトは静かに言葉を継ぎながらも、遠巻きに展開する金獅子騎士団の兵に視線を送る。明らかに「退く気はない」と言外に伝えている。


「我々も西側を拠点としよう。鼻の効くものが自軍には多い。貴国とは違ったアプローチからわかることも多いだろう。」

シープエントもまた、すぐさま応じる。互いに領分を宣言し、にらみ合い、火種を抑えたようで、抑えていない。牽制は続いている。


「承知しました。調査を優先させる上で、各方面の協力を賜れるのは誠にありがたい限りです。」


ハインケルは内心うんざりしていた。調査に集中したいなどと誰も本気では考えていない。アルベルトもシープエントも、実際には「先に地を押さえたほうが主導権を握る」と分かっている。だからこそ撤退はせず、敵意を明言もしないのだ。敵意を出して戦となった場合のデメリットが大き過ぎるからだ。


それから数日。互いの軍は一旦距離を置き、形式ばかりの調査が開始された。


その間にもクラーヴ王国側のアルベルトとクティス獣王国側のシープエントは自国の利益につながること、都市国家連合の併合に話を持っていきたかったが互いが邪魔で話をうまく進めることができないでいた。


さらに、場の雰囲気を悪くさせる要因として砂漠化した原因もいなくなったロク商議会の長たちの足取りも全く何も掴めていなかった。どちらかが原因究明に優位な情報を得ることができればその優位性から多少は踏み込んだ話ができていたかもしれないだけに、この停滞によりアルベルトとシープエントの焦燥が積もり始めてきた。


そして、今日も今日とて進まない話し合いをアルベルト、シープエント、ハインケルで行っていたところ。


「その戦い、待った!!!」


領軍が展開する緊迫した空気を1人の声により、一層空気が張り詰める。声を出したものはクティス獣王国の方角からでも、クラーヴ王国の方角からでも聞こえたわけではない。アルベルトとシープエントはハインケルの背後の方に視線を向ける。


声の主は走って3名の元に向かってきているようだった。近づいてきているが足音はせず、砂漠にも彼の辿ってきた足跡は残っていない。しかし、彼が通ると勢いから砂が空中に飛び散る。大柄で恰幅がよく見えたが実際は翼を広げて猛スピードでやってきているようで、ようやく飛翔していることに気がつく。


「竜人か!」

アルベルトは腰の柄に手をかけて自分たちの方に突進してくるものに警戒を改める。その言葉を聞いたシープエントとハインケルも警戒し、その空気が待機している兵士たちにまで伝播していく。


「まずはお前からか!」

竜人が猛然と飛来し、三人の目前で急停止する。砂塵が舞い上がり、視界を奪う。その瞬間、竜人は背に交差して携えた双剣を素早く抜き放ち、交差させた腕ごと上段へと振り上げた。次の刹那、鋭い斬撃がアルベルトに向けて振り下ろされる。


しかし、切り掛かった相手は金獅子騎士団団長アルベルト。交差する斬撃を綺麗に受け止めていた。


集団にいる代表のような面々で一番強いものを竜人、バルハルトは直感で見つけ出し、攻撃をした。攻撃を止められ、バルハルトは自分の直感が正しかったことを得意げに感じながら後ろに飛びさり態勢を立て直す。


それからバルハルトとアルベルトは剣を構えたまま動かない。互いの動きを読み合っているためだが、戦闘についての知識がカラっきしな貨獣のシープエントはニーニャに視線を向ける。彼女も珍しく目を開けて彼らの様子を見ていた。


そのことがシープエントにとっては状況を知るための一種の指標になっており、今、現れた者と対峙しているアルベルトという男が四獣長のニーニャが気にかけるほどには実力があることがわかる。


互いに動かない状態で数分が経過したあるタイミングで別方向から大量に鎧の擦れる音と砂漠を踏み締める足音が聞こえてきた。音の方角はバルハルトが飛んできた方向で、2人の飛翔する竜人を先頭に隊列された軍隊が見えた。


ざっと見ただけで万はいそうな竜人の軍勢。対峙しているアルベルトはもちろん、シープエントは全軍を率いていないことを後悔する。ここ数日、クラーヴ王国とクティス獣王国は互いに離れた場所を陣地として野営をしていた。そして時刻になったら一定の人数を連れて話し合いの場所に集まる。移動が毎日のため、日を経るごとに互いの兵数は減っていった。そんなタイミングで武装した竜人たち。


面倒なことになったと誰もが感じていた。


しかし、砂漠の地面を蹴る音は、ハインケルの後方以外からも聞こえてきた。



戦闘もしておらず、獣人であるシープエントと、いつの間にか拘束を抜けて自陣に戻ってきていたニーニャが後ろを振り返る。


そこには竜人たちと同等かそれ以上の武装したクティス獣王国の兵士がいた。


「うーわ、あそこにライモンドがいるにゃ〜。あいつが来るなら私は帰りたいにゃ〜。」

舞い散る砂埃が目に入らないよう、手を敬礼のようにし、目を窄めて後方を確認するニーニャ。尻尾がだらりとしている様子からもここ数日がいかに面倒に感じていたのかが窺える。その上、同格の四獣長のライモンドもなぜか駆けつけてきた。そのため、この場に自分がいる必要性が感じられずニーニャの気力は簡単に折れる。


しかし、シープエントはニーニャのような反応はできない。なぜ、ライモンドが兵を率いてきたのか、エルフの国襲撃はどうなったのか、備蓄はあるのかなど気になることが大量になった。その間でも竜人とアルベルトは戦闘を続けているようで剣戟が時折、シープエントの耳を震わせる。



そして、そこからは怒涛の流れだった。クティス獣王国側にライモンドとその兵士たちが合流。ハインケルは対応を諦めたようでただ傍観していた。ハインケルの後方にいた冒険者たちが竜人の軍を迎え撃とうとしたが、その隣には人種もいた。ロク商議会セキューの長ガンテストが連れていたものたちで、先頭にはガンテストその人がいた。


攻撃を仕掛けた竜人は、同じく飛んできた2人の同格っぽい竜人にはがいじめにされる形で自軍に連れ戻されていき、アルベルトは自軍を率いてくるように部下に指示を出す。


3人での話し合いは気がつけば9名がそこに集まり、周囲をオセアニア評議国軍、クラーヴ王国軍、クティス獣王国軍、ガンテストの私兵と冒険者が囲むようにして、ここ数日で一番緊迫した空気が流れていた。


「状況の説明ができるものがいればしてもらいたい。」

集まった9名は互いに様子を見合っていたが、シープエントが痺れを切らし、8名に問いかける。


「私は帰りたいにゃ〜。」

「とりあえず、一回黙ってろ、ニーニャ。」

自陣にいる自分よりも地位の高い四獣長、ニーニャとライモンド、2名の発言は全く状況の理解には役にたたなかった。


「私もシープエントさんと同様です。この状況は一体、。」

この集団の話し合いにおいて唯一人のクラーヴ王国側アルベルトがシープエントの話に賛同する。



「先ほどはこのバカが突然切りかかって申し訳ありません。我々はご覧の通り、オセアニア評議国のもので、私は<ズーザメン>のロジフェート・パウラと申します。我々はガンテストさんと話をしていたところ、クティス獣王国とクラーヴ王国の方々もいらっしゃると聞いて参った次第です。」


隣で緑鱗の竜人に押さえつけられている赤鱗の竜人。そちらに視線を一瞥し、謝罪する青鱗の竜人。


「パーレルムとハインケルがそれぞれクティス獣王国とクラーヴ王国と話し合いをした結果、オルロイに移動したと聞いた。それならばこちらも合わせて話し合った方が得策と考えたまで。」

腕組みをしながら静かに語るガンテスト。


ロク商議会で現在連絡が取れる長はパーレルムとガンテスト。パーレルムのヒステリックぶりを見ていたシープエントもこの様子ならば話しをする分には何も問題なさそうだと安堵する反面、どこまでこちらの要求を通じさせることができるかと思い悩む。


「ガンテストさん、お疲れ様です。パーレルムさんがうまく話し合いができなかったようで、代わりに私が両国から話を聞いていました。クティス獣王国側もクラーヴ王国側もオルロイ消滅の原因調査とロク商議会の方と連絡が取れなくなり、心配してきてくださったとのことです。ガンテストさんがいらっしゃった以上、私の役目はありませんので、下がらせていただきますね。」


一方で、ハインケルは決定権があり、話の通じる人間がこの場に現れたことで自分の役目は終了したとし、ここまでの流れを簡易的に説明してこの場を去ろうとした。


「待っていただきたい。ハインケル殿がギルドのものであることは重々承知ではあるが、今しばらくこちらにて情報の整理を手助けいただきたい。」


しかし、それはガンテストによって断られてしまう。周りの様子を見て、嫌だと思いながらもハインケルは止まることを了承する。


こうして4国の代表9名が意思疎通もままならない状況で顔を合わせた。

ありがとうございました。



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