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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
132/199

132.焦燥

よろしくお願いします。

調子に乗っていた冒険者たちは仲間が1人やられたことに気づくと、たちまち青い顔を浮かべる。レイはこれから自分がすることを見せないために左手で抱き抱え、右腕でサーシャの頭を覆い隠す。手が塞がってしまい、戦闘力は下がるが低ランク冒険者に対しては瑣末なことでしかない。両手が使えずとも魔法は問題なく使用できる。レイはサーシャに見せないという点に最大の配慮をし、暗属性魔法『闇触』を発動させる。暗属性のため触手は黒く、動揺も相待って相手はなかなかレイの背後に存在する触手に気がつくことができなかった。しかしそれ以上にそもそもの問題として、レイの攻撃は彼ら5人では視認することができない。そのため最初に武器を振るった男が気絶してからはあっという間だった。もう4本触手を追加して、後ろで固まる4人を拘束する。そしてリーダー格と思われる男以外を触手で圧殺する。その際にはもちろん音は完全に外部に漏れないように気をつける。


「それで質問に答えてもらえますか。この火事はお前たちの仕業ですか?」


触手で気絶した男の首を刎ねながら、拘束した男たちの元に向かう。仲間4人が殺された男は錯乱し、レイが一歩近づく度に悲鳴をあげる。助けてくれと必死に懇願し、涙を垂れ流す。しかしレイはそんな男の頼みを無視して、再度同じ質問を投げかける。男はその抑揚のない話し方に恐怖し、蛇に睨まれた蛙のように大人しくなる。レイが近づいてきたことで顔をはっきりと目にする。そしてその顔が最近ウキトスで話題になっている黒狐だとようやく理解した。嗚咽を抑え、レイの質問に答え始める。


「ここら、一体に、火をつけたのは俺たちだ。でも、俺たちは命令されただけなんだ。俺らと一緒にいたギルドの野郎がやれっていうからやっただけなんだ!頼む助けてくれ!死にたくないんだ!」


「ギルドの野郎?職員ということですか?」


「ああ、そうだ!だから俺は何も悪くねぇ!!!頼む助けてくれ」


レイはまさかギルドの職員が薄汚い殺人犯たちと行動を共にしていると思っていなかった。まとめて殺したのは失敗だったかと反省する。しかしそのギルドの職員がどうして火事を起こしたのか全く疑問は解消されていない。


「どうしてそのギルド職員は火をつけろと?」


「それは、」

初めて言葉に詰まる男。


「それは?」

しかしレイが続きを促すことで、決心したのか口を開いた。


「aoejnoagnpoisangpwegnapog!」


しかし男は突然意味のわからない言葉を発する。一体なんのマネなのか意味がわからずレイは首を傾げるが、それは男も同様だったようで必死に何かを伝えようとしている。しかし男の口からは言葉にならならい音が発せられるだけ。男の必死さからは生への執着しか感じられず、とてもではないが死して秘密を守ろうという気概は感じられない。そのため原因は男ではなく、その上位者にある。レイは上位者がこの男に魔法か何かしらの方法を用いて情報制限をしたのだと理解する。


そのためこれ以上聞き出せる情報はないと思い、必死に何かを話し続ける男を耳障りだと思い、他の3人同様に圧殺した。


火事の原因が職員にある。


そのためレイは今からでも冒険者ギルドに戻ろうかと考える。ただギルド職員の単独行動の場合、ギルド員は全く何も知らず、骨折り損の可能性もある。ギルドの組織的行動だった場合、いよいよわけが分からなくなる。だから今はそんなどうでもいい原因なんかよりも先にラールの安全を確かめたい。


しかし情報源である5人の男はレイがたった今殺してしまった。それに対した情報は、制限をかけられているため得られそうになかった。だから今状況を一番知っていそうなサーシャに尋ねることにした。サーシャは今もなお、レイの胸元に顔を埋めて啜り泣いている。どうにか最初に会った時よりは落ち着いたようで、今ならなんとか話を聞くことができるかもしれない。


「サーシャ、大丈夫?何があったのか教えてくれない?」


「うう、うううう、怖いよ、お兄ちゃん。」


一体何がそれほどサーシャに恐怖を与えているのか分からない。


「大丈夫、絶対に守るから。」


「ううう、、、、、うんっ、、、、ぐす、、、」


サーシャが落ち着いて安心できるようにレイは丁寧に頭を撫でる。しかしラールの姿を見ることの出来ていない現状に焦りを感じていた。しばらくサーシャが落ち着くのを待ってから再び、事情を尋ねる。


「サーシャ、何があったのか話せる?」


「怖いおばちゃんが怖い人たちを宿に連れてきたの。それでその人たちが急に暴れ出して、お姉ちゃんとカンズおじちゃんたちは止めたんだけど全然止まらなくて、それで、暴れる人たちが宿に火をつけて、半分くらいどっかいっちゃった。でも怖いおばちゃんと何人かが私とお姉ちゃんを捕まえようとしてくるから逃げたの、」


「ラールさんは?!大丈夫?」

辿々しい説明を聞きながらレイは白山羊亭に向かう。説明を聞く限り、この火事はサーシャとラールを攫おうとした連中が起こしたもの。その話を聞いて一瞬ロク商議会のナンティスの仕業なのかとも思った。しかしあの男は肥えていたが女ではない。サーシャの言うおばちゃんに心当たりはないが、どうにも嫌な予感がする。そもそもサーシャはどうしてあの場所に1人で彷徨っていたのか。ラールと一緒に逃げなかったのか。そしてラールは無事なのか。心配のあまり声が大きくなってしまい、サーシャは体をびくりとさせる。


「ごめん、いきなり大きな声出して、驚いたよね。」


「うんん、。お姉ちゃんがカンズおじちゃんと他のおじちゃんたちに私と逃げるようにって。お姉ちゃんは他のお客さんと一緒に後から逃げるっていって、でもカンズおじちゃんと逃げていたら、怖い人たちが来てそれで私1人になっちゃって、お姉ちゃんとお兄ちゃん探してたの。」


レイの焦る様子を感じたのかサーシャは追加でその時の状況を語る。レイは今のサーシャの話と先ほどの5人の話を聞いた感じ、火事はあくまでの白山羊亭を襲ったことを隠すための行動に思えた。


目的はラールとサーシャの誘拐?しかしロク商議会とは話をつけたはず。ナンティスという男は俺に対してかなり恐怖を感じていたはず。ありえるのだろうか。


「それじゃあ、ラールさんの居場所は分からない?」


「えっと、私が逃げる時はまだ家いたよ。お姉ちゃんすごい怒って、怖いおばちゃんと何か話してた、、、」


そのことを聞いた途端レイは体温がスッと下がるような気がした。レイは先ほど白山羊亭の前まできてテイルを使うことをしなかった。それにレイは現在ルノ、リオ、ミューに無属性魔法『マーク』をつけてしまっているため、ラールが白山羊亭内にいるのかどうかも分からない。


「サーシャ少しスピード上げるよ」


急いで白山羊亭に向かうためレイはサーシャを再び強く抱きしめる。誰かを探すために抑えていたスピードと異なり、目的地の定まったレイの移動はとてつもなく早い。5人組を殺した地点から白山羊亭正門まで僅か2分ほどで到着する。だが、白山羊亭の火は先ほどよりも強くなっており、とてもではないが人が入れる状態ではない。『テイル』を使用すると確かに複数人の気配を感じる。今すぐに中に飛び込みラールがいるかどうか確かめたいが、この火の中サーシャを連れて行くことは出来ない。レイなら耐えられるダメージでもサーシャにとっては命取りなことがたくさんある。追手の5人は殺したためサーシャにひとまずここで待っていてもらうことも考えたが、再び1人にして不安にさせるのは気が引ける。それに追手があの5人だけとは限らない。しかしラールがいるか確かめるためには白山羊亭の中に入らなければならない。もし、イーリがこの町にまだいてくれれば安心してサーシャのことを任すことができたが、イーリはウキトスにはいない。ならば他に信頼できる人は、そう考えた時先ほど話をしたメルラが脳裏に浮かぶ。しかしギルド職員がこの一件に関与している可能性があると聞いたため完全に信頼はできない。こんな時サーシャを預けても問題がなく、また糸で状況を即座に把握できるルノがいればどれだけ心強かったのだろうかと思わずにはいられにない。あの場ではパノマイトたちのためにルノにエルフの国に行ってもらうことが最善だったため悔いても仕方がない。ミューのこともある。


「こんな時仲間がいれば・・・・」


仲間


自分で仲間のことを考えると共に「そういえば」と、レイは1人仲間をこの世界に作り出していたことを思い出す。

精巧なレプリカまがいの仲間に気味悪く感じ魔法空間に閉じ込めていた存在、猖佯。


妥協策として彼を『黒沼』から取り出す。『黒沼』に入れている間、その存在の意識はない。そのためレイが猖佯を『黒沼』から召喚した際、「黙って」という最後の命令を粛々と守って、ただ無言でレイの前に跪く。2mある長身は跪いている姿は背負っている錆れた大剣と相まって王命の長期遠征帰りを思わせる。しかし纏った鎧に傷ひとつなく、この騎士の歪さが際立つ。


それ以上にレイからしてみれば猖佯がこのようにかしこまった態度を取ることすら信じられない。偽物であるという確信は揺るがない。そしてそんな偽物を呼び出すことでしか問題に対処できない自分の能力不足を恨めしく感じる。

黙って跪く猖佯を一旦放っておき、サーシャに声をかける。


「サーシャ、今から俺はラールさんを探すために白山羊亭に行ってくる。でもサーシャはあの火事の中連れ回すことはできないから、ここでこいつと待っていてくれないか?」


「・・・この人誰?」

突然現れた大男にサーシャはびっくりしている。

しかし不安そうにしているが、猖佯を怖がっている様子はない。


「・・・・俺の、な、仲間だよ。すぐに戻るから。」


ここにいる猖佯を仲間と呼ぶことに抵抗を感じたレイだったが、それよりもラールを探しに白山羊亭の中に飛び込みたかった。あの偽物の猖佯を仲間と呼ぶことで少しでもサーシャの不安を取り払えるのならそんな抵抗簡単に振り払える。そう思ってレイはここにいる偽物を仲間だと呼ぶ。


「お兄ちゃんの、仲間、、、。お姉ちゃん、、、、うん、私ここにいる。」


しばらく何か考えている様子のサーシャだったが、猖佯のことをチラリとみた後、レイの仲間が側にいること、それに加えて姉を助けに向かおうとしていると理解したためにサーシャは涙を流しながらも気丈に振る舞う。リオの時も思ったことだが、まだ10歳前後の幼児にこんな態度を取らせるこの世界がレイはどうにも気に食わなかった。未だに跪いた状態の偽猖佯に声をかける。


「ここにいるサーシャを守れ。俺以外の誰にも触らせるな。」


できる限り言葉を交わしたくなかったレイは率直に要件を伝える。

猖佯は畏まりましたと了承したのち、サーシャを守れる体勢をとる。


「それじゃ、ちょっと行って探してくるよ。すぐ戻ってくるから。」


そう言ってレイは轟々と燃え盛る白山羊亭の中に入って行った。


本年もありがとうございました。

来年からもコドコワをよろしくお願いします。

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