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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
135/199

135.ラールさんは何処に。

よろしくお願いします。

冒険者ランク昇格試験のために離れることすら嫌だった。

ウキトス、白山羊亭にずっと帰りたかった。

白山羊亭の前まで戻って来た時に思ったことはそれだった。

なぜだろうか。いや、疑問に思うまでもない。現実逃避というやつだ。


白山羊亭はレイの記憶とは全く異なった様になっていた。出迎えてくれる人なんて当然いない。それどころか建物全体が轟々と燃えており、炎はレイの帰還に対して激しい拒否感を示しているようにすら見える。拒否されているような現状に悲しみを覚えるが、同時にラールの安否について思考を奪われる。レイはラールを探すために無属性魔法『テイル』を使用する。反応は宿の外で確かめた通り複数あるが、そのうち一つの反応が圧倒的に弱い。レイは嫌な動悸を感じながらも『テイル』に表示された地点に向かって歩を進める。『テイル』が示す地点は食堂。だが食堂は既に火の海。とてもではないが、複数人の人間が何事もなく生きていられるようには思えない。『テイル』の示す結果をあり得ないと断言したところでレイは他に探す当てもないため、ひとまず燃え盛る火のなかを進んでいく。人為的ではあるが、自然災害にも固有スキル『境界』が発動するためレイは全くダメージを受けない。強いて言えば「暑い」が、そんなことはどうでもいい。


食堂に入るとラールとサーシャと3人で食卓を囲んでいた光景がフラッシュバックする。初めに来た頃はゴンゾが暴れていた。2人で片付けをしたり、3人で食卓を囲んだりもした。サーシャの爆弾発言でラールと男女の関係になっていると周囲に誤解されたりしたこともあった。色々な思い出の詰まった空間。それが燃え盛る火の勢いによって崩れていく。

この場所で2度と体験することのできない思い出だからこそ、色々な思い出を幻視してしまったのかも知れない。


幻想に後ろ髪を引かれながらも、現実に焦点を合わせてラールを探す。しかし、どこにも姿はない。というよりも人1人いない。『テイル』では反応があっただけに人がいないという現実に混乱する。不思議に思ったレイは『テイル』の反応する地点まで一歩、一歩と進む。反応に近づくが全く人の姿は見えない。『テイル』で、レイの頭の中には幾人かが弱い反応を取り囲んでいるように見えている。1人だけその輪から外れて全く動かない。場所はちょうど厨房の付近。近づくがやはり誰もいない。


「一体どういうことだ?」


反応はあるけれど誰もその場にはいない。レイはとうとう当てもなく食堂をうろちょろするしかなくなり、燃える火の海の中で落とし物を探すかのようにふらふらと動き回る。そうしているうちにレイはあることに気がついた。『テイル』の示す反応がレイのいる地点と僅かに重なって見えるのだ。誰かいないのかとレイは『テイル』示す地点に被さり立った。するとレイの反応とその弱まりつつある反応にずれが生じた。同じ場所にいるにも関わらず、その反応がレイに被さっている。レイは上を向いた。あたり一面燃えているにも関わらずその天井は全く火を寄せ付けていない。どこか抜け道でもあるのではないかと思い、周囲を見ていたレイは火を寄せ付けない天井に全く気づくことができなかった。


ただ、その場所が燃えておらず、おそらく『テイル』の反応する人たちは上階にいるとわかってもそこへの道順が分からない。焦る気持ちがゆえにレイは反応する人たちから距離をとり、最小限の力で天井に向かって暗属性魔法『黒槍(ダークスピア)』を発射する。天井にレイの放った魔法槍がぶつかり、衝突音があたりに響く。驚いたことにレイの放った『黒槍(ダークスピア)』は天井を僅かに傷つけただけで貫通することは無かった。燃えていないことから他の木材とは全く違う作りになっているのだろうとは思っていたが低威力の魔法とはいえ、流石に貫通しないと思わなかったレイは『黒槍(ダークスピア)』の上位の暗属性魔法『上位黒槍(ハイ・ダークスピア)』を続けて連射する。今度は無事天井を貫通させることができた。そして生み出した穴に向かって跳躍をして、2階のフロアに足を踏み入れる。




白山羊亭は入口を入るとすぐ受付カウンターのような場所がある。そこで何泊するかなどのやりとりをすると、2階にある空き部屋に案内される。1階は共同の空きスペースと食堂。食堂は入り口から見てカウンターのさらに奥にある。2階は客が宿泊するための個室部屋がいくつもある。そのため食堂の上に部屋があることは何も不思議な話ではない。だがその二階の部屋は不自然なほど火事の影響が無かった。レイが魔法で壊した床の穴を除けばどこも傷のない部屋の作りをしている。そしてその部屋はレイが普段宿泊している部屋とは比べられないほど広く、殺風景な場所だった。誰かが宿泊するための調度品などは全く存在しない。所々何かが置いてあったような日焼けの後は存在するが、今は何もない。

あるのはただ一つの扉だけ。『テイル』はそちらの方向をさしている。しかし扉の内側にいるということは、外は普段通りの廊下。当然火の海になっているに違いない。レイは部屋の観察を早々に切り上げて扉を開く。


そして、絶句した。


ありがとうございました。続きすぐあげると思います。

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