4昼休み
「では、これにて、今日の授業は終わります」
はっと目を覚ますと、ちょうど授業が終わる時間となっていた。時計を見ると、授業の大半を寝て過ごしていたらしい。20分は優に超えて寝てしまっていた。それだけ寝れば夢も見るというものだ。
そのまま、時間は適当に流れ、ようやく昼休みとなった。さて、ここで問題だ。転校生の私は誰と一緒にお昼を食べることになるだろうか。
「ねえ、一緒に食べよう」
「私たちと一緒に食べようよ。あなたのこと、昔の私を見ているようで、放っておけないの」
「それを言うのなら、私だって同じよ」
答えは、みんなとだった。逃げられるものなら、トイレにでも駆け込んで、一人飯でもと思っていたが、クラスメイトは私を逃してはくれなかった。
「よ、ヨロシクオネガイシマス……」
そう言って、笑顔で彼女たちの言葉に従うしかなかった。
「あ、あの、私はお弁当を」
「平さん、放課後暇かしら?ついてきてほしい場所があるのだけど」
「私だって、平さんと放課後過ごしたいの。邪魔しないでくれる?」
「あら、あなたが平さんに何の用事かしら?」
彼女たちは、昼休みだというのにお弁当を広げることはなかった。みな、私に話しかけることで頭がいっぱいらしい。そんなに私は目立っているのだろうか。いや、この美少女軍団の集まりでは、むしろ平凡な容姿の私は目立っている。だからといって、私は彼女たちのようにキラキラした女性になりたいとは思わない。
「ええと、私は……」
話しかけられているため、無視するわけにはいかない。せっかくの昼休みで昼食の時間でもあるというのに、私は広げた弁当に箸をつけることもままならない。とりあえず、お弁当だけでも食べたいと思いながら、放課後の予定も断るために頭を必死で働かせる。
「ねえ、平さん。話があるのだけど、一緒に来てくれる?」
すると、背後から声をかけられた。
「あら、結城くんじゃない」
「もしかして、平さんのことを心配しているの?それなら心配いらないわ。私たちが」
「オレはお前らじゃなくて、平さんに話しかけている」
声の主を確認するために振り返ると、じっと男性生徒に見つめられた。どうしたらよいのだろうか。この男子生徒の言葉に従い、教室を抜け出すのが最善か。それとも、女子生徒の殺気立った視線を考慮して、やんわりと断るのが良いのか。
「ええと」
「まどろっこしいな。来いと言っている」
私が返事をする前に、男性生徒は私の腕を引っ張り、強引に席から立たせる。そして、返事を聞かずに教室の外に引っ張り出した。教室からは女生徒たちの黄色い悲鳴が聞こえていたが、私の知るところではない。私は無理やり教室から連れ出された。
「あ、あの」
「悪かったな。急に連れ出して」
男は私を空き教室まで連れてくると、ようやくつかんでいた腕を離した。そして、急に謝りだした。
「お前の姿を見ていたら、つい昔のことを思い出して」
こいつも昔のことを言い始めた。私がいるクラスには、過去に黒歴史があった奴ばかりだというのか。いや、そうかもしれない。みな、容姿に何かしらのコンプレックスを抱えて、何かを試すことで克服した可能性がある。今日の午前中だけで、それははっきりとした。
「自分の昔のことを思い出したからと言って、私を教室から連れ出す理由にはなりません」
「すまない。ただ、オレはお前が彼女たちにいじめられているのかと思って」
「私に何を売りつけるつもりだったんですか?」
改めてこの男の全身をじっくりと観察する。うん、こいつもまた、何かしら試している人間だ。女生徒たちと同じ甘い匂いが男の身体から漂っている。そして、彼もまた、腕には毛がなく、ツルツルと輝いていた。顔は、ニキビもシミも毛穴の黒ずみもない、ツルツルもちもちの肌をしていた。もちろん、髪はサラサラで天使の輪が頭の上で輝いていた。
「脱毛ですか?除毛クリームですか。はたまた、ダイエットサプリ?それともシャンプー?洗顔クリーム?私は貧乏なので、お断りですけど」
畳みかけるように、私は先ほどまで女生徒に囲まれていた時に思いついた商品を口にする。おそらく、目の前の男子生徒はそのどれかを試したに違いない。もし違っていたら全力で謝るつもりだったが、どうやら図星だったらしい。目を見開いて、驚いた様子で口をパクパクさせていた。
「なん、なんで、わか、わかった」
「それだけなら、私は教室に戻ります。では」
「待って、平さんの言うことに間違いはないけど、僕は本当に君の身を案じて」
「結構です」
ぴしゃりと言い切ると、さっさと空き教室から出て教室に向かう。男のせいで、貴重な昼休みを無駄にしてしまった。弁当も口にできないまま、昼休みを終えるのは苦痛すぎる。午後の授業を空腹に耐えながら受けろと言うのか。
教室に戻ると、また女生徒たちに囲まれてしまった。しかし、私の食事を邪魔する生徒に容赦する必要はない。
「食事の邪魔をしないで下さい」
そこまで大声で言ったつもりはなかったが、効果てきめんだったようだ。私が反論するとは思っていなかったのか、教室は一気に静けさを取り戻す。気まずい空気が流れたが、気にすることはない。
私は自分の席について、開きっぱなしだった弁当箱の中身に箸をつけ、一人黙々と弁当を食べ始める。そして、何とか昼休み終了前までにお弁当を完食できた。午後の授業を空腹で受けることはなくなって、ほっとした。