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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
142/198

142.足音4

よろしくお願いします。


「ゴンゾが死んだって話は真なのか?」

豪華絢爛、装飾過多でありながら非常に静謐な落ち着いた空間に少女の声が溶け込む。大人ぶった口調をしている割に声は高く、見た目もその声から想像できるように小さい。左右の頭上に造られたお団子ヘアが特徴的で、やはり見た目の幼さと綺麗に合致している。しかしグラスを取る所作などはとても洗練されているため、子供と大人のアンバランスさが際立つ。


「ええ、本当らしいわ。あなたとしては清正したんじゃない?」

その一方、話しかけられた女性は見た目も所作も大人過ぎた。動き一つ一つに艶やかさがあり、長く伸ばした金色の髪もしなやかな肢体にマッチしている。盛り上がった胸部はどうやって支えているのか疑問に思うほど体は細いにもかかわらず不健康さは全く感じさせない。


マオとプロマリアは定期的に2人で情報交換という名目のもとお酒を酌み交わす仲だった。お酒を飲んでもいいのかと心配される女と娼館にいてもおかしくないほど艶っぽい女。接点は全くない。しかしロク商議会の部門長で唯一の同性ということもあってプロマリアの方からよく<ドゥラグ>の長、マオを誘うようになっていた。


「いや、その件は既にイルゾドから詫びの品をもらったから気にしていない。むしろ手に入りにくい薬草を融通してもらった分、私としては嬉しい。これから部下がゴンゾに手を出されないという意味でも有り難い。」


「本当に薬作りが好きなのね。もう少し<ドゥラグ>の長として仕事もしなさいよね。」


「わかっている。

ゴンゾが死んで困るのは、私よりもお前の方じゃないのか」


プロマリアは同性という理由でマオとよく会話するようになった。そして他のロク商議会幹部とは異なり、マオは全く権力欲がない。そのため日頃化かし合いを行なっている時とは違う、かなり素に近い状態で接することができていた。だから当然こんなアンバランスな2人だが、恋バナなんてこともしていた。といっても薬に恋しているマオはプロマリアの話を一方的に聞くだけだったが。


そんな話をする仲だからマオは知っていた。プロマリアがウキトス出身であること。ウキトスに30年以上片思いをしている相手がいたこと。拗れ過ぎて好きだった相手の子供が憎くて仕方ないこと。その子供を奴隷に落とすように<スレーブン>のイルゾドに協力してもらっている最中だということ。


「そうね。あいつが死んだってことはあの姉妹を奴隷に落とすことを失敗したってことでしょうからね。でもイルゾドはすぐに代わりの人員を送ったといっていたから大丈夫じゃないかしら」


「そうか、あの男もお前の気を引くために必死なんだな。」


「実際に依頼があったからでしょう。納品には間に合わせないといけないでしょうし。それに私は」


「あーわかっている。まだあのルーサーという男が忘れられないんだな。もうそれは何度も聞いた。だが、いい加減他の男にも目を向けたらどうだ。そろそろイルゾドの話に付き合うのも面倒だ。」


「ええ、考えておくわ。でも私は自分よりもマオ、あなたの方が心配よ。生まれてから一度も誰かを好きになったことないんでしょう?」


「それの何が問題なんだ?私は私だ。話をすり替えるな。」


「はぁー。はいはい。イルゾドね。気持ちは嬉しいんだけどね。」


「お前は見た目の割に純粋なんだな。その気になればイルゾドを使って<スレーブン>を併合できそうなのに、しないんだな。」


権力欲のないマオにしては珍しい発言だと思いプロマリアは思わず目を大きく開いた。その様子にマオは何食わぬ顔でやれやれと言いたそうに肩をすくめる。


「私は抱える組織が大きくなれば研究に費やせる時間が減るから絶対にそんなことはしないが、お前たちならよろこんでするんじゃないかと思っただけだ。」


「ええ、まぁ<スレーブン>の合併は、出来ると思うわ。傲慢だけれど、私が色をかければイルゾドはある程度私のために動いてくれると思う。でもそれは<ディプロマ>に必要なことじゃないわ。必要だったら組織の長として行うけれど、必要ないならうまく付き合えているイルゾドを利用することはないし、そもそも私がその行動をとりたくないわ。」


「それにしては姉妹の奴隷落ちを依頼しているじゃないか。」


「そうね。でも最初は依頼料も提示してしっかり仕事として依頼したのよ。その前に既に大きな依頼が入っていたからついでに私の願いも聞いてくれるってなっただけよ。」


「そうなのか。それは初耳だった。お前以外にもあの姉妹を嫌っている、、、、いやあの姉妹を純粋に欲しいだけの変態金持ちの方がいそうだな。」


「依頼人については聞いていないわ。聞いても教えてくれないと思うし。それに、理由なんてどうでもいいわ。」


2人で会話をしていると扉がノックされる。

こんな夜更けに一体誰が何のようで現れたのかと2人は顔を見合わせる。

プロマリアとマオが2人で集まる時は使用人を全員退席させる。

何かあれば執事長が今のように部屋を訪れるが、これまでそんなことは一切なかった。

他国の重鎮の使者が現れたくらいでは執事はこの時間の邪魔をしない。

だから執事が2人のいる部屋に訪れたということは相当な出来事があったということを意味する。


この館の主人であるプロマリアが部屋の外にいるであろう執事に対して何のようなのか扉ごしに問いかける。その内容如何では今日は流して、明日に回させるつもりだった。しかしプロマリアが質問してから執事の返事はない。その代わりに扉のノブが勝手に回され、部屋が開く。プロマリアは執事の無礼な態度を叱責しようと開く扉に目を向けたが、扉が開くと共に長年仕えていた執事の男が倒れ込んできた。その様子を見た2人はわずかに状況を理解するために体が固まるが、その後の対応は素早かった。普通なら悲鳴を上げたり、その倒れ込んだものの名前を呼んだり、駆け寄ったりするだろう。しかし2人はロク商議会の各部門のトップ。狼狽えることなく、警戒した様子で開いた扉の奥に厳しい視線を向ける。


一体どんなやつが現れるのか。


何をされても先手を取れるように警戒を最大に意識を集中させる。


現れたのは黒色の狐人ただ1人だった。


執事が倒れ込んでくるまで全く周囲に喧騒を感じなかったため少数でこの屋敷は襲撃されているのではないかと2人は考えていた。ただまさか1人だとは思わず、現れた狐人をまじまじと観察してしまう。しかし狐人を観察するとどうやら奥にもまだ人はいるようで、後ろにはそれなりに大きい狐人よりもより縦も横も大きい鎧をまとった戦士がいる。何より目を疑ったが、そこには<アンゲリーハイテン>の長ヤックルムと、ちょうど話題に上がっていた男、<スレーブン>の長イルゾドがいた。


2人を認識したことにより、プロマリアとマオは警戒をやや緩め、困惑を深める。一体どうしてこの2人はこの場にいるのだろうか。どうしてこのタイミングで<ディプロマ>と<ドゥラグ>の長である自分達を狙うのか。状況のチグハグさが2人の声を堰き止める。


しかし話はここからより、ややこしくなっていく。


ありがとうございました。

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