114.仮面のツラが厚い1
よろしくお願いします。
男爵家襲撃から3日たった現在、レイは領主の館を訪れていた。
会議室のような場所に案内されるとコの字型の机が設置され、中心に領主であるニーベルンが座りその後ろに護衛であるクロームがいた。
レイの監視についていたソリタリーはレイから離れ、クロームの隣に立つ。
ニーベルンの隣には執事服を着た竜人がいる。
それなりに歳をとっているようで近視用の小さい丸メガネを鼻先にチョコンとかけている。
コの字型の一辺には男爵家襲撃の際に一緒に乗り込んだアルシアとナンシアもすでに来て、座っている。
レイは共に来たリオ、パノマイトと向かい側の席に腰掛ける。
ルノだけは席につかず、護衛騎士たち同様レイの後ろに静かに移動した。
レイはここには1人で行くことも考えたが、ルノ、リオ、それにパノマイトも連れてきた。
パノマイトにかけられた魔法の正体を知るためには実際に魔法にかけられた本人がいるべきで、襲われたリオも連れてくる理由は十分だった。
その結果、1人宿にいても意味がないということでルノも連れて来た。
ちなみに、双頭獣はレイの『黒沼』の中にいる。
当の被害者であり諸々の犯人であるミャスパー・ガルノーはこの場にはいない。
「揃ったか。それでは3日前の襲撃事件についての詳細を話してもらおうか。
こちらとしても情報は集めているため、くれぐれも嘘はつかないように。」
事件関係者が集まり、当日の話のすり合わせが行われ始める。
まずはレイがCランク試験のためヘルハンツ迷宮に向かい、その過程アルシアとナンシアと出会ったことを伝える。
試験課題を終えてベニートに戻るとギルド近くで騒ぎを目撃。
そこにレイの知り合いであるリオがおり、多人数の武装した竜人に暴力を振るわれていた。
血だらけで倒れる姿を目撃したレイはリオを助けるために武装している竜人を殺した。
一体どうしてリオが襲われていたのか捕らえた竜人に尋ねたところ男爵の命令があったと供述。
その際に違法に他種族を拉致している可能性があったため共にいたアルシアとナンシアも一緒に男爵家に向かった。
レイは男爵をまず殺すために男爵の居場所を捜索。
レイはすぐに男爵を発見したが、そこに元Aランク冒険者のシゼレコが男爵の護衛としてレイと敵対。
シゼレコも奴隷売買に大きく関わっていた可能性があったため殺害。
男爵には逃げられないよう、一時的に魔法で捕縛。
シゼレコを倒して戻ってきた際に領主と遭遇。
「以上が一連の流れです。
領主様が集めている情報と何か異なる部分はありますか?」
レイが報告を終えると領主が重々しいため息を吐き出す。
「いや、私が調べさせた情報とほとんど差異はないが、いくつか疑問もある。
その点について話を進めていく。
まずはそこの人種2人がレイと出会った理由はわかった。
しかし出会ったばかりでどうしてその襲撃に加担した?」
ニーベルンの疑問にレイはどう答えるべきか思案する。
ニーベルンがアルシアとナンシアを人種と断言したことから分かるように、2人は今日も『人魚の夢』という幻覚作用のある魔法器を装備している。
奴隷の奪還についてはレイの意思ではなく彼女らの願いだ。
だがそのことを信じてもらうにはエルフであることを明かさなければ説明のしようがない。最終的にどうするかは2人が決めることだと考えたためレイは視線を送る。
ナンシアがその視線の意味を察したのか、話に割り込む無礼を謝罪したのちに話し始める。
「領主様、私たちがこの襲撃に加担したことには私たちの秘密が関わって参ります。
この件に関して他言無用と、この街での身の安全を保証していただくことは可能でしょうか?」
「この場での会話はもとより他言無用だ。
だが、沙汰によっては貴様らの身の安全は保証しかねる。」
「ありがとうございます。
身の安全というのは私たちの秘密を知ったことで生じる可能性のある危険でございます。
決して裁きに対する軽減を望んでいるわけではございません。」
「それならば良い。貴様らの身の安全は保証しよう。」
「ではそのお言葉を信用致します。
私たちは冒険者活動を行いながら、各地で違法な手段で奴隷にされた同胞たちを救い出す活動をしております。その際に私たちは人種に姿を変えてみせる魔法器を使い各地を点々としているのです。私たちの本来の種族はエルフです。
今回の襲撃に加わったのは同胞、仲間であるエルフたちを助けるためでございます。」
ナンシアがエルフであることをカミングアウトしたことでクロームやゲイリーはやや表情をこわばらせる。しかしニーベルンは顎をさすりながら思案する。表情は一切変化することなく何を考えているかわからない。
「貴族の屋敷を襲撃するには、情報源が少なすぎる。
仮に奴隷がいなかった場合はどうしていた?
男爵が潔白であった場合、このような話合いの場を設けることなく、貴様らは死刑になっていたが?」
「おっしゃる通りでございます。
しかし無理やり奴隷扱いを受ける同胞を助けるためには多少の荒事は避けられないと考えております。
それにしっかりとした情報を得た上で、男爵様が同胞を拉致していた場合レイさんを除いた私たち2人だけで男爵様の屋敷に潜入し同胞を助けなければなりません。捕らえられている同胞が1人や2人ならば隠れて逃げることもできたかもしれません。
しかし今回エルフは30名ほど捕らえられておりました。
その人数を誰の目につくことなく連れ去ることは不可能でございます。
結局2人だけでは目的を果たすことはできず殺されるか、奴隷に落とされるだけでございますので。」
手がかりが少ない段階で行動を起こしたのは早計でないかというニーベルンの追求に対して、ナンシアはお前らが同胞を奴隷にしなければ問題ないだろうという内容の文言をものすごくオブラートにして伝える。ニーベルンは言葉の意図を察したが、圧倒的に非が竜人国にあるためあまり強気なことを言うことができない。
「そうか。話は戻るが、お前たちがエルフである証明はあるのか?」
「私たちの装備する魔法器は、下着の形状をしております。
この場で装着を外すことはどうかご容赦を。
それにレイさんは幻惑看破の魔法器で私たちの正体を知っています。
レイさん、その魔法器を一時的に領主様にお貸しいただけませんか?」
ナンシアから話し合いの前にそのことについて相談されていたため、慌てることなく『黒狐の仮面』とは別のレベルによって作用が大きく変化する幻惑看破系の魔法器を受け取りにきたソリタリーに渡す。
『泡沫の指輪』
伝説級のアイテム
装備者のレベルに応じて幻惑耐性が上下する指輪。
装備制限はないが、その代わりレベルに圧倒的な隔たりがないと幻惑耐性の効果も微弱。
レイの渡した指輪に危険がないか確認するために受け取ったソリタリーがはめる。
特に何も体に変化がないことを確認したところで、ソリタリーはアルシアたちに視線を向ける。
ぼんやりと2人を見つめていたソリタリーだったが、領主から声をかけられたことで指輪の効果を話す。
「確かに指輪をはめた後に彼女たちを見るとぼんやりと耳の輪郭が重なって見えます。
一つは人種の丸っこい耳。
もう一つはゴブリンとは別の尖った耳が。」
ソリタリーがそう説明すると、確認のためにクロームもソリタリーから指輪を受け取って確認する。2人からアルシアとナンシアがエルフであることの確証が得られたことでエルフ救出の話は信じられた。
領主から指輪を献上する、もしくは売るように暗に要求されたレイだったがその言葉を無視してさっさと話を進める
「他に何か気になる点はありますか?」
レイのそんな態度を護衛のクロームは苦い顔を浮かべて見ていたが、今回は何か口を挟むことはなかった。
ありがとうございました。
少々立て込んでいるため、更新を2週間間隔にさせてください。




