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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
136/199

136.聞いていた話と違う

よろしくお願いします。

一つしかない扉を開けると、廊下に通じていると思っていた。しかし外は外ではなく、もう一つ別の部屋が続いていた。コネクティングルームのような作りをしており、レイが今いた部屋にはこの扉を通じてしか辿り着くことができないようになっているみたいだ。


ただレイが絶句した理由はそんなくだらないことではない。


探し求めた、大切な人がいた。


「ラール、さん、、、」


レイの探し求めた人物、ラールがいた。ようやく見つけることが出来た。いたのだけれど、、、。誰に聞こえるか分からないようなか細い声で呟くレイ。


「あら、ようやく来たのね。にしてもどうやってそこから入って来たのかしら。

扉はそこにしか無かったはずよね?」


レイは答えない。今、レイの耳はラールの声しか受け付けていない。レイの目はただ一点を見つめて、声にならない声が漏れ出ている。


「無視しないでちょうだいな。初めて会うんだから挨拶くらいしときたいじゃない?あら、あなたのそれ仮面なのね?あのデブは完全に獣人だと思っていたようだけど、どうやったのかしらね?」


レイの眼前にいるラールはギロチンで処刑される直前のように、断頭台のようなもので首と両手首を拘束されている。服はズタズタに引き裂かれてひん剥かれている。至る所から出血をし、時間が経ったためか痣になっている箇所もある。所々血でも水でもない白濁した液体が体に付着していた。その周りには口から涎を垂れ流し、衣服も乱れた男たちが傷つき動く様子のないラールに群がっている。そしてその集団から少し離れたところから女はレイに何度か話しかけている。燃える建物内の歪な光景がレイの思考を停止させる。


「はぁ、無視しないでちょうだい?そんなにショックだった?それなら嬲り殺しにした甲斐あったわ。まぁラールちゃんはついさっき息絶えるまであなたが助けに来てくれるって信じていたみたいだけれど、嬲る側からしたら全く悲鳴も懇願もしてくれないのよ。完全に興醒めよね。男どもはだーい好きなラールちゃんと交れて最高な気分になってイカれちゃったけど、そーんなことどうでもいいわよね。」


無惨な姿で息絶えているラールを力ない様子で見ていたレイ。ラールの声しか受け付けないと思っていたが、存外周囲の声は拾えている。女の話している内容は耳に入ってくる。女の話していることはレイの心を抉る。ラールを助けられなかったこと、信頼に応えられ無かったこと、人としての尊厳を踏み躙られた姿全てに責任を感じる。自分の至らなさに思わず膝をついて両手で顔を覆ってしまう。次顔をあげた時には全てが悪い夢だったとなってくれないかという心の弱い泰斗の願望が無意識のうちにレイの行動を支配していた。


レイが膝をつき絶望している間も女は楽しそうに話す。


「さっいこう!そうそう、その表情が見たかったの!大好きな子が知らない男に犯され、殴られ、殺されて絶望する表情!ありがとう!ラールちゃんの分まで私を満足させてくれるなんて!今すぐラールちゃんに合わせてあげるから動かないでちょうだいね!」


ゾユガルズに来た当初に感じたような心身が張り裂けるような痛みを感じているわけではにない。それどころかレイの体はHP的に考えるとフルで溜まっており、全く減っていない。しかし目の前のラールの姿を見て自分の中の何かが崩れる音が聞こえた。


「え?」


レイの様子を見た女はボルテージが最高に高まったのか、ものすごい速さで動き出し、崩れ倒れているレイの首を切断しようと剣を振るった。しかし剣は空を切り、丈夫な床に直撃する。


女はレイのいた場所に剣を叩きつけていたが、レイはそれ以上の速さでラールの元まで寄って、ラールに群がるイカれた男どもの頭を全て切り落としていた。ほぼ同時に床に転がり落ちた男たちの頭部が音を立てた。それにより、女はその様子に気がつくことができた。しかし、音がするまで全くレイの動きを視認することができなかった女は冷や汗を垂らしながら、自身が思い描いた想像とは違うシナリオに進みそうな予感がしていた。


レイはイカれた男どもの頭を切り落とし、黒魔法『黒悪魔の手』を発動させる。レイを中心とした両サイドから黒く禍々しい腕が出現する。枯れ木の枝くらい腕は細いにも関わらず、その手で頭と体が切断された男たちをミンチにしていく。当然細い手のため隙間があり、そこからぶちぶちと握りつぶされた時にはみ出た肉片が周囲に四散する。レイはそんな死にゆく男たちに目もくれず、ラールの拘束を外していく。汚れを取り除くために、細心の注意を払いながら聖属性魔法『クリア』を発動する。拘束器具を外し、そっと頭を抱え、ラールの体を自分の膝に乗せる。座った状態でお姫様抱っこの体勢をとる。複雑に絡み合った感情を全てぶつけるようにレイはラールを抱きしめる。その時にラールの息がないことを改めて感じてしまい、再び涙が込み上げてくる。


レイを攻撃してからまだ3分も経っていないが、そこまでの一部始終を見て女の体は震えていた。聞いていた話と違う。自分で見た光景と違う。全く違うことだらけのこの現状に体は動かなくなっていた。


この女の正体はマーハ。白山羊亭にアルバイトにきていた女。本名トアエは『親族殺し』の異名に加え、恩恵『メモリストア』を有した優秀な殺し屋だった。元を辿ると色々とあるのだが、トアエはこの能力を活かしてこれまで生きてきた。メモリストアでターゲットの情報を絞り、ターゲットのアキレス腱となる弱点を狙う。そしてそのアキレス腱が身内であれば、異名の『親族殺し』の効果が発揮される。『親族殺し』は殺せば殺すほど、ターゲットの親族を相手にするときバフがかかる。バフの%は殺した対象のその親族に対する思いが強ければ強いほど強力なものとなる。その上、親族という範囲は例え籍を入れていなかったとしても異名を与える世界が認定すれば効力を発する。長年の経験と、ラールと会話した様子からトアエはラールを殺せばレイと対峙した時『親族殺し』のバフが相当なものになるとあたりをつけていた。実際先ほど攻撃した時も普段の自分では出せない速度でレイに対して攻撃することはできていた。ゴンゾの記憶をみたトアエは、バフのない状態で黒狐と戦った場合どちらが勝つか検討がつかなかった。そのためラールとサーシャを奴隷にすることを依頼されていたが、あれこれ理由をつけて初めからラールは殺すつもりだった。


ラールを殺してそのバフを用いて黒狐を殺す。そして泳がせているサーシャを奴隷に落とせばいいかと思っていた。多少は依頼主に文句を言われるだろうが、自分の命を天秤にかけてまで2人を奴隷に落とすというのは報酬とリスクが釣り合っていない。


安全に黒狐を殺すためにラールを殺した。だがそれにも関わらず、トアエは想定外の実力に硬直していた。トアエの失敗は『メモリストア』が当人の見た光景しか見せられないという欠点を知らなかったことだろう。もしトアエのレベル帯でゴンゾのみた光景を見ることが出来れば、黒狐と白髪の男の正体が同じだということに気がつくことが出来た。しかしゴンゾのレベルで見た光景であったため幻惑効果をしっかり発揮し、黒狐と白髪の男は別人だと思ってしまった。とはいえ、その失敗をトアエは知らないまま残りの余生を過ごすことになる。なぜなら生存本能が示すままに逃げようと動き出した頃には既に遅かったからだ。


レイはラールを強く、しかし優しく抱きしめた後、ローブで体を隠した。そしてそのまま黒魔法『黒沼』を発動した。虚な眼差しの状態のまま、ゆっくり立ち上がり、先ほどまで自分がいた場所に剣を叩きつけていた女に視線を向ける。


この事件の首謀者。


怒りを感じているはずだ。

悲しみを感じているはずだ。

悔しい思いでいっぱいのはずだ。

不甲斐なさに自分が嫌いだ。


だけれど、強い感情を表に表すことができない。

一体どうしてなのか。

レイにも分からなかった。


レイはこの騒動の顛末を聞くために女をひとまず捉えることにした。レイが一歩近づいた瞬間女は反転して、隣の部屋に逃げ出した。当然だが、そんなこと許さない。


アイテムボックスから童子絶切(ワラベノタチキリ)を取り出して垂直に2回、下段並行に1回刀を振るう。

ドサリという音と共に女の両腕両足が切断される。まだ頭の処理が追いついていないのか女は不思議そうに自分の切断された体を見ている。血はドバドバと流れ出ており、このままではこの先何も話を聞けないのではないかと思ったレイは黒魔法『黒炎の衣』を発動させる。そしてその黒い炎を切断面に纏わせる。肉が爛れる音と共に痛覚が正常に働いたのか女の悲鳴が部屋の中に響き渡る。


「ギャぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあアッぁぁぁぁぁl」


そんな様子すらレイは何も感じていないのか特に感情を表に出すことなく、淡々とした様子で女に近づく。女はそんなレイから少しでも距離を取ろうと、地面を這いつくばって進もうと動いている。そんな女を面倒だと思ったレイは発動させたままだった、『黒悪魔の手』を使って女の頭をつまむ。その際に思わず頭を潰さないように慎重になりながら、魔法を行使する。逃げようともがく女の頭部を黒悪魔の手で摘み、レイの方に近づける。

理解できない現状に女は混乱しているのか錯乱状態にある。拉致があかなそうだと思ったレイは聖属性魔法の『白癒』を使用して女の精神を落ち着ける。次第に魔法の効果が現れ始めたのか、このまま錯乱しているだけではすぐに潰されると考えたのかレイには分からないが女は静かになった。しかし錯乱状態を回復させる魔法をかけたにも関わらず、女の顔から怯えの表情が抜け落ちることはなく、顔面蒼白の状態で体を震わせていた。


ありがとうございました。

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