177.各国の内部事情 sideクティス獣王国-2
よろしくお願いします。
「私たちは話し合った結果、やはりエルフの国に侵攻するのはやめてもらおうと話に来ました。それがどう言うことでしょう?都市国家連合も攻めるとは、、、。エルフの国から標的を変更すると?」
一息で盛大に叫んだ後、ミロノヴィガは多少冷静さを取り戻し、クティスに質問のような抗議を行う。
「違う!同時だ!シープエントがいるならあとはバットラウトも呼べ。一気に決めるぞ。」
「「お・ま・ち・く・だ・さ・!」」
バットラウトを呼ぶという意見にミロノヴィガとシープエントの2人が同時に待ったをかける。
バットラウトは牙軍総隊長という軍隊を預かるものの中で最も位が高い。つまりそれだけ戦闘意欲も豊富と言うことだ。そのため、2人は慌ててクティスの発言を止めた。
「どうして都市国家連合にも進軍することを決めたのか理由を聞かせていただいてもいいですか?」
バットラウトを呼ぶことへの反対に成功したミロノヴィガは、一歩一歩だと自分を鼓舞する。そして問題の中で一番最新の問題に対処するべく、突然話題に急上した都市国家連合に関しての話を聞くことにした。
「都市国家連合の中心都市オルロイが消滅したらしいぞ。」
クティスの胃を痛めるような発言続きでヒートアップしていたミロノヴィガとシープエントだったが、これまたクティスの信じられないような話でクールダウンさせられる。
「まーこれは竜人に通じている裏切り者が言っていたから適当に聞き流してたんだけどよ。ニーニャからオルロイが滅んだって報告があってな。俺も斥牙のグルーティスを動かしたら見事、オルロイは跡形もなく消え去っていた。」
「・・・信じられません。オルロイが戦地になった話など全く聞いたことがありません。それにオルロイが滅んだところでウキトスの勢力は見過ごせないのでは?出兵の判断が早すぎるのではないでしょうか」
「戦地になっていたかは怪しいにゃ。あれは争いというよりも災害の類だにゃ。突発的に発生した事象だから情報もあまり広まっていないんじゃにゃいかにゃ。」
これまで一切会話に入ってくることのなかったニーニャが会話に割り込んでくる。
「実際に見に行ったような口ぶりですね。」
「私も報告が信じられなくて見に行ってきたにゃ。その後にグルーティスも動いていたのは知らにゃかったから、適当に報告だけして寝ていればよかったって後悔しているにゃ。無駄労働最悪にゃ。」
四獣長と斥牙が実際に確認したという言葉で現実味を帯びてくるオルロイの滅亡。
「ですが、それでどうして出兵に繋がるんですか。ロク商議会もウキトスの街だってあるじゃないですか。」
「以前のウキトスならともかく、今のあの街に何の警戒がいるんだ?」
余裕な態度で足組みして、椅子で船を漕いでいるライモンドが笑う。
「ロク商議会も武力という面で何も恐れることはない。」
腕を組み泰然とした態度で発言するグリャ。
「にゃーもあの災害には興味あるにゃ。調べられるうちに調べておいた方がいいと思うにゃ。」
ずっと横になっているニーニャですら関心を示すオルロイ消滅。
エルフの無理やり特攻とは異なり、都市国家連合への派兵は現実的のようで、クティスに対して四獣長からの援護もある。
「それでも都市国家連合は人種の国です。領土を得ても得られるのは人種の奴隷です。ですが、奴隷はもう十分です。いらない人間までついてくるのであれば兵を出して無駄に消耗する必要はありません。土地だけ得ても持て余しますし。」
「出兵するのが俺らだけだと思うのか?」
クティスのというかけにミロノヴィガは考える。都市国家連合はクティス獣王国、オセアニア評議国、クラーヴ王国に囲まれている、存在が奇跡のような国だ。喧嘩っ早い自国はもちろんのこと、プライドの高い竜人、癖の強い人種の王と隣り合っていながらも国という体裁を保ち続けている。
そんな国の中央都市が壊滅的な被害を受けており、手が回らない状態だとしたら。
高慢で欲深な隣国たちが黙っているはずがない。
「確かに、どちらも兵を出して占領する可能性はあります。」
「可能性ではない。確定情報だ。クラーヴ王国は派兵する。」
「その情報は確かですか?」
「裏切り者からの情報だ。確度は高い。」
「しかし、それは罠なのでは、?」
先ほどは流してしまったが、クティスの発言には自分達を裏切って竜人についているものがいた。その者からの情報をどうしてそこまで信用しているのかミロノヴィガは理解できなかった。
「裏切り者は泳がせている。そいつの口ぶりからするにどうにも俺らとクラーヴ王国が派兵するように動いていた。実際、クラーヴ王国も隠してはいるが中央が少し慌ただしい。」
「それでは、相手の思う壺になるのではないでしょうか、?」
そこまで理解した上で、どうして派兵する方向に舵を切るのかミロノヴィガはずっとわからない。
「オセアニア評議国の思惑までは掴めていないが、クラーヴ王国が動くってことは都市国家連合は何あれ姿を変える。クラーヴもオセアニアも動くなら俺らだけだ。動かないで損をするのは。」
確かに隣国2国が占領に乗り出すのであれば、クティスは領土的な野心がないとして民衆に舐められる一因にもなる。派兵と傍観を天秤にかけた時にクティスは派兵することに重きを置いたのだろう。理解はできないが納得はしかけたミロノヴィガ。
「なりません!王よ。軍を出せば損耗がなかったとしても相当の費用がかかります。損耗など考えたくもありません。その負債を補えるほどの価値があるのですか?」
財務という面で一歩も引かないシープエント。
「その価値はお前が勝ち取れ。今回の都市国家連合占領にはシープエント、お前がいけ。護衛としてニーニャもつけてやる。」
「私がですか!?第一私が行っても意味がないでしょう。」
「奴隷も国土が今あっても意味がない。エルフの国侵攻の不足分を補うための出兵だ。代わりに現金と物資をクラーヴ王国からもぎ取ってこい。損耗のある争いは禁止だ。いいな?」
断固反対だったシープエントがここで言葉を止めた。頭の中で都市国家連合に派兵した場合と、しなかった場合のシミュレーションを行っているのだろう。
クティス獣王国はトップが戦争を掛け持ちするようなやつでも国政は安定している。それは獣人が強者を尊び、その者に従うとを当たり前としているためだ。そのため、国民は反乱などは行わず、堅実に生活をしている。力試しや野心で王の座を狙う者もいるがあくまで正面から挑む。そうしなければ国民がその王の統治に納得を示さないからだ。今の王は国民から認められ、しっかりと税も納められている。
だからクティス獣王国は新しい国土を必死に取りに行く必要がない。それに自分達より身体能力の劣る人種の奴隷も積極的に欲するものではない。取引しても金額はたかが知れている。
それらを踏まえた上で、エルフの国侵攻が止められない以上、都市国家連合に兵を送るだけでリターンがあるならば乗る方が良いのではないかとシープエントは考え始めた。
「都市国家に派兵する兵の数は?フライム様はご同行されるのでしょうか。」
シープエントが詳細を詰め始めたことでミロノヴィガは再び独りになった。
「兵は2万から3万を予定している。当然フライムはつける。あれがいないとニーニャは動かないからな。」
「えーフライムも来るのかにゃ〜」
「3万、、、。期間はどれくらいでしょうか。」
「3万ならどれくらいで限界になる?」
ニーニャの不満は全員から聞き流され、会話が進む。
「それは、エルフの国侵攻を行うか否かによります。」
エルフの国侵攻は止められないと分かっていてもシープエントは訊ねてしまう。
「エルフの国に侵攻をかけることは決定事項だ。軍は10万。ライモンド、グリャ、ミロノヴィガ、バットラウト以下牙軍隊長も駆り出す。」
そして最悪の回答が返ってくる。
10万という数字に驚く一同。
ここまで大規模になると想定していなかったのか、ライモンドとグリャも驚いている。
ミロノヴィガは今にも魂が抜け出しそうなくらい生気が感じられない。
「都市国家連合占領に3万、エルフの国侵攻に10万。王、四獣長、牙軍総隊長が国を空けるというのですね?」
国防と無関係の貨獣のシープエントですらその行為がどれだけ危険であるかはわかる。そのことを獣王が考えていないとは思えない。
「すべてが同じ時期ではない。エルフの国侵攻は2週間後、都市国家連合占領は2ヶ月後だ。」
「2週間後に10万、、、ミロノヴィガ様それは可能なのですか」
軍隊に関わるためシープエントには判断がつかない。代官的な役割をこなす四獣長であればその日数と軍の数が妥当であるかの判断はできるだろうと思い質問する。他3人に訊ねなかったのは無理でも押し通しそうな強引さを感じたためである。
「そうね、、、。多少急がなければいけないけど、絶対に無理な数ではないわね。ただ、王と四獣長が留守にするのは問題ね。何かあったときに指示を出せるものがいないのは困るわ。」
シープエントからの問いかけに、ミロノヴィガはしばらく手にあるノートを確認した後に考えを述べる。
「問題ない。エルフの国侵攻の際は、国にはニーニャがいる。都市国家連合軍隊占領には他の四獣長と俺が戻っている。」
「私の負担がでっかいにゃ〜」
「王が問題ないと言うのであれば承知しました。ですが、懸念点はそれだけではありません。オセアニア評議国の思惑がわからないとおっしゃっておりましたが、都市国家連合軍の派兵時にこちらに急襲することがあちらの目的と言うことはないですか?」
オセアニア評議国がクラーヴ王国とクティス獣王国を都市国家連合に向かわせたがっているという情報を裏切り者から得ている。行動は把握できてもその思惑は未だ不明。派兵している間にクティス獣王国に攻め込むことが相手の本当の目的ではないかとシープエントは不安に思う。
「派兵する数はオセアニア評議国に伝わるようにしている。仮に10万の動きを察知されてもトータルで13万。残りの常備兵が90万近くいるうちに攻め込もうとは思うまい。仮にトップが少し外したくらいで落とされるような国ではない。」
クティスの強い断言に息を飲むシープエント。いつも振り回されていようが、これが自国の王だと再認識させられる。
「そうなればミロノヴィガ様と2方面戦争の勝利条件を詰めてきますので、少々お待ちください。」
2人で話していた時は頼りになったシープエントだったが、気がつけば戦争を手伝う側に回っており、ミロノヴィガは再び絶望する。
「いつもミロノヴィガ様が断れず、引き受けてしまう理由が少し分かった気がします。それにクティス王も突発的な行動を起こされていても、あくまで事前情報を元に動かれているのですね。多少安心しました。この国の財務を預かる身としてはまだ不安が残りますが。」
どことなく付き物が落ちたような今後の話し合いに期待を持ったような口ぶりで話す羊に不満を抱きながらミロノヴィガは観念して詳細を詰める。
そうして条件を詰めた2人は王と四獣長に伝える。
「お待たせしました。エルフの国侵攻と都市国家連合占領の勝利条件がまとまりました。」
ミロノヴィガはノートに視線を落としながら話を進める。
「まず、エルフの国侵攻からです。前提条件として10万の出兵は1日あたり約金貨700枚が費用としてかかります。」
「ハイエルフの売却なんて前例がありません。仮に売却できたとしてその利益はどれくらいが考えられますか?それに売り先もあるんですか?」
「ハイエルフの奴隷は前例がある。闇取引の記録だが、白金貨606枚で取引されたそうだ。普通のエルフが金貨5枚から15枚だから約100倍の価値があるってことになるな。」
「記録があったのですね。それにしても100倍。換金先は聞かない方が良さそうですね。ですがそれではハイエルフの捕獲しか成功にはなりませんね。代替案としてエルフを複数人捕獲するのも考えましたが、王の目的とずれますし、それだけのエルフを一気に換金することは難しいでしょうね。」
「ハイエルフを獲得できなければエルフの国侵攻が失敗。その時点で赤字は確定のため、成功した場合に得られる白金貨が606枚前後も費用として計算します。王の侵攻目的はハイエルフとの戦闘ですし。そうでもしないととても現実的な侵攻になりません。」
軽く文句を伝えてからミロノヴィガは改めてクティス獣王国は出鱈目な国だと思う。戦争の理由が強いとされるハイエルフに勝ちたいため。そのためにエルフの国に戦争を仕掛け、補填として都市国家連合にも派兵しようとしている。どこまでも自分の欲望に忠実で、国を自分のために動かしている。しかし、それが許される地位であり、国民からの支持もある。
心底、自分には合わない考え方だと思うミロノヴィガ。内心でそのハイエルフにはクティスをボコボコにしてもらいたいと願いを込めながら最終的な条件を伝える。
・勝利条件(エルフの国侵攻)
14日以内にハイエルフに勝利し、確保する
軍の損耗率を3割に抑える
・勝利条件(都市国家連合占領)
軍隊はあくまでも威嚇のためであり、損耗率0%
土地と住民を担保にしてクラーヴ王国から最低でも金貨5000枚
「都市国家連合占領で黒字になる想定でもなければ、とても納得できる内容ではありませんが、一応の目処になります。細かいところは各担当が話し合ってください。」
条件を伝え終えたミロノヴィガはクティスの間に集まる面々の表情を確認する。
発起人のクティスはもちろんのこと、唆したライモンドも、関係なさそうなグリャも目の前の戦争に目をギラギラさせている。シープエントすら役割を与えられたためかやる気が感じられる。ニーニャの気ままに寝ている風景に日常を感じても安心が吹き飛ぶ周りの表情だった。
ありがとうございます。
白金貨1枚=金貨100枚
貨幣は全世界共通。




