13.部屋に一人、ベッドの上で
よろしくお願いします。
部屋に備え付けられたベッドに横になり、今日は大変だったなと改めて一日を振り返る。
転生?転移?した時にはこの日よりも濃い1日なんて当分、下手したら一生来ないと思っていた。
それなのにこんな1週間もしないうちに同じくらいの濃い経験をするなんて、それだけで鈴屋泰斗の人生よりも濃密な時間を過ごしていると思う。
異世界転移、NPC配下の元への帰還、イクタノーラの復讐心、それだけでもやることはたくさんあるのに、イーリと出会って迷宮探索してパーティに誘われ、冒険者登録をした。イーリとの時間は心地よく、この先イーリと一緒に活動するのかな?と少し期待もした。しかしそんな期待はイクタノーラの圧倒的な殺意の前に消え失せた。
そして僅かな希望を抱いていたこと、その希望が打ち消されたことで気が付く。
今自分はこの世界で、生活していく未来を想像していたことに。
なぜ自分は、NPC配下を放ってこの世界で暮らすことを考えているのか。
自分を求め、認めてくれるNPC配下たちを見捨てて。
その思考はまるで自分でないようだった。
自分の体から帰還の思いが抜けてたことは自分が自分でなくなるように感じ、怖いと思った。
怖がったからと言ってレイが今できることも少ない。NPC配下の元まで戻ることは絶対だ。
しかしそうすることに若干の懸念がある。イクタノーラの殺意だ。
この殺意を向けられる対象が人種以外だとするならば配下にこの殺意を向けてしまう可能性も考えられる。
この宿の姉妹に感じず、イーリのパーティメンバーには感じた殺意。
発動条件がわからない以上、仮にこの体で帰還できたとしても、NPC配下の誰かに似たような殺意を覚える可能性だってある。ただそれだけは絶対に嫌だ。
レイを認めてくれた存在にそんな感情を持ちたくない。
だからレイはまず早く冒険者ランクを上げて、復讐を終わらせるしかない。
そうしなければ落ち落ちNPC配下のもとに帰ることも考えられない。
それはイーリに対してもだ。イーリはレイを認めてくれた。それに仲間になって欲しいと求めてもくれた。
イーリに対し報いたいと思うがこんな殺意を抱えたままイーリの近くにいることはできない。
イーリに殺意を向けることはないとしてもイーリの大切な仲間に向けてしまうかもしれない。
そして最悪の場合敵対してしまうことだって考えられる。それだけは避けたい。
ここまで考えて、イーリに対して少し固執しているような気もするが、イーリがレイを気に入ってくれたように、レイもかなりイーリのことを気に入っていた。仕方がない。
まぁ、あそこまで面と向かって欲しいと、自分を求めてくれて嬉しくないわけがない。
心残りはイーリと離れてしまうことだが死に別れたわけでもなければ、NPC配下たちのように世界を分たれた訳ではない。これから会おうと思えば会える距離にいる。
だからまずはNPC配下たちに心置きなく会うためにもこの体をどうにかしなければならない。
イクタノーラの記憶が影響していると思われる殺意を。
確かに見ず知らずの俺に優しくしてくれたイーリがこの世界にはいる。
しかし向こうにはレイが全身全霊をかけて作り上げた国が、レイの存在を認めてくれたNPC配下がいる。
悪いが比べることはできない。
だからレイは殺意をどうにかして、イーリに恩を報いたのちに配下たちの元まで帰る。これがレイの出した結論だった。
そのために次にやるべき事を考える。
考えれば考えるほどレイには足りないことがたくさんあった。
そして足りない自分を補うには、やはり強さの証明が一番手っ取り早いと思う。
その証明になるのが冒険者ランク。
イーリは背が低く狐の仮面をつける不思議な見た目でありながら、ここウキトスでは一目置かれる存在。その理由は彼女が実力者であるから。そしてその実力を理解できない者までもがイーリを上位者と仰ぐのは彼女の冒険者としてのランクを知っているから。そしてそのランクによって実力を証明することで帰還するために求めている情報を探すことも復讐相手の素性を探すことにも役立つ可能性が高い。
それに冒険者ランクは割と簡単に上がると思っている。流石にすぐSランクたAランクになれるとは思っていない。しかしイーリがAランク、イクタノーラがDかCランク。イーリの実力全てを把握していないためはっきりと断言は出来ないが、レイは確実にイクタノーラよりは強い自信がある。だから実力的には間違いなくBランクは余裕で取れると思う。それにレイのレベルは200。イクタノーラが80前後?
レベルの感覚が異なっていないのならイーリもレイほど高いかと聞かれるとわからない。そもそもカンスト値を超えるレベルがいるとだいぶ困る。確かに強かったのだが、流石にC,Dランクのイクタノーラがレベル80台で、ランクAのイーリが200だとは思えない。
冒険者ランクがどうにかなりそうならば、残る問題は復讐だ。
復讐相手はちまちまと冒険者ランクを上げることと並行して探していくしない。
復讐を完遂する前にまずイクタノーラの感情を制御することをしなければならない。
復讐前にあちこちで今日みたいな殺気をばら撒いていたらキリがない。
ただ自分の意思の力でイクタノーラの心を抑えるのには限界がある。
だから取れる方法は一つしか思い浮かばない。
迅速かつ速やかに対象を殺すこと。それもできるだけイクタノーラがスッキリする方法でだ。
そうすればきっと彼の心も晴れてあのどうしようもない殺意も収まる。収まるはずだ。収まると信じたい。
それがダメだった場合はちょっと考えたくない。
まぁまず復讐をやり遂げるために復讐相手9人と生存報告をしたい1人の情報が必要になる。
この情報を殺意を出さないようにするために出来るだけ人と関わらないようにしながら探すのはほとんど無理ゲーな気もするが、頑張るしかない。
普通ならこれだけ多くの人の情報を集めるなら、単純に多くの信頼できる人材が必要だ。
しかし今頼れる人は誰もいない。
ダイイングフィールド内のNPC配下をどうにかできたら・・・
そんなことを考えていると心身の疲れがピークにきていたのかレイは眠りに落ちていた。
ありがとうございました。




