117.これからと、依頼1
よろしくお願いします。
話し合いが終わり領主陣以外の面々と外に出るとアルシアたちから話があると声をかけられる。その場にいた面々は全員そのままの足でパノマイトの経営する本屋「狼の森」に向かうことになった。パノマイトの間借りしていた場所はレイが襲撃を行った男爵家の裏側にあるため領主館からはそう遠くない。ブックカフェの内装をしている店内のテーブルにレイ、アルシア、ナンシア、それにこの家の主人であるパノマイトも一応同席する。ルノは先ほどの話し合いの時同様にレイの後ろに立つ。
「レイさん、改めまして色々とありがとうございました。
レイさんのおかげで同胞を救い出すことができました。」
席について話を始めるなり、ナンシアがレイに感謝を述べる。レイは先ほどの領主館での領主様との会話のやり取りが完全周囲を引かせていたと実感があったためお礼を言われたことに驚いた。領主に対しての口振りや、突然領主が浮かび上がった時など完全にレイを恐れているようだった。
「いえ、男爵家襲撃は単純に俺の目的と被っていただけなので何も気にしないでください。」
自分が触れられたくない話題に対して、相手が話を振ってこないのだから自分からあえてその話題は選ばない。レイは男爵家襲撃の話を全面に押し出した。少しでも領主館での蛮行を忘れて欲しいと思ったのは言うまでない。
「その件もですが、今日も私たちが罰せられにくいように話し合いの矢面に立ってくれたことも助かりました。アルシアは本当に敬意を抱いた相手になら自然と口調が整うんですけど、意識的に切り替えることができないようで、今日も黙っていてほしいとお願いしたんです。でもレイさんが、率先して失礼なことを言ってくれるのでこちらも色々な要求がしやすかったです。」
ナンシアは想像以上にレイの行動を好意的に捉えてくれていた。レイは物腰柔らかだが、それは必要のない他者の害悪に触れることを恐れているため。必要ならば害悪を無視し、相手を殺すだけだし、そもそも宮廷作法のような礼儀をきちんと学んでいないために言葉使いも相手を不快にさせない程度の敬語しか使えない。ナンシアが深く考えすぎなだけなのだが、せっかくいい方向に勘違いしてくれているためレイは特にその辺の事情を説明し、訂正することなく話を進める。
「と、ところでナンシアさんたちはこれからエルフの国に向かうんですか?」
「ええ、流石に30人にそのままエルフ国までの路銀を渡すだけというのは酷な話なので。
身体的な成長が遅い分、見た目は若くてもそれなりの歳の人もいました。逆に本当に見た目通りの成人もしていない子供もいました。ここから彼らの自力でソアトル大森林内のエルフの国まで向かうのは無理がありそうですので。本当は他の国、領地に赴いて不当に拉致されている同胞を助けたいのですけど、まずは今助けた同法を故郷に送り届けたいと思っています。」
「そうでしたか。
それで俺に話というのはなんでしょうか?」
「はい、その帰国のことでお願い、いや依頼があるのですけど私たちと共にエルフ国まで拉致されていた同胞を送るのを手伝っていただけませんか?」
「手伝い、ですか?」
「はい、もし了承していただけるのであればギルドを通した依頼としてレイさんを指名させていただきたいんです。」
「ここから30名のエルフたちを連れてソアトル大森林内のエルフの国までというのはどれくらいの日数がかかるのでしょう?」
スムーズに進んでいた会話のラリーがここで止まる。ナンシアはレイから視線を外して、何かぶつぶつと呟き出す。おそらく旅程の計画を頭の中で練っているのだろう。せっかく知り合った仲のため、レイも可能ならば彼女らを助けたい。しかしレイにはあまり長い時間を割くことが出来ない理由があった。
「エルフたちを連れてとなると、彼らを馬車に乗せて運ぶのが一番早いと思います。
考えられるルートは二つあります。一つはベニートから北西に進み、ノマダ共和国、そしてソアトル大森林内の蟲人の国を通りエルフの国に行くルートです。もう一つがベニートを北に進み、クティス獣王国を縦断してソアトル大森林内のエルフの国に入るルートです。」
「二つのルートに何か違いはあるんですか?」
「はい。私たちはレイさんが依頼を受けてくださるのなら二つ目のルートを通いたいと思っています。というのも、一つ目のノマダ共和国と蟲人の国は比較的エルフと親交がある国なので私たちが大人数で移動していても大きな危険なく通れると思うんです。ただ、迂回ルートになるのでどうしても時間がかかってしまいます。一方で獣王国を通る道は最短のルートです。ただ獣人も竜人同様、それ以上に私たちエルフを価値ある物として扱う傾向があります。そんな国をエルフが大人数で通るのは流石に難しいと思うんです。」
「なるほど。」
レイは思案する。このナンシアの依頼はレイへの信頼あってのものだ。竜人国全体がいまいち信じられないからという理由もあるだろうが、それでも頼ってもらえたのは嬉しいと感じていた。しかしレイはそれ以上にウキトスに帰りたい気持ちが強かった。もしここでレイがついていかなければエルフたち30名が全員死ぬと聞いたら流石について行っただろう。しかし迂回すれば日数的には長くなってしまうものの安全に帰れるルートもあるという。それならば自分がついていく必要性はそこまで高くないように思う。
ありがとうございました。
久しぶりのインフルで死んでました。




