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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
113/198

113.重たい腰を上げた先に

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

「ルールル ルルル ルールレ ルルル ルールールールールールル ルールル ルルル ルールル ララララタラッタ〜タッタラタタタタタッラタタタタッタタッタタルル〜」

オーフィリアは回る。クルクルと鼻歌を歌いながら。


ここはメギド慰霊教会B6、揺曳の間。

オーフィリア・キングスレーの管理区域。

スカートをふわふわと揺らしながら、場違いなほど明るい鼻歌を口ずさむ。


レイが消失して、慰霊教会の面々は相当に焦っていた。

マリクのように発狂し、言葉にはしないものの、レイに捨てられたり、レイが既に亡くなっているのではないかと心のどこかで皆、感じていた。


しかしオーフィリアは違っていた。レイが死ぬことなんて端から論外で、全く考える必要を感じていない。仮に捨てられていたとしてもそれは自分以外の話。自分はレイを探し出して一緒にいれば何も問題はないと考えていた。


ある意味で、メギド慰霊教会の中でオーフィリアが一番冷静で、いつも通りだった。


その通常運転が異常であるために普通とは言えないのだが、狂い気味なシャナや翁よりはマシだと考えられた。


だから、今回彼女は慚愧に選ばれた。


クルクル回りながら鼻歌を歌っているところでオーフィリアは自分の管理フロアに30名ほどの人の気配を感じた。たくさんのお客さんに笑みを浮かべながら、オーフィリアは自分の服に両手を忍ばせる。


「こんにちわぁ〜」


やって来たお客を歓迎するべく両手を勢いよく広げ、間伸びした甘ったるい声で挨拶をする。その刹那、鏡が割れる音が各所から上がる。

オーフィリアは再度自分の服に手を伸ばし、そしてナイフを投げつける。


「あれれぇぇ???」


鏡が割れる音が聞こえたのにもかかわらず、30人いた侵入者に投げたナイフが当たった感触を感じない。疑問を感じたオーフィリアは人差し指を顎下に当てて首を傾げる。

突然ナイフを投げつけたとは思えない仕草に侵入者の1人から思わず声が発せられる。


「俺ら2人相手に数百ものナイフを投げるなんてその目は何を映しているんだ。」


「あれ〜?その声は慚愧だぁ〜、ん?フタリ??」


「そうだ、私とマリクしかこの場にはいない。」


「えぇーごめんー。ちっちゃい鬼さんと羽を生やした野郎以外にもたぁくさん見えたからてっきりぃ侵入者かぁって思ってさぁー。ルノもここから消えちゃったしぃわたしが殺さないとなあってなったからさあ〜」


「それはお得意の幻覚だろう。」


「そーだったみたいねぇ。ごめんねぇ。

それでー?何の用〜?

そこの羽つきにここで待機するようにぃ命令されたんだけぇどぉ???」


全面鏡張りの空間、<揺曳の間>に現れたのは慚愧とマリクだった。

鏡は先ほどのオーフィリアの攻撃によってバリバリにヒビを入れられたが、いつも間にか修復され、投げたナイフも消えている。


「ええ、オーフィリア様があの場を乱すので致し方なく。ご容赦ください。」

慇懃無礼とも取れる態度ではあるものの、一応<七冥王>という慰霊教会内においてレイの次に位の高いものであるオーフィリアに頭を下げるマリク。


「前回の話し合いを踏まえて、レイ様の捜索を行うことにした。

オーフィリアもそれに参加してもらう。」


「ええ〜私もぉ???

ベぇつにいいけどぉ、珍しいねぇ?あまり外に出したがらないのに。」


「今回はお前よりも外に出すのに不安ある連中が多いからな。」


「みーんな、レイ様のことだいすきだもんねー。それで狂っていたら世話ないけどねー。

だけど、ほんと気持ち悪いくらい、みんなレイ様のこと好きなんだねぇ。

あの人がいないと動くこともできない木偶のくせにどうしてあんなにいっつも偉そうなんだろうね。ほんとどうしてあんなのが彼の配下を堂々と名乗れるんだろう。

私には理解できないよ。動き出すのも遅いし。私は私の好きにやらせてもらうから。」


途中まで異常で普通だったオーフィリアの様子が変わる。

甘ったるい声に、異様に耳に残る伸ばした語尾の話し方はなりを顰める。

声は次第に小さくなり、目は慚愧やマリクを捉えずに正面一点を捉えている。

そんないつもと違う様子のオーフォリアに慚愧とマリクは特に慌てた様子はない。


「またいつものやつか。おい、オーフィリア、薬の時間だろう」

慚愧が肩を揺すりながら声をかけると、オーフィリアはハッとした様子になり、自分の右肩下に手を皿にして構える。するとちょうど、オーフィリアの左手の中にカプセルの薬が一錠ストンと落下してくる。

薬はBluetoothイヤホンのケースくらいに大きかった。赤、青、黒が放射線状に広がりを見せ、とても良薬のようには思えない。

そんな明らかな薬をオーフィリアは焦点の定まらない瞳で見つめる。

そしてゆっくり嚥下する。


慚愧とマリクはしばらくその様子を黙って見ている。

しばらくして電源が入ったようにオーフィリアは再び話し始める。


「それでぇ〜私は1人で探していいのよねぇ??」


「ああ構わない。しかし、余計な問題は起こすなよ。それと2週間後、機械都市マキナにて情報共有を行うからそれにも忘れずに参加するように。」


「はいは〜い。それじゃ、私もう行くから〜

ばぁいばぁい。」

そう言ってオーフィリアは『泡沫の影時計』を出現させる。

初動から動き出しまで本当に無駄がなく、マリクはわずかに反応に遅れてしまう。

マリクは羽を影から伸びる黒い帯で締め付けられてしまい、身動きが取れなくなってしまった。


「これは、、!」


慚愧はオーフィリアの攻撃を予想していたのか、すぐに自分の立っていた場所から離れている。


「ふふふっ。よかったね。今のが攻撃じゃなくてぇ。攻撃なら致命傷だったんじゃないかなぁ。慚愧はいつも逃げるからつまんなーい。」

そう言ってオーフィリアは慚愧に退屈そうな表情を向けたのち、『泡沫の影時計』とともに影に沈んで行ってしまった。


それからしばらくしてマリクは拘束から逃れる。

「とりあえず、面倒なことにならずに済みましたね。」

脱出したマリクも反応が遅れただけで、大したダメージを受けていないため平然と話を開始する。


「少々危険な気もするが、これが最善だろう。

シャナや翁、猖佯には任せられん。あの様子ではダメだ。仮にレイ様を見つけたとしても危険に晒しかねない。」


「それはオーフィリア様も同じことでは?」


「いや、あれは少し違う。

全くと言っていいほどレイ様に対しての執着が感じられん。

レイ様を主人として仰いでいることは確かだが、何か俺らとは決定的に違う。

だから今回の捜索を任せることが出来たから正直なんとも言えないのだがな。」


「そうですか。

それで私たち以外には誰に伝えに行くのですか。」


慚愧の話す言葉の意味が分からないようで不可解げな様子のマリク。

理解しようとはせずに話を進めようとする。


「シャナと翁、猖佯は先ほども言ったが、あの様子で外に出すことはできない。

オーキュロームに少し話がある。ついてこい。」


「畏まりました。」


それから慚愧とマリクはオーキュロームのいる純沌の間に移動する。

マリクは唯一レイから指揮権を与えられている。そのため、必要に応じては<七冥王>に対して命令することも出来るし、階層の移動も自由に行うことができる。

その力を活かして2人は<荒廃の間>、<亜暴の間>、<狂奏の間>を無視して<純沌の間>に転移する。


「オーキュ、少しいいか。」

転移するともに慚愧は声をかける。

相手を視認する前に声をかけたのは、そうでもしないとオーキュロームから先制攻撃を受けてしまうためだ。

突然現れる気配に反応してオーキュロームだけでなく、幾人かのオーキュロームの直属の配下も反応を示していた。


「慚愧か。それにマリクも。どうした?」

侵入者に対しての臨戦体制を解いて、2人に近づくオーキュローム。


「天魔を借りてもいいか?」


「天魔?2人ともか?別にいいが、何をするんだ?」


「レイ様の捜索に向かうことにした。」


「レイ様を!?それなら私が!」


「待て、話を聞け。」

押し潰しそうになるほどの勢いでオーキュロームは顔を近づける。

慚愧はそれを鬱陶しげに払い除ける。


「ルノの一件もある。<七冥王>全員が外にレイ様を探しに行くわけには行かない。

そう考えた時に、外に探しに行けるのは誰だ?」


「ローチェは、人見知りがひどいから聞き込みは難しそうだな。

猖佯は出来なくもないが、今のあの状態だと無理だな。

オーフィリア、それにシャナと翁は論外か。

私と慚愧しかいないのではないか。」


「おおむね俺も同じ考えだ。

しかし、オーキュを行かせると慰霊教会が詰む。

マリクを残す手も考えたが、共同規制を翁とオーフィリアなどにもたれるとマリクでは処理しきれなくなるからな。

そう考えると俺とオーキュは別々に動くべきだ。」


「・・・・確かに、、、。

でもそれなら、私と変わってくれないか。私はレイ様を探しに行きたい。」


「悪いがそれも少し難しい。」


「どうして!?」


「今回の捜索は、俺、マリク、そしてオーフィリアが主導で行う。

シャナ、ローチェ、オーキュはオーフィリアから狙われているから出来るだけ、慰霊教会から出ない方が安全だ。」


「、、、オーフィリアのアレか。

了解した。それで、天魔が必要なんだな。慚愧に同行するように命じておこう。」


「そうだ。俺も確率は低いと思うが、オーフィリアに襲われた場合はサシだときついからな、助かる。シャナや翁は基本自分の管理階層から出ないから大丈夫だと思うが、念の為注意してくれ。」


「ああ、わかった。ローチェには伝えるのか?」


「それは任せる。必要だと思ったら伝えてくれ。

それじゃ、俺たちはもういく。2週間ほどで一度結果を伝えに戻ってくる予定だ。」


「気をつけて。

レイ様を見つけてくれ。」


そう言って慚愧とマリク、その後ろにいつの間にか控えていた天魔とハファザの6人は慰霊教会を出発した。


ありがとうございました。

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