148.ハーモニーvs40層迷宮ボス(閑話2)
閑話のため分けたくなくて、今回長いです。よろしくお願いします。
「それじゃあ、進むぞ。内容は頭に入れたな?」
イーリの問いかけに対して首肯する5人。それを確認したイーリは両開きの扉を押して開く。イーリの小柄な身体はその扉の大きさをより際立てており、後ろの5人は扉の先にいる存在に対して警戒をしている。
イーリたちハーモニーの面々は都市国家連合のミャスト迷宮から攻略場所を変えて、現在は鋳造国家ガレープのイスネル迷宮を攻略しに来ている。難易度はミャスト迷宮と同じだが、現れる魔物の系統は全く異なる。ドワーフの国というだけあって、ここの迷宮に現れるものはほとんど全てが岩石に関係する魔物だった。ミャスト迷宮は属性、系統と様々な魔物が出現するため、対応力が求められる。反面イスネル迷宮は岩石系の魔物に対して特化した力を求められる。
ハーモニーは現在39層を突破してこれから40層のフロアボスに挑もうとしていた。イーリからの攻略手段や相手の弱点などを聞き、準備をする。今回挑むのはシィリー、ノログ、クレム、レグリナ、フィール、そしてイーリの6人。ハーモニーは現在7人パーティのためほとんど全員がこの攻略に参加している。というのも今回のイスネル迷宮の攻略は何か特定の目的があってのことではない。イーリによるメンバーの根性叩き上げが主な理由となっている。これまでは個々のぶつかり合いが多いため、大依頼以外は特に行動を一緒にしていなかった。それぞれの個性があり、必要な時はしっかりと協力しあい行動できていたためイーリもこのメンバーならばそれで問題ないと考えていた。しかし、先日レイの一件があった。それにより、イーリの認識に変化が生じる。彼らは互いを認めているのではなく、必要だからその場限り協力しあっているということに気がついた。そのため、元から衝突の多いシィリーやレグリナも全てまとめて行動させ、イスネル迷宮を攻略する過程で相手のことを尊重できるような成長を遂げてほしいと考えた。そうすれば彼らもレイのような相手に対しても敬意を持って接してくれると思ったのだ。
そうして1層から攻略を開始して、ようやく40層まで辿り着くことができた。これまでの過程で何度も衝突はあった。しかし、時間をかけて話し合い、進んだ。最初はことあるごとに煽りあっていたシィリーとレグリナも次第に話し合い頻度が増え、寡黙なフィールも意見を出し、イーリのみに傾倒していたノログも率先してパーティメンバーの支援を行なった。物忘れの激しいクレムだけはいつも通り盾役を努め、色々と物忘れをして何も変わらなかった。
40層に繋がる扉をイーリが開けた。扉の先は広大な岩石地帯が広がっていた。ここ、イスネル迷宮に入ってからはずっと岩石地帯だったため特段驚きはない。6人は警戒心を強めて、岩石地帯に足を踏み入れる。岩石地帯のフィールドは見通しが悪く、魔物の接近に気づくのが遅れてしまうことがある。何より、イスネル迷宮の魔物は岩系統の魔物しかいないため、ガーゴイルなどの人型よりのものはまだしも、ゴーレムなどの不定形のものは本当に気が付きにくく、迷宮に入ってからも何度か不意打ちをされている。
「ここはさっきのとこと違って苔がびっしりだな、ヒャヒャヒャ、お前注意しろよ」
先頭を歩くのはフィールとシィリー。20層を超えたあたりからシィリーはコミュニケーションが苦手なフィールの間に入ってパーティ内に必要な情報を伝える役割を担っている。2人が先頭を歩き、盾役のクレムが真ん中、魔法を使うレグリナと回復薬のノログが後方。さらに後ろをイーリが歩いている。
しばらく進むとフィールのエルフ耳がピコピコと反応を示す。それからシィリーと一言二言交わしたかと思えば、彼らは進行方向を変える。
「おい、右側に進むぞ。そろそろ準備しとけよ、レグリナ」
「はいは〜い」
「ヒャヒャヒャ、本当にわかってんのか。ミスるんじゃねぇぞ、クソガキ」
「うるさいなーわかってるってー、そっちこそ奇襲で勝手に死なないでねー私が困るからー」
シィリーとレグリナのやり取り。一見険悪そうに見える両者だが、この迷宮に入ってからだいぶ落ち着いた。そこからまた、無言で周囲を警戒しながら進む。
再びフィールの耳がピコピコと反応した時にはこの迷宮に入ってから初めて湧水のエリアを発見した。
「いた。」
フィールがボソリとつぶやく。この迷宮に入った頃は誰も気が付かなったこの索敵による敵発見の報告。しかし、今は違う。補助に入ったシィリーがフィールの声を聞き漏らさない。
「ヒャヒャ、敵発見したぞ!レグリナ、あの下流の水たまりあたりにある岩に向かって仕掛けろ!」
『灼熱の風よ 炎となりて 全てを飲み込め 紅蓮の嵐』
「うるさいなー言われなくてもやるから、黙って死ねー」
シィリーの指示に対して悪態をつくレグリナ。しかし、魔法はしっかりと発動させて、シィリーが指差した岩石めがけて赤魔法の中でも威力の高い『紅蓮の嵐』を叩きつける。岩石にまとわりついていた苔は全て燃え落ちた。今の威力ならば当然岩石も粉々に砕け散る。
しかし、レグリナが魔法を叩きつけたのはただの岩石ではなかった。『紅蓮の嵐』により炎の嵐が吹き荒れる中、けたたましい獣の叫び声が岩石地帯に轟く。
「ギュルギャぎゃぎゃああああああ!!!!!!」
「もーこっちもうるさい。獣はさっさとしねー」
レグリナが小さい身体を縮こませながら文句をつぶやく。
『天の祝福よ 我が仲間に力を与え 勝利へ導け 祝福の光』
『聖なる力よ 我らを守護し 不浄を遮れ 聖なる守護』
「視線を外してはいけませんよ」
耳を塞ぐレグリナを戒めながら、後方からノログが味方全員に聖属性の支援魔法をかける。これにより音響対策と、全体の身体能力がわずかに向上した。ノログが唱えている間にフィールとシィリーはそれぞれ、今回のターゲット40層ボスのクラッグサウルスの死角に回り込む。
一方、レグリナからの攻撃を受けたクラッグサウルスは突然の出来事にまだ混乱していた。自分のアダマンタイトと同程度の硬さを誇る体にダメージが通ったことなどそうそうないため、すぐに怒髪天に達し、咆哮によって襲撃者たちを威嚇する。それから自分に攻撃をしてきたであろう存在を見つけると、再び魔法を放つ準備をしている姿が見えたため、打たせまいと接近する。
レグリナが2発目の『紅蓮の嵐』を放とうとしているとグラックサウルは10mはありそうな岩石塊の巨躯でレグリナに向かって突っ込んでくる。
『防御強化』
『鉄壁防御』
後方にいるレグリナを守るために、クレムは自身の防御力をあげてから、盾職の技能を発動させて、グラックサウルスの突進攻撃に耐える。Aランクパーティの盾役を1人で担うだけあり、クレムの防御力は伊達じゃない。しかし、怒り、力のまま突進してくるクラッグサウルスの攻撃は流石に完全に防ぎ切ることができずに盾越しにダメージを追ってしまう。盾を構える左腕が折れたようで、2発目を耐えることは難しい。
しかし、クレムの状況などクラッグサウルスには知ったことではない。一度止められると、怒りはより増して、わずかにタタラを踏むとさらなる力を込めてクレムの後方にいるレグリナに向かって突進を仕掛けようとする。
クレムが耐えることができないと察したシィリーとフィールはクラッグサウルスの死角からそれぞれの最高火力の攻撃を繰り出す。
『急所突き』
『狙撃の一撃』
後方から攻撃を受けたクラッグサウルスは突然の衝撃に思わず振り返り、レグリナに対する攻撃は止まる。しかし、最初のレグリナからの攻撃とは異なり今度は全く痛がる様子がない。
「ヒャヒャヒャ、クソが!俺の『急所突き』は全くダメージ入らねぇみてぇだ、フィール、そっちの技じゃなくて爆発系のやつにしろ!こいつは炎系統に弱い!」
「場所が。。」
「ヒャヒャ、あれは広範囲系の技だったか!使うタイミングは来るから、指示出したらすぐに使えるようにしとけ!」
グラックサウルスが混乱している間にシィリーとフィールは情報を交換しあい、再び死角に回り込む。2人が時間を稼いだ隙に、ノログは聖属性魔法を使用し、クレムの傷を癒す。そしてクレムは大きく息を吐き出し、クレッグサウルスに向かって大きく息を吸い込む。そうすることでクレムの種族固有技能を発動される。
『憎悪喰らい』
『挑発』
後方からの攻撃に気を取られたクレッグサウルスだったが、再びクレム側から何か引き出されるような気がして振り返る。そして今度はクレム目掛けて頭突きを繰り出す。ノログに回復をしてもらったクレムは『鉄壁防御』によってそれを防ぐ。『憎悪喰らい』を受けたクレッグサウルスは怒りの感情を全て吸い出されてしまったため、レグリナへの怒りは消え、純粋に盾役による『挑発』の効果でクレムに攻撃するように仕向けられていた。怒りが消えたためか一撃でクレムの腕が折れるというようなことはなかった。しかし、悠長に5度6度と攻撃を受け続けることもできない。
「ヒャヒャ!クレム!俺らの攻撃はダメージが全然入らねぇ!レグリナとフィールが同時に最高火力の攻撃を叩きつける。あと3回攻撃を防いだらそこから離れろ!」
シィリーは効かないと分かりながらもクレムに攻撃が集中しないように死角から『急所突き』を繰り出し続ける。全くダメージは入っていないが、気は散るようでクレムに対しての攻撃が適当になっていた。そのまま、1度、2度と攻撃を受け切った後、3度目の頭突きを盾で弾きその場から外れるために、クレムはもう一つの種族固有特殊技術を発動させる。
今度は息を吸い込むのではなく、大きく吐き出した。
『夢幻の霧』
これはクレムの技能で、対象の視界にのみ幻覚の霧を発生させる。それにより、クレッグサウルスはクレムを見失い、周囲をキョロキョロとし出す。そこから数拍時間をおいたことでクレムが離脱したと判断したフィールとレグリナは準備していた技を発動させる。
『爆裂弾』
『灼熱の風よ 炎となりて 全てを飲み込め 紅蓮の嵐』
自分にしか見えていない霧により、クラッグサウルスは攻撃に全く気が付けずモロにダメージを喰らってしまう。先ほど同様に燃えるような熱さに加えて今度は体の至る箇所が破裂する痛みに襲われる。
「ギュルギャぎゃぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
先ほどよりも一層深い痛みにクラッグサウルスは地面にのたうちまわりながら、湧水に突っ込んでいく。クラッグサウルスの突進よって周りの岩石が壊れ、湧水の流れは大きく変化し、水が周囲に飛び散る。
今のうちに追撃を仕掛けるために、レグリナとフィールは再び準備を始める。
『爆裂弾』
『灼熱の風よ 炎となりて 全てを飲み込め 紅蓮の嵐』
そして2人同時に技能と魔法による攻撃を放つ。2人の攻撃は狙い誤らずクラッグサウルスに直撃した。吹き荒れる炎の嵐と爆裂音が岩石地帯に広がる。
しかし、クラッグサウルスの悲鳴は聞こえなかった。先ほどと異なり、攻撃が当たったにも関わらずクラッグサウルスは全く声を上げない。
その様子にレグリナとフィールは互いに顔を見合わせて一息ついた。声が聞こえないということは、すなわちクレッグサウルスの絶命を意味するからだ。周りのパーティメンバーもやったかと場の空気は弛緩し始めていた。攻撃の余波が過ぎ去るのを待ち、煙が立ち消えると眼前には無数の石礫が宙に浮いていた。
「下がれ!!!!!!!!!!!!!!」
最初に気がついたのはシィリーだった。まだ終わっていないということを理解すると後方にいる味方に向けて大声を発する。
後方にいたクレム、フィール、レグリナ、ノログはシィリーよりも遅れてまだ終わっていないことに気が付く。
「俺の後ろに!」
慌ててクレムが盾を構えて攻撃から身を守ろうと動く。それに合わせて3人も動いたが、位置関係上、レグリナとノログが間に合わずに攻撃を受けてしまう。
盾に入りきれなかったレグリナの右半身が飛んできた石礫によって吹き飛ばされる。ノログは咄嗟に両腕を頭上で交差させて頭を守ったが、石礫はノログの下半身を吹き飛ばした。頑丈なクレムの盾もあと数発攻撃を受けていたら貫通していた。それほどの威力の石礫が飛んできた。最初の怒り任せの突進よりも強い攻撃だった。不幸中の小幸なことにその攻撃は対象に狙いを定めて攻撃できるものではなく、無差別に自分の周囲に飛ばすものだったことだ。そうでなければ今頃近くにいたシィリーはもちろんのこと盾でガードしたクレムやフィールも命はなかった。
回復薬のノログとクレッグサウルスに致命打を与えられる攻撃役のレグリナが戦線を離脱せざるを得ない状態になったことで、今回率先してパーティを動かしていたシィリーが声を上げる。
「参った!!!」
そう言ってすぐさまクレムたちの方に駆け寄り、レグリナとノログを抱えて戦線から離脱する。それにクレムとフィールも文句を言わずについていく。
ハーモニーの40層攻略は失敗に終わり、そして同時にイスネル迷宮の攻略も終わりを告げた。
「部位欠損は私ではどうにもできない。これは帰還結晶だ。場所は今の拠点に設定してある。2人の治療を最優先に動け。あと、2人の様子はシェリーリには見せるな。刺激が強すぎる。私はあれを殺してから戻る。1週間もあれば戻れるだろうから、話はそれからだ。」
帰還結晶を渡して、ある程度要件を伝えるとイーリはクラッグサウルスに向かって疾駆する。
その様子を悔しげな表情で見るシィリーだったが、2人の容体が危険だと思い返し、慌てて帰還結晶を使用した。
シィリーたちが帰還結晶で帰ったあと、イーリは眼前のクラッグサウルスに目を向ける。イーリと今戦っていたハーモニーの面々は同じパーティの仲間だ。それならば今5人がかりで勝てなかった相手に、イーリが1人で勝てるのかと疑問に思うものもいるかもしれない。しかし、ハーモニーを昔から知っている人たちは何も心配をしていない。なぜならハーモニーはしばらくの間、イーリとアクティオンという絶対的な個の力の象徴がハーモニーをA
ランクパーティーたらしめていたからだ。それはパーティーメンバーも知っている。個人ならばSランクと言っても何も問題のない実力。自分たちが足を引っ張りAランクで止めさせてしまっていると思っているほどこの2人と残りのメンバーの実力差は大きい。
『雷の祝福』
クラッグサウルスに向かって駆け出しながら技能を発動させ、気がつけば既に二振りの剣を装備している。シィリーの様子から剣での攻撃など通用しないように思える。また、剣を気にする以上に、まずは四方八方に乱射されるクラッグサウルスに対処しなければならない。しかしイーリは当たり前のように攻撃を全てすり抜け、クラッグサウルスの目の前まで到達する。その間、たったの2秒。乱射攻撃はまだ着弾していないものの方が多い。そして乱射攻撃が岩石地帯に着弾するのと同時に、雷を纏った剣閃がアダマンタイト同様の強度を誇るクラッグサウルスの周囲で煌く。今のクラッグサウルは生物の姿ではなく、巨大な岩でしかない。当然人体のように硬い場所、柔らかい場所の区別などなく、すべてがアダマンタイトと同様の強度を誇る。しかしそんなことは知らないというようにイーリが振るった剣は滑らかにクラッグサウルスを切断していく。
レグリナたちの魔法を受けた時のように悲鳴を上げる間も無くクレッグサウルスの命は尽き果てた。
「ふぅ、、、。終わった。帰るか。」
一息ついてクレッグサウルスの素材を魔法袋の中にしまう。1人でいると誰とも会話をすることがないため、イーリは考えていた。先日の一件を。ハーモニーというパーティはイーリたちがどんな種族とも手を取り合えることを証明することも目的の一つだった。それなのに、彼らはレイという存在を弾き出そうとした。いつもは適当なことを言っていても子供への面倒見が良かったり、先ほどのように迷宮攻略では真面目に動く様を知っているだけに彼らのレイへの対応に納得ができなかった。イーリは別に、強きものが弱きものを守らねければいけないという思考をしているわけではない。ただ、強きものが弱きものを率先して迫害するのは違うと思っている。だからこそ、自分の仲間は尚のこと許せなかった。迷宮にこもり集中することでそのくだらないことに対する意識が変化するのではないかと考えてイスネル迷宮の1層から最終階層までの攻略に乗り出した。もちろん今のメンバーで、それもアクティオン抜きで攻略できるとは思っていない。むしろ簡単に攻略されては困る。命の危機に瀕してこそ、人は己の本音が曝けでるとイーリは考えている。だから殺す気は全くないが、危険な目にはあってもらおうと考えていた。そして40層でそれは起こった。しかし、彼らは醜い部分が現れなかった。仲間の危険を即座に判断して撤退を決めた。だからこそ、イーリは自分のパーティメンバーがより分からなくなっていた。
色々と思考の海にハマっている間に20層にまで戻ってきていた。30層ですらボスがリスポーンしていたため、当然20層のボスであるガーゴイルたちも20層エリアの石城の眼下にいると思い武器を準備していた。しかし、扉を開ければそこには祭服を身に纏った者たちが10名ほどでイーリのことを待ち構えていた。一瞬条件発生のレアボスが出現したのかと考えたイーリだったが、祭服に記されている錫杖と2匹の蛇を見て露骨に顔を顰めた。
「お久しぶりです、イーリ様。」
イーリがこの団体のことを無視して通り過ぎようと動き出す前に声をかけられて足を止めてしまう。
「なぜ教皇補佐の貴様がこんな他国の迷宮に?」
「他国と言ってもガレープは我が聖国と隣り合っていますし、良好な関係を築いております。本日はハーモニーの方々がこのイスネル迷宮に潜っているという話を伺い、参りました。こちらに椅子を用意しておりますのでよろしければお掛けになってください。」
この金髪碧眼のゆるふわヘアーの男をイーリは非常に嘘くさい男だと評価している。若くして聖国のトップである教皇の補佐役にまで上り詰め、性格は温和、見た目もいい。しかし、どこか嘘くさい。イーリの目にはそう映っていた。それにイーリはとある事情から聖国が嫌いだった。そのためできる限り接触は避けたいと考えており、隣国のイスネル迷宮に潜ることすら必要最低限の人にしか伝えていなかった。それなのにイーリはイスネル迷宮内で聖国の教皇補佐から軽くとはいえ、歓待をされている。
「他のハーモニーの方々はどうされたのでしょうか?」
そんなイーリの心中は当然スルーされて、エールは話しかける。
「怪我をしたからrホームに戻っている、知っていただろう私が1人になったことを」
イーリの問いかけに胡散臭い笑みを浮かべるエール。知らないことであれば知らないと答えていい。答えないのであれば知っているということになる。しかし、イーリたちがイスネル迷宮に潜っていることすら知っているものは少ない。他国の重鎮が1冒険者パーティの迷宮からの帰還など知ることがこの短い時間で知ることはできるのだろうか。
「それで、一体何の用だ?」
「以前にもお話しいたしましたが、我々の目的に協力していただけませんか?」
「前も伝えてたが、断る。」
「では、我々の行動に関わらないで頂けますか?」
「今回、イスネル迷宮に潜ったのはちょっとしたイレギュラー。もちろん関わるつもりはない。」
「イレギュラー、ですか。レイ様との一件、あれはイレギュラーだと?」
エールの口からレイの名前が出た途端にイーリは椅子を倒す勢いで立ち上がり、驚いた表情を浮かべてエールを凝視する。無論その表情は白狐の仮面によってエールたちには見えていない。しかし、イーリの様子から驚いていることは伝わる。
「失礼しました。あまり深いところまで追求するつもりはありません。ハーモニーの方々が我々の行動の妨げにならないというのであれば何も問題はありません。協力のお断りは残念ですが、少しずつ理解しあっていきましょう。」
「私はお前たちが危害を加えてこない限り何かをするつもりはない。もういいか、帰って」
「申し訳ありません、お話はもう一つ。ハーモニーにギルドを通して依頼を出しております。それをぜひ受けて頂きたいのです。」
「ギルドへの依頼?」
「はい。」
「内容は?」
「ギルドでも詳しく説明があると思われますが、内容は迷宮への同行依頼です。我が国に聖女様が誕生されました。国家機密となりますので詳しくは申し上げられませんが、聖女様の能力を完成させるためにネフェルシア迷宮の攻略が必要となるのです。是非ともイーリ様にご助力いただきたい。」
「我々はイスネル迷宮の攻略に失敗した。力になれるとは思えない。」
「イーリ様、こちらに聞き耳を立てるものなどおりません。謙遜されずともよろしいのではないでしょうか。」
「謙遜でなく、事実だ。」
「そうですか、そうなりますと我々とは縁がありませんが、都市国家連合の冒険者ギルドにでも依頼を出す以外に取れる手がなさそうですね。仕方がありません。」
「な、なぜ!?」
「なぜと言われましても、他に依頼を受けてくださる方に心あたりがないのです。お恥ずかしながら、聖国やガレープには突出した実力の冒険者パーティは存在しません。竜国や獣国には宗教上の理由から援助は求められません。クラーヴ王国は王家に戦力を集中させてしまっている以上残るは都市国家連合国だけなのです。」
そう言って再び嘘くさい笑みを浮かべるエール。今回の笑みがより嘘くさく見えたが、これは自分だけの見間違いではないとイーリは内心でつぶやく。本来であれば都市国家連合国にハーモニーに並ぶ冒険者パーティなど存在しない。そのためこんな話なんて適当に流してしまっても問題はない。しかし、レイとの関係がどこまでかは知らないが把握されてしまっている以上、直接依頼が入るかもしれない。レイの来歴を考えるとクラーヴ王国ではなく聖国逃げ出てきたのかもしれない。そうでなければレイとの関係を把握されている理由がわからない。そうなるとイーリとしてはレイのためにも依頼を受けない選択肢など残されていなかった。
「都市国家連合でも私たちハーモニー以外Aランクパーティーはいない。依頼の期間、報酬、注意事項は?前向きに考える。」
イーリがそう答えるとエールはより一層嘘くさい笑みを深めて話を進めた。
それから聖国の連中との話し合いを終えて、イーリは残り20層を走った。迷宮から抜け出して、ホームに戻ったイーリが最初に聞いた知らせは、クレムとアクティオン以外のメンバーがハーモニーを抜けたことだった。
自分で色々設定作りすぎて分からなくなって雁字搦め状態。泣きたい。
ありがとうございました。




