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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
118/198

118.これからと、依頼2

よろしくお願いします。

レイがナンシアの依頼を断ろうと思案していると会話を聞いていたパノマイトが話に加わってくる。


「すみません、良ければその旅でうちの馬車使いませんか?」


「えっと、あの?」

領主館で先ほどまで同じ空間に居たといっても、初めて言葉を交わすため緊張してうまく言葉が出ないナンシア。


「貸してくれるのか?」

そんな様子を見兼ねたのかアルシアが代わりにパノマイトに返答する。


「エルフの国に興味があって、行ってみたいんです。」


「何を、しに行くんだ?」

エルフの国に興味があるというパノマイトに対して、アルシアは訝しげな視線を向ける。エルフは基本的に閉鎖的な国であり、とても個人主義的な面が大きい。エルフは本来血族的なつながりが強く、国としてまとまりを見せたのも各種族の中でも最も遅い。それこそ魔王が死んだ後だった。他国の者を受け入れ難く、そして他国民もそうしたエルフ国の内情を知っているからこそあまりエルフの国には来たがらない。だからアルシアはどうしてパノマイトがエルフの国に行きたがっているのか不思議に思う。そして先の一件でどうしても同法以外を簡単に信じられなくなっていた。


「私はこの街で商人になるために店を持ちました。しかしこの一件でここでは商売を行えなくなりました。男爵様が原因であるため領主様にお願いすればどうにかなるとは思うのですが、あまりリオをこの街に留めておきたくはありません。そのため、次にどの国に行こうか考えていたんです。それに元旅商人としてエルフの国がどんな場所なのか知りたいと思いました。私たちが同行すると馬車も御者も荷車もついてくるので、エルフの方達にとっても悪くない条件だと思ったんですがどうでしょう。」

パノマイトは己の偽らざる本心と一緒に実利を含んだ理由を提示する。


「確かにな。」

パノマイトの言っていることに一応の納得を示したアルシアはどうするのかといった視線をナンシアに向ける。


「私たちとしては有難いのですけど本当によろしいのですか?冒険者の方でない分、直接の依頼になってしまいますけど。」


「ええ、私には何も問題はありません。レイさんも問題ないですか?」


「俺はそもそもパノマイトさんの護衛としてこの街には来たので何もいうことはないです。ただお願いがあるとしたら、リオちゃんの意見も聞いてあげてください。ここで店をやるという理由で竜人の国で暮らす覚悟を決めたのに、すぐ話を変えて今度はエルフの国というのは流石にリオちゃんが大変だと思います。」


レイの言葉に納得したパノマイトはレイと自分の間に座っているリオに尋ねる。しかしリオは父とベムたちと一緒ならばどこでもいいということであっさりパノマイトたちの同行が決定した。


「それでレイさん、お願いできませんか?」


レイは右手を顎にあて、やや俯きながら思案する。そしてそのままレイはルノに願いを伝えるためにルノの特殊技術『天降り』を発動させる。


(「ルノ、聞こえる?念話したいんだけど、これであってるかな?」)


(「はい、聞こえております。どうされましたか?」)


(「ルノ、アルシアさんたちについてエルフの国に行ってくれない?」)


(「それはレイ様と共にということでしょうか?」)


(「違うかな。俺はウキトスに戻るよ。」)


(「でしたら私もレイ様とウキトスにご一緒させてください。」)


(「理由を聞いてもいいかな」)


(「私がレイ様のメイドであり、護衛であるからです。」)


(「でもこの街を見てわかるように、俺に深手を追わすことすら誰も出来ない。俺を殺すなんてもっと無理な話だと思うよ。それはウキトスも同じ。ルノが来るまで1人で生きてこられてことがいい証拠だよ。」)


(「ですが、何があるかは分かりません。

それに私は再びレイ様と離れたくありません。」)


(「そう思ってくれるのは素直に嬉しいし、俺もルノと一緒にいたい。でも、俺は復讐をしないといけないし、この世界のことをもっと知らないといけない。さっき言っていたルートにノマダ共和国ってあったでしょ?」)


(「はい・・・」)


(「そこにおそらくそこにミュー・ミドガルがいる。この間逃げられた時に無属性魔法『マーク』で後を追ったんだけどカテナ西国を北上した時点で反応が消えたんだ。多分、俺の索敵範囲外なんだと思う。あいつはハーフエルフだからいるとしたらこのノマダ共和国だと思うんだ。だからそこに立ち寄った時に色々と調べてきて欲しい。あいつの弱点や大切にしているものを。」)


(「私が殺してすぐにレイ様の元にもどる、もしくはレイ様と共にノマダ共和国に向かうのではダメなのでしょうか。」)


(「難しいかな。俺がノマダ共和国に向かうならこの依頼を受けないと関係が拗れそうだし受けたら受けたで時間が掛かってしまう。だから帰りにノマダ共和国経由で探してきて欲しいんだ。それに俺が直接向かって、偶然ミューを見てしまったら殺したくなっちゃうから。正直、ルノにしか頼めないんだ。お願いできないかな。」)


(「・・・・・かしこまりました。」)


ルノにしか頼めない、などとどこかヒモ男のようなセリフを言ってしまったなと内心で罪悪感を感じながら、レイはナンシアに返答する。ルノとの念話はコンマ数秒を争う戦闘時に行うことが想定されているのか、念話の時間は普通の体感時間と異なる。そのため、ナンシアがレイに頼んでからわずか数秒しか経過していない。以前と違って長時間黙って思案することもないためナンシアに不思議そうな顔を向けられることはなかった。しかしレイから頼りにされたことに喜ぶルノはレイの背後で体をわずかにくねらせ、顔を赤くしていた。当然、向かいにいるアルシアとナンシアから不信がられていた。


「すみません、この依頼、俺は受けられません。」


レイの返答にあからさまに残念そうな表情を浮かべる2人。

「ただ、護衛という意味ではパノマイトさんが同行するのではベムたちを含めても負担が増えてしまうと思います。ですので、ルノも同行させます。ルノ、お願いできるかな?それと、ナンシアさん、アルシアさんルノが同行してもいいですか?」


「かしこまりました。」

振り返って尋ねるレイに対してルノは恭しく頭を垂れる。


「えっと」


「ルノは俺のメイド兼護衛なのでかなり強いですよ。」


あまりにスムーズに命令を従うルノに本当にいいのかと思うナンシア。

しかし、レイが願い、ルノが了承した。ナンシアたちからすれば実力はわからないもののレイからのお墨付きをもらっている彼女はとても心強かった。


「私たちとしてはレイさんに来てもらえると嬉しかったです。でもルノさんが同行してくれるのもすごく助かります。ありがとうございます。となると、パノマイトさん、リオちゃん、ルノさんが同行してくださるってことで大丈夫ですか?」


「そうだと思います。俺は男爵の処刑を見届けてからウキトスに戻ります。それまでに何かあったら気軽に声かけてください。あとはルノに任せます。少し寄りたい場所があるので失礼します。」


「いえ、わざわざ話を聞いてもらってありがとうございます。先日のことと今回のことは必ずお礼するのでぜひエルフの国に来てください。精一杯おもてなし致します。」


「ありがとうございます。その時を楽しみにしていますね。パノマイトさんも失礼します。今日は用もあるのでまた明日伺いますね。」


「ああ、本当に感謝しているよ。いつでも来てほしい。」


「リオちゃんもまたね。」


「うん、バイバイお兄さん。」


「それじゃあとはルノ、任せたよ。」


「かしこまりました。」


丁寧に1人ずつ分かれの挨拶をしたのち、レイは宿に戻った。宿に戻った時レイは自分の部屋に戻らず、隣の扉をノックする。試験開始以来会ってなかったザーロと街を出る前に少し話したかったのだ。しかしタイミングが悪かったのかレイはベニートでザーロに会うことは出来なかった。

ありがとうございました。

亀更新ですが、応援してくださると嬉しいです。

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