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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
メギド胎動編
154/198

154.メルラの心配事

よろしくお願いします。

レイさんが私にサーシャちゃんを預けてからもう1週間経つのに、サーシャちゃんを迎えに来る様子はない。そもそも今、レイさんがどこで何をしているのかすら分からない。


レイさんがサーシャちゃんを連れてきたあの夜。ウキトス内で放火事件が発生したとき、私はギルドに残ってレイさんの証言から竜人が行った他種族奴隷売買の記録を作成していた。その後仕事途中であったが、傷だらけの子供をレイさんに託されたため、私は帰宅した。その子供はサーシャちゃん。ラールさんの妹だという。私は以前、ラールさんと少し話す機会があった。だから彼女の人柄は何となく把握している。笑顔が綺麗で、人に活力を与えてくれるような素敵な子。表情豊かすぎて、隠し事が出来なそうなことが玉に瑕ではあるが、それも彼女の魅力だと感じた。そんな子の妹なのだから、サーシャちゃんも姉に似ていると思った。しかしサーシャちゃんはレイさんが出ていった扉をただじっと見て、動こうとしなかった。色々と怖い思いをしてきたからレイさんやラールさんがいなくて不安なのだろうと思った私は、サーシャちゃんが怖い思いをしないように話しかけた。


「大丈夫?サーシャちゃん。」


「うん。」


サーシャちゃんは声を発した私に一瞬視線を向ける。しかし一言返答して、すぐにレイさんの出ていった扉を見てしまう。ラールさんと異なり普段から静かな子供なのか。それともよほどひどい体験をして、怯えているのか。ただ、怯えているにしては今の返事はひどく無関心だった。10歳前後の子供に対してどこか気まずさを感じてしまう。


「サーシャちゃん、私の家に行こっか。」


極めて明るい声音で話しかける。しかしサーシャちゃんは作り笑顔を浮かべる私を虚な眼差しで見つめる。作り笑顔が引き攣る中、サーシャちゃんは全く別のことを尋ねてくる。


「お兄ちゃんいつ戻ってくる?」


当然私は答えを持っていない。今出ていったばかりのレイさんがいつ戻ってくるかなんて、検討つかない。


「今行ったばかりだから、分からないけど、レイさんはすぐ帰ってくるって言っていたから、きっとすぐ帰ってくるよ。」


「うん、分かった。」


「それじゃ、今日は私の家で寝ようか。」


サーシャちゃんの手をとり、私は自分の家に向かう。冒険者ギルドから家まで、10分もかからないはずなのに家までの道のりが果てしなく長く感じた。それほどまでにサーシャちゃんの気分は重たかった。サーシャちゃんをどうにか家に連れていき、擦り傷などの処置を施し、綺麗に体をふき、着替えさせる。サーシャちゃんは着替えさせられている時には既にうつらうつらしており、ベッドまで運ぶとすぐに意識を手放してしまった。翌朝もサーシャちゃんは眠ったままだった。どれだけ声をかけても、体を揺すっても、起きる気配がなかった。毒などのダメージで昏睡状態にあるのかと思い、調べてみたが特に問題はなかった。心配ではあったが私は今日仕事がある。文字が読めるのか分からないが書き置きをして家を出た。


ギルドは放火事件の対応でてんやわんやだった。一夜明けた今でも首謀者不明、目的不明の大火事。しかも下級冒険者とギルド職員が放火している姿が多数目撃されている。下級冒険者の多くが昨日の火事で命を落とすか、ギルド職員によって捕縛された。当然、ギルドの資格剥奪は免れないだろう。そうなれば10年前に既に消えた上級冒険者を含め、ギルドには中級冒険者しかいなくなる。そんな中級冒険者も昨日の火事で何パーティか被害を受けている。


冒険者の街と呼ばれたウキトスはどうなってしまうのだろうか。


先行きの見えない不安に襲われる。しかしそんなことを考える余裕がないのもまた事実。私は昨日の他種族奴隷売買の報告書を作成しながら、同時に放火事件の調査も行わなければいけない。


「メルラー、ギルド長が呼んでるよー!」


同僚にそんなことを言われた私は聞こえないふりをするかどうか悩む。どうせまた聞きたくないことを知らされる。しかし応答しないわけにもいかない。結局私は言われるがままにギルド長室に向かい、案の定知りたくないことを聞かされた。


限界まで疲れたが、家にはサーシャちゃんを置いてきてしまっている。そのため何がなんでも帰宅せねばならない。仕事に追われる同僚たちを尻目に私はこっそりと帰宅する。


サーシャちゃんは目覚めていた。ベッドの上に座ってぼんやりと人形を眺めている。


「サーシャちゃん、ただいま?」


声をかけるとサーシャちゃんの目が大きく見開かれ、顔に生気が感じられた。

しかし私のことを視認した途端に元気がなくなる。


「起きてから何も食べてないよね、何か食べる?」


どうしていいかわからない私は話を変える。サーシャちゃんは何も答えず、ただ首を振る。


そんな感じで昼は仕事に追われ、夜はサーシャちゃんと僅かに会話するという日々が1週間続いた。仕事は事件の真相が分からないため、処理しようがないとして落ち着いてきた。ギルドは原因解明のために躍起になっていたが、私としてはサーシャちゃんを預かってから彼女が何も食べていないことが心配で仕方なかった。


日に日に元気がなくなり、やつれていくサーシャちゃん。


今後どうにかしてご飯を食べさせなければ彼女の体が持たない。どうしようか。思案を巡らせていた。しかし私の心配はレイさんがサーシャちゃんを迎えにきたことで解消された。

ありがとうございました。

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