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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
128/198

128.鬼人シア(後編)

よろしくお願いします。

「ここまで来れば大丈夫だと思います。」


レイが自然の空気を心地いいと感じ始めたタイミングでシアから声をかけられる。レイは意識をシアに切り替え、手合わせの内容を確認する。話し合った結果、時間は昼ごはんができるくらいを目安にし、勝敗は相手が参ったと口にした場合。この先の旅程に問題がないように互いに致命傷となる攻撃は禁止。


ルールが決まったところでシアは踵を返し、レイから20mほど距離を置く。レイはその間、そういえばどうして手合わせすることになったのだろうと考えていた。それというのもレイはシアとの戦闘でどう戦えばいいのかわからなかったのだ。レイ自身は遠近中どの範囲の戦闘も出来るという自信がある。しかしそれは魔法を用いた戦闘の場合だ。今回の旅路で何度かシアの戦闘スタイルを見る機会があったが、シアは一切魔法など使わないゴリゴリの近接戦闘者だった。そんなシアから手合わせを申し込まれたということはレイも近接戦闘者だと思われているからなのだろうか。それとも索敵の魔法を使って見せているようにレイが魔法使いだと知り、遠隔からの攻撃に対処したいがために申し込んだのだろうか。そうして悩んでいるとシアが腰の剣に手をかけ、こちらに接近してくる様子が見える。普段暖かい微笑を浮かべている状態のシアをよく見ていたため、真剣な表情でこちらに殺気を飛ばすシアの様子に思わず半歩引いてしまう。


シアはレイがギャップ萎えしていることなどお構いなしに接近する。あっという間にシアの間合いにレイは入れられており、魔法を発動する時間的余裕はなくなっていた。避けるか武器を出すか数コンマ悩んだ末、急いでアイテムボックスから童子絶切(ワラベノタチキリ)を取り出す。レイが童子絶切(ワラベノタチキリ)を構えたタイミングちょうどにシアの上段からの一刀は振るわれる。間一髪でシアの剣とレイの間に童子絶切(ワラベノタチキリ)が割り込み、剣と刀のぶつかる金属音が空気に溶けていく。突然出現した剣にシアは一瞬眉をピクリと動かしたがすぐに自分の剣に力を入れてレイを押し倒そうとする。レイもその力に負けじと童子絶切(ワラベノタチキリ)に力を入れる。人と鬼という種族差があったとしてもレイとシアにはレベルという種族以上にどうしようもない差があるためレイはもちろん力負けはしない。これが生死をかけた戦闘なら本気で押し返し、相手の剣ごと両断する。しかしこれは手合わせなので、たった一合で決着がついてしまうのはつまらないと思い、鍔迫り合いの状態を維持する。それに力押しではシアという女性に勝ったことにはならないと思ったのだ。


童子絶切(ワラベノタチキリ)は刀の形状をしているが、使用方法は剣に近い。この刀、初めはどんなものでも簡単に一刀両断できるほどに切れ味が鋭い。しかし刃が鋭利な分、研がなければすぐに切れ味は落ちてしまう。それこそ2度、3度相手を切ればすぐに研がなければならない。鋭い状態で使用することはできるが戦闘中に研磨することは相当難しい。というよりも一撃一殺でなければほとんど無理だ。だが、この刀は研がないことでも持ち味を発揮する。切れば切るほど切れ味は落ちるが、刀の攻撃力が爆発的に上がるのだ。運営が外見的エフェクトに凝った結果なのか、錆錆の刀にはなるが切れ味が落ちて、耐久値が下がることはない。

ゾユガルズに来てから接近戦は専らこの刀を使用していただけにかなりボロいが、その代わり刀の攻撃力は相当で、武器破壊も容易に出来る。


そんな剣みたいな刀を使用するレイと武器を交えたシアは押し切れないと察したのか剣を引き、体は右に半歩ほどずれる。レイが少し力を加えようとした絶妙なタイミングでシアは剣を引いたため、支えるものがないレイはそのまま無防備な状態で前に二、三歩つんのめる。事前に横にずれていたためにレイの刀はそのまま空を切る。そして攻撃後という最も無防備になる隙を狙い、シアは剣を構えてレイの目、目がけて刺突を繰り出す。急所攻撃は禁止じゃなかったかと思いながらレイは攻撃モーションの流れに逆らわず、体を前に倒す。そして上半身が倒れたことで自動的に上がった下半身を使う。そのまま体を捻って腹部目がけて右足で後ろ回し蹴りを繰り出す。勢いよく刺突をしていたシアはレイの回し蹴りを避けることができない。反射的に戦闘の際に行うような行動をしてしまい、あっさりと決着をつけてしまったとレイは思った。


「クゥッッ、、、」


しかしシアは無理やり体を収縮させて剣を持つ手とは反対の腕を使い、腹部をガードする。致命傷は避けたもののダメージが入っているため呻き声を上げはした。しかし勝敗が決してしまうと考えていたレイは驚きのあまりわずかに体が硬直した。なぜなら今のレイの動きは戦闘を意識したもので、本気ではないとは言え、動きもステタース値通りのかなり高いものだった。1レベルの者が剣を一振りする間にレイなら優に100回は振るうことができる。シアのレベルは分からないが、レイの攻撃に反応して咄嗟に取れるようなスピードと思考値はないはずだ。それゆえにレイは唖然としていた。レベルがかなり高いのか、それとも戦闘経験による咄嗟の行動なのか。レイには分からない。レイが驚いている間、シアもシアでレイの後ろ回し蹴りによって後退させられていたので2人にやや間が生まれる。互いに次の手を考えながら、相手の様子を観察する。今の様子だけを見るならばレイが完全にシアを圧倒している。しかし手加減しているとはいえレベル200のレイと鍔迫り合うことのできる力、それにレイの普通の攻撃に反応できる反射速度。どれも普通にできることではなく、かなりの高レベルだと考えられる。純粋に戦闘技術が高い。


レイは気を引き締め直してシアとの手合わせを再開する。レイが心を落ち着けたと同時にシアも準備が出来たのかシアはレイに迫る。今度はレイもただ待っているのではなく、シアに向けて刀を振るう。1合、2合、3合、と武器を交える。シアは確実にどこかで剣を学んでいたようで攻撃が一回一回で完結するのではなく、次の動作につながる攻撃を繰り出してくる。一方レイは一度も武に関わったことはなく、ただのゲーム知識しかないためにただ刀を振るう。しかし剣や刀の流派を叩き込まれていない分、殴り、蹴りの格闘を混ぜ込んだ攻撃を行う。レイの動きに流麗さは感じられないが、シア同様、戦い慣れていることが窺える。そのためシアの連続する攻撃は対応術をなくし何度か攻撃の流れが止まるがうまく戦闘経験が補うため致命的な攻撃は食らっていない。


上手く立ち回っていたシアだったが、しばらく剣を振るううちに何度かミスをしてしまっていた。レイの刀は殴打系の武器のため基本的に接近すればするほど戦いやすい。それは剣を使っているシアも同様のはずだが、レイの攻撃を恐れてなのか、それとも無意識になのか分からないがレイとの間に人1.5人分は開けてしまう。そしてその開けた空間を詰めないまま剣を振いレイの眼前に落ちてしまう。間合いを取り損なうことが試合が長引くにつれて多くなり、そしてそのミスが決めてとなり手合わせの終了は思いのほかあっさりとついた。


「「ありがとうございました。」」


互いに礼を告げ、皆が休憩をとっている場所まで歩いて戻る。行きは前後距離を開けて歩いていたが、手合わせをした効果なのか2人の距離は縮まっており、横並びに歩いていた。心なしかシアの距離が近すぎるなと感じたレイだったが特に口にすることはなかった。


「レイさん、手合わせありがとうございました。とても楽しかったです。」


「俺も楽しかったです。それにシアさんが想像以上に強くて驚きました。


「そう言ってもらえると嬉しいです。でもそれなら私も同じです。レイさん強すぎませんか?」


「戦いは割と好きなので。

ただシアさんと戦ってみて思いましたけど、やっぱり今回の集団拉致の犯人の中で一番強い奴よりもシアさんの方が強いです。そんなシアさんを記憶操作させながら倒した相手となると相当に注意が必要そうですね。」


「記憶をいじられてしまっているのでよくわからないですけど、レイさんの方が強いと思います。私が出会った人たちの中でも群を抜いて強いはずです。」


「そうですか?そういえばシアさんはウキトスに着いたらどうするんですか?」

仲間以外にこれほど褒めちぎられる経験はそうないため、気恥ずかしくなったレイは話を変えようと今後どうするのか尋ねた。


「・・・」


世間話程度の話題だったがシアからの反応はない。一体どうしたのだろうかと右隣にいるシアに視線を送るとシアは真剣な表情で思案していた。


「あの、レイさんと一緒にいた褐色肌のエルフはどうされているんですか?」


「ん?ルノのことですか?今は別行動中ですよ。」


「その方はレイさんの、仲間なのでしょうか?」


「ええ、大切な仲間です。あ、もしかしてルノとも手合わせしてみたかったとかですか?」


「ええ、そう、ですね。ぜひ一度お話ししてみたいです。」


どことなくシアの声が低かった気がしたがそれ以上に自分の仲間に興味を持ち、交流を深めたいと言われたことが嬉しかったレイのシアへ対する好感度がかなり上がった。ただルノはパノマイトたちとエルフの国に向かっておりしばらくこちらに戻ってくることはない。そのことを伝えるとシアは満面の笑顔で残念だと答える。


「ルノはどのルートで向かったのかはわかりませんが、アルシアさんたちの護衛として、ベニートからそのままエルフの国に向かいましたよ。俺はウキトスに戻りたい用があったのでこっちにいます。」


「そうだったんですね。私はウキトス経由で鬼人の国に行こうかと思っていたんですけど、少し変更したいです。おそらく次に立ち寄る街、ガラッパからの方が鬼人の国には近いのでそこで集団から抜けても大丈夫ですか?」


「鬼人の国があるんですね。初めて知りました。そういうことでしたら構いませんよ。シアさんなら1人でも大抵の敵は追い払えそうですし。」


「ありがとうございます。ええ、鬼人の国は小さな集落なので地図には載っていないんです。」


そうして雑談をしながら2人は休憩地点に戻り、そのまま昼食をとった。そしてそれから1日ほど進み、ガラッパに到着した。食料や衣類の補充を行いさっさと出発する予定だったが。最大戦力のシアがここで別れることになり集団に不安が広がるが、拉致されていた者同士、故郷に戻りたがるシアを引き止めるわけにもいかず、集団は笑顔でシアを見送った。


ありがとうございました。

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