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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
メギド胎動編
172/198

172.猖佯と偽猖佯

よろしくお願いします。

<慈天の間>

オーキュロームとローチェに指示を出したレイは一足先に階層内転移で<慈天の間>に来ていた。権限を与えていないものは慰霊教会の移動は階層ごとに上り下りをしないといけない。他の配下を呼ぶタスクに加えて、配下たちは一層ずつしか移動ができない。レイが先に<慈天の間>に到着するのは当然だった。レイは言い知れぬ不安とわずかな楽しみを抱えながら、配下が集まるのを長椅子に腰掛けて待つ。


オーキュロームとの会話でも今後の展望に関して考える機会があったレイ。


レイが今望むことはサーシャの健やかな成長。

呼び損ねた教会の配下たちと再会。

それ以外に全く思い浮かばない。


細々とした望みは確かにある。体の元となっているイクタノーラの復讐、イーリともう一度会うこと、自分が去った後アルアは無事にギルドで生活できているのか、パノマイトとリオの親子はエルフの国で生活できているのかなどの確認と、やりたいこと、知りたいことはある。


しかし、どれもサーシャのことや配下のことと比べると些細なことで、配下たちを動かしてまで叶える願望ではない。それに、ゾユガルズに来た当初に比べて圧倒的に復讐の欲求は抑えられるようになっている。確かに、復讐対象と接触すると抑えようのない憎悪が噴き出してくる。しかし、離れて、サーシャや配下たちといればそこまで思い出すことも少なくなっている。体が自分に馴染むような不思議な感覚を得ていた。


懸念があるからという理由で配下たちを動かして、全員殺すという手もあるが、それはゾユガルズに来たばかりの彼らにさせることではない。それに復讐対象の誰か、もしくは突発的に配下たちよりも強い存在に出くわしたり、絡め手で配下たちが殺されるようなことがあれば、ラールを失ったばかりの自分には耐えられないと感じていた。そのため、外に対して働きかけることに臆病になっているとレイは自覚する。


そこまで考えが達すると、<慈天の間>から<純沌の間>に繋がる扉が開く。


まだ階段を上がっている途中で姿までは見えないが、声はレイの元まで届いてくる。


「お前、見れば見るほど俺にそっくりだよなー。やっぱ、その鎧の中も俺と同じ顔してんの?さっきから全く答えてくれないけど、言葉は理解している感じがするんだよなー。てことは無視?俺って俺にそっくりなやつに無視されてんの?うわー萎えるー。てかさ、てかさ、その剣はどうなってんの?その錆具合までそっくりなんだけど。俺とおそろ?まじ?それならさ、レイ様から許可もらったらその剣もさ・・・・・・」


やってきた管理者たちは一人を除いて誰も言葉を発していない。皆どこか一様にそわそわしていながらも、周りのものに対しての警戒した態度をとっている。翁やシャナはその様子が顕著である。


その重苦しい空気の中でも気にせず一人は自分のそっくりさんに向かって言葉を投げかける。時には鎧の強度を確かめるために勢いよく拳を振り上げる。籠手と銅鎧がぶつかる鈍い音が響く中、殴った側は楽しそうに話しかけ続け、殴られた側は一切言葉を発さない。


「チッ、、、うるせぇよ、猖佯。いい加減黙れ。何回言わせんだ。」


猖佯と呼ばれた言葉を発する方の鎧はようやく自分以外に言葉を発する相手が現れ、そちらに視線を向ける。


「でもさー気にならない?俺にそっくりなんだよ。見た目も、強度も、剣だって。知らない人が見たら鎧の兄弟だって思うんじゃない?それなのに、会話量は全く似ていないんだよ?不思議じゃない?シャナだって自分みたいな男?女?わからないけど、出てきたら気になって声かけない?」


「・・・」


「ねぇどうして無視するのさ。俺たち同じメギドの仲間だろ?管理者同士もっと会話しようよ。レイ様もそんなんだからみんなを頼らないんじゃないかな?」


「あ?」

猖佯の会話がうるさくて口を挟んでしまったシャナは会話の矛先を向けられてしまった。反応するのも億劫で無視しようとしたが、聞き捨てならないことを言われ、猖佯に対してガンを飛ばす。軍人然としたシャナからの威圧。大抵のやつは全身震わせて、真っ先に謝罪を口にするだろう。


「だってそうでしょ。偽物とはいえ、レイ様が作られたんでしょ、こいつって。ってことはさ、ここにいるみんなよりも俺が必要とされたってことでしょ。そこの死に損ないジジイでも、根暗なガキでも、4足ドMでも、優柔不断軍人でもなくってさ。ね?」


しかし、うるさくても<七冥王>の一人。シャナの圧にも飄々とした態度で毒を吐く。

というよりも猖佯は文句を言ってきたシャナだけにではなく、一緒にいて無視をしていた周りの翁、ローチェ、オーキュロームにも矛先を向ける。


シャナは当然、他のみんなも猖佯の言葉に気色ばむ。不本意な呼ばれ方に対してではなく、自分たちが主人に必要とされていないと言い切ったこの軽薄な重装鎧に対して怒っていた。


「実際のところどーなんですか?レイ様〜」


気色ばんだ管理者たちは<慈天の間>にレイがいることを見落としており、猖佯が名前を出したことで、ザッと居住まいを正す。


「久しぶりだね、みんな。」


「あれれ、レイ様も無視されるんですか。俺寂しいですよー。偽物まで作るくらい俺を求めてくれたんなら少しくらい話してくれてもいいじゃないですかー」


<慈天の間>に大量の食器類がまとめて落ちたときのような大きな金属音が響く。


「何度言わせる。レイ様の前だ、いい加減そのふざけた態度はやめろ。」


「ちょっとやりすぎたかなーって思ってたよ。だからこうして地べたに這いつくばっているわけだしさ。そんな怒らないで、大好きなご主人様とみんなで話そうよ」


レイが声をかけても一切ふざけた態度を改めない猖佯。その様子にシャナは我慢の限界だったようで、優に2mはある猖佯の巨躯をシャナはいとも簡単に地面に転げ落とす。シャナの身長は猖佯と比べると小さい。鎧を着ているわけでもなく、年季の入った軍服を着用している。地面にうつ伏せで這いつくばる猖佯の上にのしかかり、左腕を後方に持ち上げ、拘束する。そのとき、猖佯の背中部分に膝をついて、起き上がれないようにもしている。体格さで見れば猖佯の方が圧倒的に有利ではあるが、猖佯はシャナの拘束から抜け出すことはできないでいる。


「あーいたいたい、ごめんごめん。反省した。だからちょっと、鎧で可動域狭くなってるから、腕、もう、それ以上曲がらないから、レイ様助けてー」


「シャナ、ありがとう。離してあげて。」


レイから声が掛かるとシャナは顔色ひとつ変えることなく、即座に立ち上がる。そこに不満の様子は感じられず、ただただレイに対する忠義が伺える。


その一方で助けてもらった猖佯は、意味のある行動とは思えないが、左腕を引っ張られた方とは逆の方に引っ張り帳尻を合わせようと奮闘している。


「いやーレイ様ありがとうございます。さすが俺のことが大好きなレイ様。」


「俺はみんなのことが大好きだよ。」


「またまたーそんなこと言っちゃって、俺の偽物作るくらいなんですから、俺が一番でしょ。今もすぐに助けてくれるし」

鎧で表情は全く見えないにも関わらず、猖佯の嬉しそうな様子はわかるのか、他の管理者たちは渋面を浮かべている。


「今助けたのは、ダメージ入りすぎて猖狂が出てきたら困るからね。それにいちいち会話の腰を折らない猖佯がいれば便利だと思って作っただけだよ。結局、使えないから処分に困っていたけどね。」


レイの言葉で管理者たちの表情は入れ替わる。先程まで楽しげにしていた猖佯は背後にずしりと重たい空気が垂れこめたような様子で、渋面を浮かべていた管理者たちはどこか安堵した様子でいる。


「そんなー、俺ショックですよ、この佯狂も頑張ってんのに。」


「そうだね、一旦でも今は黙ってもらえる?話が進まないや」


「これ、結構ガチなやつですか?」


「うん、ガチなやつ」


「はぁ、了解でーす。じゃあ偽物と遊んできます。<亜暴の間>にいるんでいつでも呼んでください。」


「え?あ、戻るの?ま、いっか。それじゃよろしく頼むね。

偽猖佯は猖佯の相手をするように。」


レイから少し黙ってと言われた猖佯は落ち込み、偽猖佯を連れて自分の管理階層である<亜暴の間>に戻って行ってしまった。レイもまさか戻ると言われると思わず、驚きながらも了承を返した。


ありがとうございました。

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