119.リオの家族(前編)
お久しぶりですみません。よろしくお願いします。
アルシアとナンシア、それにパノマイトたちと話し合った翌朝。レイはパノマイトと話すために再び「狼の森」に向かった。昨日の帰り際に『黒沼』から出した双頭獣は以前のベムとペス同様に「狼の森」の店前で番犬ならぬ番獣をしている。そんな双頭獣に軽く挨拶をしたのち、レイは扉を開いてパノマイトを呼ぶ。
「すみません、パノマイトさん。レイです。」
しばらくしたのち、リオが扉の方までレイを迎えに出てくる。
「お兄さん、おはようございます!
お父さん、今朝ごはん作っていて手が離せないんです。
よかったらお兄さんも食べる?」
安定の平常語と敬語の混ざった話し方をするリオ。現在は朝の10時30分。レイたちは既に朝ごはんを済ませてしまっていた。しかし楽しそうに誘ってくれるリオの眼差しに負けたレイはお言葉に甘えざるを得なかった。朝食はリオたちの自室で取るようで、昨日の話し合いの場になったブックカフェのテーブルは使わないそうだ。
「ここでは食べないの?」
「うん。こっちで食べるとお皿片付けるの大変なんです。だからここを使うのはお客さんが来た時だけなの。」
リオに手を引かれるまま後をついていく。ブックカフェの一つ扉の奥には生活感が溢れるスペースが広がっており、テーブルの上にはいくらかの料理が並べられていた。そこに追加の料理を運んできたパノマイトと遭遇する。
「おはようございます、パノマイトさん。すみません、朝から。」
「おはようございます、レイさん。いえ、私たちの方こそすみません。レイさんが帰った後も結構話が長引いてしまってなかなか寝るのが遅くなってしまったんです。それで今は少し遅めの朝食でして。あ、どうぞおかけになってください。」
「はい、ありがとうございます。」
レイが軽く会釈し、ルノもそれに続く。
「お兄さん、早く食べよー。」
リオに呼びかけられ、わずかばかりの手伝いをしたのちにレイは本日2度目の朝食を取り始める。
「ご飯はいつもお父さんが作ってくれるの?」
対人関係能力の低いレイだが、流石に子供には普通に話しかけることができる。むしろ、コミュ障ゆえに変な気を使ってしまう。食事に誘ってもらった手前、沈黙するのはまずいのではないかと。
「うん、お父さん料理も上手なんです。
私もお父さんもみたいに料理作れるようになりたくて教えてもらっているんですけど、難しくて。」
「うん、このシュターアイも美味しいね。」
「私もお父さんの作るシュターアイ甘くて大好き!お兄さんも好きなんだ?」
「あまり食べたことないけど、美味しいと思うな。」
隣でご飯を食べながらニコニコ笑うリオに穏やかな気持ちになると共に、ゾユガルズに来てからよく一緒にご飯を食べていたサーシャを思い出す。
ふわふわほんわりしているサーシャと敬語と平常語がごちゃ混ぜ元気ガールのリオ。2人は全然違うけれど、歳が近いというだけでサーシャのこと、そしてラールのいる白羊亭を思い出してしまう。会いたい気持ちが強まっていく。本日2度目の朝食は穏やかな気持ちの中に僅かな寂しさを感じる不思議なものとなった。
朝食を食べ終えるとレイは早速今日来た要件をパノマイトに伝えようとした。話は店を開けるため、ブックカフェの机でいいかと尋ねられたレイだったが、少し込み入った話をするためにパノマイトの私室に場所は移る。その間、リオは旅の支度や文字の勉強をするということで念の為同行していたルノが護衛を務めることになった。
2人でパノマイトの部屋に入ると、パノマイトは飲み物を取ってくると言って部屋を出ていってしまう。レイは部屋にあった椅子に腰掛けるとぼーっとあたりを見渡す。まだこの街、この家に来たばかりのためか部屋は殺風景なくらい物が少ない。ベッドに、机、椅子など本当に必要最低限のものしかない。強いて珍しいものをあげるとすれば机に立てかけられているフォトフレームくらいだろうか。
「すみません、お待たせしました。」
レイがパノマイトの部屋を無意識的に眺めていると、飲み物を運んできたパノマイトが戻ってきた。レイの座っている対面の椅子にパノマイトは座る。互いに沈黙の中、パノマイトの淹れてきた飲み物を少し飲み、口をしめらせる。
「それで今日はどうしたんですか?」
「リダイオとマーナさんのことで少し相談がありまして。」
勿体ぶる必要がないためレイは直球に、死体の埋葬方法や彼らの故郷、親類の有無などを尋ねる。パノマイトは想定外の質問だったのか、やや面食らっているようでただレイをじっと見ている。
「俺はここにくる護衛依頼で2人と出会いました。10年来の付き合いと言っていたパノマイトさんなら詳しく知っているのかと思ったんです。実は、ペスを助けた場所にリダイオさんとマーナさんの遺体があって、今は俺が保存しているんです。もし家族がいるのならその方達のそばに埋葬したいんです。」
驚くパノマイトに対してレイはさらに自分が2人の遺体を管理していることを伝える。パノマイトは納得し、口を開く。
「そうでしたか。わざわざありがとうございます。埋葬方法は人種では土葬が一般的だと思います。」
「埋葬場所は家族の暮らす場所の近くがいいと思うんですけど、2人の出身地などは分かりますか?」
「いえ、以前も少し話したかもしれませんが、リダイオとマーナと出会ったのは私が旅商人になりたての時でした。今から10年ほど前のことで私が18でリダイオは私と同い年。マーナは2歳下の16歳でした。彼らは村から冒険者になるためにウキトスに出てきていて、帰るつもりはなかったそうです。興味本位で彼らの過去について詮索するのもどうか思いましたし、知る必要もなかったので村の名前も聞いていません。」
「そう、ですか。そうなるとやっぱりウキトスに戻ってから埋葬するのが一番いいんですかね。」
「レイさん、お願いがあります。ここまで2人の遺体を管理していただいたのに、申し訳ないのですが、2人は私が受け取ってもいいでしょうか?」
「パノマイトさんにはどこかいい埋葬場所に心当たりがあるんですか?」
「いえ、私は彼らを火葬したいと思っています。
というのも、私たちは旅商人でどこかの土地に土葬してしまっては気軽に会いにいくことができません。ですので彼らの遺骨と一緒に旅ができればと思いまして。」
「でも、パノマイトさんと2人は、その10年来の付き合いと言っても仕事としてですよね?他の人たちの思いもあるでしょうし、できるだけ2人のことを大事に思ってくれている人のそばに安置したいと思うんですが。」
「確かにレイさんのいう通り、私は彼らと家族ではありません。友人というよりも仕事相手として接した時間の方が長いと思います。でも彼らとリオを引き離したくないんです。」
「それは、どういう・・・?」
パノマイトの発言が、リダイオとマーナ、そしてリオ。この3人が旅商人の都合でよく顔を合わせ、仲良くなったため死後も側にいさせてあげたいというものには聞こえなかった。
それはまるで、、、
僅かに逡巡したのち、パノマイトは覚悟を決めたように口を開く。
「・・・・リダイオとマーナはリオの本当の両親なんです。」
「は?」
レイは間の抜けた声しか出せない。リオはパノマイトのことを実の父だと信じている。それにパノマイトもリオのことを本当の娘のように大切にしている。よく依頼を出していたリダイオとマーナも親子2人とは関係は良好だった。しかし実は依頼を受けていた冒険者2人が依頼主の娘の両親で、依頼主自身は全くの無関係。一体どう言うことなのだろうか。レイは頭上に大量の疑問符を浮かべながらパノマイトに説明を求める。
「捨て子を拾って育てたら彼らが親だった。それだけです。」
「関係は理解しました。でも両親がいるならどうしてリオちゃんを育てていたんですか?」
「私しか育てられないからです。」
一見ただの自惚れた発言に聞こえる。
しかしパノマイトの表情は真剣で、だからこそレイは混乱する。
「意味がよくわかりません。」
「2人はリオに対して親として接することが出来ないんです。物理的に。」
「物理的に?」
「はい。詳しく説明すると長くなってしまうんですけど大丈夫ですか?」
「はい、お願いします。」
そこからパノマイトが語った内容はレイの想像を超えていた。
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