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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
メギド胎動編
191/198

191.人材不足な都市国家連合

よろしくお願いします。

アルベルトがクティス獣王国の進軍を知った少し前。


クティス獣王国軍3万は都市国家連合国の国境に向けて軍を進めていた。今回の進軍は四獣長の猫人ニーニャが指揮をとる。


クティス獣王国において、クティスが最も民からの支持があることはもちろんだが、四獣長の人気も強い。ライモンドは血気盛んな若者から、グリャは経験を積んだベテランから、ミロノヴィガは自己管理が苦手なものから、ニーニャは自由に憧れるものたちからの人気が特に大きい。


実力はもちろんのこと、芯のある姿に民衆は惹かれているようだった。


しかし、現在のニーニャを見て推し続けられる獣人はどれくらいいるのだろうか。


「姫様!いくら馬車内とはいえ、進軍の最中。しっかりとお座りなさいませ!!!」


隊列を組み、都市国家連合に向けて進む3万の兵。その最後方にニーニャの乗る馬車があった。馬車の中にはニーニャとメイド長のフライム。そして、貨獣のシープエント。資料に目を通すシープエント、大人しく座るフライムと異なり、ニーニャは1人で2人分の席を占領して丸まっていた。


出発してからずっとこの調子のため、進行の中心にいてはフライムの怒声が外にもれ、軍の士気に影響すると考えたシープエントが後方に移動することを提案してこの状況になった。


無事、兵たちのやる気が下がることは阻止できたが、ニーニャの体勢を変えることは、遂にできず、そろそろ都市国家連合国の国境にまで差し掛かっていた。


シープエントに叱り声が外に漏れ出て仕舞えば、ニーニャの四獣長としての威厳、兵士たちからの支持も失いかねないと聞いたフライムはここまでの道のりで、声を小さく、それでも相手に不快感を与える怒鳴り方をマスターしていた。


そのため、馬車内だけに聞こえる小さな声でもニーニャはフライムの声を鬱陶しそうに、何もない宙を払いながら顔をしかめていた。それでも自分の好きな体勢を取り続ける点でニーニャは確固たる自分があった。


一部の兵士たちからの支持は集まるが、一般的なものたちからの人気は地に落ちそうなニーニャの振る舞い。フライムはまだまだ自分がニーニャの側にいて、振る舞いを矯正していかなければならないと思わせるのに十分な移動だった。


都市国家連合の国境に差し掛かったあるタイミングでクティス獣王国の進軍が止まった。一体何事かと疑問に感じたシープエントは馬車から顔を出して側にいる兵士に問いかける。しかし、シープエントたちは最後尾にいるため情報が伝わるのは最後。


シープエントが問いかけてからしばらくして、別の者が進軍が止まった理由を報告しに来る。


「都市国家連合国国境付近に彼の国の外交官と名乗るものと遭遇。ご指示を!」


「相手の名前は?」


「ロク商議会、ビューションの長、パーレルムとのことです。証拠の品としてこちらの証を預かってきております!」

報告に来た兵士は手に持っていたペンダントをシープエントに手渡す。受け取ったシープエントは証を具に観察するとその証が本物であるということを確認した。


「これはおそらく本物の証だ。中心部に天幕を張り、パーレルム殿を案内せよ。護衛は2名まで許可する。すぐにこちらも移動を開始する。」

指示を受けた兵士は踵を返し、4足で走り出した。人種であれば早馬を送るものだが、獣人であればこの距離は足の速い獣人が4足で動き出した方が速い。そのため、獣人にとっては一般的な光景だった。


シープエントは指示を出した兵士が動き出したことを確認すると馬車内に視線を向け、寝転がるニーニャに話しかける。


「ニーニャ様、相手国の代表がこちらにやってきているそうです。軍の動きを察知されたのか、他国の方が先に現れていたから警戒していたのかはわかりませんが、最初に話した内容で進めていきます。他国がいる際は最低限の姿勢を維持してください。」


フライムの小言と異なり、シープエントの要望は流石に国のこれからを作用するため、ニーニャも適当に聞き流すことはできず、渋々了承する。


そこから兵を手配して、最後尾にいたシープエントたちは移動を開始する。本陣が作られる少し前に到着した彼ら。幸いロク商議会のパーレルムより先に到着できていた。


ニーニャたちが展開した本陣でこれから話す内容を再確認していると、パーレルムがやってきたとの報告がされる。兵士に案内するように指示を出す。それから間も無く、ロク商議会ビューションの長、パーレルムがやってきた。パーレルムはシープエントが認めた護衛の最大人数2人に挟まれるようにしてやってきた。前後の護衛が一般的な戦闘向きな服装をしているのに対して、パーレルムはどっぷりしたお腹を揺らしながらギラギラした装飾をして現れた。護衛がいることでより、見ているものに自分を狙え、と言われているかの錯覚に陥らせる格好をしていた。


「ようこそ、いらっしゃいました。ロク商議会ビューションの長をしております、パーレルムと申します。」

天幕に入ってくるなり、最も上座に座るニーニャに揉み手をしながらすり寄るパーレルム。揉み手をすればするほど、手にはめたゴツゴツした指輪たちが摩擦を引き起こし、ニーニャの耳に不快な音が反響する。


「うっせーにゃ。その手、やめろにゃ、デブ」

耳をぴくつかせながらも最初は我慢していたニーニャ。しかし、パーレルムが近づくほどに音は大きくなり、遂に耐えられなくなったのか、渋面を浮かべながら、シッシと払いのけるジェスチェーを見せる。


戦端は開かれてはいないが、この話し合い如何で戦争になる可能性がある。そのような場でも華美な装飾で現れ、相手が引くほどのゴマスリ。ニーニャはニーニャで失礼ではあっても思ったことを率直に伝えてしまう。


互いに、国同士が話し合いをするのにこれほどに適していない人選は他になかった。周りにそう思わせるほどに空気は最悪だった。


「んまぁ!!なんて失礼なことを!下手に出てたらいい気に、、、、モゴモゴモゴモゴ」

ゴマスリしていたパーレルムはニーニャの一言を理解すると顔を真っ赤にして怒り始めた。言葉による戦争が始まるのではないかと周りが予感したその時、背後にいた護衛が慌ててパーレルムの口を塞ぎ、詫びを入れる。


それに対して無視したニーニャの後頭部を後ろから全力で前に突き出させ、自分も一緒に頭を下げるフライム。


こうして一触即発の空気は気の利く部下の行動によって阻止された。


かに、思われたその時、ニーニャが口を開く。


「さっさと国を解体してクティスの一部になるにゃ。命だけは助けてやるからにゃ。私はさっさと帰りたいにゃ。」


「お黙りさない、姫様!」


「失礼した、こちらは私が話し合いの代表だ。そちらの代表者はあなただということでいいか?」

ニーニャの失言に対してまたしてもフライムとシープエントのフォローが入る。


あまりの失言っぷりとその後のフォローにパーレルムの口を抑える護衛すら僅かに隙を見せてしまう。ずっと口を塞がれているパーレルムは背後に立つ護衛に肘打ちを入れて拘束を解くように指示を出す。


「あなた!何してくれるの?!護衛対象を窒息させようとするなんてどんな護衛なの!?それがあなたの常識!!??」


一方パーレルムはパーレルムでニーニャの失言以上に直接的に苦しかった護衛の口止めに対して怒りを露わにする。せっかくフライムとシープエントが見事なフォローを行い、話を進めようとしたにも関わらず、パーレルムが話の腰をおる。


再び一国の代表がこれでいいのかという空気が流れ始めると、叱られていないほうの護衛がパーレルムに耳打ちをする。


「んまぁ!!あなた!いきなり耳元で話さないでくれる?一体どんな常識をしていたらそんな行動取れるのかしら!!!」


獣王国のものたちを待たせている旨を報告したつもりが護衛の行動に怒りを表すパーレルム。護衛2人はもう何を言っても意味がないと悟り、遠い目をしながらただただ怒鳴られ続けた。その間にニーニャは机に突っ伏して寝始める。


「んまぁ!!!あなたが呼び出しておいて眠るなんてどういうことかしら!!獣王国ではそれが常識なのかしら!?そんな国とても受け入れることなんてできませんけれど!?」


護衛への怒りが収まったと思いきや、パーレルムの怒りはニーニャに飛び火する。しかし、ニーニャは常日頃からフライムのお小言を聞き流し続けて生活をしている。パーレルムの言葉など届くはずがなかった。さすがのパーレルムも自分の発言に一切反応を示さない相手に対して何かを言い続けることは難しく、言葉が止まる。


「パーレルム殿、そろそろ話をさせてもらってもいいか?」

その隙を逃すことなくシープエントが割ってはいる。


「ええ、そうですね。もちろんです。いい加減話を始めましょうか」


辟易した様子のパーレルムに対して天幕内の気持ちがイラッとしたことは当人以外、誰にでも伝わった。


「今回、こちらが軍を動かしていることはどこで知られたのでしょう?」

いい加減に話を進めなければ今度はニーニャが面倒になると感じたシープエントは他多少のヒステリックには目を瞑り、認識のすり合わせを行うことにした。


「いきなり軍を都市国家連合に向けて動かすなんて、どんな常識の国なんですか!?

あなた方が来ることはわかっていました!何せ、数日前にクラーヴ王国の常識なしが攻めてきたんですから!」


「それでこちらも動くと予想して待っていたと。クラーヴ王国は何をしに?」


「隣国に囲まれているんです!それくらい常識的に考えて誰でもわかるでしょう!!クラーヴ王国の目的もわかっているでしょう!???都市国家連合を吸収しにきた!!!!一々分かることを

聞かないでくれる!!?」


欲しい情報1つに対して返ってくる答えは怒り6、いらない情報3、欲しい情報の断片1。このままやり取りを続けることにうんざりしてきたシープエントは内心でここに派遣されるものがもう少しまともであればと内心でため息をつく。


そして、気が付く。こいつとは話し合いができないから別のものを呼べばいいと。しかし、他を呼べばパーレルムが怒ることは必須。そうさせないためにもシープエントは考えた。


「それはタイミングがいい。クラーヴ王国も来ているのであれば直接話せばいいか」


「ちょっとあなた何を言っているの!!?何のために私が数日ここで待ったと思っているの!!?人の気持ちってものが獣にはわからないのかもしれないけど、常識的に考えて分かるでしょう!!!?」


「ニーニャ様、作戦変更です。縛っていただいても?」


「はいはい、わかったにゃー。」


言葉が通じなさすぎるパーレルムに痺れを切らしたシープエントは当初とは別の方法をとることにし、ニーニャに依頼を出した。気がつけばニーニャはパーレルムの口と手足を縛り上げて地面に転がしていた。慌てて護衛が助け出そうと動くが、シープエントが声を張り上げる。


「危害を加えるつもりはない!」

護衛の動きが一瞬止まる。


「この方との話し合いは不可能だと判定した。それは君たちも分かるだろう。」

護衛は視線を彷徨わせる。


「我々はこのまま進軍し、オルロイにてクラーヴ王国と、そちらで話し合いを行なった貴国の代表者を交えて話がしたい。こちらからは手を出さないことを約束しよう。代わりにパーレルム殿の身柄と言葉の自由を話し合いが終わるまで預からせてもらう。」


パーレルムの様子から護衛も話し合いが成立していないことを感じていたのか、シープエントの言葉に悩みを見せ、互いに視線を交えてどうするかと訴えかけあっている。



「代わりにこちらはニーニャ様の身柄を預ける。あくまでこちらは話し合いをしたいだけだ。」

獣人としては異例の発言。この発言にはクティス側の兵士たちが、シープエントの戦意のなさに気色ばむ。


しかし、当のニーニャはその発言に怒る様子もなく、護衛の1人の前にいき、ロープを渡す。


護衛は本当にいいのかとシープエントとニーニャを交互に見ながら手と足を拘束した。


ここまでしてようやくシープエントは話し合いの準備ができた。


代表としてハインケルが訪れたクラーヴ王国側は、労力という点で圧倒的にクティス獣王国に対してアドバンテージを有していた。

ありがとうございました。

X carnal418

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