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7意見の一致

「うわ、そろそろ毛を剃らないとやばいかも」


 風呂に入ったはいいが、気分は落ち込んでしまった。せっかく身体をきれいにして、湯船につかり、あったかいお湯でリラックスできるかと思っていたのに、それが台無しだ。気付かなければよかったのに。しかし、それはそれで明日のわが身が辛くなる。どちらにせよ、面倒くさいことをしなくてはならないこと確定だ。


「はあ」


 とはいえ、今はまだ春であり半そでになる機会は少ない。今日はもう、あきらめてしまおうか。


「うん、どうせ、あのクラスで浮いた存在なんだから、ちょっとくらい腕に毛が生えてちくちくしようがいいか」


 やらなくてはならない女性の義務のような脱毛だが、私は今日の精神的、肉体的疲労のため、あっさりと放棄した。そのまま、身体をきれいにして、湯船につかって全身をあっためて風呂から上がった。ちなみに、私は基本的に電気シェーバーを使って腕や足の毛を剃ることにしている。除毛クリームは匂いがきつくて使っていない。脱毛はお金と時間をかけるのがもったいないため、やっていない。



「ああ、さっぱりした」


 風呂から出てホカホカと全身から湯気を立てながらリビングに向かうと、母親が夕食の準備をしていた。洗面所から持ってきたドライヤーをコンセントにさして、ソファに座って髪の毛を乾かしていく。


 ドライヤーの音がリビングに響き渡る。いつの間にか、姉と弟は自室に戻っていた。リビングには母親の姿しかなかった。


「静音と睦樹から話は聞いたけど、ずいぶんと女子力が高い生徒が多いのね」


「まあ、そんなところかな」


 夕食をテーブルに運んでいた母親が、ドライヤーの音に負けない大音量で話しかけてくる。それに返事をするため、いったんスイッチを切ると、母親に顔を覗き込まれた。


「和子は和子のいいところがあるから、気にすることないわよ。クラス全員が美少女だろうが、自分もそうなろうとしなくてもいいからね。もし、あまりにも気になるようだったら、学校を変えてもいいから、思いつめないこと」


「う、うん。ありがとう。お母さん」


「よろしい。では、夕食にしましょう。今日はミートソーススパゲティだからね。準備を手伝ってちょうだい」


 暗い話はこれで終わりとばかりに、母親は夕食の準備を手伝うように言われた。




「いただきます」


 父親は私が入浴中に帰宅したようだ。夕食は家族全員で取ることが多いので、いつも通りの夕食風景だ。最近は姉は下宿しているので、4人での夕食が多かったが、久しぶり家族全員、5人での夕食となった。


「それで、和子の話が衝撃的で。明日、こっそり和子の学校の前を通ってみようかなと思っているの」


「やめてよ。お姉ちゃんとわたし、結構似ているから、姉妹だってばれちゃう」


「とはいえ、そんな二次元みたいな話が、本当にあるなんて驚きだよね」


「動画の広告とかで見るけど、まさか現実に起こり得るなんて、しかもクラス全員がそんなうまくいくなんて、ある意味奇跡だわ」


「でもさ、それって男子もなんだろ?男子もイケメンしかいないのか?」


 夕食の話題も私のクラスの話で盛り上がった。蒸し返してく欲しくはないのに、姉が面白そうに話題を振り、弟もそれに便乗して話を広げていく。両親も私のクラスに興味を持って食いついてしまった。


「イケメンも美少女も二次元の中だけでいいとはこのことね。自分がその中に入るのは遠慮したいわ」


「僕は容姿にあまりこだわりはないかも。まあ、多少、好みはあるかもだけど、結局、人間は年を取ったら、しわしわで髪も薄くなるのは自然の摂理だ。それなら、ある程度でいいと思うよ。女性の女性らしさをいつまでも求めていたら、すぐに離婚で、とっかえひっかえ若い嫁を貰わなくてはならないからね」


「それ、動画に出てくる男に言ってやりたいセリフ……」


「オレもそれは思う。動画に出てくる奴って、たいてい、主人公の女性の魅力がないから、若い女性と浮気するんだよね。男の9割以上が女性のこの部分に~とか見ると、別にそんなことないけどなって思う」


 どうやら、私の今日の出来事を動画の最中に割り込んでくる美容系広告動画と重ねているらしい。私も同じことを考えていたが、家族全員、動画に関する認識は一致しているようだ。でもまさか、母親だけでなく、父親もそんなことを考えていたとは知らなかった。



「ねえ、和子のクラスメイトが気になるから、写メでも取って私たちに見せてよ」


「見たいかも。美少女クローン軍団の写真」


「かず姉がどれくらい目立つのかも気になるし」


「和子が一番可愛いと思うけどな。ああ、でもやっぱり……めておけばよかったかな」


 父親の最後の言葉が気になったが、私は特に気にすることはなかった。


 そんなこんなで、私は明日、クラスメイトとの写真撮影を家族に命じられてしまうのだった。仲が悪いわけではないのはありがたいが、こういう一致団結して頼みごとをするのはやめてほしい。しかし、断るほどのことでもなかったので、了承することにした。



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