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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
都市国家連合国編
17/199

17.冒険者4人組

よろしくお願いします。


「レイお兄ちゃーん? こっち〜こっち。」


まったり声ながらよく通るサーシャの声。

ギルドから白山羊亭に戻る途中にサーシャに声をかけられる。

声のした方向ではサーシャがゆっくり手を振っていた。

サーシャの元まで近づき手を繋いでウキトスの表通りを歩く。

時間は18時半を少し過ぎたところ。

まだ昨日ほど盛り上がっているわけではないが、すでに飲み始めている冒険者はいる。


「今日も昨日の酒場に行くのか?」


「んー?レイお兄ちゃんはどお?」


「そうだな。せっかくこの街に来たんだし、他の場所も見てみたいかな。」


「分かった〜なら他の場所行こ?

ええとね〜どこがいいかな〜」


「一緒に見て探そっか?」


「うん〜!」


サーシャの笑顔を見るたびに心が癒される。

仮面のうちでは頬がだるんだるんに緩んでいた。

しかし大通りを歩きながらサーシャと話していると、後ろをつけられている気配を感じた。

先ほどのゾンバの件もあり警戒心を高まっており、索敵魔法『テイル』を自分の周囲に張り巡らせていたため気がつくことができた。

奇襲を受けなかったことに安堵しつつ、狙いが自分なのかそれともサーシャなのかを考える。自分なら今は適当に撒けばいいが、もしサーシャが狙いだとしたら厄介だ。

こんなに可愛い子だ。誘拐の可能性だってある。

もしそうなら今撒くだけでは何も解決にならない。


サーシャをどうすれば守れるのか考える。


『テイル』で見る限り、相手と自分達の距離は一定の間隔が空いている。

おそらく数は4人。相手の実力がわからない以上下手に手を出して刺激したくない。

普通に索敵に引っかかるような相手のためそこまで警戒する必要はないかもしれないが、もしかしたら全員攻撃全振りのレベルの上げ方をしているかもしれない。

自分だけならば問題ない。メルラの話ではSランクは0、Aランクの冒険者はイーリたち以外にはいないと言う。

ただBランクレベルの冒険者4人だったら100%サーシャを守りきった上で戦える自信がない。

まず第一に優先することはサーシャの身の安全。

次に相手の正体。

しかし接近するにはサーシャに危険が及ぶ可能性だってある。


だからレイはひとまず逃げることに決めた。

サーシャとご飯を済ませ、後日そいつらを追えばいい。

『テイル』に映し出されている4人に無属性魔法『マーク』を付与し、自分の索敵範囲内に入ったらわかるようにしておく。


逃げると決断したレイはサーシャを抱っこする。

突然抱き抱えられたサーシャは驚き、間投詞が色々と口から漏れる。


「え?!?!お兄ちゃん?私疲れてないよ?歩けるよ!」


抱っこが安定したタイミングで落ち着いたのか、いつもまったりとしているサーシャの割に珍しく早口で抗議してくる。

顔を赤くしながらポカポカという効果音が聞こえそうなパンチをレイの胸にしている。


レイは「ごめん」と一言謝罪を入れ、駆け出す。

それに気がついた4人組も慌てて追いかけてくる。

表通りでは少し目立ってしまうため、路地を右へ左へ駆け回る。

しばらく走ったところで『テイル』では尾行者の動きが鈍ったように映る。

どちらに行けばいいのか迷っているようだった。

尾行は撒けたと安心し、走るのを止める。


「も〜う。どうしたの急に?」


突然止まったレイに驚くというよりも疑問の感情が上回ったサーシャはレイに訊ねる。


「ごめん、ごめん。急に走りたくなっちゃったんだ?」


サーシャを無意味に怖がらせたくないが、突発的な行動のためうまい言い訳も思いつかない。我ながら嘘くさいなと思いつつ、仮面の内で赤面しながら謝る。


サーシャは一瞬口をポカンとあけて、笑い出した。


「ふふふ。なにそれ?レイお兄ちゃん今日ずっと本読んでたから動きたくなったの〜?」


我ながら厳しいと思った言い訳だったが、サーシャ的には面白かったようで納得してくれた。

再び手を繋いで、歩き、適当な店を見つけて入る。



どうもレイとサーシャは碌に酒なんて飲まないし飲めないけれど、酒場が好きなようだ。

入った店はまたしても酒場だった。

酒場なら入る前にわかるだろうと突っ込まれそうなため念の為説明すると、その店は外観詐欺をしていた。

表通りから少し外れ、建物越しに表通り沿の店から冒険者たちの賑わう声が少し聞こえる。そんな路地を歩いていると、夕暮れ時のオレンジ色をしたライトが照らしている建物を見つけた。縦書きの看板には“食事処”と書かれていた。

中からは、魚の焼ける匂いがして食欲をそそられる。

サーシャを見ると、彼女も同じことを思ったのかこちらを見ていた。

互いに顔を見合わせ頷くと、その店の暖簾をくぐった。


そして和食料亭のような外観をしていた店の中は昨日とほとんど変わらない酒場の様相が展開されていたのだった。

肩透かしを喰らいながらも、空いていたテーブル席に腰掛ける。

サーシャと対面して腰掛け、互いに気になった品を注文する。

注文品を待っている間は互いの1日について話していた。

そしてご飯を食べる。

サーシャが美味しそうに食べているのを見てそれだけで心が温かくなる。


そんな感慨に浸っていると隣から話しかけられる。

感傷的な気分を台無しにされたため若干イラッと来たが、それ以上の問題があった。


「おい、そこの黒狐。」


隣を見ると息切れした少年1人がこちらを睨んでいた。

そしてその後ろにいる3人も少年同様にやや息をきらせている。

4人の歳はレイよりも少し下に見える。

レイが振り向くと声をかけた少年以外の3人がなんだか慌て始める。


「ちょっとコーリ、声なら私がかけるって言ったでしょ?」

「口下手で知らない人と話の苦手なんだから。そういったことは僕かキセラに任せてって。」

「そうですよー。今のだと失礼ですよー。」


「でもお前らなかなか話しかけに行こうとしねぇじゃねぇか。」

「だって緊張するじゃん。普段口下手のクセにどうして今日は真っ先に話しかけられるの!?」


相手は先ほど後をつけてきた4人組みだった。まさか見つかるわけがないと安心して索敵を再展開しなかったことに歯噛みするレイだったが気付けば4人は何か言い合いを始めていた。

その様子に肩透かしを食らったレイはしばらく彼らのやりとりを眺めていた。

しかし何か起きても大丈夫なようにサーシャの隣に座り直し、警戒に努める。


彼らのやり取りを眺めていたが、全く言い合いが終わりそうになかったためこちらから声をかける。


「言い争っているところ悪いんですけど、何のようですか?」


話しかけると4人はレイとサーシャの存在をすっかり忘れていたのかバツの悪そうな表情を浮かべる。


「あ!すみません!

私、キセラって言います。

この3人は私のパーティメンバーです。」


レイを呼び止めた少年ではなく、両手にガントレットを嵌めた小麦肌の少女が話し始める。


「俺はレイです。ソロで冒険者をしてます。

それで何の用ですか?

今は妹と食事中なんですが。」


サーシャとの関係の説明が面倒だったため、そしてやや自分の願望の混じった紹介をレイはしれっとした。


「レイさんですね。よろしくお願いします。

えっと、、、単刀直入なんですけど、私たちのパーティに入ってくれませんか?」


キセラの当然の申し出に対し、頭の上に疑問符が浮かぶ。

先ほどまでゾンバを警戒して、レイを異世界人だと睨んだ誰かが俺を始末でもしにきたのではないかと考えていた。もしくはサーシャを誘拐しにきた誰かと。

でも話は全く違っており、ただのパーティ勧誘だった。

しかしそれならそれで疑問は生じる。

互いに何も知らない状態でどうしてレイを誘ったのか?

そもそもこいつらが尾行だったのならどうして再び俺たちを見つけることができたのか。

混乱しているとサーシャから声をかけられる。


「お兄ちゃん、お友達〜?」


「いや、始めてあった人だよ。」


「ん〜そうなんだ?」


2人で会話していると4人組の1人が先ほどの少女をたしなめ始めた。


「キセラも急ぎすぎだよ。

すみません、突然。

僕はレナードって言います。

僕らこのアケロペを中心に活動している冒険者なんですけど、10層のボスを倒すために人手が足りなくてメンバーを募集するために今ウキトスに来ているんです。」


いかにも駆け出しの冒険者と言った感じで革鎧に長剣を装備した好青年風の少年が説明してくれる。


「アケロペを中心に活動されてるんですね。

それでなぜ俺に?」


当然アケロペという場所に心当たりはない。

仲間を集めに大きな街に来たというのは理解できる。

しかしどうして自分なのかという疑問は解消されていない。


話を進めようとしたところで誰かの腹の虫が鳴る。

レナードは申し訳なさそうな表情を浮かべたのち、後ろを振り返る。


「ちょっとみんな少しでいいから静かにしてくれって。」


「ごめんなさーい。」

「腹が減っちまうのは仕方ないことだろ?」

「いや、まぁそうだけど。タイミングってもんが。」

「あ、そうだー。レイさんもご飯食べてるし私もお腹減ったー。何か食べてもいい?」

「いや、流石に失礼じゃないか?」

「こっちがそいつの分も払えば納得してくれるだろ、多分」

「・・・はぁ・・・聞いてはみるけど、、、、ちょっと待ってて。」


話しにひと段落ついたのかレナードが再び振り返る。


「すみません。えっと・・・・こちらから話しかけておいて、申し訳ないんですけど、話し合いは僕だけでも構いませんか?話しかけておきながら不躾ではあるんですが、お聞きになったように内の仲間が・・・ちょっとお腹を空かせているみたいで・・・」


非常に申し訳なさそうに話すレナード。


色々と気になることはあるがサーシャに害意を持つような悪い人たちではなさそうなので、一緒にご飯を食べることにした。話し合いもひとまずはご飯を済ませてからということになり、6人で席に着く。


ご飯を食べ終え、サーシャがレイの膝上に座ったところで話し合いは始まった。

コーリ、キセラ、レナード、腹を空かせていた子の視線が集まる。。


「まず確認なんですけど、迷宮ボス攻略のために俺をパーティに勧誘してくれたってことでいいんですか?」


「はい。

僕たちはアケロペ迷宮の近くにあるカグ村出身なんです。

さっき最初にレイさんに話しかけた無愛想なのがコリウス。

次の両手にガントレットを嵌め、拳闘士の格好をしたのがキセラ。

最後に唾の広い帽子をかぶっているのがナナンです。」


レナードが仲間の紹介をしてくれる。

コーリは愛称的な呼び名だったのかなと思いながらレイはレナードの話を黙って聞く。


「僕ら幼馴染4人で冒険者になってそろそろ1年くらい経つんです。

それで拠点を移して他の迷宮に行こうかって話していたんです。

ただ拠点を移す前にこのパーティの最高火力のナナンに、新しい杖を作りたくてみんなでその素材集めをしている最中なんです。

その杖には10層のボス『金華猫』の素材が必要で、レイさんにパーティに入ってほしくてお願いしています。」


「すみません、どういうことですか?」


レイは食い気味で再度説明を頼んだ。

途中まではもちろん理解できた。

しかし、後半部分が全くわからない。

どうして金華猫って魔物の素材が欲しいからってレイがパーティに誘われるのか?

疑問符が浮かんでいるのが見えたのか、レナードは申し訳なさそうに尋ねてくる。


「あ、レイさんはアケロベ迷宮についてどれほど知ってますか?」


「申し訳ないんですけどほとんど知りません。」


レイの答えを聞き納得したレナードは噛み砕いて説明を始める。


「そうなんですね。すみません、言葉不足で。アケロペ迷宮に出現する10層ボスは2種類存在するんです。」


「2種類?」


「はい。通常は『銀華猫』が10層のボスとして現れるんですけど、条件を満たすと金華猫が現れるんです。それでレイさんにパーティに入って欲しくて。一度でいいので協力してもらえませんか?報酬は金華猫の素材以外入りませんので。」


「そんな条件があるんですね。

ところでその条件というのはどんな内容なんですか。」


当然レイに声をかけると言うことはその条件をレイが満たしていると言うことになる。

もし人数的な問題であるのなら冒険者ギルドで適当な人材を募集すればいい。どうしてレイなのか。


「パーティに魔術師が2人以上いることです。」


レナードははっきりと断言した。それがレイの疑問をさらに深める。


「魔術師が2人以上いること。ですか?

魔術師が2人いるのならパーティ勧誘はそもそもしないはず。

魔術師が足りていないんですね。

でもどうして俺が魔術師だと思ったんですか?」



「それは・・・」


レナードが他の3人に視線を送る。

答えにくい事なのだろう。


「私は別にいいよー?」


先ほどまで食事に夢中だったナナンが、レナードにそう答える。


「仲間になってもらえるなら説明してもいいけど、仲間になってもらえないなら教えるのはリスクあるだろ」


それに対し、コリウスは反対を示す。


「うん。これに関しては僕も同意見。

レイさん、申し訳ないんですが今その理由を伝えることは難しいです。」


今の会話からなんとなくナナンが魔術師を見つけられる能力がある、又はそのような魔法を使えることがわかってしまった。もしも前者ならその能力について知りたいし、仮に魔法ならば魔術師としてはどんな魔法なのか知りたいと思った。


「ここからアケロペまではどれくらいなんですか?」


「馬車を使って1日半くらいです。

往復で3日ほどなので、探索期間を含めて1週間ほど加わってほしいのですが、大丈夫そうですか?」


「俺からも条件を出してもいいですか?」


「僕たちがお願いしてるんですからもちろん、可能な限りは」


レイが話に乗り気であるとわかるとレナードは顔色を明るくし、改めて話を聞く姿勢をとる。


「それならパーティに参加する代わりに俺を魔術師だと見抜いた方法、それと尾行を撒いたのに再び俺を見つけられた方法を教えて欲しいです。」


そう伝えると4人の表情がやや強張る。


「やはり尾行していたのはバレてしまっていたのですね。」


「一応は。」


「分かりました。その方法を教えることで参加してもらえるのなら全然構いません。

みんなもいいよな?」


そう問いかけるレナードに対し、コリウス、キセラ、ナナンは了承する。


「出発日は明後日、朝7時です。

南門の集合スペースで待っていますので来てください。」


「了解しました。」


話し合いを終え、白山羊亭に戻ろうと支度を始めた。


今日も読んで頂きありがとうございました。


次回更新予定は明日です。

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