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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
メギド胎動編
151/198

151.ローチェ1

マリクの権限によって集められたのち皆一旦、今後の身の振り方について考えるため各々に与えられたフロアに戻っていた。そしてその後、慚愧とマリクの独断でレイ様捜索班が3つ作られた。まずは慚愧とオーキュロームの側近2人から構成される3人チーム。二つ目はマリクとハファザの2人。そして最後にオーフィリアの単独班だ。

慰霊教会を空にして全員で探しに行くわけにもいかなため、捜索班は<七冥王>を中心に考えられた。レイが不在となり暴走しかけているシャナや翁、猖佯などは最初から外に出すわけにはいかないとなった。そのため残るはローチェ、オーキュローム、オーフィリア、慚愧の4人。ここに残す暴走組のことを考えると4人全員が外に探しに行くわけにもいかない。無難に2人ずつに分ける話の流れになるのは必定。しかしそうなれば誰かしらがオーフィリアと2人になる状況が生まれる。相性的、そしてオーフィリアが命を狙っているためにローチェとオーキュロームは一緒にするわけにはいかない。

だから監視ついでに、襲われる可能性も低く、仮に襲われてもどうにか対処できる慚愧がオーフィリアと捜索班にまわされるのは、いわば既定路線であった。

そして<七冥王>が減った段階でシャナ、翁、オーフィリアを一緒にさせたくないという慚愧の考えが優先された結果、レイを探す担当となった。


慚愧たちがレイを探しに行ってからしばらくして、1Fの慈天の間には管理者であるローチェが一人、元の姿でぼんやり考え事をしていた。

講堂に備え付けられている木製の長椅子に腰掛け、何も考えずにルノの消えた宙を眺める。ルノが消えた直後、オーフィリアによってこの場は掻き乱された。

その後すぐにマリクが指揮権限を発動して場を収めてくれた。

皆がいなくなった慈天の間に沈黙が訪れる。

今回集まった中で、おそらく自分が一番ルノと仲はいい。

そもそもあれだけ個性豊かなメンバー。

人とコミュニケーションをとることが苦手なローチェとしては、仲良くなるのにはかなりハードルが高い。

そんなこともあって、必然的に誰に話しかけるのかとなればルノ、慚愧、オーキュロームと選択肢は限られていた。それにルノは寡黙だが、話しかければ無視するわけでもない。

なんなら静かなぶん、しっかり者の姉のような感じがした。だからローチェも話しかけやすく、今日の話し合いの時も一緒にいた。


「みんなはどうってことない感じだったけど、私は辛かったな、、、。」


レイが消えた時はあれだけ叫んでいた<七冥王>や他の仲間たちが、ルノがいなくなったことに対して何かいうことはなかった。ただルノの安否よりもその行方を気にしていた。

言われてみれば程度の痛みを実感し、みんなはレイの消息と何か関係があるのではないかと考えた。

だが、ローチェはレイがいなくなったことで空いた大きな穴がさらに広がったような気がして、ものすごく気分が落ち込んだ。



それから数日して、ルノの消息による傷が落ち着いてきたタイミングでローチェは慈天の間を掃除し始めた。オーフィリアが破壊した椅子や床を修理するために。

まずはいつも装備している鎌を箒に形状変化させて、椅子の破片や埃を集める。

それから新しい椅子を備品室から運び、綺麗に並べる。

最後にオーフィリアがつけた大きな傷。

床にはいまだに槍が刺さっている。

慚愧がオーフィリアの攻撃に気がついたおかげで誰も怪我をすることはなかったが、一歩遅れていたら防御力に特化しているセントール種のオーキュロームでも無事ということは難しかっただろう。


床を貫いている槍を一本一本取り外す。

そして大理石の床を平そうとする。


「んー、、、綺麗にならない、、」


ただ、それは生産職レベルを一つも上げていないローチェには、床を磨いて元通り綺麗にすることは到底、無理な話のため、すぐに諦めた。

そして箒を再度鎌の形に戻して削れた床を切り取る。

そこから再度備品としてストックされている大理石を嵌め込む。


そもそも慈天の間というフロアの管理者なのだから、手作業は配下にやらせればいい。

しかしローチェは管理者の中で唯一配下を持たない。

そのためなんでも一人で行わなければならないのだ。

これは別にレイが意地悪をしたわけではない。


ローチェは元々、ダイイングフィールドのとある孤児院にいたNPCだった。

そこで発生したイベント「ヘスティアの暖炉」を経て、レイが配下として迎え入れた。

配下になったため閲覧可能になったステタースには「孤児院のマザーに憧れていた。孤児院では14歳と最年長だったため、年下の子供たちの面倒をよく見ていた。

家事などが得意だが、その反面人と関わることが苦手だった。

そんな自分と、誰とでもすぐに打ち解けられるマザーに憧れ故の差を感じていた。

解放されてからは基本的に一人でいるか主人といることが好き。」

そんな解説に目を通していたためレイはこの慈天の間にローチェと後はわずかばかりの意志を持たない怪物を護衛として配置したのだった。



完全に元通りになった部屋でローチェは再び長椅子に腰掛ける。

普段ならば配役通りに仏に姿を変えて定位置に戻るのだが、どうにもそんな気分になれない。あの話し合いで皆は選択を迫られた。マリクの意見を参考にレイと出会った場所に向かう。もしくは現状維持で慰霊教会に残るか。

ローチェは選択出来ないうちの一人だった。

マリクの話を聞いて、一時はローチェもメギドを出て、あの孤児院跡地に向かおうかと考えた。レイから任された慈天の間を飛び出し、レイと初めて出会った、自分の大嫌いな孤児院に戻ろうとした。大嫌いな場所でもレイの痕跡を感じることができたらそれだけで、いく価値があると思った。でもルノの一件のようによく分からない事態が起こる可能性もある。

もし自分が今度はあの光に包まれて、レイの元に行くことができると考えればそれだけで幸せな気持ちになる。



だからローチェはいつもの仏姿でも、3mほどの死神の格好でもない、ありのままの姿でぼんやり長椅子に腰掛けている。そのまま力なく上半身だけ横に倒れ込み、項垂れる。

長い白髪をまとめることなく、そのままだらっと椅子から垂れ流す。


「レイ様、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」


意識せず、不意にこぼれた主君の名前。

レイがいなくなってしまってから何度も何度も、もう2度と会えないのではないかと考えてしまう。メギド国民の中にレイがいない世界で、生きる意味を見出せるものはどれだけいるのだろうか。少なくとも自分には生きている自信も理由もない。

あの時、あの瞬間から自分はレイのために生きることが当然になった。


「どこにいるんですか、レイ様、、、、」

目から涙が流れる。ローチェは自分の涙に気づかず、そのまま流れた状態で放置する。

自分の体の変化に気がつかないほど今のローチェはレイがいないことで憔悴していた。

それはどの国民も管理者たちも同じことではあった。

レイがいないことでまとまりがなくなりかけている。


そんな空気の中、膨大な魔力を感じた。

ローチェはわけがわからず、体が固まる。

魔力には敵意など皆無で、ただ自分個人に向けられた訳ではない。

自分のいる空間を包み込むような魔力。

その範囲がどこまで含まれているのかは皆目見当がつかない。

空間を包み込んだ魔力が可視化できるほどのものとなり、天井や壁から淡い光が差し込んでくる。


流石にローチェは体を起こし、あたりを見回す。

敵意を向けられていないためまだ戦闘体制には入らず、様子を伺う。

あまりの未知の現象にローチェが困惑した状態でいると、一瞬体が浮遊感に包まれる。

特に体が浮いたりしたわけではないが、ジェットコースターから落ちる瞬間に感じるフワッとした現象が起きた。


だがローチェはそんなことを気にしている余裕はなかった。

自分の中に空いた穴が埋まる感覚を得たからだ。

さっきの困惑とは異なり、勢いよく周囲を見渡す。

自分の求める存在はいない。

今度は勢いよく立ち上がり、慈天の間の出口に向かう。

慈天の間はメギド慰霊教会のF1にあるため扉を開けるとすぐ外に繋がっている。

レイはメギド国の王であるために一応、王城を作成しているがクラン戦などで利用する陣地、メギド慰霊教会は別にある。あくまで教会をコンセプトにしているため王城の一角にあるのではなく普通に街外れに位置してる。

扉を開けると普段ならば他のメギド国民が生活する一区画が目に入る。


しかしローチェが目にしたのは周囲360°綺麗なほど何もない更地。

そして更地にいる数人。

鎧を装備した大男は人を抱えている。その左右に二人の人間が膝をついていた。

さらにその手前に血を流して倒れている長白髪の男性がいる。


ローチェは困惑した。

全身鎧の大男のことを知っていた。

自分と同じ<七冥王>の一人である猖佯。

しかしどうして外にいるのかわからない。

猖佯はこの間の会議の時も姿を見せず、B4の亜暴の間に閉じこもっていた。

どうしてわけのわからない人間を抱えて外にいるのだろうか。

それに何より気になったのは猖佯の手前に倒れている男性。

その人物を見るだけで胸がいっぱいになる。

自分の主君であるレイは長髪だが、綺麗な黒髪をしていた。

今目の前に倒れている男性。

髪は確かに長いが、アルビノの自分くらい白い。

猖佯は何も言葉を発しない。

それがこの空間の異様さを助長させる。

ローチェは少しずつ倒れている白髪の男性に近づく。

心臓が嫌な鼓動をたてる。

近づくほどに心が満たされる思いになるが、その一方で倒れている男性の容体が気になる。

白髪男性との距離がだいぶ近くなったことで、彼の左腕が綺麗に切断され、血が流れ出ているのを確認する。

慎重に歩み寄っていたが驚きのあまり、駆け寄ってしまう。


「大丈夫ですか?」

反応はない。

ローチェは違って欲しいと思いながら、倒れ伏す男性の顔を確認するためにゆっくり起こす。顔を確認したことでローチェの赤い瞳が大きく開かれる。


「レイ様!?!?」


嫌な予感が的中してしまった。

レイに会いたいとずっと願っていたが、こんな再開は想定外すぎる。

何がどうなったら、覇王である主人が左腕を失い、倒れることになるのか。

全く理解できない。


「どうなっているの、猖佯!」


滅多に声を張り上げることはしないローチェにしては珍しく、腹の底から声を出して猖佯に尋ねる。状況がわからず困惑した上に、倒れる主人を放って突っ立ていた猖佯に憤りを感じた。しかし猖佯はただ黙って立っているだけで反応する気配がない。

レイの様子を見る限り、事態は一刻を争うため話す気がない猖佯に構っている時間はない。

ローチェは姿を変形させる。

戦闘時によくする姿、3mほどの死神になり、意識を失っているレイを抱き抱え、慈天の間まで運ぶ。


慈天の間に到着するとローチェは誰に助けを求めるかを考える。


この時ほど、自分に回復系の能力がないことを恨んだことはない。

それに部位欠損をしているレイを見たときにルノがいたらよかったのにと思う。

しかしルノはいない。

あの医者に頼むのは、、、。


結局ローチェはどうしたらいいか分からず、階下のオーキュロームを呼びに向かった。


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