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26用事があるので帰ります

「まあまあ、その辺にしておきなさい。まだ昨日渡したサプリも飲んでいないみたいだし、今日はこの辺にしてあげましょう」


『ハーイ』


 クラスの女子のまとめ役と思われる女子が一声かけると、キレイなハモりでその場にいた女子生徒が返事する。いったい、この女子生徒たちを取りまとめている彼女は何者だろう。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。


「私が気になるの?」


「ええと」


「このクラスの室長をしています『坂東華織ばんどうかおり』と言います。このクラスのまとめ役も担っています。本当は私のおすすめ商品も使って欲しいけど、まずは彼女たちのおすすめから始めた方がいいわ」


 返事に戸惑っていると、勝手に彼女の方から自己紹介してくれた。やはり、室長クラスの人間だったかと納得する。改めて彼女の容姿を確認するが、なんとまあ、すべての項目においてパーフェクトな容姿だった。おまけに声もその容姿に見合った澄んだ女性らしい、耳に心地よい澄んだ高い声だった。


 サラサラの黒髪ストレートに真っ黒な瞳にぱっちりとした二重の瞳。肌はもちろん、唇に至るまでツヤツヤに輝いている。ムダ毛はもちろんないし、身長も平均より少し高めの男性の理想に近い身長かもしれない。出るところはしっかり出ていて、腰はすっと細い。制服の胸元が窮屈そうで今にもボタンがはじけてしまいそうだ。足はスラリと長く、スカートから覗く太ももは細くてモデルのようだ。


 ふむ、これこそが理想の女性の具現化。


 そう言わしめるほどの容姿の持ち主であり、これぞクラスの室長にふさわしいと言えた。まあ、普通の高校では、容姿がクラスの係り決めの決定打になることはあまりないだろう。多少は関係あるかもしれないが、それだけで決まることはないはずだ。少なくとも、転校前の高校はそうではなかった。


 彼女の容姿に見惚れている間に、室長だという坂東という少女は、他の生徒をその場から追い出してしまった。いつの間にか、クラスの男子は姿を消していた。


 こうして、数分の間に私と室長だけが取り残された。



「さて、皆も帰ったことだから聞くけど、最近、礼斗君と仲がいいみたいじゃない。どこで知り合ったのかしら?」


 教室に室長と二人きりになってしまった。私も先ほどの女子たちのように帰宅できれば良かったのだが、そうはいかないらしい。はて、礼斗とは聞いたことのある名前だ。


「ああ、彼のことですか。購買で知り合いになりました。仲良くはないですけど……」


「彼に媚を売ったって無駄よ。彼はあんたみたいな平凡な奴なんか相手にしないんだから!」


 二人きりになった途端、急に雰囲気が変わり、不機嫌な様子で話しかけてきた。どうやら、礼斗と一緒に購買にいるところを見られていたらしい。とはいえ、彼とは少し話しただけのただの先輩と後輩という関係で、それ以外の何物でもない、間違っても、私の方から媚を売ったという事実は存在しない。相手も、私のことは眼中にないといった感じだった。何やら、私たちの仲を誤解しているようだ。とはいえ、下手なことを言って、彼女の嫉妬の炎をさらに燃やしたくはない。


「まあ、せいぜい、私たちのおすすめ商品できれいになることね」


 言いたいことは言えたらしい。そのまま、彼女はサヨナラともまた明日とも言わずに教室から出ていった。


よくわからないが、ようやく家に帰ることができる。私はその後、忘れ物がないか確認して教室を出た、窓の外を眺めると、夕日が不気味に赤く染まっているのが見えた。



「おい、昼間のメモはみたか?」


 廊下を一人で歩いていると、声をかけられる。聞き覚えのある声に振り向くと、噂の人物がそこにいた。


「見たけど、私、今日はこれから用事があるから用件があるなら、またあ」


「この学校の秘密が知りたくないか?」


 そういえば、彼はうちの高校の秘密について知っているようなことを言っていた。すっかり忘れていた。


「知りたくないわけではないけど、この通り、私はこれらの商品を家で試さなくてはいけないの」


 しかし、今はさっさと帰宅したい。クラスメイトの女子たちからもらったおすすめ商品が入ったカバンの中身を見せつける。これで、私に用事があることがわかったはずだ。


「こういうことだから、あんたと関わっている暇はないし、それに」


「それに?」


 何やら彼の周りにどす黒い黒い塊が見えている。今の言葉のどこに怒りの要素があったのか不明だ。やはり彼も、この学校の生徒であり、何を考えているのか理解不能の人間だ。あまりの気迫に思わずひるんでしまうが、これは後々につながる大事な話だ、意を決して話すことにした。


「私のクラスの室長が、あんたと仲良くすることを快く思っていないの。だから、今後は私に極力話しかけないでくれたらうれ」


「それは無理だ」


 人の話を途中で遮るとは、後輩のくせにずいぶんと生意気だ。普通、先輩が話している最中に言葉をはさまないだろう。多少イケメンだからと言って、調子に乗っているのではないか。


「お前はこの学校で唯一の存在かもしれない。きっと、お前は彼女たちのおすすめ商品を使ってもなお、自分の個性を失うことはないだろう」


「何が言いたいのかわかりませんが、今日はこの辺で失礼します」


「この学校がロリコン親父どもの作った高校だとしたら?美少女を育成する実験校だったらどうだ?」


「ロリコン親父」


 今、イケメンの口からとんでもない言葉が飛び出した気がする。思わず、聞き返してしまうが、いやいや、今日はもう帰宅すると決めたのだ。追求したい衝動に駆られたが、その欲望を振り切り、私は耳を塞ぎながら、全速力で廊下を駆け抜けた。


 廊下を全力で走った結果、体力のない私は、下駄箱付近で息を切らしてしまった。とはいえ、追手の姿は見えない。どうやら、走ってまで追いかける気概は彼にはないらしい。追手の姿がないことを確認し、ようやく帰宅することができた。

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