その日 雨が降ったから、サーファーは星の波を越える
「あいにくの雨ですね」
俺は渾身の笑顔で話しかけた。
一目でピンときた。彼女は“お嬢様”だ。
こういうのを待ってた。
俺はご覧の通りのサーファー
……なんかじゃない。
サーフィンなんてやったこともない。ボードはただの飾りだ。
じゃあどうしてこんな格好してるかって?モテるからさ。この格好だけで簡単に女は引っかかる。
ナンパ野郎?とんでもない。俺はちゃんとその時の彼女を本気で愛してる。夢を見せてるのさ。
だがここ数ヶ月、どうにも調子が悪い。
一人なんて俺のプライドが許さない。幸い雨だ。海に出なくても疑われる心配はない。今がチャンスだ。
そこへ、彼女である。
旅行中のお嬢様ってとこか。上手いことやれば、今後の俺の生活はかなりハッピーになるかも。
このチャンス、絶対に逃してなるものか。
「ええ、本当に雨ばかりで困ります」
私は渾身の笑顔で答えてみせた。
一目でピンときた。彼は“サーファー”だ。
こういうのを待ってた。
私は見ての通り、名家の令嬢
……なんかじゃない。
いや家柄は悪くない。一応は王女なんだから。というか問題はそこじゃなく、
私がこの星の人間じゃないってこと。
母星の大乱に巻き込まれ、脱出したまでは良かったが、次元超波とかいう代物に巻き込まれ、気がつけばこんな辺境に来ていた。
ケンカ売られっぱなしなんて私のプライドが許さない。すぐにでも戻りたいのに、あの次元超波だ。あっちへ逆流するとなるとかなり難しいらしい。
でもいいことを聞いた。
この星には、波に乗る専門家がいるらしいじゃないか。
問題は、次元超波に地球人が耐えられるか分からないってこと。死ぬかもしれないけど来てください、と言われて、はい分かりましたなんてお人好しがそうそういるとも思えない。
ならば方法はひとつ。
黙って、連れて行くのだ。
騙してるわけじゃない。ただちょっと秘密にするだけ。ほら死ぬって決まったわけじゃないし。今がチャンスなんだ。
そこへ、彼である。
雨でも海に出る波好きってとこか。上手くやればこの先、私の未来はすごくハッピーかも。
このチャンス、絶対に逃してなるものか。
「何だか僕たち、気が合いますね」
「ええ本当に」
「よろしければこの後、お食事でもいかがです?」
「もちろん喜んで」
この後、星の海へと旅立った二人は、大いなる驚きと共に己の安易な選択を悔いることになるのだが……
それはまた別の物語である。
彼らの冒険は始まったばかり、いや
まだ始まってさえいないのだ。