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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
都市国家連合国編
14/199

14.もしかしてこれは同伴?いいえ、付き添いです。

よろしくお願いします。


コンコン、コンコン、コンコン


扉がノックされる音で意識が覚醒する。


「レイお兄ちゃーん、寝てるの?」


コンコン、コンコン、


微睡む意識の中、数時間前に交わした約束を思い出し、ベットから飛び起きる。

部屋に備え付けの時計を確認すると既に約束の7時を過ぎてしまっていた。

やってしまったと後悔している間も扉はノックされ続ける。

小走りで扉まで向かい、ノブを回し、開口一番謝罪を口にする。


「ごめん、サーシャ。」

レイは部屋の入り口で、膝をおり視線をサーシャに合わせる。

そして頭を下げ両手を合わせ深々謝罪をする。


「あーやっぱり寝てた。もう8時だよ〜」


「ほんとごめん」


約束の時間に遅れ、寝過ごしたレイは何も言いする余地がないため、ひたすら平謝りを続ける。

サーシャの間伸びした穏やかな口調からは分かりにくいが、彼女は仁王立ちで腕を組み頬を膨らませ、体全身で怒りを表していた。


「もぉ、約束破ったらダメだよ」


「ごめん。」


「私ここで待っているからレイお兄ちゃん、準備してきて?早くいこ?」


「それならすぐに済むから大丈夫。」


そう言ってアイテムボックスから黒狐の仮面を取り出し装備する。

寝落ちしてしまったために服装はそのままであったため外に出るには何も問題はなかった。

何もにない場所から仮面が出てきたことに目を瞬かせて驚いているサーシャの手をとり、声をかける。


「待たせてごめんね。それじゃあ行こうか。」


「うん~」


手を繋いで階段を降りるとタイミング良く姉のラールが食堂から出てこちらにきていた。

レイとサーシャを見つけると二人の元まで駆け寄ってきて、頭を下げる。


「すみませんレイ様。サーシャがまた勝手なことを。」


「?」

レイは言っている意味がわからなくて困惑する。


「お客様をもてなす側なのに、サーシャの面倒を見てもらうようなことになって申し訳ありません。

今日はレイ様と一緒にいると言って聞かなくて。」


「大丈夫ですよ。それに俺、この街に来たばかりで道とか全然分からないんです。だからお店とかをサーシャに教えてもらいたいなって思って。」


そう伝えてもラールは申し訳なさそうに頭を下げる。


「ラール!酒が切れたぞ。早く持ってこい!」


レイがどう声をかけようかと悩んでいると一階の食堂の方から怒鳴り声が聞こえてきた。

大声で名前を呼ばれたラールは体を一瞬硬らせたが、その声に対して何か言うことはなく、もう一度「妹をよろしくお願いします」とだけ言って急いで食堂に戻ってしまった。


そういえばここに食堂があるのに、どうしてサーシャは外に食べに行くのだろうか。

疑問に思いサーシャに聞こうとしたが、それよりも先に手を引っ張られ早く行こうと催促されてしまったため言葉を飲み込んだ。


宿を出て、表通りに出ると昼間とは一変。

昼の時からそれなりに人通りはあり、露天商や八百屋、酒屋などは声を張り、客引きをしていた。しかし今聞こえる声は大半が冒険者の騒ぎ声だった。

仕事を終えた冒険者たちが飲んで騒いで盛り上がっている。

それに合わせて飲み屋の店員は盛んに働き、表通りは活気に満ち溢れていた。

ウキトスは街の中心に南門から北門まで通じる大きな通りがある。

門をくぐった途端感じられる活気は街に訪れた人にも元気を与えてくれる。

そして夜の冒険者たちの楽しそうな声。

表通りに一歩足を踏み入れるだけで昼夜問わずこの街に活気が溢れていることを肌で感じられる。

さすがは冒険者の街と言われるだけあるなと感心させられる。

レイはサーシャに手を引かれながら表通りの活気に目を奪われていた。


その後多少表通りから外れしばらく歩くと目的の場所に到着した。外観は見るからにちょっと大人な酒場そのもので10歳前後のサーシャがその店に入るのは違和感しかない。本当に大丈夫なのかと思いながら中に入ると、案の定中ももしっかりとした酒場だった。店内の照明はかなり明るさを落としており、他の客の顔を見ることはできない。あるのはいくつかの薄オレンジ色の照明だけ。そんな暗闇の中をサーシャは迷わず進んでいく。そのまま歩を進め、カウンター席まで向かう。

サーシャの背丈では高く感じる、足の長いカウンターチェアを二、三歩の助走をしたジャンプで綺麗に着席する。


「ここにはよく来るのか?」


店に入ってから座るまでのあまりに慣れた動きにレイは思わず聞いてしまう。


「うん。ここのラアヘのスープが好きなの〜」


「らあへ?」


「知らない?緑色でペラペラヌメヌメしてるやつ。スープに入ってるとおいしいの。

それにお腹もいっぱいになるんだよ。すごいでしょ〜?」


「なら俺も一緒にしようかな。」


「一緒に食べよ〜

マスター、いつもの2つちょうだいー。」


俺も同じやつを頼もうとするとサーシャが先に頼んでくれる。

しかもものすごく常連であるかのような注文っぷり。

レイたちの反対側カウンターにいた年老いた男性、この店のマスターもそれで伝わったようなので、サーシャが実際によくこの店に来てそのラアヘのスープを頼んでいることがわかる。サーシャは頼んだスープが来るのをゆらゆらと首を左右に揺らしながら待っている。


「スープだけでいいのか?」


聞く限りサーシャが注文したのはスープ一品だけだったように思ったので、それだけで足りるのか不安になり聞いてみる。


「んー?うん。いいのー。セツヤク?」


「いいよ、さっきのチップ代もあるし好きなもの頼みな?」


サーシャは平然と節約だと言う。

別に満腹だからスープだけを頼んだわけではなかった。

お金を使わないためにスープだけを頼んでいた。

この世界の子供はそれが当たり前なのかもしれない。

しかし、せっかく一緒にご飯を食べるのにそれでは寂しいと思ったレイはサーシャに他に欲しいものを尋ねる。


「ん〜でも〜」

頼んでいいのか首を捻って悩むサーシャ。


「それなら、おすすめ教えてくれない?

俺、ここ初めてだから何が美味しいかわからないんだ。」


「いいよ〜

えっとね、私はね〜イコの唐揚げとポタトサラダ、あとはトッガ焼きが好き〜。」


「じゃあそれ頼もっか。

すみません、トッガ焼にイコの唐揚げ、あとポタトサラダを二つ追加で。」


レイが提案するとサーシャは笑顔で教えてくれる。

サーシャがおすすめしてくれたものをそのままレイは注文する。

そして注文を聞いたマスターは黙って頷く。


しばらくすると先に注文したラアヘのスープが運ばれて来た。

ラアヘという言葉に聞き覚えがないため、一体どんなものが出されるのか内心ヒヤヒヤしていたが、見た目は元の世界で言うところのワカメだった。

味も普通に美味しかった。

なんだかんだで考えてみるとこの世界に来てからの食事はアイテムボックスにあった携帯食以外は初めてだったため、人の手が加えられた料理の温かみは思った以上に感慨深い。

隣のサーシャも美味しそうにスープを飲んでいる。


「サーシャはよくここに来るのか?」


「うん。最近お姉ちゃんが忙しいくて、外でご飯食べてって言うからここによく来る?」


「でもここってご飯食べる場所ってより、お酒飲む場所だろ??」


「ん〜でもマスター知ってるから。」


「あ、知り合いなのか。」


「うん〜お父さんの友達?」


もしかしたらこの後マスターに酒を頼み、グビグビと飲むのではないかと少し心配していたが杞憂だったことに安堵する。マスターが知り合いなのならばそれは全然ありえる。冒険者が多いと言うのは活気がある以上に血の気も盛んだと言うことでもある。そんな街に10歳前後の少女を一人で歩かせるのは危険だ。しかしその行き先が知り合いの店ならばまだ多少は安心できる。


「そうなのか。」


宿を訪れたでまだ数時間しか経過していなが、従業員はラールとサーシャしか見ていない。

てっきり二人で切り盛りしているのだと思っていた。

しかし今サーシャは、この店のマスターは父親の友人だと言っていた。

父親がいるのならどうして娘二人を放っているのか気になる。

少し踏み込んだ質問かもしれないが、思い切ってサーシャに両親について聞いてみようとした。

そんなタイミングで後から注文した3品が届けられた。

心なしかマスターがレイに向ける視線に剣呑さが感じられる。

なぜかと疑問に思っていると隣から幸せそうな声が聞こえてくる。


「ん〜いい匂い〜」


サーシャはおそらくトッガ焼きという何かの魚の焼き物に関心を奪われていた。

鼻をスンスンとさせて魚の焼ける匂いを堪能している。


「食べよっか。」


「これはレイお兄ちゃんのだよ?」


レイが話しかけると慌てて、自分が頼んだものではないのだとハッとした表情になる。

それだけ食べたそうにしている少女を無視して一人で食べることなど無論出来るはずもないのでサーシャが食べてくれるように頑張って誘導する。


「この量1人じゃ食べ切れないから一緒に食べてくれないか?」


「ん〜・・・ありがとう〜レイお兄ちゃん。」


レイの稚拙な言い分をわかってなのか、レイの気持ちを察したのかサーシャはすんなりと納得し、サーシャはにへらと笑みを浮かべる。

マスターから取り皿を貸してもらい、トッガ焼きの身の部分をサーシャに取り分ける。

トッガ焼きには割と骨が多く、苦戦した。

イコの唐揚げを二人でつまみ後から付属品のようにあったレモンのような果物の汁をイコの唐揚げにかけ、味変する。そして思ったよりも量の多かったポタトサラダ二人分を食べる。


「サーシャは毎日外で、1人でご飯食べてるのか?」


「ん〜1人の時もあれば、そうじゃない時もある〜」


「お姉ちゃんと?」


「うんん〜よく来てくれるカンズおじちゃんとか〜?」


「そっか、一緒に食べてくれる人がいるんだな。それならよかった。」


知らない人の名前が出てきたもののサーシャが嫌がる素振りを見せないため大丈夫だと思う。ただそれ以上にレイは一人で食事することの寂しさを誰よりもわかっているためサーシャが心配で仕方なかった。

それに自分の幼少期の頃を思い出すとどうにも他人事にできない。


「でも最近はおじちゃんも忙しい?らしくて、ここに来てマスターと話してる〜」


「そうなのか。なら俺も話し相手になってほしいな。」


「レイお兄ちゃんの〜?」


「俺もここきたばかりで友達が誰もいなくて寂しいんだ。

だから明日も一緒にご飯食べてくれると嬉しいな?」


「うん!もちろん〜私もレイお兄ちゃんと一緒がいい〜!」


サーシャはポタトサラダの酸味がありながらもコッテリとまろやかな味がした、言って仕舞えばマヨネーズみたいな調味料を僅かに口につけながら、満面の笑みで微笑む。


「それなら、よかった。」


「レイお兄ちゃん、明日は冒険??」


「どうしようかな。この街に本がたくさんある場所ってわかる?」


「本がたくさん?」


「地図とか見れる場所あるかな?」


「ん~?わからない?ごめんなさい〜」


「大丈夫だよ。明日は冒険者ギルドに行こうと思ってる。サーシャはどうするの?」


「私はお姉ちゃんの手伝い〜?」


「そっか。偉いな。」


頭を撫でるとサーシャは目をトロンとさせ眠たそうな仕草を見せる。


「眠たいのか?」


「ん〜ちょっと?」


時刻は9時を過ぎていた。

レイは自分が寝坊したことで1時間時間が遅くなったことに申し訳なく思い、残りのご飯を食べる。


「そっか、なら宿に戻ろうか。」


「うん。」


眠気が一気に襲ってきたのか片目を擦りながら頷くサーシャ。

眠そうなサーシャを抱えて店を出ようと会計を済ませる。

先ほど剣呑な視線でレイを見てきたマスターは特に何かを言ってはこなかった。

軽く挨拶をしてから宿に戻る。

帰りの道は、まだまだ飲み足りない冒険者たちで溢れており、騒ぎが止むことはなかった。


ありがとうございました。

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