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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
140/198

140.足音2

よろしくお願いします。

ロク商議会はイルゾドの収める<スレーブン>の他に5つの部門がある。


<アンゲリーハイテン>

主に都市国家連合の内政を担当している。


<ビューション>

国内外の流通を管理している。


<セキュー>

都市国家連合の治安を維持している。


<ドゥラグ>

一般的なポーションから激薬まで幅広く扱っている。


<ディプロマ>

外交を担当している。


それぞれがオルロイを拠点としているかは別として皆それぞれここに居を構えている。唐突な話題転換に一体どうしたのかと思ったイルゾドだったが、気がつけば自然と口は開いていた。


「どの部門の長もここに屋敷を構えている。<アンゲリーハイテン>と<ディプロマ>の長はいたはずだ。他の3つは知らない。」


「随分すんなりと教えてくれるんですね。噂で聞いたんですけど、どの部門もあまり仲が良くないとかって聞きましたけど。」


「その通りだ。何か用がない限り、特に誰とも接触はしてねぇ。」


話したくなくてもイルゾドは恐れから自然と口は動いてしまう。そんな中ふと<ディプロマ>の長プロマリアのことを思い出す。白山羊亭の主人と幼馴染で、ずっと片思いをしていた女。そして今、自分が手に入れたいと思った女。


「それじゃあ行きましょうか。」


「は?」


イルゾドがこれからの死を覚悟して、惚れた女のことを回顧していると黒狐はまたわけのわからないことを言い始めた。しかし次の言葉を聞いて一気にイルゾドの心臓は嫌に早く動き出す。


「だから、これからロク商議会トップの人たち全員に会いに行くんですよ。」


「・・・・それは殺すためか?」

恐れのあまり口にしてしまったが、今は確実に<ディプロマ>の長。そして自分の愛する女がいる。


「まぁそうですね。会って気が変わることはあるかもしれませんけどね。ただ、<ビューション>?は殺します。もうすでに一度警告しているので。」


「そうか。」


イルゾドはどう反応すればいいのかわからなかった。<ディプロマ>を絶対殺すと言われなかったことに喜べばいいのか。それとも<ビューション>を助けてくれと頼むのか。そもそもどうして<ビューション>は殺されるのか。仲間意識を持った行動をした方がいいのかどうかも、何が正解なのかわからない。


「大人しくついてきてくださいね。何か反発するようならトアエさんみたいにしますから。それで、ここから一番近い部署はどこですか?」


事もなげに四肢を切り落とすと言われたイルゾドは、プロマリアを心配したことで忘れていた恐怖を思い出してしまった。そして素直にレイに従った。」


「<ビューション>だ。」


オルロイの街の形は少し変わっている。縦、横、斜めにロク商議会それぞれの部門が収める地域が凸レンズ型の楕円状に広がっている。そして全ての楕円がかぶさる地点は富裕層エリアとなっており、それぞれの長が絢爛豪華な屋敷を構えている。選ばれた者だけがこのエリアに住むことが出来る街。オルロイはそんな街だ。そのためこの街にいるものは大抵皆裕福であり、どこか貴族に近い感覚を持つものが多い。


夜であるにも関わらず、あちらこちらに街灯の魔法器が設置されており、街は非常に明るい。人も多く出歩いており、活気にも満ち溢れている。そんな笑顔に溢れる街をレイは無感動に眺め、猖佯はただレイに付き従い、イルゾドはどうしていいのかわからない様子でレイを<ビューション>まで案内している。


<ビューション>の長の建物もイルゾドの屋敷と同じくらい立派で、建物の入り口には当然警備兵が数人いる。レイだけで行けば速攻で戦闘開始になるが、自分の仕える<ビューション>の長と同じ権力者<スレーブン>の長の顔があれば警備なんて簡単に通り抜けることが出来る。穏便に訪れる事が出来たが、屋敷に入ると<ビューション>の長パーレルムは不在だった。その代わりにレイとしては<ビューション>の中で最も会いたかった男と遭遇した。


「お、お前は・・・・!!!」


イルゾドが突然訪問したけれど、トップであるパーレルムは不在。そのため、代理でイルゾドの対応をするために応接室に現れたのはナンティスだった。扉を開けて入ってきた瞬間はイルゾドという自分の上司と同じ立場の人間を相手にするため非常に物腰低くしていたが、イルゾドの表情とその背後にいる黒狐を見て取り繕った姿は簡単に綻びを見せる。


「久しぶりですね。ウキトスでお話しして以来ですね。あなたの上司はどこにいるんですか?」


「イルゾド様!これは一体どういうことですか?」


イルゾドのスタンスがわからない上に、ナンティスはレイに一度殺されかけている。そのためイルゾドがレイを取り込み、パーレルムのいない間に<ビューション>を乗っ取ろうとしているのではと考えた。そうでなければ、<スレーブン>は一度レイの大切な存在に手を出して仕返しにあっている。イルゾドがレイと一緒にいるのは和解したためだとナンティスは瞬時に誤った理解した。そしてイルゾドの返答がないこともナンティスの考えを裏付けるきっかけとなり、ナンティスは急いで警報のベルを鳴らす。その途端に応接室には武装した兵士たちが15名ほどバタバタと駆け込んできた。その兵士の隊長にナンティスは状況を説明し、話を聞いた兵士たちはレイたち3人に武器を向ける。


「イルゾド様、殺しはしません。パーレルム様が戻られるまで捕まって頂きますよ。」


イルゾドは何も答えない。ただ下を向いて黙っている。猖佯も武器を向けられているにも関わらず、レイの命令がないためただ黙って突っ立っている。そしてレイはナンティスを見ていた。相変わらず悪趣味なアクセサリーをつけているなと。


レイがナンティスの装飾品を内心で誹謗していると、ナンティスは勝ち誇った笑顔でレイに話しかけてきた。


「この間はよくもあの娘の借用書を奪ってくれたな、おかげでパーレルム様に失望されてしまったではないか。あんな小娘に抱き込まれやがって。だが、今日はこの間のようには行かないからな。ここにいる兵士は皆精鋭。これだけの兵士を相手にはできまい。大人しく捕まれば命だけは助けてやる。」


この間もそうだったが、ナンティスは再び盛大にレイの琴線に触れた。しかも一番刺激してはいけないタイミングで。


ごとり。


ナンティスがラールを貶める発言をした次の瞬間には精鋭兵士15名の首は切り落とされていた。そのことに気がつかないナンティスは意気揚々とレイに高圧的な態度をとる。それから数拍おいて、状況を理解したナンティスはあの日の恐怖を思い出す。どうして自分がウキトスからオルロイに戻ったのか。どうしてやられたのにも関わらず、黒狐という存在に報復をしなかったのか。思い出した時には既に時は遅かった。黒狐はあの時と同じように黒い触手のようなものをどこからか出現させて兵士たちが動く間も無く首をはねた。


そしてあの時と同じようにレイの触手によってナンティスは首を絞められていた。


「ご、ごめ、んな、さい、ゆる、じて、くださ、い」

声の通り道を絞められているため言葉をうまく発せないナンティスだが、生き残りたい一心で口を開く。


「学ばないんですね。あの時俺はちょっかい出されたら報復に向かうって伝えましたよね。」

あまりに同じ光景を自分で作りだすナンティスの頭の悪さ加減に嘲り笑うレイ。


「で、で、」


「たとえそれが、ロク商議会という大きな組織であったとしても。」


「でも、<ビューション>、はな、にもし、てない、だろ!」


「<ビューション>は手を引いたのかなんて知りません。そこの<スレーブン>にあの2人は襲われたんですから。」


「そ、れなら、私が、関係ない、、、」


「いや、同じ組織なんですから情報共有くらいしてくださいよ。手を出したら痛いめに遭うって。」


レイはそのまま、苦笑しながら力を少し強めた。締め上げられるナンティスの首はギシギシともミシミシとも言い難い気色の悪い音を立て、最終的にポキッと滑稽な音を鳴らす。苦しむナンティスは自分の死よりも何か別の、眼前にいる男を恐れながら体の音を立てて、息を止めた。


「それじゃ、<ビューション>のトップはいないようですから次にいきましょうか。

次はどこが近いですか?」


あまりにあっさりナンティスを殺したレイに対して、イルゾドは今日何度目か分からない寒気を覚えた。そして、理解した。今のナンティスが殺されたように都市国家連合は各部門ごと、レイという怪物にものすごい速さでジワジワと締め上げられ、そして簡単に壊されるのだと。


そのイルゾドの考えは正しかった。破壊の足音は誰も気づかないだけで、既に都市を壊していた。


ありがとうございました。

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