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失われていく自分の世界  作者: 糸守 朱知。
オセアニア評議国編
112/198

112.再会

よろしくお願いします。

食事を終え、ひと段落ついたことでレイはルノを呼ぶ。

「ルノ、パノマイトさんの居場所はわかった?」


「はい。ですが、一箇所に止まらずあちこち動き回っているようです。

今は牧場周辺を動き回っております。」


「牧場?そんな場所があったんだ。

まぁ見つかったならよかった。急いで向かおうか。

命に問題はないんだよね?」


「申し訳ありません。私の能力ではその男の状態まで詳しく把握することができません。

ただ、針珠蟲の反応から走ったりもしているようですので問題はないと思われます。」


「そっか。生きているならどうにでもなるからよかった。

リオちゃん、パノマイトさん見つかったから会いに行こうか。」


ご飯を食べて終えからずっとソワソワしていたリオは勢いよく椅子から立ち上がる。

そんなリオを連れて宿の外に出る。

外に出ると昨日、領主の護衛をしていた騎士1人が立っていた。

そういえば領主が監視のために兵士を1人つけると言っていたなと思い出したが、正直今はそんなどうでもいいことに気を配る暇はない。

騎士もこちらに話しかけて来るというわけではないのでスルーする。

ルノによると牧場は北側、それも昨日襲撃した男爵家よりも奥に位置するという。

ここからだと男爵家より近い冒険者ギルドですら30分以上かかる。

リオの心情を汲むなら今すぐにでも父親に合わせてあげたい。

レイが抱えて走ればすぐに着くことはできるはずだ。

ただリオの体が、レイが本気で走った際にかかる負荷にどれくらいまで耐えられるかがわからない。

何か乗り物でもあれば楽なのにとレイは思う。

自転車でもあればなと考えるついでに、この街まで来た手段である獣車の存在を思い出す。

少々騒ぎになってしまうが、昨日の今日だ。もうどうでもいいかと思い、レイは『黒沼』からペスだった存在を解放する。


地面に黒い穴が生じ、そこから獣の右前足が出現する。


騎士は驚き、武器を構える。


一方リオは


「ペス!!。。。。?」


獣の足を見た瞬間にペスだと判別し、いまいちよくわからない状況よりも喜びの感情が勝り、近くに駆け寄る。しかし続いて現れた左前足を目にして声に確証がもてない様がありありと含まれる。


「え?ベム」


二匹が同時に出て来るにしては狭い黒の穴からそれぞれの足が出現する。

リオは困惑しながらも獣の出てくる穴を見つめている。

黒い穴は収束していき、最終的に全長5m弱ある双頭の獣が現れた。


「え?え?ベム?ペス?え?え?え?」

完全に出現を終えた一匹の獣。

リオからするとその獣はペスでもあり、ベムでもあった。二匹が一匹にまとまっている。

そのため驚きは一入であり、何がどうなっているのかわからなかった。

感情が振り切れてしまい、再会を喜ぶのか、異形の姿を恐れるのか、一体どうして二匹が一匹になったのか、ペスたちが生きているのならマーナはどうなったのかなど頭の中に様々な思いが駆け巡る。その結果リオはフリーズしてしまう。


そんな困惑をよそにペスだった存在は同一体から延びる二つの頭を愛おしげな様子でリオに擦り付ける。

両頬を二つの頭部に挟まれたことで、リオはこれまでのペストベムの感触を感じることができ、みるみる困惑が収まっていく。

「ベムとペスは生きるために合体したんだ。

二匹ともリオちゃんをすごく心配していたから元気な様子を見せてあげて。」

事情を知るレイは、リオの困惑が収まりつつあるタイミングで情報を補完する。


「うん」


レイの言葉を聞いたリオは擦り寄る二匹の頭を同時に撫でる。

ポロポロと涙を流しながら、無事でいてくれたことを喜び、あの夜に助けに来てくれたことを感謝する。


「パノマイトさんの場所まで少し遠いみたいだからペスに連れて行ってもらってもいいかな。」


リオたちの再会を邪魔しないようしばらく間を置いたのちにレイは話しかける。

じゃれあっていたリオとペスだった存在もレイに話しかけられたことで表情を引き締める。

ベムはリオの後ろ首を甘噛みして咥えるとペスの頭部に乗せる。ベムはそのまま「ガウ」とレイに何かを伝えようとする。


「お兄さん、ベムが乗ってだって。」


リオがベムの意思を伝えてくれる。

レイは半歩後ろに立っていたルノをお姫様抱っこするとそのまま双頭獣の体に飛び乗る。

すると双頭獣は目的地を伝えていないにもかかわらず、鼻をピクピクと動かしたかと思うとかなりの速度で街中を駆け抜ける。

武器を構えながらも呆然としていたベニートお抱えの騎士は数秒遅れてレイたちが自分の側からものすごい勢いで離れていることに気がつき慌てて追いかける。

双頭獣の全長は5mは確実にあるだろうに、その巨躯を身軽に動かし、街人に被害が出ないように四足の足を抜足をするが若く走る。


「すごいベム!ペス!早い!早いね!」

ペスの頭上ではリオがペスにしがみ付きながらキャキャと楽しそうに声をあげている。

レイもこの速度ならすぐにパノマイトの元まで向かうことが出来そうだと流れゆく景色を堪能する。

2人が景色や双頭獣の走る速度に対して感想を抱く中、ルノはレイの腕の中で赤面していた。



双頭獣が走れば走るほど、街の中心地から離れる。

建物の数が減っていき草木が目立つようになり、最終的には牧草地を整備する時の休憩所のような掘建小屋のようなものがちらほらと見えるだけになっていた。

そんな見通しの良い場所に1人の男がいた。

男は背の高い草木を懸命に掻き分け、大きな声を出していた。

双頭獣が近づくことにすら気がつかないようでその男、パノマイトは必死にリオを探していた。


「お父さん!!」


双頭獣の頭上で楽しそうにしているリオだったが、牧場に出てパノマイトを視認すると表情を曇らせる。

自分のことを心配してくれて一生懸命に探す様子を嬉しいと感じ、同時に自分が迂闊な行動をとったことで多くの迷惑をかけた。下手したら命だって無くしていた。多くの可能性をここ数日で実感したためにリオのパノマイトを呼ぶ声には万感の念がこもっていた。


草木をかき分けていたパノマイトは突然娘の声が脳裏に響いたことで、幻聴だと感じ、連日酷使した体に遂にガタが来始めたのかと感じていた。

しかし自分の体などよりも大切な友の忘れ形見であり愛する娘の方が大切だった。

パノマイトはどんどん大きくなってくる幻聴を無視して必死に探した。

自分が倒れていた場所から逃げ込むのだとしたこの見通しの悪い牧場が一番だと思ったが故の行動だが、確たる証拠は何もない。

ただここにいてくれという希望だけを胸に、入り組んだ路地で目覚めてから今までリオを探し続けてきた。


気づけばパノマイトは仰向けに倒れていた。

とうとう体力の限界が来たかと半ば諦めの感情で空を見上げる。

先ほどまで自分の体力を必要以上に奪ってきた太陽に文句の一つでも言ってやらなければならないと思っていた。

しかし太陽が見えない。

仰向けに倒れた自分と太陽の間に誰かが割り込んできた。

その誰かは背後の太陽光によって影が生じてよく見えない。

一体誰なのだろうか。

パノマイトは倒れる瞬間、自分の腹部あたりに衝撃を覚えたことを思い出す。


目を細めながら、その人物を確認しようとする。

すると自分の顔に水滴が垂れてきた。


「お父さん?お父さん!」


意識が朦朧としているせいで今になって気が付く。

探していた娘が自分に抱きついてきていたことに。

その勢いに押されて自分が倒れたことに。


「ああ、よかった。」


リオの無事な姿を確認出来たことに安堵して、パノマイトは意識を手放した。


双頭獣が近づいてもパノマイトは全くリオに気づくことはなかった。

リオが降ろしてほしいと強く願ったことで双頭獣は歩を止めて、頭をエスカレーターのようにスライドさせてリオを地面に下ろす。

レイは念の為『テイル』で索敵を行い危険がないことを確認する。

そうしている間にもリオはパノマイトの元まで近づき、大きな声をかけながら抱きつく。

走った勢いのまま抱きつかれたパノマイトはリオを受け止めることができず地面に倒れ込む。この時、レイはパノマイトの体力次第ではリオの突撃がファイナルアタックになりかねないと考え、慌てて双頭獣から飛び降りて駆け寄る。

リオとパノマイトが倒れ込んだ場所に遅れて到着したレイは、微笑を浮かべながら眠るように意識を失うパノマイトの無事な姿を見てホッと安堵したのだった。


2022年、お世話になりました。

来年もよろしくお願いします。


1月1日も投稿予定です。

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