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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
120/199

120.リオの家族(後編)

よろしくお願いします。

事の発端はリオが生まれてから少し経った、ある10年前の日のこと。


当時パノマイトは駆け出しの旅商人であった。資金をどうにかして貯め、ようやく自分の馬車と荷車を手に入れ、本格的に旅商人として活動していこうとしていた。そんな矢先、滞在していたウキトスで事件は発生した。


街中は高位冒険者たちの戦闘により阿鼻叫喚の大混乱。せっかく手に入れたばかりの馬と荷車を壊されてしまっては困るとパノマイトは一目散にウキトスの街を去ろうとした。


突然のことで場所なんかは全く考えてなく、ただがむしゃらに逃げようと森に近づいた。その時、茂みの奥から淡い光が見えるとともに赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。いくら街に近い森とは言ってもどうして子供の声が聞こえるのかと疑問に思ったパノマイトは泣き声を頼りに赤ちゃんを探した。見つけた赤ちゃんは籠に入れられ、清潔な衣類で包まれていた。捨て子だと考えたパノマイトは可哀想だと思いながらも駆け出しの旅商人である自分に育てる余裕はないためそっと踵を返そうとした。


しかし赤ちゃんの側には子犬ほどの小さいサイズだが、二匹の野良犬がいた。自分には育てられないが、流石に自分が見て見ぬふりをしたことで赤ちゃんが食われるのは寝覚めが悪い。そう感じたため赤ちゃんを守ろうと子犬二匹を蹴飛ばし、籠を抱えて馬車に逃げ込んだ。


咄嗟に赤ちゃんを抱えて自分の馬車に戻ったパノマイトは今しがた街を出た身。このまま赤ちゃんを連れて旅はできない。仕方なく渦中のウキトスに戻り、ある孤児院に預けようと街に戻った。


馬の手綱を握っていると荷車の中から「キャキャ」と楽しげな声が聞こえてきた。自分の余裕のなさとは真逆の声に複雑な思いに駆られたパノマイトだったが、孤児院前に到着したために赤ちゃんを連れようと荷車に入る。すると、赤ちゃんの側には先ほど自分が蹴り上げた二匹の野犬が楽しそうに赤ちゃんと戯れていた。


先ほど、森の中で蹴飛ばした野犬が二匹、いつの間にか自分の荷車の中にいた。意味がわからなかったパノマイトだったが、赤ちゃんに害を加える様子がないためそのままにして孤児院を訪ねた。何度か顔を合わせていたこともあって、騒ぎが起きている中でもすぐ面会することができた。


事情を説明し、赤ちゃんを引き取ってほしいと願い出た。院長はこの騒ぎに乗じて子供を捨てた親に対して怒りを露わにしたのちに快く引き取ることを承諾してくれる。


しかし院長が籠の赤ちゃんをパノマイトから受け取ろうとすると、今さっきまで楽しそうに赤ちゃんと遊んでいた二匹の野犬が院長に襲いかかった。院長は突然のことに混乱し、悲鳴を上げた。院長は自分を襲った汚い獣を自分から遠ざけるために蹴った。ただパノマイトには院長が噛まれたにも関わらず、子犬が赤ちゃんを必死に守っているようにしか見えなかった。現にパノマイトが赤ちゃんを抱える分には何も問題がなかった。一体どういうことなのだと思いながらも、子犬に噛まれた院長に謝罪する。院長は動転しているのか口汚く、パノマイトを罵ったのち孤児院を追い出してしまう。パノマイトは追い払った野犬がいつの間にかついて来ていたことにも驚いたし、赤ちゃんを引き取ってもらえないことにも動揺した。


駆け出しの旅商人で生活に余裕がないとはいえ、取って来たものを元の場所に返すなんてことはしたくない。そう思い、パノマイトは荷車に積んであった食料を避難しているものたちに割安で売って回った。その際に赤ちゃんの両親が見つからないかという淡い希望を抱いて。


そして、そんな淡い希望は成就した。やや狂乱気味の母親が自分の子供だ、返せと衆人環視の中喚き散らされたこと以外、パノマイトの求めた結果だった。しかし、母親だと言い張る女性にパノマイトが赤ちゃんを渡そうとすると先ほど同様に二匹の子犬が邪魔をした。

子供が取られたと錯覚した母親は街中だが、武器を抜き子犬を殺そうとする。すると子犬は先ほど孤児院長に咬みついた時とは比べ物にならないスピードで、母親の握る刃物を口で咥えて奪う。騒ぎを聞きつけた狂乱母親の夫が現れて事態を説明。落ち着いている父親に赤ちゃんを渡すことならできるかと挑戦するが、何故か失敗。


この時点でパノマイトは僅かにだが、子犬たちの行動を理解した。


「この子犬たちは赤ちゃんを守ろうとしている」ということを。


パノマイトが赤ちゃんに触れても何も問題はない。だが他の人が赤ちゃんに触れようとすると途端に気色ばむ。両親だと名乗るものたちが相手でもそれは変わらない。パノマイトは自分が父親だと誤認されたと気づく。そして全力で頭を抱えた。


レイは話を聞いて唖然とし、疑問もたくさん湧いた。

「えっとつまり、リオちゃんはベムとペスと一緒に捨てられていたと?」


「その辺のことは今でもわかっていません。マーナはリオのことをそんな森に連れて行っていなければ、子犬のことも知らないそうなんです。」


「そう、ですか。

でも、子犬が妨害する程度ならどうにでもなったんじゃないですか?」


「私たちもそう思いました。

二匹はリオに近づく者に警戒していて、私がリダイオとマーナと話す分には何も問題ありませんでした。何度かどうにかしてベムとペスの目を離すことは出来たんです。ただ、失敗しました。」


「失敗?」


「はい。二匹をリオから離したところでマーナがリオのことを抱き抱えたんです。その途端にリオの体に黒い斑点のようなものが無数に浮き出てきて、リオは痛みに泣き叫びました。その声を聞いたベムとペスが部屋の扉を壊して入ってきて、マーナからリオを取り上げたんです。その途端にリオの斑点は消え、穏やかな寝息を立てて寝始めたんです。」


「黒い斑点?」

訳のわからない内容にレイは終始疑問符を浮かべる。


「はい、なぜだかはわかりませんが、2人がリオのことを自分の子供として接すると現れるんです。だからリオと家族として接することができるのは私だけのようで。それ以外の者がリオを娘、大事な家族として接するとリオの体に浮かび上がる仕組みになっているみたいです。色々調べて貰ったんですけどそれ以外の詳しいことはわかりませんでした。」


「それで、結局パノマイトさんが引き取ったと・・?」


「はい。2人は不祥不承といった感じでしたけど、リオが苦しむ姿を見るのは見ていられないからと。冒険者としての護衛ならばリオと触れ合っても斑点が出現しないと知って以来、毎回彼らに依頼を出していたんです。リオに何もいうことが出来ないまま、亡くなってしまったのは、本当に悔やまれます。彼らがいない今、本当のことを伝えるかどうかも悩みますし、何よりリオを悲しませたくないです。だからせめて遺骨だけはリオの側にと思ってお願いしました。」


そう言って伏目がちになり、説明を終えるパノマイト。


「わかりました。そういう理由でしたら、2人の遺体をパノマイトさんに託します。

それにしてもやけにすんなり教えてくれるんですね。もっと他にも言いようはあったと思いますけど、俺が知ってもいい内容でしたか?」


「レイさんには2人の件もですが、他にも助けて貰ったことはたくさんあります。だから聞かれたら伝えるつもりでした。ただ、こんなにもスラスラと話してしまうとは自分でも思わなかったので、少し意外でもあります。」


そう言うパノマイトの表情は戯けた様子ではなく、心底不思議そうな顔をしていた。


ありがとうございました。

Twitterやってます。フォローしてくれたら嬉しいです。

「@carnal418」


ちなみに、10年前の事件とは「78.狼の森3」でパノマイトがレイに伝えた冒険者同士の争いのことです。

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