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23使ってみた感想②

 相変わらず、授業中に眠くなるのは私の日常らしい。今日もまた、授業中は先生の話を聞いてノートを取るというよりは、眠気との戦いがメインだった。授業中に眠たくならない人の身体の構造が知りたいくらいだ。


 そうこうしているうちに午前中の授業が終わり、待ちに待った昼休みがやってきた。最近恒例の購買への逃亡を図ろうと、チャイムが鳴るのを待っていた。


 しかし、今日は彼女たちの方が一枚上手だった。



 チャイムが鳴ると、4時限目の教科担任は持っていた教科書を教壇において、お決まりの言葉を告げる。


「では、チャイムが鳴ったので、今日はここまでにしましょう」


『ありがとうございました!』


 そのまま流れるように生徒たちが挨拶して、昼休みに突入である。そして、私もその流れるような行動のまま教室を出て購買に向かう予定だった。



「ねえ、平さん、今日こそ一緒にお昼を食べましょう!」


「そうそう、三日連続で教室でお昼を食べないんてダメよ。私たちとも交流を深めましょう!」


「ええと……」


 挨拶が終わり、先生が教室を出た瞬間を狙ってイスから立ち上がろうとしたが、一足遅かった。さらに、私一人に対して、彼女たちは複数人での連係プレーである。この教室で、私は四面楚歌状態で味方が一人もいない。私に声をかける女子たちに、教室のドアで出入りを塞ぐ彼女たち。敵は二手に分かれて、私の教室からの逃亡を阻止しようとしていた。



 結局、今日の昼は購買に行くことができなかった。クラスの女子に連携されてしまっては、私一人では教室から逃げることは敵わない。しかし、さすがに昼食をとることは許してくれた。


「そういえば、平さんには迷惑をかけてしまったね。昼休みなのに私たちが話しかけるせいで、お昼を食べられなかったんだよね」


「今日はその辺も踏まえて、順番に話していくから、それに応えながらお弁当を食べてもいいよ」


「ごめんね」


 昨日までとは一変、誰かが入れ知恵でもしたのだろうか。昼ご飯を食べる時間を設けてくれるようだ。とはいえ、相変わらずの上から目線に変わりはないが。私は彼女たちに言われた通り、弁当を机に広げてさっそく食べ始めた。彼女たちはどうするのだろうかと横目で様子をうかがうと、なぜか彼女たちは弁当を机に広げる様子はなかった。


「ああ、私は昼はこれにしているから、お弁当は食べないの」


「私も昼はこれにしているの。お弁当にすると、太っちゃうでしょ。これにしてから調子もいいし、やせたからね」


「高校生のころから気をつけないと、ね」


 彼女たちは思い思いの昼ご飯をカバンから取り出し食べ始める。よく見る食事の置き換えダイエットを実行しているようだ。今までの食事をダイエット食品に置き替えることで、カロリーを減らしていく方法である。ゼリーみたいなものをすすり始める女子や、カロリーメイトを食べる女子、挙句の果てにはサプリを水筒の水で流し込むだけで昼食を終える女子もいた。周りを見渡すと、弁当を食べているのは女子の中では少数派らしい。私に群がる女子の中には弁当持参の人はいなかった。私から離れた席の数人の女子がもそもそと弁当を食べていた。


「うん、改めてすごいわ。このクラス」


 離れた席の弁当に目を凝らすと、これまた驚きの事実を発見した。弁当箱が飛んでもなく小さかった。そして、白米が見当たらない。どうやら、おかずオンリーの弁当らしい。これはよくある炭水化物抜きのダイエットだろうか。


 ちなみに、男子は思い思いに昼食を取っていた。でかい弁当箱や菓子パンを貪り食っていた。私もそちら側でありたかった。



「ねえねえ、平さん。お弁当はお母さんが作っているの?」


 離れた席の弁当事情に意識を奪われていたが、彼女たちが口撃をやめることはない。無理やり意識をこちらに戻す。もちろん、弁当を食べることも忘れない。卵焼きを口に入れて飲み込んでから回答する。


「まあ、そうですけど」


「ふうん。だったら、今日は仕方ないね。でもさ、今後、お弁当を作ってもらうのはやめた方がいいよ。その代わりに、これ!ダイエットに超効くから、これから、これをお昼に食べたらいいよ。ああ、私は苅田かりただよ。よろしくね」


 さらっと自己紹介を交えながら話しかけてきた女子に渡されたのはカロリーメイトだった。ううん、なぜ、時間があるのに、これを昼食にする必要があるのだろうか。


「別に私はダイエットなんか……」


「苅田のはお勧めしないよ。それだったら、こっちのサプリの方がよっぽど効果があるよ。こっちを試してみなよ。そういえば、昨日、サプリ渡したけど、飲んでみた?」


 今日は体型問題を取り上げるつもりらしい。俗にいうダイエットともいう。私だって高校生なので体型についてはそれなりに気にしてはいる。気にしてはいるが、そこまで自分が太っているとは思っていない。それなのに、ここまでダイエットしていますと昼食の様子を見せつけられると、自分の価値観が心配になってくる。本当に私は太っていないのだろうか。彼女たちの言う通り、実は太っていて、ダイエット商品を試して痩せる必要があるのではないか。そう思えてきたら、彼女たちの思うつぼだというのは頭から抜け落ちていた。


 さて、昨日は風呂場で彼女たちのおすすめ商品を使ったきりで、サプリなどはまだ試していない。昨日もらったものの中には、他にナイトブラも含まれていた。今日、それらを試してみるべきなのだろう。


「ねえ、平さん。私たちの話し聞いている?」


「もしかして、私たちの言葉にショックウケてる?でも、これは本当のことだから、あえてはっきりと言っているんだよ。みんな、平さんのことを思って言っているんだから!」


「そうそう、今のうちに体型維持に力を入れていたら、将来、やせなくて困ることないし」


 私が思考の海に沈んでいるのに、彼女たちはそれに気づかず、挙句の果てには自分たちの言葉が私を傷つけているという認識に至ったらしい。だったら、最初からそんな言葉を言わなければいい。それなのに彼女たちは自分たちの言葉を正当化していた。


「ちょ、ちょっとトイレに行ってくるね」


 このまま教室にとどまり続けていたら、自分がどうしたらいいのか、自分の価値観が狂ってしまいそうだ。いったん、思考をリセットした方がいい。そう思った私は、最終手段を使うことにした。あまり使いたくはなかったが、これを言えばさすがに私を教室から出してくれるはずだ。


「大丈夫?確かに顔色が良くないもんね。私たちもついていこうか」


「途中で倒れていても困るしね」


「私たちもついていくよ!」


 教室からは出られそうだが、彼女たちはついてくるようだ。これがいわゆるツレションというものだろうか。私は基本的に一人でお手洗いに向かっていたが、中学時代には、何人かの女子は仲間とともお手洗いに向かっていた。


「いや、本当に調子が悪くてトイレにこもりそうだから、ああああああ!漏れる!」


 使いたくない手段第二弾。これを使ってしまったら、ただでさえ、私のクラスでの印象が悪いのが更に悪くなる。でも、今はそんなことを気にしている場合ではない。毎回恒例となっている。大声自慢で私は彼女たちが驚いているすきに教室を抜け出した。


 そして、お手洗いではなく、購買に駆け込むのだった。きょうもまた、昼からの授業はサボることになりそうだ。

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