108.屋敷の中で
よろしくお願いします。
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「レイさん、一体何があったんですか?」
ナンシアがこの場であったことを確認するために近づいてきた。
伯爵たちはこの場を去っていた。
今この場にはナンシアとレイの監視を言い渡されたソリタリーしかいない。
伯爵は三日後の話し合いのために情報収集を行いに拘束した男爵と地下牢に向かった。そんな伯爵たちが地下牢に向かうならば、拉致されたものたちの待遇を今すぐにでも変えてほしいと要求するためアルシアもついていった。
「何があったと言われましても。
とりあえずこの屋敷に入るまでは一緒に行動していましたし。
伝えないといけないことというと、シゼレコを殺したことくらいでしょうか。」
「シゼレコさん・・・と言いますとあの、シゼレコさん、ですか?」
「ええと、どのシゼレコなのかわかりませんけど、Cランク試験の説明の時に試験監を行っていた人です。」
「え!!??確かその人って元Aランク冒険者の人ですよね?私は直接お会いしてないですけど、そんな人を殺したんですか?」
「はい、敵として前に立たれたので。」
レイとしてはどうしてそこまでナンシアが驚くのかよくわからず首を傾げる。
「元とはいえ、Aランク冒険者の方を倒されたんですね。
会った時から強い方だとは思っていましたけど、そこまでだったとは・・・
それにいいんですか?」
ナンシアはレイの実力はCランクを多少上回る程度だと思っていたために驚いていたようだ。
「いい、とは何がですか?」
「この屋敷にいた時点で、貴族の方とも繋がりがあったようですしもしレイさんが殺したってシゼレコさんと関係のある貴族に知られたら大変なんじゃないかって思って・・」
「なるほど。確かにそうかもしれませんね。ただ、シゼレコとミューはこの奴隷売買に深く関わっていたようなので、奴隷売買を止めるなら衝突は避けられなかったと思います。」
「え、ミューって、まさか。」
「はい。副試験監だった人です。シゼレコを殺している間に逃げられてしまいました。」
「でもミューさんって竜人ではないですよね?どうして竜人でない人までここで奴隷を?」
ナンシアは心底不可解な様子で首を傾げる。
同族以外の種族を無理やり連れ去り、牢屋にぶち込むのは許せないが理解はできるとナンシアは語る。しかし同族やその他種族まで見境なく拉致するとなると話は全く変わってくるようだ。
しかしレイからすればその考え方の方が歪だった。
泰斗の世界には他種族は存在しなかった。
それなのに、肌の色などの泰斗からすれば瑣末なことで迫害は簡単に発生した。
それゆえ同族だからという理由で無条件に信用できるような口振りのナンシアの方が、憎い復習対象であるミューよりも信じられない思考をしていると思った。
「ミューって人が同族よりも自分の利益を優先したからではないですか?」
「そ、そんな。仲間を売るなんて・・・」
「ひとまず今は捕らえられた人たちについて話しましょう。」
レイがミューの心情を推察し、考察を述べても全く納得できない様子のナンシア。同じ種族だからという理由で見ず知らずの人を信じることができるナンシアは本当に人として善良なのだとレイは思う。その思いを特に口にすることはなく、レイは拉致者たちの今後について話す。
「・・はい。そうですね。」
そう言って気持ちを切り替えたナンシアはレイが来る前に事前に伯爵と話し合っていた内容を伝える。
まず伯爵が地下牢を確認して本当に不当に拉致されてきたものたちなのかを確認する。
そして確認が取れた場合、拉致された者たちの意向を最大限汲んでくれるそうだ。
帰りたいものがいるなら帰し、補償金を求めるものがいるなら払う。
しかしエルフに関してはアルシアたちが皆引き取りたいと伝えたそうだ。
詳しい理由については信用できる相手かどうか判断つかないため三日後の話し合いの時に改めて判断するそうだ。
それからレイとナンシアは屋敷に来てからの互いの行動を具に確認していると伯爵の兵士がレイたちを呼びにきた。地下牢で確認してもらいたいものがあるためついてきてほしいとのことで、レイとナンシアはその兵士の後に続いた。
兵士の跡を追って歩いているとナンシアがどこか怪訝そうな表情を浮かべる。
「どうかしたんですか?」
表情の変化に気がついたレイはナンシアに声をかける。
「いえ、先ほど私たちが見つけた地下に行くと思ったんですけど道が違うなと思いまして。
どこに行くのかと不思議に思ったんです。」
ナンシア同様にレイも伯爵の元とへ来て欲しいと言われ、てっきり男爵が隠していた地下牢に向かうのだと思っていた。
しかしナンシアは別の場所に向かっているという。
レイもナンシア同様に一体どこに向かっているのだろうと疑問に思い、兵士に視線を送った。しかしそれと時を同じくしてとナンシアが驚きの声をあげる。
「ここにも入り口が?」
ナンシアが驚きの声を漏らすとともに兵士は立ち止まり一つの隠し扉を示す。
「我々はここから先に入ることを領主様によって禁じられております。
この先で領主様がお待ちですのでどうぞお進みください。」
兵士は恭しく頭を下げると隠し扉の横に立った。
レイはナンシアが口にした言葉をもとに疑問を口にする。
「ここ以外にも扉があったんですか?」
レイの質問にナンシアが首肯する。
「扉が多くあるだけで地下牢は一つだといいんですけど。
もし違う地下牢に通じているのならこの屋敷に幾つ地下牢があるのか・・・考えただけで頭が痛くなります。」
「確かにそうですね。ほんと、あれ以上身内がいないといいんですけど・・・。」
不安になりながらも領主が待つという地下牢に2人は進んでいく。
兵士が進んではいけないと聞いたためなのか、ソリタリーは隠し扉の隣に立つ兵士の反対側に並んで扉を守護する様に立っていた。
レイから特に話しかける理由もないためソリタリーを放ってそのまま階段を下る。
階段はやけに広い作りをしていた。
この先の空間の広さを想像すると、収容されている人の多さが脳裏に浮かび、嫌になる。
2人はゆっくり、だが確実に階段をくだり地下空間を目にした。
階段の幅から想像した様に地下はとても広かった。
しかし予想とは裏腹に人は誰もいない。
いや、領主やアルシアはいる。
それに倒れている人に獣もいる。
しかし人に注目する以前にその空間の惨状がまず目に入る。
鉄格子は破壊され、そこら一帯に血の匂いがする。
壁はひどく傷んでいるのに全く崩落する気配がないのがなんとも不思議だった。
そんな部屋の状況に目を奪われていたレイとナンシアだったが、レイはこの空間に倒れている人と獣を見て瞠目した。
急いで倒れている人物たちの元まで駆け寄る。
突然のレイの行動に隣にいたナンシアだけでなく、領主たちも驚いていたがレイにはそんな周りの視線を気にしている暇はなかった。
ありがとうございました。




