15.資料室の番人1
よろしくお願いします。
翌朝、ラールとサーシャと軽く話したのち、レイは情報を求めて冒険者ギルドまで足を運んだ。ギルドに入ると、昨日以上に人がいて、4つあるカウンターの3箇所は長蛇ができている。残りの1箇所カンター、メルラのいる場所は人、一人おらず、メルラはのんびりと書類に目を通している。正直あの長蛇の列に並ぶ気になれず、メルラのいるカンウンターに向かう。
「すみません、ここはS、Aランク冒険者せん・・・ようですってレイさんじゃないですか。」
途中までメルラは、自分の前にやってきた人をランク分けの仕組みを知らない冒険者だと思い顔を上げずに適当に流そうとしていた。
「おはようございます、メルラさん。
他のカウンター混んでいたからこっちでお願いしてもいいですか?」
「はい、おはようございます。
レイさんは特別いいですよ。それに暇なので。
あ、違くて、えっと今日はイーリさんと一緒じゃないんですね?」
あからさまな話題転換をしたメルラだったが、昨日あれほど仲良くパーティの話をしていたのにも関わらず、初日から早速レイが一人でいることに疑問を抱き不思議そうな表情を浮かべている。
「はい、色々ありまして・・・。
とりあえず当面はソロで活動していくことになりそうです。」
レイは昨日のことを思い出し、どう説明していいか困り、頭をぽりぽりと掻いて適当に流す。
「え?そうなんですか?
でもまぁパーティに加わることは自分の命を預けるってことですから慎重になりますよね。
私的にはイーリさんのいるパーティ以上に安全な場所はないと思いますけど・・・
あ、っとすみません、話がずれてしまいました。
今日はどういったご用件で?」
「少し調べ物をしたいんですけど、ここには資料室みたいな場所はありますか?」
「資料室なら3階にありますよ。」
「3階に。というかここって3階もあるんですね。」
「ええ、1階に受付と酒場。それにギルド職員の部屋ですね。2階にはギルマスの部屋だったり、密談部屋があります。そして3階に資料室って感じですね。」
「でも一階にこれだけ人がたくさんいるなら上階もたくさんいそうですね。」
レイは隣の冒険者の長蛇の列や依頼書の周りにたむろする冒険者たちを見回す。
「上に行けば行くほど人は減っていきますよ。
何せ資料室は冒険者になってから引退するまで利用されない方もいるくらいの場所ですからね。利用率とかから自然と上に追いやられてしまったとか。
それに量も莫大ですし。
あ、ただ見ることの出来る資料は冒険者ランクが関係してきますから、今のレイさんが見れるのはGランク、Fランク資料だけですよ。」
自分の命を助けてくれるかもしれない情報がある前でそれを放置する冒険者が意外と多いことに驚くレイ。
「そこも冒険者のランクが関係してくるんですね。」
「はい、高ランク冒険者になるほど閲覧できる資料は増えていきます。
それに各ギルドに置かれている一般資料はどこも同じですけど、そのギルド周辺特有の事柄に関する資料や種族特有の情報は各ギルドにしか置いていないらしいのです。
頑張ってランク上げてくださいね。」
メルラは両の手を握りしめガッツポーズをとる。
「ええ。頑張ります。
ひとまず探している資料があるか見てみてたいので3階に行ってみますね。
ありがとうございました。」
ギシギシと軋む割に丈夫な木製の階段を上がり、3階に到着した。
メルラさんの言っていたように人気は全くない。
ウキトスのギルド建物は階がしっかり区切られているため、上に行くほど下階の喧騒も遠くなっていく。3階まで階段を登り切ると気持ちばかりの空き空間があり、その先に「ギルド資料室」と書かれた看板がある。扉の向こう側からは物音一つ聞こえてこない。
恐る恐る扉を開けていると
「おや、こんな朝っぱらからここにくるなんて珍しい冒険者もいるんだね。」
扉を開ききる前に声をかけられる。
扉を入って左側のカウンター越しには読んでいた本から視線を外しこちらをみてくる小柄な老婆が座っていた。老婆の声はしゃがれており久しぶりに言葉を発したようにすら感じられる。顔には深い皺が刻まれているものの決して侮れない雰囲気を醸し出していた。
「おはようございます。
資料を確認したくてきたんですけど、ここに地図みたいなものはありますか。
それと迷宮について詳しいものがあったらそれも見たいんですけど。」
レイが資料について尋ねると老婆はレイの頭から足先までを何往復か観察する。
「あんた見ない顔だね。と言ってもワタシャここから出ることが滅多にないからそもそも野郎どもの顔なんて覚えなんだがね。
えーっと地図と迷宮についての資料?
ほれ、あんたの冒険者カードを見せてみな。」
老婆に冒険者カードを渡す。
「Fランクのレイだね。なんだ新人冒険者じゃないかい。」
「はい。レイって言います。よろしくお願いします、ええと、」
「ワタシャ、ゾンバっていうよ。別に生い先短い老婆の名前なんて覚えなくていいよ。
それよかすぐに依頼に飛び付かずに情報を得ようとするなんてあんた見込みあるね。
まぁそうして命を大切に慎重に、臆病にしてりゃよっぽど不運じゃない限りDランクくらいにゃなれるだろうよ。」
新人冒険者が資料を見に来たことで何かを感じたゾンバは腕を組み、うんうんと唸る。
「すみません、資料は・・・?」
「悪いね、人が来たのなんて久しぶりだからね。ついつい無駄話をしちまうんだよ。
でもあんたFランクだから最低限の資料しか見れないけど、見る資料はそれでいいのかい。
もっと薬草とかの資料見といた方がいいんじゃないかい。どうせこれから採取依頼を受けなきゃいけないんだから。」
「採取依頼ですか?」
「ああそうだよ。Gランクのガキと駆け出しのFランク冒険者にいきなり魔物の討伐だったり危険な迷宮に行ってアイテムを探させるわけないだろう。そんなことさせてたら命がいくつあっても足りないよ。まぁ勝手に迷宮に潜るバカはいるんだけどね。最初は危険度の低い森に採取させたりするんだよ。冒険者として必要な薬草の知識をつけさせたりするためにね。なんだい受付嬢から聞いてないのかい?全く若くて野郎どもからチヤホヤされるからって仕事を適当にするなんて考えられないね。」
レイの場合はS、Aランク担当のメルラに初期登録をしてもらったため彼女が説明をし忘れていたのか、それともFランク冒険者の登録をしたことがなくて知らなかったのかわからない。メルラに何も失態がなかったことを伝えてもゾンバの話はどんどん横道に逸れていきそうなので本題に戻る。
「薬草についても追々お願いします。
ひとまず今日はFランクで閲覧可能な地図と迷宮についての資料を見せてもらってもいいですか?」
「見ていい範囲のものなら勝手にしな。
ただし汚したり破いたりしたらダメだよ。それと持ち出しも厳禁。いいかい?」
提示したルールに了承するとゾンバはレイの後ろ奥に視線を向ける。
「FランクGランクの見られる資料は突き当たり奥の棚一列だよ。
冒険者カードをかざすと欲しい本を聞かれるから、適当に選択しな。
さっきも言ったが持ち出しは厳禁だからそこらへんにある椅子に座って読みな。」
棚に読みたい資料を聞かれるという意味わからない説明に物足りなさを感じつつも、やってみればわかるかと思い、ゾンバにお礼を言ってF、Gランクに許可されている棚に向かう。これだけ他ランクの資料も同じ場所に並べていたら普通に読めてしまうのではないかと思ったが、それぞれの棚にはガラスのような板が貼られており、見れないようにされている。棚は右から(ゾンバに近いカウンター側)A、B、C、D、E、FGと並んでいる。
FGの棚の前に立つとその棚もガラス板の扉が付けられており、見ることができない。どうすればいいのかと棚の周囲を見渡す。棚の突き当たり奥にちょっとした出っ張りが存在していた。棚は2mくらいの高さがあり、そのちょうど真ん中あたりに謎の出っ張りはあった。その出っ張りの上には丁寧に「ここにカードを置いてください」と説明されていた。
元いた世界の電子IDにそっくりであったため異世界版のセキュリティシステムに感嘆する。そして冒険者カードをFGランクの棚にかざす。
すると冒険者カードをかざした上に
・文字
・算学
・歴史
・地理
・薬草
・魔物
・武器
・魔法
・迷宮
・ウキトスの歴史
様々なカテゴリーが映し出される。
操作もタッチパネルのような仕組みになっている。
色々と気になること物はあるが、まずは当初の目的通りに「地理」と「迷宮」を選択する。
選択すると画面は資料のタイトルに切り替わる。レイはその中からいくつか気になったものを選択する。ガラス板が左右にスライドしていき、その間から資料が少し飛び出てくる。
そこはもう少し自動的に手元まで運ばれてくるようにハイテク感を出して欲しいと思いながら、飛び出ている資料を手に取る。何度か同じ工程を行い、欲しい資料を得て満足したところで椅子に座る。席についたレイは当たりを見渡す。こちらの席からはカウンターに腰掛けるゾンバが見えた。ゾンバはこちらのことなど全く気にしない様子で先ほど読んでいた本の続きに目を通している。ゾンバ以外には誰もこの資料室にはいないようで、ゾンバが本をめくる音だけがこの空間に流れていた。
資料室には時計が置かれていなかった。
そのためどれくらい時間が経過したのかわからなかったが、知りたかった「この世界の地理」と「この世界にある迷宮」についてある程度わかった。
調べていくうちに新たに疑問に思うことがあったがこれは冒険者ランクを上げて閲覧できる資料レベルをあげるか、誰かに聞いてみる他ないと思い諦めた。
ありがとうございました。
キリ悪いですが、この後色々新しい国名とか出てくるので一旦分けます。
今日、明日には更新すると思うのでよろしくお願いします。




