19.悶絶ラール
よろしくお願いします。
目が覚めると私はベッドの上にいた。
目の前には妹のサーシャがいる。
服装は昨日の給仕服のままで、髪も結った状態。
記憶がいまいちはっきりしない。
仰向けになりベッドの上で、記憶を呼び起こそうとこめかみをぐりぐり擦り、刺激を加える。
「確か、昨日もゴンゾが手下を連れてきて、好き勝手酒飲んで、騒いで、店の中を好き放題散らかしていって。
そっか。
私、昨日その惨状を見てもう嫌だと思ってそのまま寝ちゃった・・・の?
いや、でもサーシャと一緒のベッドで寝た記憶はないけど・・・?
というか昨日サーシャはレイさんに抱えられて帰ってきてなかった・・・?
それでレイさんにお願いしてサーシャをベッドまで運んでもらった。
あれ?
でもそれなら私どうしてサーシャと一緒に寝ているんだろう?」
頭にグリグリと刺激を加えたことで徐々に昨日のことを思い出してくる。
さらに刺激を与え、「んー」と唸りながら必死に記憶を思い起こそうとする。
「そういえば、レイさんたちが帰って来たのってちょうどゴンゾたちが出ていってすぐくらいだったような。
あ!!
そうだ。
それでレイさんがあの惨状を見て、よくわからないけど魔法で飛び散った汚れをきれいにしてくれて。
それで・・・・?確かサーシャを寝室まで運んでくれて。
部屋に戻った?
いや、レイさんはわざわざ食堂に戻って片付けるのを手伝ってくれたんだ。
お客様に手伝ってもらうなんて・・・・。」
どんどん調子が戻り昨日のことを思い出してきた。
しかし思い出したことで、朝から自分の不甲斐なさにため息をつく。
「あれ、でもその後は?
私ここまできた記憶がないような・・・?
レイさんとお茶を呑んで少し休憩していたら・・・
私、何かレイさんに全部ぶつけちゃった気がする。」
答えに辿り着いたラールはベッドの上で顔を真っ赤にしながら悶絶していた。
お客様に、それも同年代の男性に、あんなに弱った自分の汚い内面を曝け出してしまった。
恥ずかしさと情けなさから涙すら出そうになる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・はぁ・・・はぁ」
そうしてしばらく声を出して悶絶していると、ベッドの隣と扉の外から声をかけられていた。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「ラールさん!?大丈夫ですか?」
1人は隣に眠っていた妹の声。
もう1人は・・・・私が悶絶している要因の彼。
今の状態を見られるのは更に心に深い傷を負いそうなため、まだ眠そうな妹をひとまず放置し、扉の外にも聞こえるように大きめの声で無事なことを伝える。
しかしその声で完全に妹は目を覚ましてしまったようだ。
覚めているのか私でなければ判別つかない、年中トロンとしている目で私を見ている。
「どうしたの〜?」
「うんん。なんでもないの。
それよりも起きないと。
もう朝6時過ぎちゃってる。」
「あ〜本当だ〜。
ご飯の準備しないとね?」
「ね、そうでしょ?
私は急いで、支度するから、サーシャはゆっくりでいいから1人で着替えて顔洗ってね。出来る?」
「は〜い。」
サーシャの支度まで手伝っていたら完全に朝食を出し遅れてしまう。
サーシャに朝の支度でやることを伝えた後、自分はすぐに着替えたり諸々の支度を済ませる。
勢いよく扉を開けて、食堂まで走ろうとしたがレイがいることを失念していたラールは扉を開けて体の動きが停止する。レイは椅子に座り何かの本を読んでいたようだ。
ラールが扉を開け、固まっていると本から視線を外し、律儀に椅子から立って挨拶をする。
そんなレイに対してラールは内容を正確に覚えていないが、出会って間もない、それもお客に言ってはいけないようなことばかりを言っていた気がし、気まずさから顔を合わせられない。
「おはようございます。」
そんなラールの気まずさなどお構いなしにレイは明るい声で挨拶をする。
「お、おは、ようございます!!!
き、昨日は大変、ご、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
ラールは勢いよく頭を下げる。
きっと今ラールは誰がどう見ても、弁解の余地がないほどに真っ赤な顔になっていることだろう。
「いえ、俺は何も問題ありませんよ。
それよりもラールさんの方こそ大丈夫ですか?きちんと休めましたか?」
「はい!おかげさまふぇ・・・ぐっす・・り・・と、」
噛んだことなど気にならないほどの引っ掛かりを自分の言葉に感じた。
レイに感情を爆発させたあとラールは昨日、サーシャの寝ているベッドに自分から入った記憶はない。
レイに対して溜め込んでいたものを爆発させた覚えはなんとなくあるが、その後の記憶はいくら思い出そうとしても思い出せない。
記憶がないこと、寝起きが昨日と全く同じ格好だったことを踏まえると、恐ろしい想像が頭に浮かぶ。
「あの、レイさん。」
「はい?」
「あの、もしかして、昨日、私、どこかで、寝室以外で、眠りに落ちたりって、してましたか?」
「あ、はい。食堂で。」
「もしかしてレイさんが私を運んでくれたり・・・?」
「はい。起こそうかと迷ったんですけど、非常に疲れてる様子だったので。すみません。」
平然と答えるレイの口調が逆にラールの羞恥心を増幅させる。
「いえいえいいえ。謝るのはむしろ私の方で。すみません。」
ラールは恥ずかしさからくる涙を浮かべながらも流れるような動作で謝罪をする。
そしてレイと顔を合わせることが精神的にくるものがあるため、一刻も早くこの場から立ち去ろうとあれこれ理由を早口で伝えてレイの前から離れていったのだった。
ありがとうございました。
次回更新は数時間後です。
短いですけど、ラール視点なので区切りたいです。




