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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
メギド胎動編
171/199

171.長老会

よろしくお願いします。

「それで、どう思う。」

ナンシアが報告を終え、長老会の部屋を出て行った後。

その場に残ったエルフ種にも関わらず高齢な外見をしている3名は認識のすり合わせを行い始めた。


「ナンシアが言っていたことが本当だとしたら一大事ではないか?

絶滅したと思っていたダークエルフがまだ生きていたなんて。」


ナンシアの話を聞いて、3人の中では比較的壮健な男性エルフが不安を紛らわすように声を上げる。最初に反応を示した内容はダークエルフの存在。今のエルフたちには肌の色が違うことで種族の呼び方を変える習慣はない。同種であると肌で感じ、見た目が自分達に似ており、耳を見れば判断できるからだ。しかし、長老会に所属する高齢の年齢のエルフたちは違う。


かつてエルフとダークエルフがこの森には存在していた。そして諍いという名のエルフのダークエルフに対しての弾圧によりダークエルフは大幅に数を減らした。高齢のエルフ種以外にダークエルフの存在を知るものはごく少数になっていた。迫害をしたという後ろめたさから長老会はダークエルフの存在に対し、報復を恐れ、過剰に反応するようになっていた。


「レヴィン、ダークエルフのことはここ以外で口にしてはいけないよ。あれは私たちが全面的に悪かったことなんだ。仮に生き残りがいたとしても、そいつはすぐに森を離れたというじゃない。里のエルフに何かしてこない限り動く必要はないよ。」

3名の中で唯一の女性エルフが最初に声を上げたエルフ、レヴィンを宥める。


「あーわかってはいる、、、戻ってきたエルフたちはどうするんだ。金はすでに得ているから戻ってくることは問題ないだろうが、少し早すぎるだろ。しばらくすればまた面倒になるぞ。」

女性エルフに嗜められたレヴィンは少し落ち着きを取り戻し別の問題を提起する。


「そうさね。それならもう一度金にすればいいじゃないか。私たちエルフは常に売り手市場なんだから問題はないね。そしてしばらくしたらまた、ミアの弟子に情報を渡して救出させればいいね。」


「はぁ。ダークエルフに対して全く恐れないとはほんと恐れ入ったわ。それどころか自分の孫の弟子を自分が売り捌いたエルフの回収役にするとはな。俺はただ強いハイエルフのエルミアよりも祖母のアントルメル、あんたの方がよっぽど怖いね。」

レヴィンは自分よりも年上で、腹黒の極地を見せてくるような女性エルフ、アントルメルの行いに恐怖した。ダークエルフへの心配は上書きされ、敵にしてはいけない女だと認識を深める。


「何をいうのさ。本当に悪い奴は相手に恐怖を感じさせないんだよ。グレインなんてただの好々爺としたジジイだろ。でも実際はエルフの売買やダークエルフの迫害、その他、全てに手を回している。何なら主導しているんだからね。」


「時々忘れそうになるが、それはもう耳タコなくらい聞いたよ。ほんと心の底からあんたら長老会には楯突かないって日々思い知っている。自分が入れてよかったとも。」


レヴィンとアントルメルの話が一段楽つくとずっと黙って話を聞いていたグレインが話しだす。アントルメル曰く一番腹黒いため、グレインはどれだけ恐ろしいことを話すのだろうかと背中にじっとり気持ちの悪い汗が浮かぶ。


「森を去っていったダークエルフ一人も、戻ってきたエルフたちも何かあってから動いても問題はないじゃろう。しかし、ナンシアとアルシア一緒に行動をしていたレイという獣人は、ちと危険じゃな。」


「そうか?俺としては先に聞いた二つの問題の方が対応しないとやばいと感じたけどな」


グレインの話に集中していたからこそ、レヴィンは自分と大きく認識が異なっていることに違和感を感じ、首を傾げる。


この場にいる長老集は誰も知ることではないが、グレインの懸念は図らずもエルミアと全く同じだった。


「獣人にエルミアが目をかけるほどの実力者がいるなんて話は聞いたことがない。ダークエルフであれば人目を忍んで行動しているじゃろうし、そもそもの数が少ない。わしも話を聞くまで絶滅しておったと思っとった。じゃが、獣人は違う。種としてあいつらは自分の力をひけらかす癖が強い。それこそ、自国のトップを単純な武力で決めるほどにな。あやつらのトップ獣王は強い。じゃが、エルミアと戦えば結果は分かりきっておる。それゆえに我らは獣人に警戒をしていなかった。強いものが現れれば当代の獣王を確認すれば良いからの。」


「つまり、種族特性的にミアが一目置くほどの獣人がこれまで目立ってこなかったことに脅威を感じているというわけね」

グレインの話をアントルメルが一言でまとめ、その発言に対してレヴィンも納得を示す。


「その獣人がどこに属するのかで、これからのエルフ売買も、この先の計画も狂わされるような感じがするのぉ。これまで一度も名を聞かなかったことから潜むこともできるじゃろ。目的がわからない以上グレビレア女帝国に味方するとも限らん。あそこの女蜘蛛どもは大人しいが、男蠍どもは血の気が多い。これは面倒になりそうじゃ。できれば消しておきたいのう。」


老化によって伸びやすくなったのか大量の眉と髭により顔の大半が隠れているグレイン。好々爺として里の者たちからも人気がある。しかし、言葉を発した今は黒く濁りきったよぼよぼの眼が爛爛としており、同じ長老会のレヴィンですら無意識のうちに距離をとっていた。


「で、でもよ、それならどうするんだ?」

グレインの圧に気圧されて距離をとっていたレヴィンだったが、レイという獣人が今後、自分達の障害になり得る可能性があると聞いて、慌てて対応案を求める。


「この森のことならどうにかなるが、クティス獣王国となると話はまた変わってくるね。」

「アントルメル、レイという男が獣人だからと言ってクティスに属するとは限らんぞ?本人が爪を隠すのが得意でも、あの国にいれば担ぎ上げる賑やかしがいるじゃろう。そうなれば今の今まで実力を隠して潜むことは難しい。ワシはどこか別の勢力に属していると考えておる。」


「そうなるとより厄介だね。まずどこに属してるかの調査からかい。森の外に出して情報収集できるのなんていたかね?」


作業工程の多さにため息をつくアントルメル。


「それならエルミアの弟子を使えばいいんじゃないか?あいつらはまたすぐ各国を回るだろう?」


「そうさのう。そこにカリンをつけて、レイという男の生活圏も探らせるかのう。」


「カリンを?敵対する感じかい?」

レヴィンの出した名前に驚くアントルメルは鋭い顔つきになる。


「いや、まだ目的がわからんからのう。バレないように探らせるだけじゃ。もう一度レイがこの国に来ればその間は、其奴の生活圏は調べ放題じゃろうて。」


「そうかい。それなら構いやしないよ。カリンの隠密がバレるリスクなんてないようなもんだからね。ただ、あの傲慢チビには知らせておきなさいな。あとでうるさくなるんだから。私はあれとは話したくないよ。」


「それは俺もだな」


アントルメルの言葉に賛同するグレイン。


「ホッホ。それはワシもじゃよ。じゃが、ワシらの悲願を叶えるためには必要な労力じゃ。それまではあの傲岸な羽虫にもそれなりの礼を尽くしてみせよう。」


そうして長老会3人の会話はあまり雲行きのよろしくない方向に進んで幕を閉じた。

ありがとうございました。

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