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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
143/198

143.足音5

よろしくお願いします。

144.

狐人よりも先に、イルゾドが先に部屋に入り、その前に立ちはだかった。まるで自分達を守るかのような振る舞いに訳がわからず、静観しているとイルゾドが声を上げた。


「待ってくれ、プロマリアのことは助けてやってくれ!頼む!」


「プロマリアさんとはどちらの女性のことですか?そもそもいきなり殺したりはしませんけど。人を殺人大好き人間にしないでください。」


質問プラス反論されたイルゾドは後半の反論部分に対して内心で反論し返したのち、後ろを振り返る。部屋に入った時は是が非でも自分の惚れた女を守りたいという一心で黒狐の前に立ち塞がった。そのため、部屋の中をしっかり確認したわけではない。背後には一体何事なのだと言った様子でこちらをみており、プロマリアに加えてなぜかマオもいた。レイの言ったように、ヤックルムの様子を見た限りではプロマリアが突然殺されるわけもない。ただ、イルゾドは追加依頼とはいえ、白山羊亭の姉妹を奴隷に落とそうと自分に依頼を出してきた相手であった。プロマリアがきっかけではないにしろそんなことをしていると黒狐が知ったら間違いなく、プロマリアは殺される。レイがプロマリアと白山羊亭の関係を知らないと把握していながら、後ろめたさや焦りからイルゾドは動いてしまった。


「どちらが<ディプロマ>のトップの人ですか?」

理由は知らないが突然イルゾドは自分の前に現れて訳の分からない懇願をしてきた。そして一言言い返したら、何を思ったのか知らないが黙り込んでしまった。イルゾドが話し出すのを待っている理由もないためレイは2人の女性に話をふる。1人は綺麗な金髪の長髪で、男ウケしそうな体の女性。もう1人は背が小さくオーバーサイズの服を着ているメガネ女。仮にこの場にもう1人男がいれば、その男が<ディプロマ>のトップで、金髪女性は娼婦か何かなのだろうとレイは考えただろう。しかしこの場には女性しかいない。もしかして、そういう趣味の持ち主たちなのかと思いもしたが、全く衣服が乱れている様子はない。そうなれば、どちらかは全く関係ない友人か何かなのだろうとレイは考える。


「・・・・私がプロマリアだけれど、これはどういうことかしら。」


レイの問いかけからしばらく間が空いたのち、娼婦風の女性がおずおずと手を挙げた。女性の問いには答えず、レイはそのままメガネ女の方に視線を向けて、誰かと問う。無視されたプロマリアはムッとした顔になったが特に何かをいうわけではなかった。その代わりにメガネ女の方はレイの問いに答えた。


「私はマオ。<ドゥラグ>の長だ。お前は誰だ?」


「あ、あなたが<ドゥラグ>のトップの方なんですね。

館にはいなかったのでどこにいるんだろうなって思っていたところなんです。こんな時間に2人でいるなんて仲がいいんですね。ロク商議会は皆、関係があまり良くないと聞いていたんですけど、違うんですか?」


「館にいなかった?私を探していたのか?」

質問の答えがなかったことは特に気にせずマオは再度別の疑問を投げかける。


「いや、ロク商議会のトップの方を探していたんです。全員殺そうと思ったので。」


「な、、、、、なぜだ?」

驚いたのは会話をしていたマオだけではなかった。隣にいたプロマリアはもちろん、おとなしくついてきたイルゾドとヤックルムも皆一応に動揺してしまう。


「どうしてって、報復ですよ。一度警告はしたんですけど聞いてもらえなかったので。」


「警告だと?私は一切そんな話は聞いていない。そもそもお前がどこの誰だかも私は、いや私たちは知らないぞ。」


「ええ、<ドゥラグ>の方に警告を出したわけではないので。でも、えーっと、<ビューション>のナンティスに伝えましたよ。」


「それならここにいる<アンゲリーハイテン>、<スレーブン>、<ディプロマ>、それに私の<ドゥラグ>は皆、関係はないだろう。」


「いえ、俺はこう言ったんです。


『あ、そうだ。今後もし彼女たちに危害を加えた場合、ロク商議会が相手になったとしても俺は報復するつもりなのでその点はしっかりボスに伝えておいてください。

忠告をしたにもかかわらずこちらが被害を受けた場合、まずはあなたから殺しに行きます。

互いに受けなくていい傷は増やさないように気をつけましょうね。』


ですから、聞いていない関係ないは知りません。それこそ俺には全く関係ないので。宣言通り、俺はロク商議会を潰します。」


「彼女たち・・・?」


「ええ、俺の大切な人たちです。警告を無視してそこにいるイルゾドが色々とやりやがったので。」


レイがイルゾドの名前を出したことで一同の視線は彼に向けられる。


「それなら<スレーブン>の長である俺が落とし前をつければいいだけじゃないのか。どうして他の部署まで潰そうとするんだ、黒狐。」


「黒狐?ああ、あのウキトスで話題になっていた・・・・そこでイルゾドが何かをした・・・・・ああ、つまりお前の大切な人は白山羊亭の娘か、、、、、、、、」


イルゾドの発した黒狐というワードでマオの頭の中で全てが整頓された。話の流れがわかり、どうして今みたいな状態になっているのかも大方、理解した。しかし黒狐がほとんど単身でロク商議会を潰そうと動いていることに、基本動揺することのないマオですら自然と恐怖から体が震えていた。


「白山羊亭・・?」

隣からボソリと声が聞こえた。思考中に自分が余計なことを呟いたとマオは悟った。プロマリアは白山羊亭の姉妹を奴隷に落としたがっていた。経緯は知らないが、黒狐は姉妹を大切に思っていると言っていた。そんな男の手前でプロマリアは姉妹への暴言を耐えられるのだろうか。否だ。きっと激昂する。


「俺だ!俺が全て殺し屋に依頼して奴隷に落とそうとした。原因は俺にある。だから俺を、俺だけを殺せ。」


プロマリアのうつろな目から激しい怒りの炎が燃え上がった瞬間、レイの背後から怒鳴り声が聞こえる。レイが振り返り、イルゾドに視線を向けた隙にマオは今にも発狂しそうなプロマリアの口を押さえ込む。


「どうしたんですか。ここに来てからうるさいですけど。あなたはもちろん殺します。でも他の奴らも殺します。何度もそう言っているじゃないですか。」


「あんな姉妹奴隷に落ちればいいのよ!!!!」

レイがイルゾドの方に振り向き、再度同じことを告げたところ、再びレイの背後から怒鳴り声が聞こえた。レイが女性2人の方に向き直るとこれまでほとんど声を発していなかったプロマリアがものすごい形相でレイを睨んでいた。そしてその隣でマオは必死にプロマリアのことを抑えようとしていた。しかし体格差があるため同じ女性でも小柄なマオではプロマリアを止めることは出来なかった。当然、レイは2人が奴隷に落ちればいいなんて発狂している女、今すぐに殺したかったし、殺そうとした。しかし体が思うように動かなかった。その代わりに言葉は口から出ていた。



仮にレイがすぐにでもプロマリアを殺していれば後の被害はまだもう少し抑えられたのかもしれない。


しかしレイは殺すよりも理由を聞いてしまった。


ありがとうございました。

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