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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
メギド胎動編
160/199

160.メルラと街

よろしくお願いします。

食事を終えた時、サーシャの顔色は先ほどよりも格段に良くなっていた。レイもメルラも僅かに表情が綻んだサーシャの様子を見て安堵した。まだ、姉がいなくなった傷は癒えるはずもないが、生きることを諦めないでくれたようだと2人は感じていた。いつもより強面なマスターから会計を済ませると3人は外に出た。休憩時間もそろそろ終わるため、この後メルラは冒険者ギルドに向かわなければならない。


「レイさん、先ほどの話をしたいのでギルドに来てもらえませんか。」


メルラの申し出にレイは抱き抱えるサーシャに目をやる。サーシャはレイを強く掴みながらも、食欲を満たしたことで眠気が来たのか、うつらうつらと船を漕ぎ始めていた。サーシャが寝た後でギルドに向かうことも考えたが、今はとにかくサーシャと離れることに恐怖を感じており、それはサーシャも同様だとレイは感じていた。そのためこの場での会話を提案した。


「すみません、できればサーシャを寝かしてあげたいので断らせてください。その代わり知っていることは今ここで話します。話の内容的にも、俺が言えることは後少しだけなので、時間もかからないと思います。」


「でも、ここでは流石に人の通りもありますし、あまりおおっぴろげに話すことは避けたいです。」


「それなら音を遮断しますね。」

そう言ってレイは無属性魔法『ブロック』を使用する。メルラも魔法の発動は感じ取ったのか、レイからの説明を受けて納得した。


それからレイは先ほどの話の続き、天井裏に行った時に見た光景、マーハと戦ったこと、追い詰めたことで依頼主を暴露したこと、その依頼主がロク商議会<スレーブン>の長、イルゾドであったことを包み隠すことなく伝えた。


大幅なレイの脚色はあったものの話た内容に事実との相違はない。それに内容が大きいだけに、レイが嘘をつくメリットはないだろうと考えメルラは信用した。そして今のことを早急にギルド内で共有しなければならないと言って足早に去っていった。




メルラは大急ぎでギルドに戻ると、ギルド長との早急な面会を申し込んだ。


それからしばらく冒険者受付で溜まった仕事を進めていると同僚から声をかけられる。


「ギルマスが来てって言ってたよ」


私はやりかけの仕事を一旦机において、どこまで終わらせたかの目印をつけてから席を立つ。それからやや小走りになりながら2階にあるギルマスの部屋まで急いで向かう。ノックを3回し、返事が来る前に扉を開ける。


「入りますよー。 早速、本題話しても大丈夫ですか?」

ギルド長室に入るなりメルラは前置きなく報告を済ませようとする。


「お疲れ様。そんなに急がなくてもいいでしょ」

そんなメルラに対して、人当たりの良さそうな細身高身長の40代おじさんは物腰柔らかく話始める。


「仕事溜まっているので早めに済ませたいんです。それに、色々とわかったこともあったので、早めに共有しときたいんですよ。ギルマスも知っておきたいでしょ?」


「そうだね、色々と仕事をお願いしていてこちらとしても悪いと思っているよ。1週間ぶりにきたあの白髪の少年の様子は?」

メルラに仕事を押し付けな現状を謝罪するギルマス。


「いいですよ、別に。あの件が片付くまで私は普通のギルド職員なんですから。普通に仕事しているだけです。レイさんの方はそうですね、表面上何も変わった様子はなかったですね。」


「表面上?」

メルラが指したあの件に関してはすでに2人の間で話し合いが済んでいるのか、ギルマスは特に触れることもなく、レイの様子に関して話を深掘りしていく。


「はい、と言ってもそう感じたというだけで何かが明確に変わった、、、、いや、なぜか髪色が変わってはいました」


「髪色?」

まさかの変化に驚くギルドマスター。しかし結局のところそれがどうしたのかという思考に辿り着き、話を進めるように促す。


「私が預かっていたサーシャちゃんと3人でご飯を食べにいって、そこで事件の真相を聞きました。」

レイの髪色の話題で話が脱線しかけていたが、そこからメルラは火事事件の詳細を話始める。ギルドマスターもメルラが話し終えるまで一言も口を挟まずにただ黙って報告に耳を傾ける。


「そうか。それはまた厄介だね。あの火事の黒幕がロク商議会の<スレーブン>だったなんて。そうなるとあれも無関係でないのかな。」

ギルドマスターはメルラからの話を聞くと難しい表情になる。


細身高身長のおじさんが顎に手を当てて思案気な様子でいる様は遠目から見れば絵になっているが、メルラとしてはそんな姿などどうでもよく、話を進める。


「確かに、相手がロク商議会のトップってなるとどう対応したらいいのか。文句を言うにしてもレイさんからの言葉だけでは証拠が足りませんし、せめて相手が生きていたら良かったんですけど。」


そしてメルラもギルドマスターの考えていたことを思い、事の難しさに同意を示す。しかし、メルラの考えとは異なる悩みを抱えていたギルドマスターは首を振る。


「いや、ロク商議会に対しての異議申し立てはしないよ、と言うよりも出来ないかな。」


「出来ない?それはどう言う事ですか?」

ギルドマスターとの会話で途中までは相手の考えていることがわかっていたメルら。しかしどこからか思考の流れにズレが生じており、話が噛み合わない。


「これは都市国家連合全体に関わる事だから情報公開規制が行われているんだ。それを理解した上で話を聞いてもらいたい。」


自分が知らない情報ゆえに話が噛み合わなかったのだと納得し、メルラはギルドマスターが話を続けるのを待つ。改まった態度で話すギルドマスターの様子を見てただならない出来事があったのだと居住まいを正す。


「中心都市オルロイは消滅した。」


どんな内容を聞かされても驚かず冷静に対応するつもりで正した居住まいだったが、予想外の答えを聞いてその気持ちは一気に消え去った。


「は?え?っとどう言う事ですか?」


「言葉通りの意味だよ。オルロイが消滅したんだ。僕もこの話を聞かされたのは数日前のことでね。ウキトス内での火事事件もあったしどのように対応をすればいいか悩んでいたんだ。」


「待ってください、オルロイが消滅したってどの程度の話なんですか?」


「これは僕も聞いた話だから実際のことは分からないし、正直信じられない。けれど、聞いた話を正確に伝えるならば、オルロイからの生き残りは誰もなく、建物も全て消えて、オルロイだった場所はただの砂漠地帯になっているらしい。」


「・・・誰からの情報ですか、、、?」

想定以上にあまりな内容にメルラは絶句する。それでもどうにか言葉を絞り出す。


「<セキュー>の長、ガンテストさんからだよ。今、ロク商議会のトップはガンテストさんと<ビューション>のパーレルムさんしか連絡が取れないらしい。オルロイが消滅した夜、その場にいたとかで生きている可能性は低いって。彼ら2人は偶然街の外に出ていたから何事もなく無事だったようだね。」


「それなら確かに、情報の信憑性は高そうですね。それに火事事件のことについて追及出来ない理由も分かりました。でもどうして私にそのことを教えたんですか?相当に機密性の高い情報ですよね。」


「そうだね、基本的に2部門の長と各部門の仮代表、それに大きい都市のギルド長にしか知らされていないらしい。口外禁止とも言われたし。ただ、今はその禁止を無視してでも君に伝えないといけないと思ったからね。」


「それは、オルロイ消滅と火事事件に何か関係があると?」


ギルドマスターはメルラの顔を見てゆっくりと首肯する。


「今の話を聞かせたのは私にレイさんを探らせるためですか?」


再びギルドマスターは首肯する。

「そうだね。おそらく、彼はメルラ君に伝えた以上の話を持っていると思うからね。」


「レイさんがオルロイを消滅させた犯人だと?」


「そんな突飛な話はしていないよ。けれど、彼が素性の分からない実力者であることは確か。クラーヴ王国の者と通じていたり、イーリ君と何かしらのつながりがあっても不思議ではないと思うよ。」


「クラーヴ王国から逃げ出したんじゃなくて、都市国家連合を潰すための密偵だったと?それはあり得ないと思います。確かに素性は怪しいですけど、そんな密偵の人はイーリさんからの紹介で目立つようなことはしないと思います。密偵であればクラーヴ王国が彼に都市国家連合で生活していくための身分証は持たせるでしょうし、それにイーリさんに気に入られるかどうかなんて分からないですよ。」


「クラーヴ王国の密偵の可能性、イーリ君からの援助を受けたのは偶然ではなかった可能性があるというだけだよ。素性の分からない彼のことを信用しきるのはどうかと思うだけだ。それに彼が犯人でないとしても相手は因縁があるようだ。火事事件に深く関わっているのだから何かしらの情報を他に持っている可能性だってあるからね。それが彼にとって不都合なことなら君にその情報を開示するかい?」


メルラの反論に対し、ギルドマスターは一歩も引かずに自分の考えを伝える。その様子にメルラは軽くため息をついて呼吸を整える。


「分かりました。レイさんに聞けばいいんですよね。ただ、レイさん全くギルドに顔出してくれないので、時間かかると思いますよ。」


「構わないよ。僕の方でも情報は集めるからね。仕事を増やして申し訳ないがウキトスのために、いや、君の場合は君の目的のために頼むよ。」


ギルドマスターの言い方に僅かに顔を顰めるメルラだったが、頷くだけ頷いて、ギルド長室を出た。そしていつもの受付に戻る最中にレイのことを考える。


確かに、レイは歪な存在だった。かなりの実力者でありながら、冒険者ランクをリセットして冒険者になった。しかし、その理由はイーリから聞かされていた。クラーヴ王国の嫌な噂は耳にしていたため、納得もした。それに元Sランク冒険者イーリの推薦ということもあって対して疑わなかった。そこからレイはギルドになかなか顔を出すことはなかったが、一定以上の依頼はこなしてくれた。もう少し依頼を多く受けてもらいたいが、それ以外に不満もなければ不審な点もなかった。しかし、仮にレイがオルロイを消せるだけの何かと関わりがあり、つながりが深い場合自分はどう立ち回ればいいのかとも思う。レイからすれば身の回りのことを疑いの眼差しで見られることは気持ちのいいことではない。それもメルラはレイの身の潔白を行うためではなく、自分の目的のためにそれを行う。


「私も身の振り方を考えないといけないなー」


レイに何かしらのコネや力があった場合、それもギルドよりも強い何かだったら、自分は何を、どう、選択するのだろうかと思案しながら階段を下る。そんなメルラの足取りは不思議ほどに重く、軽いものだった。

ありがとうございました。

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